Interview

映画「ディーン、君がいた瞬間(とき)」 アントン・コービン監督インタビュー

映画「ディーン、君がいた瞬間(とき)」 アントン・コービン監督インタビュー

デニス・ストックをアーティストとして描きたかった― 映画監督アントン・コービンの審美眼

6度目の来日という東京の感想を聞くと、彼は「この景色は好きだよ。秋は光の加減がきれいだからね」とつぶやき、ホテルの高層階の外に広がる東京の街に視線を向けた。
アントン・コービン。U2やデヴィッド・ボウイ、ビョークらを撮影し続けてきた、世界中のアーティストから絶大な支持を受けるロック・フォトグラファーだ。20代よりロンドンを拠点とし、ステージ・フォトからポートレートへと進み活躍し続けてきた。2008年、夭折したジョイ・ディヴィジョンのボーカル、イアン・カーティスの生涯を描いた映画「コントロール」で映画監督としてデビューした。
今回、最新作『ディーン、君がいた瞬間(とき)』を東京国際映画祭に出品するために来日した、貴重な滞在の合間をぬって単独でインタビューに応えてくれた。

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何度も聞かれているかもしれませんが、6度目の日本の印象をお聞かせください。

アントン すべてを把握しきれないところが興味深い。なにがどうなっているのか把握しきれない感じが、ね。だから来日の度に刺激をもらうんだ。
僕が生まれたオランダは、鎖国をしていた江戸時代、日本と交易をしていた唯一の西欧国だったことから親しみがあるけれど、僕にとってはやっぱり異国情緒漂う国。似ているけれど違うね。

記者会見でもおっしゃっていましたが、本作はデニス・ストックへの興味が監督を引き受けた決め手だということでした。ご自身は、デニス・ストックの何に惹かれたのでしょう? またご自身にとって、デニス・ストックとはどのようなアーティストですか?

アントン デニス・ストックは、時代を代表するフォトグラファーの一人で、彼の写真と言われて思いつく写真は数多くある。その上で、僕は特に彼の《ドキュメンタリー調》の撮影スタイルがすごく好きなんだ。
彼はW・ユージン・スミス等と同じ50年代に、雑誌に掲載される写真を通じてストーリーを伝えてきたし、それに実にいろいろな対象を写真に収めている。場所はアフリカ、ハリウッドの映画セット、ジャズシーン、カリフォルニア……と多岐に渡るけれど、その総てにおいて《ドキュメンタリー調》なんだ。
ポートレイトにありがちな顔だけ、ではなくて、時代背景をも映し出す写真の数々、デニス・ストックのそこに惹かれたんだ。

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もちろんジェームズ・ディーンも実際にデニスの手により《ドキュメンタリー調》に収められてたうちの一人だ。被写体が偶然、ジェームズ・ディーンであったということを、監督はインタビューでも度々述べている。その《ドキュメンタリー調》の撮影シーンは、もちろん映画のところどころで登場する。本来一瞬を切り取る写真において、その前後である撮影シーンを再現することは至難の技だろう。

画作りをする上で大変だったのは、どのようなシーンだったのでしょうか?

アントン 印象的なシーンでもあるけれど、なにが大変って、50年代のタイムズスクエアと現代のタイムズスクエアはまるで違うからね。
なんといっても、この映画で僕はデニス・ストックを「アーティスト」として描きたかったんだ。
最初は映画全篇をモノクロにしようと思ったものの、それでは彼の写真はただシャッターを押して撮っただけになってしまう。むしろ色彩のある世界を、デニス自身がモノクロに切り取る、というその行為を通じて、彼の芸術を表現したかったんだ。そこは常に意識していたよ。

監督の思いに応えるようにして、ロバート・パティンソン(監督はRobと呼んでいた)自身はデニスを演じる上で、一枚一枚を撮る姿勢そのものを大切に演じていたそうだ。「今の時代はみんなどんどんシャッターをきるけれど、60年前はそうではなかったからね」と、その当時の時代を表現しようとする監督の真摯な姿勢を、どうしようもなくデニスの《ドキュメンタリー調》と重ねあわせてしまう。

