黒川文雄のエンタメ異人伝  vol. 10

Interview

ゲームデザイナー上田文人氏(下)様々な苦労を経て作られた『ワンダと巨像』 そしてゲーム開発において第一に考えるものとは?

ゲームデザイナー上田文人氏(下)様々な苦労を経て作られた『ワンダと巨像』 そしてゲーム開発において第一に考えるものとは?

音楽、映画、ゲームなどを総称するエンタテインメントは、人類の歴史とともに生まれ、時代に愛され、変化と進化を遂げてきました。 そこには、それらを創り、育て、成熟へ導いた情熱に溢れた人々がいます。この偉人であり、異人たちにフォーカスしインタビュー形式で紹介するエンタメ異人伝。

上田文人の作品は、最初から最後まで上田文人を感じさせてくれる…。抽象的な表現で申し訳ないが、そのように感じるのは私だけではないだろう。ビデオゲームのコンテンツの内容がスケールアップし、開発に投じられる予算と人員が拡張する中で、クリエイター個人のテイストをダイレクトに感じることができる作品はそれほど多くない。上田が紡ぎ、繰り広げるキャラクターやストーリーを投影して、普段は実感の薄い人と人との繋がり、人と動物、または見えざる何かとの繋がりを感じさせてくれる。そのゲームコンテンツの中に反映される上田文人の心模様の一端を開いてみたいと思ったのが今回のインタビューのきっかけだ。

今回の「エンタメ異人伝」は、上田文人と彼の作品を形成するもの、彼を動かすモチベーションに迫るものである。

※本記事は3回にわたってお届けするインタビューの最終回です。第1回(上)第2回(中)はこちら

インタビュー取材・文 / 黒川文雄

リアルな頭身のキャラクターが出てきてリアルな動きをするゲームが大好き

ゲームの中でのふたりの繋がりが、すごく人間的な感じがするんですよね。手を繋ぐのもそうですし、セーブのときにふたりでソファに座って休むとかっていうのも。ああいうところも、ご自身でイマジネーションされていったんですか。

上田 そうですね。僕は『アウターワールド』(注32)だったり『プリンス・オブ・ペルシャ』(注33)だったり『フラッシュバック』(注34)のような、リアルな頭身のキャラクターが出てきてリアルな動きをするゲームが大好きだったんです。自分が作るとなったときも、そういうディティールにこだわったゲームがお手本にあって、かつ自分はアニメーションのスキルが高いっていう自負もあったので、それらを究極に突き詰めたものだったら、それ以外の部分がさほどではなかったとしても商品価値が出せるんじゃなかろうかっていう考えがあったんだと思いますね。

注32:フランスのゲームメーカーであるデルフィン・ソフトウェアが開発した1991年発売の横スクロールアクションゲーム。SFテイストのハードな世界観やシビアな難易度がゲームマニアの支持を集めた。
注33:捕らわれの姫を救うため、さまざまなトラップが仕掛けられた王宮を進んでいくアラビアンナイト風のアクションアドベンチャー。キャラクターのリアルな動きと多彩なアクションが話題を呼んだ。
注34:『アウターワールド』を手がけたデルフィン・ソフトウェアが開発した1992年発売の横スクロールアクションゲーム。

キャラクターの息遣いを感じるような気がするんですよね。自然につまづく、転ぶ、肘をかくみたいなところとか。細かいっていうと申し訳ないですけど、よくここまでのことをゲームの中で再現しようとしたなあと感じましたよね。

上田 それは多分、そういうゲームが好きだっていうのがあるし、ちょうどその頃ビデオゲームに飽きつつあったというのもあって。似たようなゲームがいっぱい出ていて、ナンバリングタイトルがたくさんあるからこそ、もっと新しいゲームを作ったほうがいいんじゃないかみたいな。そういう閉塞感を感じていたのかなと思いますね。

『ICO』はゲージとか表示されないし、次にこれをやりなさいっていうのもないし、ゲームの中での自由度を感じさせるというか、その点でもすごく新しさを感じさせましたよね。そういう部分もご自身が感じていた不満、不平みたいなものを上田さんなりに形にしたものだったんでしょうか。

上田 不満だったり好みだったりもそうですが、自分が集めたこともあって、チームメンバーの大半がビデオゲームを作ったことがない人だったんですね。なので、例えばキャラクターのアニメーションでいうと格闘ゲームみたいなフレーム単位の駆け引きや調整、グラフィックでいう頂点カラー(注35)だったりUVマッピング(注36)だったりっていう当時の繊細なゲーム屋さんの職人技みたいなものを求めても、とても無理でしょうと。たとえ頑張ってできたとしても、そういう職人がたくさんいるチームには勝てない、違ったところで勝負しないといけないっていう発想があったんだと思います。それで、細かい動きにこだわったり、パラメーターではない形でプレイヤーに訴える方法を模索した中で、あの表現を選んだっていうのはありますね。

