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宮沢りえが語る市川準監督との思い出。映画『トニー滝谷』のこと、CMのこと。

宮沢りえが語る市川準監督との思い出。映画『トニー滝谷』のこと、CMのこと。

「すっごい、いい映画!」宮沢りえさんがこう言いながら会場から出てきた。

12月6日、目黒シネマで開催中の「目黒シネマ名作チョイスVol.13 市川準監督特集2015 市川準と女優たち」の【文学篇】のトークイベントを前に、観客とともに『トニー滝谷』(2005年)を鑑賞していた宮沢りえさんが一旦、会場から出てきた際に、若干、上気した表情でこう言い放ったのだ。

トークイベントは『トニー滝谷』で主演した宮沢りえさんをゲストにこのイベントの企画者である犬童一心監督との対談で、映画評論家の尾形敏明さんの司会で市川準監督との思い出を語り合うものとなった。

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市川監督の映画が好きな映画人、ファンともに幸せな一夜となった

『トニー滝谷』は村上春樹さんの短編小説を原作とした作品で、一人の女性の出現によって初めて愛を知り、彼女を失うことで初めて孤独というものを実感する男の姿を静謐なタッチで描いた切ない愛の物語だ。宮沢りえさんとイッセー尾形さんの主演で、第57回ロカルノ国際映画祭の国際コンペティション部門で審査員特別賞などを3賞を受賞している。

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「トニー滝谷」© 2005 Wilco Co., Ltd.

登壇した宮沢さんはあらためて「いい映画ですね。こうなったら自分の芝居は棚の上に上げてしまいますが。作品として素晴らしいし、市川さんが亡くなったことが刻まれて観るとまた違います」と語ると、犬童監督も「どうしてもフィルムで見たかったんです。全然違うんですよね。市川さんのピークというかね」と互いに鑑賞直後の感想を語り合うところから対談ははじまった。

『トニー滝谷』の撮影の際のエピソードを聞かれた宮沢さんは「もう、すごい暑い時で、B子のタートルネックがもうすごくて。スタイリストさんが気を使って、タートルじゃないのを出してくださったのを、監督は『僕はこっちが好き』、とおっしゃって。もう、たらったら汗をかきながらやってました」と大変だった撮影の様子を振り返った。

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時折、目を閉じたり、遠くを見るような表情をしつつ、市川監督との思い出を語った宮沢りえさん

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市川監督の映画への思いが溢れ出ていた犬童一心監督

さらに市川監督の演出の様子を振り返り、「(劇中で)B子がA子の服を着て、泣いてしまうところがあるのですが、台本に書かれていなかったとしても、監督が動機とかを説明してくださるわけですが、市川監督はそういうのがひとつもなくて、『うん、洋服を着て泣く』とだけおっしゃって、私が『よくわからない』と言うと『僕もよくわからない。やってみて』と。こういう無理難題を当たり前のように、とてつもないハードルをなにもなかったようにする魔法をかけられるんです。あまり褒めてもらった印象はないんですが、(撮影後の)帰りに肩をポンポンと。毎回ではなく、がんばった時だけ叩いてくださって。役者としてすごく鍛えられたと思います」と語った。

尾形さんが「市川監督とは映画はこの『トニー滝谷』のみでしたが、数多くのCMでご一緒されていますが」と振ると、宮沢さんは「日本テレコムのCMで、ある港で、友達だった “さきちゃん” が船で去っていくんですが、それにむかって手を振って泣くというシーンを尾道で撮影したんです。スイッチ押せば涙が流れるというものではないので、気持ちを作っていくんですが、監督は『ずっと仲がよかったんだろうね。泣くよね』と。これも無理難題ですよね。それが、大きい声で “さきちゃーん” と何度も叫んでいると、トランス状態というか覚醒して、ぶわっと涙が出てきて、奇跡的に泣けたんですよね」と振り返った。

