LIVE SHUTTLE  vol. 223

Report

the pillowsが第3期の名盤を今に再現するツアーを敢行。苦しみの中で生まれた作品は、時を経て新たな輝きを放つ名曲に育っていた──

the pillowsが第3期の名盤を今に再現するツアーを敢行。苦しみの中で生まれた作品は、時を経て新たな輝きを放つ名曲に育っていた──

the pillowsの全国ツアー〈RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.1〉の最終公演が12月15日(金)、東京・Zepp DiverCityで行われた。

取材・文 / 森朋之 写真 / 岩佐篤樹

苦しみから生まれたであろう曲たちが、こんなに長い時が経っても、 “聴きたい”という人たちがいてくれて。幸せです

〈RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.1〉は、the pillowsの“第3期”の幕開けを告げた5thアルバム『Please Mr.Lostman』(1997年)、6thアルバム『LITTLE BUSTERS』(1998年)を全曲演奏する再現ツアー。

特設ホームページで山中さわお(vocal, guitar)は「何かを突き破りたい、知りたい、証明したい、そんな若者のエネルギー。今、新曲として自然には生まれないタイプの曲を久しぶりに歌ったとき、不思議なもので違和感はまったくなかった。オレたち、ほとんどのことが変化しちゃったけどさ、昔大切にしてた宝物みたいな価値観、そのすべてを失ったわけではなかったんだ。それを噛みしめながら音を発する瞬間は素直に好きだよ」とコメントしているが、その言葉どおり、この日のライヴはキャリアを代表する2つの名盤を“2017年のthe pillows”を介してリアルに体感できる、素晴らしい内容となった。

BGMはザ・スミスの楽曲。山中さわおのルーツのひとつとなっている名曲を聴きながら、開演を待つ。19時10分過ぎにメンバーが登場。

アルバム『Please Mr.Lostman』の1曲目に収録されている「STALKER」からライヴは始まった。2曲目は美しいギターアンサンブルとポップなメロディ、「探してる物は僕らの中で騒いでる」という歌詞がひとつになった「TRIP DANCER」。曲が終わるたびにすさまじいばかりの歓声と拍手が鳴り響く。

最初のMCで山中は、今回のツアーの趣旨を説明。「こういう特別なライヴだからって、久々に来てみたよって人いる?」と問いかけ、手を挙げた観客に向かって「ふざけんじゃねえ、この野郎。久しぶりじゃないか」と笑顔で返す。「20年経っているので、姿かたちのほうが多少変化してますが(笑)、とはいえ、この2枚のアルバムは正真正銘、俺たちが作ったんだから、俺たちがやるしかねえだろう!」という言葉のあとは、軽やかに飛び跳ねるリズムとドリーミーなメロディが溶け合う「Moon is mine」、フォークロックとギターポップを絶妙のバランスで共存させた「彼女は今日,」が続く。

山中さわお(vocal, guitar)

the pillowsの第3期の最初のアルバム『Please Mr.Lostman』は、ジャズ、ソウルのテイストなどを取り入れた第2期から一転、シンプルなロックサウンドへと回帰した作品だ。ザ・スミス、ザ・ストーン・ローゼズ、オアシスなどのUKロックの影響を反映させながら、深い精神性と高い音楽性を共存させた本作は、the pillowsのターニングポイントとなった。

そのことを最も端的に象徴しているのが名曲「ストレンジ カメレオン」。エモーショナルなギターサウンド、重厚なグルーヴを描くリズムとともに響く「君といるのが好きで あとはほとんど嫌いで/まわりの色に馴染まない 出来損ないのカメレオン」というフレーズに(何度もライヴで聴いているにも関わらず)強く心を揺さぶられてしまう。優れた楽曲を発表していたにも関わらず、才能に見合った評価が得られず、セールス的にも苦戦していた90年代半ばのthe pillows。この状態から脱したい、必ずどこかに自分たちに似合う場所があるはずだ──「ストレンジ カメレオン」の核にあるのは、そういう切実な感情なのだ。

