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2017年多くの支持を集めた小説は…今流行っている“フードもの”が2018年の主役となるのか!?

2017年多くの支持を集めた小説は…今流行っている“フードもの”が2018年の主役となるのか!?

ランキングから振り返る2017年支持された小説は

電子書籍・コミックストア【Reader Store】の2017年度小説ベストセラーランキングが発表された。

Reader Store 年間ベストセラーランキング

【小説1位~20位】
01位『蜜蜂と遠雷』 恩田陸 / 幻冬舎
02位『サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福』
ユヴァル・ノア・ハラリ, 柴田裕之 / 河出書房新社
03位『罪の声』 塩田武士 / 講談社
04位『火花』 又吉直樹 / 文藝文春
05位『君の膵臓をたべたい』 住野よる / 双葉社
06位『アキラとあきら』 池井戸潤 / 徳間書店
07位『陸王』 池井戸潤 / 集英社
08位『幼女戦記 1 Deus lo vult』
カルロ・ゼン, 篠月しのぶ / KADOKAWA / エンターブレイン
09位『小説 君の名は。』 新海誠 / 角川書店
10位『コンビニ人間』 村田沙耶香 / 文藝春秋
11位『ビブリア古書堂の事件手帖7~栞子さんと果てない舞台~』
三上延 / KADOKAWA / アスキー・メディアワークス
12位『夜行』 森見登美彦 / 小学館
13位『日の名残り』 カズオ・イシグロ, 土屋政雄 / 早川書房
14位『幼女戦記 2 Plus Ultra』
カルロ・ゼン, 篠月しのぶ / KADOKAWA / エンターブレイン
15位『関ヶ原(上中下)合本版』 司馬遼太郎 / 新潮社
16位『幼女戦記3 The Finest hour』
カルロ・ゼン, 篠月しのぶ / KADOKAWA / エンターブレイン
17位『果つる底なき』 池井戸潤 / 講談社
18位『去就―隠蔽捜査6―』 今野敏 / 新潮社
19位『村上海賊の娘(一~四) 合本版』 和田竜 / 新潮社
20位『幼女戦記 4 Dabit deus his quoque finem』
カルロ・ゼン, 篠月しのぶ / KADOKAWA / エンターブレイン

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小説ジャンルの1位は恩田陸の『蜜蜂と遠雷』。再現の難しい音楽体験を、見事に言葉でトレースし切った本作は、調律師を主人公にした宮下奈都の『羊と鋼の森』と並んで、音楽小説の系譜に連なる作品だ。加えて、恩田が得意とする群像交錯劇の集大成ともみなせる傑作でもある。このように、言葉では表現し切れない美の世界に、敢えて言葉で挑む作家は今後も増えていくに違いない。
一方、文学賞の受賞作も上位にいる。又吉直樹の『火花』、村田沙耶香の『コンビニ人間』。ノーベル賞受賞のカズオ・イシグロも『日の名残り』を含め3作品がランクインしており、時代とせめぎあいながら人間の本質を捉えようとする純文学の役割はまだ終わってはいないようだ。

蜜蜂と遠雷
恩田陸(著)
幻冬舎単行本

際立つのは、映像化された作品の強さである。映画化された住野よる『君の膵臓をたべたい』、アニメ作品として大ヒットした『君の名は』のノベライズ、ドラマ化された池井戸潤の『陸王』などがその代表だ。メディアミックス手法はすでに驚くものではないが、原作と映像を区別しながら演出や構成を比べて読むのも、読書の楽しみの一つかもしれない。

以上のように、全体として様々なメディアを通じて、話題が沸騰した作品に注目の集まった1年だった。
その中で、まず、注目すべき作品は塩田武士の『罪の声』だ。本書は現実に起こった「グリコ森永事件」を下敷きに、加害者、被害者の親族たちが抱える心の重みを描き出す野心作だ。戦後の未解決事件の真相を明らかにしていくミステリ要素と、父親の事件への関与を疑いながら、自分の心の空白を埋めて行く要素とが交錯し、最終的それらが合流していく構成には舌を巻く。
おそらく『罪の声』の主題は、事件の真相の外にあるのではないか。むしろ、歴史に翻弄された個人の救済への祈りが全篇に響き、物語のトーンを決めている。事件の周囲にいて、人生をねじ曲げられた人々の声を、作者は代弁しようとしているのだ。声なき声の中から、真実の声を描き出そうとする姿勢が、この作品の静かな熱気に結実している。
加えて本書は、記憶が風化しつつある80年代以降の未解決事件に、作家の想像力が延びてきた傾向を示している。他の作家の推理にも大いに期待したい。

罪の声
塩田武士(著)
講談社

「フードもの」がブレイクの兆し。来年のを発刊傾向は

次に、昨今しばしば見られる小説の中の食事について考えたい。

ひとまず、料理や食事によって登場人物が気づきや癒しを得る物語を「フードもの」と呼ぼう。そんな「フードもの」が、今大変に人気だ。例えば、『最後の晩ごはん』シリーズは、「ばんめし屋」という定食屋に成仏できない霊が表われ、その悩みを聞き、食事を提供してあげる。それによって霊は自分の本当の気持ちに気づき、幸福な気持ちで成仏できるという王道の「フードもの」小説である。他にも、ミステリに「フードもの」が組み込まれた『ラストレシピ』など、数え上げると切りがない。今、なぜ、この主題が書かれるのか。
IoT技術の進展によって通信インフラが生活の隅々に組み込まれ、私たちを動かしている。そして、あらゆることがWEB上で体験できる昨今でも、料理を味わうことだけはできない。だからこそ作家は、食べる喜びという掛けがえのない体験を、表現しようとしているのではないか。「フードもの」の人気は、そんな思いをかき立てる。

もう一つ。ユニークな教養書として『サピエンス全史』がある。近年、歴史を人類史という視点から叙述する本が多数翻訳されているが、本書もその系列に属する。ここでは人類史を、認知革命、農業革命、科学革命の三段階に区分し、国家の枠を超えた記述を採用している。最初に提示される、地球上にいた複数のヒト族のうち、なぜホモ・サピエンスだけが生き残れたのかという問いは本質的だ。筆者は、それを「虚構」を信じる能力を持っていたからだ、と喝破する。「虚構」には、神話のみならず、貨幣や法、そして国家も含まれる。この「虚構」のおかげで、親密な小集団から、公共的な大集団の統制や秩序形成が可能になったというのである。
本書は、今までの歴史書が前提とする部分すら「虚構」とみなし、叙述を進める。このダイナミックな書き方のおかげで、個々の事例にとらわれない巨視的な視野が読者に与えられる。歴史入門として、読んでおきたい一冊だ。

サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福
ユヴァル・ノア・ハラリ(著)
柴田裕之(訳)
河出書房新社

最後に。来年度は、埋もれた名作が掘り起こされる傾向が加速するかもしれない。今年度は、吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』がマンガ化され、それが小説ジャンルでランクインしている。さらに、マーティン・スコセッシによって映画化された『沈黙』も、地道にセールスを延ばしている。そして、年度末から公開されている大林宣彦の『花筐』も、原作は太宰治と親交のあった無頼派作家の檀一雄が書いた短編小説である。

混迷を深める現代の中で、洋の東西問わず古き良き作品に、時代が新たな光を当てるかもしれないと思うと、心が躍る。

文 / 田中里尚