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日本テレコムのCM資料に見入る宮沢さん

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コロコロと様々な表情を見せてくれた

この話を受けて犬童監督は「そういうやり方なんですね。市川準でないとできない。僕だとできないですね。(CMの数を考えれば)普通の映画監督より場数は踏んでいるわけですよ。こどもから重鎮まで演出していますし」と語ると、尾形さんが「ハリソン・フォードに『まいどおおきに』と言わせたり、ジャネット・ジャクソンには布団叩きをさせるわけですね」と市川演出の面白さを語ると、宮沢さんは “クック” と市川監督の独特な笑い方を真似ながら「演出しながら笑ってたんでしょうね」と会場の笑いを誘った。

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背を丸くして、クックッと笑うという、市川監督の真似をしてみせる宮沢さん

『トニー滝谷』への出演オファーの話になると宮沢さんは「市川監督が映画を撮り始めた頃で、『私も監督の映画に出たいなぁ』と言ったんです。その頃は『Santa Fe(サンタフェ)』を出したりして、(手振りを交えながら)“宮沢りえっ” と、キラッキラしていた10代の頃だったんですけど、市川監督は『いやあ、僕の映画は、宮沢さん出るところないな……』と」とエピソードを披露した。

犬童監督は「僕は『トニー滝谷』を観て、宮沢さんで『グーグーだって猫である』を撮りたいと思ったんです」とし、インタビューの際に “宮沢さんって、浮世離れしている感じがするんです。言ってみれば、「ベルリン天使の詩」(監督:ヴィム・ヴェンダース、1987年)に出てきた元天使のような存在” と言っていたことをあらためて宮沢さんに向け、「『ベルリン・天使の詩』のピーター・フォークみたいに、元が人間じゃないみたいな。だから『トニー滝谷』が宮沢さんだっていうのがよくわかる。B子はどこにでもいそうですが、A子ができるのが宮沢りえなんだな、と今日、見ていてあらためて思いました。女優さんの演技の才能だけだと無理だと思うんです」と『トニー滝谷』に不可欠といえる宮沢さんの魅力について語った。

宮沢さんは『トニー滝谷』が海外で賞をいただいて、海外でも公開された1年後ぐらいのエピソードを披露した。「個人的に旅行に出掛けてTGVに乗っていた時に、イギリス人の男の子がちらちら見ていて、りえのこと気になるんじゃない、とか言っていたら、『君は「トニー滝谷」に出ていたよね。あの作品は僕が1番好きな映画なんだ。でも、君がA子だったかB子だったかが分からないんだけど」と声をかけてきたんです。それで、どちらも私だと説明しても、分かってもらえなくて、結局、英語が通じないんだと思って行っちゃったんですが。私はそれがすごくうれしくて。そのことを監督にずっと報告したいと思っていたんですが、いつも忘れてしまって…」と語った。

犬童監督が「市川さんは今の年齢になった宮沢さんと映画を作ったと思うんですよ。成熟したものを作ろうとしていた市川さんの映画ならすごくいいものができたんだろうと思います」と語ると、宮沢さんは「『トニー滝谷』の撮影はホントに暑い中でやっていて、褒めてもらいたい思っていたので、撮影が終わった時に『また一緒に映画を作りましょう』と言ってくださいました。もう一度仕事をしたいというのが私にとって一番の言葉なんで、うれしかったですね」と語った。最後に宮沢さんは「無理難題を言われてもトライしようという細胞と筋力を市川監督に与えてもらいました。こうして観ると、できあがったものは永遠なんだとあらためて思いました」と感慨深げに語った。

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市川監督の思い出になると、どこか寂しげで、感慨深い表情をみせた

尾形さんが市川監督と宮沢さんのエピソードとして「市川監督にTBSでお会いした際に、市川監督が『いまそこで宮沢りえにあっちゃって、市川さ〜んって声をかけられちゃった。いいもんだね』と嬉しそうにしていたことがありました」と語ると、宮沢さんは「そういうところ私にみせないんですよね」と笑った。

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市川監督との貴重なエピソードなども披露するなど、司会を務めた映画評論家の尾形敏明さん

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最後に宮沢さんと犬童監督が握手して、一時間をこえるトークイベントは終了した

取材・撮影・文 / チバヒデトシ

市川準監督特集2015@目黒シネマ 「市川準と女優たち」ページはこちら

『トニー滝谷』『つぐみ』は12月11日まで公開中。

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