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桑田佳祐のソロ活動30周年を記念したMV集『MVP』より。彼の30年の軌跡、その実りを考察する──

桑田佳祐のソロ活動30周年を記念したMV集『MVP』より。彼の30年の軌跡、その実りを考察する──

桑田佳祐のソロ活動30周年を記念して、これまでのミュージックビデオを網羅した『MVP』が1月3日にリリースされる。ダリル・ホール&ジョン・オーツと共演した「SHE’S A BIG TEASER」など数曲、今回初作品化となる。また、初回限定盤にはBonus Trackとして、KUWATA BAND時代の珠玉の3曲も収録され、大きな話題となっている。いまほど“網羅”という言葉を使ったが、この言葉に偽りなしの内容である。ただ、ソロデビューを飾った「悲しい気持ち(JUST A MAN IN LOVE)」は、新たに制作されたオリジナルビデオとなっている。

文 / 小貫信昭

“誰に? 何を伝えるか?”ということを、彼はこれまで以上に意識する

良い機会なので、この30年を振り返ってみよう。

「悲しい気持ち (JUST A MAN IN LOVE)」がリリースされたのは、1987年である。時代はバブル経済へ向かう頃で、平野ノラさんのような女性が、実際、街には大勢いた。そして男も、とびきりのオシャレをして、浮かれていた。

バンドなら、世の中のモードとは別の“ユニフォーム”を着ることができるが、ソロは違う。時代の風に晒される面積が増す。当時の桑田のアーティスト写真を眺めると、そんな空気も伝わってくる。

このとき、彼はユニット形態で音楽制作を開始する。80年代はコンピューター全盛だった。プログラミングや打ち込みを駆使し、イマジネーションのおもむくまま、様々な要素を取り込んでいった。派手でキラキラしたものがそぐう時代でもあり、『Keisuke Kuwata』(1988年発表)の中には、様々な音の色彩が散りばめられている。

ただ、サウンド指向のようでいて、歌詞を重視するようにもなる。スタジオでスタッフたちに、ことあるごとに、歌詞の意味を訊ねたという。“誰に? 何を伝えるか?”ということを、彼はこれまで以上に意識するようになる。

このアルバムは、自らの思うポップミュージックの再確認・再定義を果たすことになる。それをサザンの踏襲でも、サザンからの逃避でもなくやり遂げたことに意味があった。

わずかな道具しか持たず、新たな世界観を描こうとした

次にソロ活動が始まるのが1993年で、今度は一転、実にシンプルな方法論が採られる。歌声、ギター、ピアノ、ハーモニカという、わずかな道具しか持たず、新たな世界観を描こうとした。「デッサン用の木炭だけでスケッチブックに向かった」と、当時、自らそう語っていた。

完成したのが、『孤独の太陽』(1994年発表)である。アルバムタイトルは、当時の心境を指している。前作がカラフルなら、今回はモノトーンである。聴いた印象としては、アコースティックゆえ、余計に精神としてのロックを感じる。

メッセージ性の強い作品集と受取った人も多かった。自伝的、とも……。特に「真夜中のダンディー」のミュージックビデオは必見だ。桑田佳祐の“面構え”そのものが、あの歌を歌っている。アルバム制作中、彼の母が亡くなった。「月」は、その最中に作られたものである。ことさら強調はしないが、こうした巡り合わせから出た心境が、作品のどこかに現れているのは事実だろう。

“ポップの極み”とは別に、傾倒していったのがバンドサウンド

21世紀になれば争いもなくなる……。そんな淡い希望が同時多発テロで打ち砕かれた2001年。「波乗りジョニー」と「白い恋人達」で、 年間の音楽シーンの“顔”となったのが彼だった。しかし、これら“ポップの極み”とは別に、傾倒していったのがバンドサウンドだ。

手伝ってくれる馴染みのミュージシャンたちを、あえて“ザ・ボールディング・カンパニー”と命名し、ボブ・ディランとザ・バンドのような、ほど良い距離感の共演を探った。それがアルバム『ROCK AND ROLL HERO』へと結実する。一方、「波乗りジョニー」など、ポップな側面は『TOP OF THE POPS』としてまとめられ、共に2002年にリリースされた。

