Report

ひとり股旅スペシャル@マツダスタジアム 2015 奥田カープの素晴らしいデーゲーム

ひとり股旅スペシャル@マツダスタジアム  2015 奥田カープの素晴らしいデーゲーム

2015 奥田カープの素晴らしいデーゲーム

2015年11月28日、奥田民生が敬愛する広島カープのホームグラウンドで、「ひとり股旅」の特別編が開催された。
事前のセットリスト(演奏予定曲表)は一切無し。カバーソングを盛り込みながら、民生のめざす自由な音楽、そして自由な人生を、さりげなくメッセージとして、ひとりひとりのオ―ディエンス約3万人に届けた。
50歳を迎えた男の、“魂のロックンロール”はいまだ健在。
誰にも真似のできないコンサートの模様をお伝えする。

快晴だ。11年前の旧・広島市民球場のときも、厳島神社のときも最悪の天気予報を覆して、雨は降らなかった。2015年11月28日のこの日も、民生日和。マツダスタジアムを目指して、各地から続々と集まってくるオーディエンスたちの表情も明るい。

tamiolive-002 

年齢層は30~40代が圧倒的。1人、2人、それ以上など、男女様々な組み合わせのグループもあれば、小さな子ども連れのカップルも多い。普段の民生のライブ の観客よりもバリエーションに富んでいる。
そうした人々が、会場内に設けられた物販ブースや、球場にもともとある飲食ブースに行列を作っている。ライブというより、長年続く楽しい市民祭のような雰囲気だ。そして、その自由でリラックスした雰囲気が、この後、ライブの重要な構成要素になっていく。開演時間から5分遅れて、民生がバックスクリーンの通路から姿を現した。6メートル四方のステージが、セカンドベース付近に作られている。スタジャン姿の民生が、ゆっくりとそこに向かって歩いていく。ホームベースではアンパイアに扮した舞台監督が待ち受けていて、民生がステージに到着すると「プレイボール!」を宣言した。

tamiolive-003 

ステージ上にずらりと並んだアコースティック・ギターの中から、1本のギブソン・ギターを選ぶと、ゆったりとしたワルツの「674」を歌い始めた。記念すべきライブを、自らを“ばか野郎”とする歌からスタートさせるとは何とも民生らしい。
スコアボードの選手名表示部分に「674」という曲名が表示される。“ひとり股旅”にはセットリストが存在しない。事前に何を歌うのか決めずにライブに臨むのが、民生のルールだ。この日もセットリストは民生の胸の中。気持ちのままに歌っていく。2曲目の「えんえんととんでいく」をシブく歌った後、3曲目で「イージュー★ライダー」を歌ってオーディエンスの緊張をゆるめる。

tamiolive-004

「思えば11年前に昔の市民球場でやりましたが、まさか新しい方でやることになるとは。11年前は10月にやったんですけど、今回はカープが日本シリーズに出るのを見越してのスケジュールです。私の考えは甘かった・・・」と民生が言うと、場内から笑いが起こる。
「今日は何を歌うか決めてません。ホントです。それを証明するためにも、次の曲はウグイス嬢に決めてもらいましょう」と言うと、すかさずウグイス嬢が淡々と「次の曲は『デーゲーム』、『デーゲーム』をお送りします」とアナウンスする。けっこうなムチャ振りに「えーっ!」とのけぞる民生。急いで歌詞の準備を始めた途端、ステージが回転し始めた。スタンドがどよめく。
グラウンドには民生のみ。ぐるりと取り囲むスタンドにオーディエンスが陣取っているわけだが、ライブ開始時はバックネットに向かって歌っていた民生が、今度はバックスクリーンに向かって歌うことになる。その後もステージはしばしば回転し、最終的には全方位に平等に歌うことになった。

tamiolive-005

ゆるゆるとライブは進む。間合いや曲調、ギターのストローク、歌い方やトークなど、すべてを使って民生は3万人の期待をたった一人で受け止める。ライブ開始から40分。「野ばら」では、ステージに用意してあったメトロノームに合わせて歌う。ただの♪カッチ カッチ♪という機械音が、民生のアコギと合わさると楽器のように響く。それまでがアコギ1本のバックだったから、スタジアムが少し華やぐ。それだけで、民生とスタンドの距離が縮まったのには驚いた。
さらに次の「私はオジさんになった」は、今年の民生の50才イベントのテーマソングとでも言うべき、とぼけたナンバーだ。サビの♪するわけない♪というフレーズを、民生はオーディエンスに歌うことを強要。絶対に合唱が似合わない歌詞を歌わされて、会場中がクスクス笑い出す。民生と3万人が気持ちを共有した瞬間だった。

「休憩前にみなさん、ご存知の曲を一緒に歌ってトイレタイム にしたいと思います」。民生が歌い出したのは、今オンエアされているマツダの企業CMソング「風は西から」の英語(!)バージョン。結局、誰も一緒に歌えずに、軽妙な笑いの中で前半が終わった。

tamiolive-006

休憩時間にはカープのマスコット・キャラのスラィリーがスタンドを和ませる。続いて民生の事務所仲間のPUFFYや木村カエラ、ユニコーンのメンバーらによる「それ行けカープ」のミュージック・ビデオが流れたり、前田健太&大瀬良大地のバッテリーとバッター民生による始球式が行なわれ、前半のほど良いムードをキープしたままライブは後半に突入する。

