Interview

鈴木涼美に訊く。最新作『オンナの値段』にみる「キャバ嬢、AV女優…性界のオンナ達の生き様と不足に向き合う衝動」

鈴木涼美に訊く。最新作『オンナの値段』にみる「キャバ嬢、AV女優…性界のオンナ達の生き様と不足に向き合う衝動」

元日経新聞記者にして元AV女優であり、慶應義塾大学・東大大学院卒という異色の肩書きをもつ気鋭の文筆家・鈴木涼美。その最新刊『オンナの値段』は、女子高生時代から現在まで、彼女がこれまで実際に出会った女たちの懐事情(いかに稼ぎ、いかに使うか)を紹介・分析したものだ。
登場する女性の大半は、キャバ嬢、ソープ嬢、AV女優など、いわゆる「オンナを売る」夜職の女たちで、そのエピソードは「ホストクラブで一晩1600万使った」だの「まったくお金に困っていないのに24時間体制で風俗を掛け持ち勤務」だの、世の常識を大きく逸脱したアンビリーバルなものばかり。
とはいえ、そこに浮かび上がる彼女たちの孤独や飢餓感は、決して「特別なもの」ではなく、程度の差こそあれ、実は誰しも身に憶えがあるもので…。その迷走には、オンナという性の生きづらさを痛感すると同時に、不思議なカタルシスを感じずにいられない!
彼女たちをそこまで駆り立てるものは何なのか? 『オンナの値段』というタイトルの意味するものとは? 著者の鈴木涼美に話を訊いた。

取材・文 / 井口啓子 撮影 / 荻原大志

この本はお金の「正解」の不在さを現すために、あえて「不正解」ばかり集めた本

本書はもともと講談社の「現代ビジネス」というWEB媒体で連載されていたものなんですよね。

そうなんです。なので男の人向けに女の子の変な生態を紹介するルポのような切り口も意識はしていましたが、テーマとしては「女性と商品価値」という自分がずっと書いてきたテーマの流れにあるもので。なかでも今回は「お金」という部分にスポットを当ててみようと。

『オンナの値段』というタイトルも挑発的ですよね。「女性と商品価値」と言われてピンと来ない人も、導入部のブルセラのエピソードを読むと、女性はこんなふうに社会において値踏みされ、売買されているのだとリアルにハッとさせられます。

ブルセラはある意味、「女性と商品価値」の縮図ですよね。私が大学一年生のときに渋谷のいちばん大きいブルセラショップが閉店したので、私は最後のブルセラ世代なんですよ。私が中学時代の頃に宮台真司先生とかがブルセラ論争を始めたり、『朝まで生テレビ』で女子高生の特集が組まれたり、女子高生がブランドとして流通し始めた時代で。放課後に渋谷に行くとキャッチがいっぱい立っていたので、私自身もごく自然にその渦中に入っていきました。

100円ショップで買ったパンツが1万円に化けるのを実際に体験しちゃうと、やっぱりお金って何? って、価値観が一変しちゃいそうですね。

そうそう、パンツ自体は変わっていないのに何で? その差額の9900円が私の価値であり、値段なの?って。それはある意味では真実であり、誤解でもあったんですが…。かくして私はマルクスではなく、自分の履いたパンツの付加価値によって、資本主義についての学びを得た(笑)。そこまで理論的ではないにせよ、当時そこにいた女の子たちは「自分がお金になるんだ」って、「女性と商品価値」みたいなことを肌で感じていた気はしますね。

そうやって値付けされることに鈴木さん自身、違和感はありませんでした?

私自身は、不思議だなーって探究心をくすぐられるのと、単純においしい!って気持ちと両方で、人それぞれ違っていいと思う。ただ、人間って自分の価値を実感していないと生きていけなくて、特に女性の場合、オンナとしての価値にお金が支払われることは、すごくわかりやすく承認欲求を満たしてくれるものなので、そういう意味でハマっていく人も少なくない。お金は自分の価値を明確な数字で示してくれるもので、決してお金そのものが欲しいわけではないという…。

自分の商品価値を目の当たりにする機会が多いぶん、女性は男性よりクールでしたたかになるような気もします。

でも私たちの世代は、女が付加価値になることを肌で感じながらも、一方で、男性と同じように労働してお金を稼ぐことを推奨してこられた世代でもあるので、余計にややこしくて。女性でも男性と同じように東大に入る権利や商社に総合職で入る権利を持ってて、そこで得られる月収30万とパンツを売って稼いだ30万は、お札にしてみれば同じお金なんだけど、でも社会的にはパンツを売って稼いだ30万の方が下に見られてしまうのが事実で。
お金の使い方にしても、男の人はがんばって稼いで、家族を養って、家を建てて…みたいな「正解」がある程度、提示されるんですけど、女の場合はそれがなくて。高い靴を買ったり、美容に注ぎ込んでも批判されるし、かといって、男性と同じように家族を養ってもヒモと言われ、家を買っても後ろ指を指され(笑)。

どっちに転んでも責められるという…。

男と同じように稼げるようになっても、女性のお金ってすごく所在なくて。じゃあ女性にとって、正しいお金の稼ぎ方や使い方って何? という憤りはありましたね。

お金って誰にとっても同価値でフェアなもののはずなのに、何故かパンツを売って稼いだ30万が卑下されたり、その価値は実は曖昧でアンフェアなものでもあります。

そう、同じ給料でもどこでどう働いたかで価値が変わったり、同じパンツでもどこで買うかで値段が変わったり。お金の価値って実は曖昧で、正解なんかないはずなのに、みんなあたかもあるかのように「え、もったいない!」とか「そんな使い方したらバチが当たる!」とか、他人のお金についてジャッジをしたがる。だから、この本はお金についての「正解」の不在さを現すために、あえて「不正解」ばかり集めた本でもあるんです。これが間違ってるんっていうんだったら正解を示してよ!って。

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