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相葉裕樹、中川晃教、池田純矢らが好演! 裏方スタッフたちの舞台愛を観るミュージカル『HEADS UP!』開幕

相葉裕樹、中川晃教、池田純矢らが好演! 裏方スタッフたちの舞台愛を観るミュージカル『HEADS UP!』開幕

照明、音響、衣裳、舞台監督など、舞台裏で働く裏方スタッフたちにスポットを当て、普段は観客が目にすることがないバックステージの様子をリアルに描いたミュージカル『HEADS UP!/ヘッズ・アップ!』。2015年の初演時に約1万人を動員し、第23回読売演劇大賞演出家部門優秀賞を受賞するなど、大きな話題を集めた日本生まれのオリジナルミュージカルの再演が、12月14日にKATT神奈川芸術劇場で開幕した。

取材・文 / 松浦靖恵

彼らの演劇や自分の仕事に対する情熱を、そして『HEADS UP!』に関わるすべての人たちに想いを馳せることができる

観客の目の前にあったのは、がら~んとした素舞台。幕開きで登場した劇場付き雑用係の黒川義男(中川晃教)が“ストーリーテラー”の役割りを担い、ここが老朽化によって取り壊しになることが決まった北関東にある公共劇場・黎明会館であること、そしてこの劇場でブロードウェイミュージカル「ドルガンチェの馬」の1001回目公演が上演されることが、観客たちに告げられた。

そして、このシーンの最後に中川が歌った「劇場で起こること」は、これからこのステージで起こるすべてのこと、そして舞台とはどういうものであるかを、しっかりとなぞっている歌詞を持った楽曲だったということを、観客たちは後に知ることになる。

1000回というキリのいい公演回数をもって華々しく幕を下ろしたはずの「ドルガンチェの馬」。しかし主演俳優の小山田丈太郎(今拓哉)のわがままによって予定外の1001回目の公演を行うことになったために、キャストのスケジュールが押さえられない、舞台セットが廃棄済みでどうにもこうにも揃わない、スタッフも人手が足りない、制作費も少ない、時間がない……と、ないないづくしの現場はすったもんだの大騒ぎになってしまう。

しかしチケットは完売している。つまりこの舞台を楽しみにしているお客様がいるかぎり、舞台裏でどんなトラブルが起ころうとも、それが不可能なことだと思えても、チケットは素晴らしい公演をお客様にお見せするという約束の証だからこそ、彼らは開演時間までにすべての準備を整え、幕を必ず開けなければならない。

舞台裏で次々と勃発するトラブルやアクシデントに振り回され、奮闘している彼らを見ているうちに、果たしてちゃんと「ドルガンチェの馬」の幕は開くのだろうかと、いつの間にやら自分があの現場に入り込んでしまったかのような感覚になってハラハラドキドキしてしまう。

制作スタッフの本庄まさこ(青木さやか)、新人舞台監督・新藤祐介(相葉裕樹)、演出部の個性豊かな3人衆(橋本じゅん、芋洗坂係長、オレノグラフティ)、アルバイトの佐野慎也(池田純矢)らが舞台上に次々と登場し、何もなかった素舞台に実際に「ドルガンチェの馬」の立て込みをしていくのだが、彼らの仕事ぶりや“なぐり”“ズタ袋”といった舞台製作の専門用語が飛び交う裏方たちのやり取りを見ている観客たちは、立て込みが出来上がっていく過程を見ているうちに、舞台に関わる各部署の裏方たちがそれぞれどのような仕事をしているのか、また舞台というのはこんなにもたくさんのスタッフに支えられて作られているのだということを、物語が進行していく流れのなかで知ることができる。そう、『HEADS UP!』は、こんなふうに観客を舞台という世界に自然と巻き込み、この舞台の一員になっているかのような楽しい錯覚を覚えてしまう舞台なのだ。