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(c)See-Saw Film

ところでこの映画では、実力を認めてもらおうとデニスのもがくシーンが所々に散りばめられている。生来のスター性を持て余すディーンと、もがくデニス。互いの才能のぶつかり合いがつづくなか、とあるダンスシーンは、デニスの写真家としてのターニングポイントとして描かれていた。派手さはないが、印象的なシーンだ。このシーンはぜひスクリーンで確かめてほしい。

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(c)See-Saw Film

40年に渡るキャリアのなかで、監督ご自身のターニングポイントになった出来事や事件にはどのようなことがありましたか?

アントン (しばらく考えたあとで)た、たくさんあるよ(と戯けてみせ、続けた)。
その中で、やっぱり初めてカメラを手にして写真を撮ったということは、僕の人生のターニングポイントだね。あとは24歳で渡英したとき、それと最初の映画を撮ったときかな?そういった転換点があることで、僕自身それまでに自分が何をしてきたのかということを今一度考えさせられるんだ。

24歳で、監督は故郷を飛び出しロンドンへ渡り、写真家としてのキャリアをスタートさせた。ジェームズ・ディーンの享年もおなじく24歳。現在、24歳のインタビュアーの時岡さんが、ぜひ聞いてみたかったという質問を投げかけた。

いまの日本ではなにをやりたいのか模索する若者が多い、という事があります。彼らにアドバイスをいただけますか?

アントン 僕が24歳でロンドンへ行ったときだって、実はその後の壮大な人生計画があったからではないんだ。とりあえず行ってみよう、って。行ってよかったといえるのは、あくまで結果論さ。お金があったわけでもないしね。
ただ、1979年の音楽シーンは様々なことがあったよ。U2やジョイ・ディビジョンはじめ、UKロックが非常に隆盛していた時代だったからね。とにかく愉しかったよ。

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そこまでうかがって、インタビューはタイムアップとなった。その後は、坂本龍一さんやドリームズ・カム・トゥルーといった日本人のアーティストのCDジャケットの撮影を手がけた話など、音楽話に花を咲かせながら撮影がすすみ、インタビューを終えた。

終始肩肘張らず、丁寧に質問のひとつひとつに答えてくれた監督。192センチの長身を忘れるほどの威圧感を与えぬ雰囲気は、作品から垣間見る鋭い審美眼とはミスマッチすぎる。スタッフに「すこし休みますか?」と聞かれた瞬間、「Oh, I LOVE JAPAN!」と言いながらソファに横たわった姿に場の雰囲気がふっと柔らかくなる。やっぱりミスマッチだ。

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話をうかがいながら、英語ではいいニュアンスだと思ったフレーズが、日本語に置き換えるごとに、その副作用で平易な文章になることが残念だった。それでも、物静かな中にも発する監督の言語から。その温度感だけでも共有できればと。
そしてニュアンスを楽しみに、劇場へ足を運んでみていただければ、きっと新しい発見が待っていると思う。

インタビュー・文 / 時岡碧 撮影 / 鈴木敏也 記事監修・構成 / チバヒデトシ

『ディーン、君がいた瞬間(とき)』

『ディーン、君がいた瞬間(とき)』

(c)See-Saw Film

オフィシャルサイト

監督:アントン・コービン『コントロール』 
製作:イアン・カニング『英国王のスピーチ』
音楽:オーウェン・パレット『her/世界でひとつの彼女』
出演:デイン・デハーン『アメイジング・スパイダーマン2』、ロバート・パティンソン『トワイライト』シリーズ
ジョエル・エドガートン、ベン・キングズレー、アレッサンドラ・マストロナルディ
原題:LIFE/2015年/カナダ・ドイツ・オーストラリア合作/112分/カラー/シネスコ/5.1chデジタル
字幕翻訳:佐藤恵子    
配給:ギャガ