【80年代名鑑】明菜からYMOまで 80'sからの授かりもの  vol. 50

Column

チェッカ-ズが呼び掛けた…、君の名は……、“NANA”

チェッカ-ズが呼び掛けた…、君の名は……、“NANA”

チェッカーズにとって主演第2作となった映画が『SONG FOR U.S.A.』だった。作品紹介のあらすじを引用するなら、「自分たちの音楽に疑問を持ちはじめたチェッカーズが黒人ミュージシャンと出会い、彼ら自身の歌を発見するまでを描く」、とある。そしてストーリーの進展とともに劇中に誕生したのが『Song for U.S.A.』で、86年6月に、ニュー・シングルとしてリリースされる。

いま思えばこの映画、彼らのバンド活動において、実際に起きていたことともリンクしているように思う。というのも、続いて同年10月にリリースされたのが、初のメンバー自作曲シングルである「NANA」だったからだ。

様々な意味で、ターニングポイントとなった作品だ。曲調はこれまでと違った。歌い出しから重心が低く、渋い曲調であり、映画のようなドラマチックな設定というより、心の内面に燻る想いを丹念に描くかのような作風だ。アレンジも明快というより、アバンギャルドなカオス調であった。

結果、“チェッカーズはアイドルからアーティストへ脱皮した”と囁かれた。まぁ確かに脱皮といえば、蓑虫のジャケット(『MOTTO!!CHECKERS』)が、それまでにはあったわけだが…。

ただ、自作は珍しいことじゃなかった。ファンの人達はご存知の通り、彼らはデビュー当時から、それぞれに旺盛なオリジナル作りに励んでおり、アルバムやシングルのカップリング、コンサートなどでは日の目を見ていた。ただ、テレビ番組などで歌い、広く一般に届けられる楽曲は、手がけたことがなかったのだ。

スタッフとメンバー間において、様々な葛藤もあって、この決定に至ったのだろう。そもそもチェッカーズは、コンセプチュアルなプロデュース方法で成功したこともあり、大きな路線変更がしずらい宿命を背負っていた。また、これは傍目からの意見だが、「神様ヘルプ!」と「OH!! POPSTAR」は、ネオ・フィフティーズの確立でエイティーズを席巻した筈のチェッカーズにしては、シックスティーズのグル−プ・サウンズを踏襲した安定路線にも想えた。

そんな中で聞えてきたのが「NANA」だ。藤井郁弥(現・フミヤ)作詞で、藤井尚之の作曲。ということは、今年、結成20周年で活動を活発化した“ F-BLOOD”の血統のものであり、(もちろんチェッカーズ作品なのだから他の要素も混在しているが)一般の人々がこの作曲コンビの音楽性に触れたのは、この時が初めてだったといえるだろう。

これまでの売野・芹澤コンビなどの作品と較べると、まず感じるのは歌詞の設定の違いである。「俺」と「おまえ」、「あいつ」と「あの娘」が織り成すティーンエイジ・ラブストーリーだった以前とは、かなり世界観が異なる。いきなり歌詞のなかで“ねぇ ナナ”と、女性の固有名詞を呼び掛ける。「おまえ」や「あの娘」なら、ファンのすべてに汎用されるのに、これは大きな違いだ。

また、NHKで放送禁止となった、ということでも分かる通り、この曲はいわゆる“R指定”的内容なのだった。紅白に出場し、歌いたかったものが禁止曲で、別のものを歌ったという例は、あまり聞かない。でも1986年の大晦日がそうだった。歌ったのは『Song for U.S.A.』。ちなみにこの年の紅白は、司会の加山雄三が少年隊の「仮面舞踏会」を“仮面ライダー”と紹介し、のちに伝説となった。

え? 放送禁止? 改めて歌詞を検索し始めた方もいるかもしれないが、キワどいといえばキワどいが、改めて読んで、カゲキというほどではない。NHKの倫理規定に抵触したと思われるのは、セクシャルなダブル・ミーニングと受け取れる箇所(“濡れてくれ”、など)だろう。でも、さらにこれは今までの歌と違うなと感じたのは、“薬指 今も残る跡”、という表現である。このあたり非常にアダルティである。

セクシャルなダブル・ミーニングということでは、コンサートの人気曲だった「今夜はCまでRock’n’ Roll」(作詞はフミヤ、 作曲は芹澤廣明)なども、青春調のオブラートに包まれてはいるが、非常にキワどいところを描いている。しかしシングルの表題曲という、真っ先に公序良俗を旨とする場所となると、世間の反応も違うのだ。

ちなみに86年10月時点で、メンバーの年長組であるフミヤや武内享、高杢禎彦は24歳になっていた。チェックの衣装でデビューした彼らだが、ぼちぼち“いい大人”へと向かってもいい年頃だ。「NANA」はチャ−ト的にも成功を収め、チェッカーズに、これまでとはまた別の快進撃をもたらすのだった。

文 / 小貫信昭

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