自己採点の厳しい桑田が、満足いく出来栄えだと言っていたのが「東京」である。ミュージックビデオの演出は大がかりだが、曲の存在感が薄れることはいっさいない。

歌手として、歌っていて心地良く感じる作品を揃える

2009年頃から、再びソロの活動が始まっていく。『ROCK AND ROLL HERO』がバンドマンの自分を意識したものなら、次作『MUSICMAN』(2011年発表)は歌手としての自分が、歌っていて心地良く感じる作品を揃えることが尽力された。さらに、これまでの集大成の意識もあったという。

しかし制作中、ふとした病であることが発覚し、治療のため音楽活動を休止する。スタジオに戻った最後に歌入れした「月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)」には、聴くほどに感情が澄みわたっていくような境地が響いていた。『MUSICMAN』は、実に17作品収録のボリュームだったが、このアルバムには、音楽を生業とする人間の矜持が示されていた。

直後に東日本大震災が発生する。体調は万全じゃなかったはずの桑田だが、人一倍の行動力で被災した人たちを勇気づけ、事務所の仲間たちとの「Let’s try again」、さらには「明日へのマーチ」と、これらの作品を発表する。

“歌っていて楽しい”。ノンフィルターで取り込める境地

ここまで見てきて、『Keisuke Kuwata』、『孤独の太陽』、『ROCK AND ROLL HERO』、『MUSICMAN』というのは、その時々の必然に動かされた、まったく指向性が違う作品集であることがわかる。最新作『がらくた』にしても、それは同じだろう。

ただ 『がらくた』は、『ROCK AND ROLL HERO』や『MUSICMAN』と比べて、アルバムタイトルからして肩の力が抜けている。バッターボックスでバットをキツく握るのではなく、手首の力をほど良く抜いた“構え”を感じる。それがここ最近の境地なのだろう。
最も、「オアシスと果樹園」の「満員電車を降りる潮時」という歌詞にはドキリとした。しかしWOWOWのテレビCMには、“終電近くまで激務のサラリーマン”に扮した桑田がいたのだった。

自分自身が歌手として歌っていて楽しいものを──。『MUSICMAN』の頃の発言だったが、最新作では、より果たされたのではと思う。もちろん“歌っていて楽しい”は、ジャンルで言えば歌謡曲を抜きに考えられないだろうが、ことオリジナル作りということで言えば、最も近く、最も遠い存在だったのがこのジャンルであり、「チャコの海岸物語」の時代なら、パロディというフィルターを要した。しかし今では、ノンフィルターで取り込める境地にもなったのかな、ということを、この年末、「若い広場」のサビのところを唱和しつつ、思ったのだった。

今回、桑田のソロ30年間を俯瞰しつつ、ひとつ興味深かったのは、音楽的には様々な要素を詰め込んだ「ヨシ子さん」が、ごく少人数のユニット的な体勢で制作されたことだ。まるで、『Keisuke Kuwata』がそうであったように……。
この原稿は年越しライヴに参戦する少し前に書いているが、ステージで、何か桑田から、新たなメッセ−ジが発せられるかもしれない。今はそれを待つことにしたい。

WOWOW presents桑田佳祐 LIVE TOUR 2017「がらくた」 supported by JTB

12月30日(土)横浜アリーナ
12月31日(日)横浜アリーナ

桑田佳祐(くわた・けいすけ)

1956年2月26日生まれ、神奈川県茅ヶ崎市出身。1978年にサザンオールスターズとしてシングル「勝手にシンドバッド」でデビュー。1987年リリースの「悲しい気持ち(JUST A MAN IN LOVE)」でソロ活動を開始。2017年10月にソロ活動30周年を迎える。最近の活動としては、7月にBillboard Live Tokyoにてプレミアムライヴを開催、音楽探訪記映画『茅ヶ崎物語 ~MY LITTLE HOMETOWN~』への出演ほか、8月にはソロとして15年ぶりとなる〈ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017〉へ出演、8月23日にはニューアルバム『がらくた』を発表。10月より全国アリーナ&5大ドームツアーを敢行。さらに、1月3日にはソロ30周年記念ミュージックビデオ集『MVP』をリリース。

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