佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 22

Column

「だいじょうぶ。あなたがうたえば、どんな歌だって、みんなあなたの歌になる‥」

「だいじょうぶ。あなたがうたえば、どんな歌だって、みんなあなたの歌になる‥」

12月6日に東京・目黒の雅叙園で行われた日本プロ音楽録音賞の授賞式に参加させてもらった。
これはその名の通り、プロのレコーディング現場におけるエンジニアの仕事にスポットライトを当てて、傑出した作品を顕彰するという主旨のイベントで、今年は24回目だった。

そこでぼくは未来への可能性を感じさせるアーティストに出会った。

3時間にも及んだ授賞式では、「CD」がクラシック/ジャズ/フュージョンとポップス/歌謡曲の2部門、「ハイレゾ」と「放送」がそれぞれ2chステレオとマルチチャンネルサラウンドの2部門、合計6部門で受賞作品が発表になった。

それにくわえてCDとハイレゾの全応募作品から、ベストパフォーマー賞とプロミネントマスター賞が選定された。
さて、ぼくがここで紹介したいのは、このプロミネントマスター賞である。

聞きなれない名前の賞だったが、これは過去に受賞経験がなく、今後の活躍を期待されるエンジニアの作品を表彰するものだという。

そこで選ばれたのは、声優の悠木碧のミニアルバム『トコワカノクニ』から、「レゼトワール」と、安次嶺希和子のミニアルバム『TROPICAL GREEN』から表題曲「TROPICAL GREEN」の2作品だった。

「レゼトワール」のエンジニアはビクタースタジオの高須寛光、「TROPICAL GREEN」は株式会社ミキサーズラボの石光孝、ともに年齢は30代で働き盛りである。

子役として活躍したのちに声優に転身した悠木碧は、2011年に大ヒットしたテレビアニメ「魔法少女まどか☆マギカ」に主演し、弱冠19歳で声優アワード主演女優賞を受賞するなど、アニメファンに広く名前の知られる存在となった。

歌手活動を始めたのは2012年からで、これまでにリリースしたアルバム1枚、ミニアルバム3枚は、いずれも丁寧に構築された独自の世界観で支持を集めている。

なかでも「レゼトワール」が収録されたミニアルバム『トコワカノクニ』は、楽器を一切使用せず、彼女の声を多重録音するというコンセプトのもとに制作された意欲作である。
確かにこのチームの仕事は賞にふさわしいと感じた。

そしてこの日、もっとも印象に残ったのが沖縄出身のシンガー、安次嶺希和子のヴォーカルだった。

安次嶺希和子は幼い頃から聴いていた米軍基地のラジオ放送と、通っていたインターナショナルスクールを通じて育まれた、カラッとしたポップな感覚のヴォーカルで、2015年にヤマハグループが開催した音楽コンテスト「The高校生シンガー8th Music Revolution Japan Final」で、グランプリとオーディエンス賞をダブル受賞したという。

ぼくは日本プロ音楽録音賞の審査の段階で、彼女が高校時代に発表したアルバムを聴いたのだが、そのヴォーカルのみずみずしさと生命力に驚き、ありきたりの言葉ではあるが、心が洗われるような気持ちになった。

授賞式の会場で「TROPICAL GREEN」をあらためて聴いていたときも、「歌をうたうことによって人を幸せな気持ちにさせてくれる天性のシンガーがここにいる」、そんなフレーズが浮かんできた。

そこで新しい情報を得ようと思ったのだが、オフィシャルの活動が止まっているのか、オフィシャル・ミュージックビデオなども視聴できなくなっていることに気づいた。

それからYouTubeを探していたら、今年の年始に公開された「新春メッセージ」を見て、思わずこんな言葉をつぶやくことになった。

「だいじょうぶ。あなたがうたえば、どんな歌だって、みんなあなたの歌になる‥」

おそらく次へのステップを準備しているのだろう。
未来に期待しつつ、静かに復活の日を待ちたいと思う。

悠木碧さんの楽曲はこちらから

著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長に就任。 著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、

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