黒川文雄のエンタメ異人伝  vol. 10

Interview

ゲームデザイナー上田文人氏(中)「自分の作品をつくりたい」ゲームクリエイター飯野賢治氏とともに働くことで得た影響とは?

ゲームデザイナー上田文人氏(中)「自分の作品をつくりたい」ゲームクリエイター飯野賢治氏とともに働くことで得た影響とは?

音楽、映画、ゲームなどを総称するエンタテインメントは、人類の歴史とともに生まれ、時代に愛され、変化と進化を遂げてきました。 そこには、それらを創り、育て、成熟へ導いた情熱に溢れた人々がいます。この偉人であり、異人たちにフォーカスしインタビュー形式で紹介するエンタメ異人伝。

上田文人の作品は、最初から最後まで上田文人を感じさせてくれる…。抽象的な表現で申し訳ないが、そのように感じるのは私だけではないだろう。ビデオゲームのコンテンツの内容がスケールアップし、開発に投じられる予算と人員が拡張する中で、クリエイター個人のテイストをダイレクトに感じることができる作品はそれほど多くない。上田が紡ぎ、繰り広げるキャラクターやストーリーを投影して、普段は実感の薄い人と人との繋がり、人と動物、または見えざる何かとの繋がりを感じさせてくれる。そのゲームコンテンツの中に反映される上田文人の心模様の一端を開いてみたいと思ったのが今回のインタビューのきっかけだ。

今回の「エンタメ異人伝」は、上田文人と彼の作品を形成するもの、彼を動かすモチベーションに迫るものである。

※本記事は3回にわたってお届けするインタビューの第2回です。第1回(上)はこちら

インタビュー取材・文 / 黒川文雄

飯野さんとの仕事が自分の進路を決定づけた

2002年上田文人ポラロイド

遠くからだとすごい天才性が見えるけど、実際に近くに寄ってみたら自分とそんなに変わらないんじゃないかと。

上田 そうですね、同じように苦労したり、同じような悩みを抱えたりしながらモノを作っている。お客さん側だったときは、ゲームに限らず商業作品っていうのは、常にベストの選択をしているというか、レベルデザインにしてもグラフィックにしてもシナリオにしても、これ以外ないっていう突き詰めたものを提供しているんだ、って感じてたんですけど、必ずしもそうではないと。締め切りがあるからこうなってしまったとか、たまたま偶発的にこういう表現になりましたってことがたくさん含まれていてもいいんだと。むしろ、そういうものが結果として優れたものになってるっていうことを肌身で感じられたっていうのは、その後の自分の進路みたいなものを決定づけたというか、すごく大きかったと思いますね。

そうしたことは何百人もいるような大きな会社やプロダクションであったら、なかなか感じにくかったかもしれないですね。『エネミー・ゼロ』のオープニングを見ると、上田さんはじめ3人の方でCGの部分をやられているじゃないですか。そうしたコンパクトな人数でダイレクトな仕事ができたことが大きかったんでしょうね。

上田 確かにそうかもしれませんね。それまでは特別な人や特別なところが作っていて、とても自分にはできないと思っていたんですよ。それはワープだけに限らず、これまで自分が尊敬してきた人もきっとそれほど特別な人では無いんだろうと。

今は逆にそう見られている立場ですよね。でも、上田さん自身も特別な存在ではないと。みんなと同じように苦しんだり悩んだり、いろいろありながら作っておられると。

上田 まさにそのとおりですね。自分も含めてみな試行錯誤しながら作っていて、それが偶然評価されたり、そうじゃなかったりって…ことをやっているんだと。それを実際に現場で体験できたから、自分もゲーム制作にチャレンジしてみようかなって思えたというのはありますね。

それらを体験したことによって、自分でもできるんじゃないかという気持になれたということですね。それで、ワープをお辞めになったわけですか。

上田 そうですね。自分の作品と呼べるものを作りたいと。ワープにいる限りは飯野賢治さんの作品を手伝う、サポートするっていう形ですから。それはそれで楽しかったんですけどね。飯野さんは僕に対してすごく気を遣ってくれて、同い歳ってこともあって、「上田さん、飯野さん」みたいな間柄でしたから。社員旅行で海外に連れていってもらったりとかしましたし。

主人公が「ローラ」だから「オーロラ」を見にいった

確か社員全員でオーロラを見に行きましたよね?

上田 アラスカですね。そうそうそう、アラスカ行きましたね。

アラスカでしたか。確か、白は白でもいろんな色の白があるんだから、それを経験するためにオーロラを見に行くっていうのを何かのインタビューで読んだ記憶があります。

上田 『Dの食卓』が終わって『エネミー・ゼロ』を作るってときで、主人公がローラ(注16)って名前だからダジャレ的にひっかけてっていうのもあったと思います。

注16:『エネミー・ゼロ』のヒロインである金髪の美人女性。『Dの食卓』シリーズでも主人公となっており、ワープ作品を象徴するキャラクターだった。

そういう理由もあったんですか(笑)。

上田 だと思います。結局、オーロラは見られなかったんですけどね。でも、楽しかったですよ。今は仕事でいろいろ海外にいったりしますけど、初めての海外だった社員旅行のアラスカが一番楽しかった記憶がありますね。

すごくいい時代に、いい場所で、いい経験をされたんですね。

上田 そうですね。それで、1年半くらい働いて、そこそこ収入が増えて貯金もできたので、だったら半年から1年くらいは自分の作品作りに没頭できるんじゃないかなと。で、ワープを辞めて、コンピューターを買い込んで作り始めたのが『ICO』だったんですよね。

でも、よくひとりで始めようと思いましたね。

上田 いえ、最初はふたりでした。同じくらいのタイミングでワープを辞めた人間が何人かいたんですけど、その中のひとりと一緒に。でも、そうしていると、またお金が尽きてきてみたいな。

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