続く「Swanky Street」も強烈。ザ・ストーン・ローゼズを想起させるサウンドと「壊れてもいんだ Speedを上げてよ」というラインが重なり合うこの曲は、20年目のthe pillowsの状態をダイレクトに伝えていると同時に、2017年においてもきわめてリアルなメッセージを響かせていた。

前半の最後は、アルバムのタイトル曲「Please Mr.Lostman」。繊細なメロディに「ねじ曲がった時代なんて関係ない/僕らは出会った」という歌詞が広がり、大きな感動へと結び付く。

真鍋吉明(guitar)

ライヴ後半は6thアルバム『LITTLE BUSTERS』の楽曲で構成されていた。まずはノイジーなギターが炸裂する「Hello, Welcome to Bubbletown’s Happy Zoo(instant show)」、疾走感に溢れたサウンドと“ロックに出会った瞬間”を映し出す歌がまっすぐに突き刺さる「Blues Drive Monster」。憂いを帯びた『Please Mr.Lostman』に比べるとポップかつダイナミックなロックンロールが多く、観客のテンションも一気に上がっていく。

そして「アナザーモーニング」へ。「今日は新しい僕の誕生日なんだ/記念写真を撮り直すからおいでよ」という大合唱から始まったこの曲は、“生まれ変わって、新しい人生を始めるんだ”という決意を表したナンバー。絶望的な状況を自らの力で乗り越えようとする意志がストレートに伝わってくる楽曲だが、こういうシリアスな心情をポップなロックンロールに結び付けるセンスはまさに絶品。山中さわおのソングライティング能力の高さがはっきりと示された名曲だと思う。

佐藤シンイチロウ(drums)

さらに「『LITTLE BUSTERS』のツアー中に演奏するのを止めてしまった曲。ほとんどの人は初めて聴くんじゃないかな」(山中)という「THAT HOUSE」(ファルセットを活かしたメロディが印象的な美しいナンバー)、理想の世界を夢見ていた少年が深い孤独を抱えて街を出ていく姿を叙情的に描いた「Black Sheep」も。久しく演奏されていなかったレアな楽曲が聴けたことも、今回のツアーの大きな収穫だった。

「必死な想いで作った、思い入れのある2枚のアルバムなので。見届けに来てくれてありがとう。こういう素敵な機会を作ってくれて、山中くん、ありがとう」という、真鍋吉明(guitar)のグッとくるMCを挟み、ライヴはさらなる後半へ。

クライマックスを演出したのは、the pillowsを象徴する楽曲のひとつ「ハイブリッド レインボウ」だった。感情を剥き出しにしたメロディ、繊細なアンサンブルと爆発的なギターサウンドが交差するアレンジ、そして、「きっとまだ/限界なんてこんなもんじゃない」という歌詞。どうしようもなく涙腺を刺激されてしまうが、それは懐かしさのせいではなく、この曲に内包されたエモーションが今でも強い生命力を持っているからだ。そう、今回のツアー〈RETURN TO THIRD MOVEMENT!Vol.1〉の最大の意義は、20年前に想いを馳せることではなく、『Please Mr.Lostman』『LITTLE BUSTERS』という2枚のアルバムが今もなお輝きを放っていることを実感できたことだと思う。

本編ラストは「LITTLE BUSTERS」。会場を埋め尽くしたバスターズ(the pillowsのファンの名称)が拳を突き上げ、思い切り歌う。バンドとファンの理想の関係が、たしかにそこには存在していた。

アンコールでは新曲「ぼくのともだち」、1997年のシングル「ONE LIFE」のカップリング曲「cherry」、「About A Rock’n’Roll Band」、さらに大きなコールに応え「Locomotion, more! more!」を披露。極上のロックンロールでフロア全体を熱狂の渦へと巻き込んだ。

「このツアーはいつもとは違う気分だった。『ハイブリッド レインボウ』や『Blues Drive Monster』はいつもやっている曲なのに、今回は20年前に曲を生み出したときのような感じで歌っていて。ちょっと恥ずかしい気持ちと自慢したい気持ちが入り交じっている不思議な感情で、そんな感じでステージに立ってる時間は、俺にとってはいい時間だった」

