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“選ばれし子供たち”の“愛”をめぐる注目のマンガ『きみを死なせないための物語』。 残酷で美しい世界と人々の切ない想いに圧倒される。

“選ばれし子供たち”の“愛”をめぐる注目のマンガ『きみを死なせないための物語』。 残酷で美しい世界と人々の切ない想いに圧倒される。

読んでほしいマンガ『きみを死なせないための物語』

ファンタジーといえば、子供とオタクのためのものーーといったイメージをもつ人は多いだろう。しかし近年、梅田阿比『クジラの子らは砂上に歌う』や鈴木志保『パレードはどこへ行くの?』など、いわゆる少女漫画のジャンルに属しながらも独創的で壮大な世界観を有する、良質のSFやファンタジーが次々に登場している。

そのひとつが、現在『月刊ミステリー ボニータ』(秋田書店)で連載中の『きみを死なせないための物語』だ。

舞台は人類が地球に住めなくなった近未来、宇宙に浮かぶ都市文明「コクーン」。幼い体のまま旧人類よりも長く生き続け、優秀な遺伝子を後世に残すという使命を背負った新人類“ネオテニイ”の一員で幼なじみのアラタ、ターラ、シーザー、ルイの4人は、ダフネー症という奇病をめぐり、ある悲しい出来事を体験する。そして16年後、外見はティーンのようだが精神的には大人へと成長した彼らは、さまざまな試練に遭遇しながらも各々の夢を実現しようとするのだがーー。

『きみを死なせないための物語』より ©吟鳥子(秋田書店)

『きみを死なせないための物語』より ©吟鳥子(秋田書店)

人間の価値が遺伝子の優劣によって定められ、人々が社会的契約でのみ繋がることが許された近未来。役に立たない者は排除され、恋や愛といった感情は非合理で猥雑なものと見なされる世界で、輝かしくも残酷な運命に抗う子供たちーーといった設定は、今も昔もSFの定番ではあるが、その4人のキャラクターがなんとも個性豊かにいきいきと描かれていて、人種も性別も生い立ちも超えた彼らの友情には、心の深いところとを素手でそっと触れられたような、なんとも切なくあたたかな気持ちにさせられる。

『きみを死なせないための物語』より ©吟鳥子(秋田書店)

眺めているだけで脳内に音楽が鳴り響いてでくるような、壮大かつ耽美な宇宙世界の描写も素晴らしい。この圧倒的で儚い虚構の世界を通じて、私たちの生きる現実世界の「愛」や「人生」について語りかけてくる、文学的かつ哲学的なアプローチは、萩尾望都、竹宮恵子、大島弓子…といった70年代の伝説的作家の諸作を彷彿させるものもあり。これぞ少女漫画!と拍手したくなるみずみずしい魅力にあふれている。

まだまだ物語は序章段階だけに、未読の人は今からぜひ!

文 / 井口啓子

©吟鳥子(秋田書店)

原作本

きみを死なせないための物語 1
吟鳥子(著)
中澤泉汰(作画協力)
ミステリーボニータ
秋田書店