Interview

蒼井優「まさか自分が演じることになるとは」──真摯に信念を貫く憧れのヒロインに挑む舞台『アンチゴーヌ』

蒼井優「まさか自分が演じることになるとは」──真摯に信念を貫く憧れのヒロインに挑む舞台『アンチゴーヌ』

フランスの劇作家、ジャン・アヌイの代表作『アンチゴーヌ』は、時代を越え、国境を越え、今も世界各国で上演され続けている名作悲劇だ。今回、タイトルロールのアンチゴーヌを演じるのは、映像に舞台にと幅広いジャンル、様々なキャラクターで活躍中の演技派、蒼井 優。演出を手がけるのは栗山民也、共演にはアンチゴーヌに対峙する王・クレオンに生瀬勝久が扮するほか、梅沢昌代、伊勢佳世、佐藤 誓ら実力派俳優がズラリと顔を揃える。古代ギリシャの国・テーバイを舞台に、人間として生きるために貫きたい正義とは、秩序を重んじ法を守って生きるために必要なこととは……といったことに深く静かに斬り込んでいく濃密な会話劇となる。なんと10年も前にこの戯曲に出会い、折りに触れ読み返してきたという蒼井。思い入れ充分のこの作品、この役に満を持して取り組もうとしている彼女に、意気込みを語ってもらった。

取材・文 / 田中里津子 撮影 / 冨田望

自分の中のヒロインみたいな存在。アンチゴーヌの強さが私は好きなので

『アンチゴーヌ』の戯曲と出会ったのは10年前とのことですが、きっかけは何だったんですか。

蜷川(幸雄)さんの舞台(2007年上演『オセロー』)に出させていただいたときに、戯曲というものに触れる機会があまりない私のために、もっと戯曲の世界に慣れておいたほうがいいということで、演出助手の方が何冊も戯曲を選んでくださったんです。その中の一冊が『アンチゴーヌ』でした。一冊といってもただ資料として印刷した状態のものだったので、今もまだ持っていますけど、本当にボロボロになるくらいに何度も読みました。

たくさんいただいた戯曲の中で、『アンチゴーヌ』のどういうところに魅かれたんでしょうか。

まず、アンチゴーヌが魅力的な女性だったということ。アンチゴーヌって20歳の役柄なんですけど、そのアンチゴーヌから私は勇気をいっぱいもらったんです。例えば自分がクレオンみたいな考えになりそうなとき、つまり社会に迎合していこうとしているんじゃないかと感じたときに、アンチゴーヌから力をもらって思い直したりとかしていました。だから私にとってはずっと自分の中のヒロインみたいな存在だったので、まさか自分自身が演じることになるとは思っていなかったんです。

「この戯曲をやりたい」とは思わなかったんですか?

それが、まったく思っていなかったんです。そうですよね、普通なら自分と同じ年代の登場人物が出てきたら、そう思うものなんでしょうけど。なんででしょうね……舞台で観てみたいとは思っていましたけど、自分の中でアンチゴーヌがもはや実在の人物に近いくらいの感覚になっていたので、そういう発想にならなかったのかもしれません。

この戯曲の中に「ナマで聞きたかったセリフがある」とのことでしたが、具体的にはどのセリフなんですか。

そのセリフについては特に栗山さんにも言っていないんですよ(笑)。でも実は、今回翻訳が変わられて岩切(正一郎)さんの新訳で上演することになったんですが、そうしたらなくなっちゃったというか、まったく同じ言葉ではなくなっていて。

ええ? そうなんですか。

でも、やっぱりそのひと言を王様に向かって突きつけるという、アンチゴーヌの強さが私は好きなので。大切に、そのセリフは言いたいなと思っています。

クレオンに対してアンチゴーヌが強く言うセリフ、なんですね。

はい。私は最初にこの戯曲を読んだとき、そのセリフに「おぉ!」ってなったんですよ。

それが果たしてどのセリフなのかを想像しながら、観てみるのも面白そうです。そして栗山さんの演出を受けるのは『あわれ彼女は娼婦』以来なので、約2年ぶりですが。

『あわれ~』のときに、もう一度栗山さんとご一緒したいなあと思っていたんですよ。そうしたら、ちょうど『あわれ~』の公演が終わる頃に栗山さんから、この『アンチゴーヌ』のお話をいただいたので、ものすごく嬉しかったです。

前回、栗山さんの演出を受けてみて、特に印象に残っていることは?

今までご一緒した演出家の方と大きく違うのは、外から埋めていかれる方だということですね。動きとか立ち位置とか、外枠が全部見えている方なので。それ以外の部分を埋めていく作業は個人で、役者同士でやってくださいと投げてくださるんです。でも、ちゃんとそこは埋まっていくんですよ、決められた立ち位置にいて相手との距離はここだとなっていたら、もうそこ以外は考えられなくなってくる。最初は多少の違和感があったとしても、埋まっていくと、もうそこがベストなんです。

生瀬さんとは『楽屋~流れ去るものはやがてなつかしき~』(2009年)以来ですが、そのときは共演者という形ではなく、演出家と役者という立場でご一緒されていたんですね。

そうなんです。だけど、一度ご一緒した人のことは信頼できるじゃないですか。だから、もうすでに信頼関係はできているので、新たに構築していかなくてもいいので安心です。とはいえ、実際に役者としての生瀬さんは作品とどういう距離感でお仕事される方なのか、知らないので。今、とてもワクワクしています。

2人の直接対決みたいなシーンも多いですしね。

ふふふ。私の中では生瀬さんって、クレオンみたいなこういう役のイメージがなかったので、その姿を見ることもとても楽しみなんです。だけどやっぱりすごい方だから、自分もそれにしっかり対峙できるようにしなければと思っています。

今回の舞台、アンチゴーヌはほとんど舞台に出ずっぱりですよね。

たぶん楽屋に戻る時間は今回、ないと思います(笑)。

しかも座席配置が今回特殊で、ステージが十字架の形になっていて。四方からお客様に見られている状態ですから、一瞬たりとも気が抜けなさそうです。

そうですね。信念を貫くのは、やっぱりすごい覚悟がいることだと思うから。そういう信念を持っているアンチゴーヌを演じるのは、ものすごいエネルギーもいりますしね。今はただ悔いのないよう、一公演一公演を大切に演じたいなと思っています。

今回、新訳になったことで、これまでボロボロになるまで読まれていたものとはどういうところに違いを感じられましたか。

これは新訳だからというわけではないんですが、今まではさらっと読めていたのに、自分が演じるとなると、ひと言ひと言、解読していくような読み方になるので。その際に、以前の戯曲を参考書として使うようになりました。

この場面のときは最初こう思った、と思い返したり確認したりしながら。

そうです。そういう確認作業を稽古前の早い段階からしているんですが、以前は「私たち」となっているけど、新訳では「私」になっていたりするので、そういうところを今チェックしていて。あえてそうしているなら、意味が違ってきたりもしますからね。でも、そういう作業も楽しいんです。翻訳家の方によって違ってくるので。稽古場に、岩切さんも来てくださるそうなので、いろいろ聞いてみたいと思っています。

そういうことができるのも、面白いですよね。

今はインターネットでもいろいろ調べられますから、フランス語ではちょっとわからないので、英文で読んでみたりもして。ま、英語もそんなにわからないんですけど、“I”か“WE”かくらいはわかりますから(笑)。そうやって英語で読んでみたりする面白さを教えてくれたのは、小川絵梨子さん(蒼井が出演していた2015年上演の舞台『スポケーンの左手』の演出家)だったりするんですけど。そういう、いろいろな人との出会いがあるからこそ、今があるという感じも楽しいです。