倉持裕(劇団ペンギンプルペイルパイルズ)が手がけた脚本には、ミュージカルファンならば誰もが知っている名作ミュージカルのパロディが盛り込まれていたり、ベテラン舞台監督の加賀美賢治(哀川翔)があの有名アーティストを彷彿とさせる登場の仕方をしたり、加賀美と女優・真昼野ひかる(大空ゆうひ)の元夫婦ならではの微妙な距離感があるやりとりがあったりと、演者たちが真面目にやればやるほど観ている者が思わず声を出して笑ってしまう場面も盛りだくさん。原案・作詞・演出を手がけたラサール石井が「自分がやるならミュージカルコメディ」と決めていたというその言葉どおり、絶妙な間を持ったコメディに何度も何度も客席からは笑いが起こった。

なんだかんだとすったもんだしながらも「ドルガンチェの馬」は無事に(!?)幕が上がり、無事に(!?)幕を下ろすのだが、この舞台が終わったあとにスタッフたちが舞台セットのバラシをしていくなかで、客席にいる本物の観客たちは「ドルガンチェの馬」の本番中の様子を知ることができる。その素晴らしい演出はぜひ劇場で実際に観て欲しい。それにしても想定外のアクシデントが勃発したとき、それをどうにかバレないように誤魔化そうとする人間の姿は滑稽で、とても愛らしかった。

海外生まれのミュージカルを日本で上演する際には、ミュージカルナンバーの歌詞を“和訳”しなければならないが、ラサール石井が作詞を手がけたミュージカルナンバーは歌詞に“憧れのヒーローショー”や“トイレは和式しかない”など、日本ならではのフレーズがあったり、登場人物たちの心情を日本語ならではの表現や言い回しで観客に伝えていくわかりやすさがあり、メロディラインも日本人が心惹かれるような親しみやすさを持っていて、日本生まれのオリジナルミュージカルというこの作品の特徴を音楽面でも思う存分楽しむことができた。

物語が進むにつれて、なぜ彼らが自分の仕事にこだわり続けてきたのか、なぜ劇場や演劇への愛に満ち溢れているのか。裏方スタッフたちのそれぞれの秘話が次々と明かされていく。

ベテラン舞台監督の加賀美が新人舞台監督の新藤にかける言葉に込めた想い。不安だらけの新藤を励まし続ける劇場付き雑用係の熊川。思い出がいっぱいの劇場で演出部の手伝いをすることになったアルバイトの佐野。演出部の久米(橋本じゅん)が背負った過去の出来事。演出助手や衣裳助手が叶えたいと願っている夢。この舞台の中にいるひとりひとりの想いに、それぞれの人生に、観る者は自分の人生や日常を重ね合わせていたに違いない。

再演は「またあの舞台を観たい!」という反響が大きかったからこそ、多くの人たちを魅了した演目だったからこそ、実現できることだ。だからこそ、演者たちやスタッフたちは好評に応えて再演できるという喜びを、また新キャストは一度完成したものに新たに挑むというプレッシャーを胸に、初演時よりもグレードアップした『HEADS UP!』を届けたいという想いを抱いて、この再演に臨んだに違いないが、なによりも『HEADS UP!』という舞台は、お客様の反応によってより輝きを増すのだということを、この再演によって再確認したはずだ。

当然のことだが、この舞台『HEADS UP!』にもホンモノのスタッフがいる。観客がいなくなった劇場では、今頃ホンモノのスタッフたちが明日の舞台のための準備をしているのだろう。その姿を私たちが目にすることはないけれど、『HEADS UP!』を観たあとには、彼らの演劇や自分の仕事に対する情熱を、そして『HEADS UP!』に関わるすべての人たちに想いを馳せることができる。そして、それこそが舞台『HEADS UP!』が伝えたかったことのひとつだったのだと、心から思えるはずだ。

『HEADS UP!』をこれから観劇される方は、稽古場の写真や倉持裕、ラサール石井、キャストのインタビューのほか、ミュージカルナンバーの歌詞やメインテーマの楽譜、舞台用語集、舞台お仕事集などが掲載されているパンフレットをぜひ手にして欲しい。作品をより楽しめるパンフレットのページをめくるたびに、このパンフレットを制作したスタッフの『HEADS UP!』に対する愛情をも思いっきり感じられることでしょう!

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