「20代の頃はなりたい自分になれてなくて、とても苦しい時代だった。でも、その苦しみから生まれたであろう曲たちが、こんなに長い時が経っても、全国どこにいっても“聴きたい”という人たちがいてくれて。幸せです。ありがとう」

そんな山中のMCからも、今回のツアーに対する手応えが感じられた。2018年5〜6月には1999年に発表されたアルバム『RUNNERS HIGH』『HAPPY BIVOUAC』を再現するツアー〈RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.2〉が開催される。オルタナミュージックに傾倒していた90年代後半のthe pillowsの音楽がどんなふうに表現されるのか、今から楽しみでしょうがない。

RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.1 2017.12.15@東京 Zepp DiverCity SET LIST

M01. STALKER
M02. TRIP DANCER
M03. Moon is mine
M04. 彼女は今日,
M05. GIRLS DON’T CRY
M06. ICE PICK
M07. ストレンジ カメレオン
M08. Swanky Street
M09. SUICIDE DIVING
M10. Please Mr. Lostman
M11. Hello, Welcome to Bubbletown’s Happy Zoo(instant show)
M12. Blues Drive Monster
M13. アナザーモーニング
M14. ONE LIFE
M15. THAT HOUSE
M16. Black Sheep
M17. Nowhere
M18. パトリシア
M19. like a lovesong (back to back)
M20. ハイブリッド レインボウ
M21. LITTLE BUSTERS

EN.1
M01. ぼくのともだち
M02. cherry
EN.2
M01. About A Rock’n’Roll Band
EN.3
M01. Locomotion, more! more!


『Please Mr.Lostman』

1997年発表の5thアルバム
KICS-606 ¥3,059(税込)

〈収録曲〉
M01. STALKER
M02. TRIP DANCER
M03. Moon is mine
M04. ICE PICK
M05. 彼女は今日,
M06. ストレンジ カメレオン(ORIGINAL STORY)
M07. Swanky Street
M08. SUICIDE DIVING
M09. GIRLS DON’T CRY
M10. Please Mr.Lostman

『LITTLE BUSTERS』

1998年発表の6thアルバム
KICS-666 ¥3,059(税込)

〈収録曲〉
M01. Hello,Welcome to Bubbletown’s Happy Zoo(instant show)
M02. アナザーモーニング
M03. ONE LIFE(album mix)
M04. THAT HOUSE
M05. like a lovesong(back to back)(album version)
M06. Nowhere
M07. ハイブリッド レインボウ
M08. Blues Drive Monster
M09. パトリシア(album version)
M10. Black Sheep
M11. LITTLE BUSTERS


the pillows presents “COUNTDOWN BUMP SHOW!! 2017→2018”

2017年12月31日(日)shibuya duo MUSIC EXCHANGE

RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.2

2018年5月6日(日)新潟県 GOLDEN PIGS RED STAGE
2018年5月12日(土)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
2018年5月18日(金)岡山県 YEBISU YA PRO
2018年5月20日(日)愛知県 THE BOTTOM LINE
2018年5月25日(金)宮城県 Rensa
2018年5月27日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
2018年5月29日(火)青森県 青森Quarter
2018年6月01日(金)大阪府 BIGCAT
2018年6月03日(日)福岡県 DRUM LOGOS
2018年6月05日(火)愛媛県 松山サロンキティ
2018年6月08日(金)東京都 Zepp Tokyo
2018年6月23日(土)沖縄県 桜坂セントラル

the pillows(ザ・ピロウズ)

山中さわお(vocal, guitar)、真鍋吉明(guitar)、佐藤シンイチロウ(drums)。1989年に結成、1991年にシングル「雨にうたえば」でデビュー。2009年に初の日本武道館公演を実現。2017年3月にアルバム『NOOK IN THE BRAIN』を発表している。
オフィシャルサイト

the pillowsの楽曲を聴いてみる
vol.222
vol.223
vol.224