注35:3DCGにおいてポリゴンの各頂点に割り当てられるカラーのことで、おもにキャラクターや地形などの立体感を出すために使用される。
注36:平面の画像を不規則な形の3Dモデルに貼り付けるための方法。

セールス的には、『ICO』はあんまり売れなかったですからね

なるほど。感性とビジネスのバランスが素晴らしいですね。

上田 う~~ん、でもセールス的には、『ICO』はあんまり売れなかったですからね。もちろん、自分たちは売れると思って作ってたんですけどね。ちょうどその頃、『ハリーポッター』が人気でリアルファンタジーというか、海外ファンタジーみたいなもののブームが来ていたんです。『ICO』はよく海外のゲームみたいだって言われてまして、かつリアルファンタジー路線ということで、これはけっこう売れるんじゃないかなって期待があったんですが、結果として、さほど売上はいかず。あんまり売れなかったなあと思ってたんですけど、数カ月ぐらいしてから、ぱらばらと海外のアワードにノミネートされたよみたいなニュースが入り出して。そこからですね、ゲーム自体の評価が大きく変わったのは。

ところで、僕の深読みかもしれないですけど、『ICO』って恋愛の「恋」の逆読みとか、そういう意味あいが含まれているということはありますか?

上田 それはないです(笑)。いろんな意味は込めてますけど、その意味はなかったですね。

ごめんなさい、勉強不足で(笑)。

GDCアワードにてICO_当時は過去最多のノミネート

上田 『ICO』っていうのは当初は仮タイトルで、もともとは「イコン」とか「アイコン」が、アイディアの元としてありました。男の子の年上の女性に対する崇拝に近い憧れのような気持ちを表したみたいな。当時は他にはないタイトルだったっていうのもあって、最終的に『ICO』になりました。でも、振り返ってみると、わけわかんないタイトルですよね。ゲームの内容を端的に表していないし、今考えると違うほうがよかったのかなとも思いますね。

でも、斬新でしたよね。ちなみに、ヒロインのヨルダという名前は夜とか闇を象徴するとか、そういう意味もあるんですか? これも僕が勝手に考えているだけなんですけど(笑)。

上田 開発の終盤までキャラクターの名前はなかったんですよ。アイテムにしてもそうです。武器として出てくるのも、なんてことない角材と剣だけですからね。

そうですね。

当時の上司、小林さんの後押しがきっかけになった『ICO』

上田 それで、周りからアイテムやキャラクターに名前をつけるべきとか、さんざん言われまして。大作RPGが流行っていたこともあって、アイテムに大層な名前をつけるのが当たり前な時代だったんですね。キャラクターに名前がないというのも、今でこそありますけど当時は考えられなかったんです。で、いろいろとやかく言われて、仕方なく「分かりました。じゃあヨルダでいいです」って。
キャラクターの名前だけでなく、他の部分に対しても”ゲームとはこうあるべき”みたいな当時のゲームセオリーに当てはめようとする意見は結構あって、それを説得することに忙殺されて制作自体の進みの悪い時期もあったんです。
そんななか、当時の上司だった小林康秀(注38)さんに「上田の思うようにやれ」の一言に後押しされて、やりたいことをあまりスポイルすることなく実現できたことで『ICO』があのような少し変わったゲームとして完成する大きなきっかけになったんですよね。

注38:SCEを退職。現在は独立し、スマイルコネクト・イー株式会社を設立

そうだったんですね。

上田 名前でいうと、当初「イコ」っていう少年の名前自体もなくて、ずっと「少年」、「少年」ってチーム内では呼ばれてました。でも、体験版か何かを出したときに『ICO』っていうタイトルで、男の子が主人公のゲームなんで、プレイヤーたちがその主人公のことをイコ、イコって言い出したんです。だったらイコでいいかなっていう。そういえば『ワンダと巨像』も発売する段階で初めてつけたタイトルでしたね。

最初は「ニコ」だったんですよね。2番めの『ICO』っていう意味でしたっけ?

上田 そうですね。まあ、ネクスト『ICO』だったり、数字の2っていう意味もありましたし。あとは、先ほどもいったようにネットワークを使ったゲームを考えていたので、ネットワークの『ICO』っていう意味でも「ニコ」って呼んでましたね。

2013年2月15日@日仏会館
ゲスト 向かって左から寺田克也・水口哲也・エリックシャイ・上田文人(敬称略)

1 2 3 >
vol.9
vol.10
vol.11