陽が傾いて、急に寒くなってきた。民生は「SUNのSON」(太陽の息子)という歌から始める。前半で民生のペースをつかんだオーディエンスは、安心して歌に耳を預ける。名曲「The STANDARD」でひと区切りつけた後、「他人の曲もやらないと。他人の力を借りて盛り上げないと」と言って、ひとり股旅名物のカバー・コーナーへ。

まずは西野カナの「Darling」 をカントリー・タッチで歌って、スタジアムをわしづかみ。続いて吉田拓郎の「結婚しようよ」で客席からハンドクラップが巻き起こる。とどめに矢沢永吉の「I LOVE YOU,OK」を矢沢そっくりに歌うと、当然、大拍手。ここで「すいません」と謝るのが民生流。完全に人のフンドシで相撲を取ってしまったからだ。
しかし、この後のカバーで民生は本領を発揮する。
盟友・浜崎貴司擁するフライング・キッズの「幸せであるように」、ケツメイシの「さくら」を歌って、真心ブラザーズの「人間はもう終わりだ!」になると場内がシーンと聴き入る。9.11の直後に発表された♪平和なんか一人のバカがぶっこわす♪と愚かな人間社会を自省をこめて告発する歌を、民生がなぜ広島で歌ったのかはわからない。曲の終盤で民生が「オー!」とシャウトすると、満員のオーディエンスが拍手と歓声で応える。

tamiolive-007 

カバーの最後はTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTの「世界の終わり」だった。ここでも民生は歌の途中で吠え、観客が熱く応える。アコギ1本で、最高のロックンロールを歌ってみせたのだった。
言葉にならないメッセージが観客に伝わる。「人間はもう終わりだ!」と「世界の終わり」は、広島の人間が広島で歌うのにふさわしい歌だと自然に思えた。
開演前の球場の自由な雰囲気が、次第に形になっていく。 

自分のオリジナルに戻った民生は、♪伝えたい事は言葉にしたくはないんだ♪と歌う「CUSTOM」に本音を忍ばせる。「マエケン、早く帰ってきてね」とカープ・ファンとして叫んで、本編のラスト・ナンバーは「さすらい」。観客がサビを歌っているとき、窓に灯りをともした山陽新幹線が東に向かって走り去るのが見えた。

tamiolive-008 

アンコールを求めるファンが、ウェーブを起こす。アメリカ の“ボールパーク”に近い自由な発想で設計された変形球場は、ウェーブの“引き継ぎ”が難しい場所がいくつかあるが、難なく乗り切って3 周目に入った頃、民生が再び現われてステージに向かう。
「寒い中、ありがとうございます。ウェーブしたかろと思って、もう一回出てきました」。
アンコール1曲目は「最強のこれから」。50才を迎えた今年、民生はさまざまな特別なライブを行なった。中でもこの“ひとり股旅スペシャル”は、地元の同世代が多く集まる超特別なもの。
♪最高はこれから 最強はこれから 最高の最強はこれから♪という歌詞を、民生は自分とオーディエンスに贈る。

tamiolive-009

開演前のスタジアムの雰囲気に感じた予感が、この歌に結実する。日本有数の市民に愛される球団の本拠地で行なわれたこのライブの、最も重要なメッセージのひとつが「最強のこれから」にあった。リッラクスして自由に生きる。口で言うのは簡単だが、それはなかなかできないこと。 それでも“地元”や“友達”がいることで、限りなく理想に近い生き方が可能だ。さすらうことを厭わない民生にとって、そんな土地と人がいることが力になっている。

その夜、打ち上げで民生は言った。「お陰様で、広島では頼んでいなくてもチャーシューを3倍入れてくれるまでに成長いたしました。ということで、こんな大きな会場でやらさせていただきまして、ありがとうございまし た。もうこんな大それたことはきっとしないと思いますので、またどっかのちっちゃいところでお会いしましょう。今後は普通に1ミュージシャンとして、1から出直したいと思います」。
この挨拶を聞いたとき、僕の脳裏には“ジェネレーション・ミュージック”という言葉が浮かんだ。民生はこの日、50才の男の真心の強さと美しさを、故郷のスタジアムにしっかりと刻んだのだった。

文 / 平山雄一 写真 / 山本倫子

奥田民生ひとり股旅スペシャル@マツダスタジアム 2015.11.28 セットリスト

1回表(前半)
1.674
2.えんえんととんでいく
3.イージュー★ライダー
4.デーゲーム(UNICORN)
5.雪が降る町(UNICORN)
6.遺言
7.何と言う
8.野ばら
9.私はオジさんになった(UNICORN)
10.風は西から(英語ver.)

1回裏(後半)
11.SUNのSON
12.メリハリ鳥
13.The STANDARD
14.Darling (西野カナ)
15.結婚しようよ(吉田拓郎)
16.I LOVE YOU,OK (矢沢永吉)
17.幸せであるように(フライングキッズ)
18.さくら(ケツメイシ)
19.人間はもう終わりだ!(真心ブラザーズ)
20.世界の終わり(THEE MICHELLE GUN ELEPHANT)
21.じょじょ(サンフジンズ)
22.ハリがないと(サンフジンズ)
23.無限の風
24.早口カレー(UNICORN)
25.CUSTOM
26.さすらい

9回表(アンコール)
27.最強のこれから
28.風は西から