佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 25

Column

62年のキャリアを有終の美で飾ったデューク・エイセスからリトル・グリー・モンスターへと継承された、日本のヴォーカル・グループの歴史と夢

62年のキャリアを有終の美で飾ったデューク・エイセスからリトル・グリー・モンスターへと継承された、日本のヴォーカル・グループの歴史と夢

日本の音楽史では最長となる活動記録を更新してきたヴォーカル・グループのデューク・エイセスが、2017年12月21日に東京都港区のメルパルクホール東京で「さよならコンサート ~ありがとう、62年に感謝~」を開催し、長きにわたって続けてきた活動に幕を下ろした。

彼らは1955年に結成されたジャズのヴォーカル・グループで、最後のメンバーはリーダーでバリトンの谷道夫(83)、バスの槇野義孝(81)、セカンドテナーの岩田元(48)、トップテナーの大須賀ひでき(61)の4人だった。

作年の12月31日で活動を終了すると5月に発表していた谷は、コンサートを開演する前にメディア向けの取材に応じてこう語っていた。

62年やってこられたのは皆様のおかげです。感謝の気持ちでいっぱいです。
『年を取ったね』と言われるのはいいけど『落ちたね』は自分で許せない。
とにかくカルテットの魅力を伝えていきたいという思いでやってきて、4人でやれることはやり切った。
若い後継者に負担をかけたくなかったし、未練は残っていない。

半世紀を超える活動の歴史を振り返る形で行われたコンサートは、1700曲以上を誇るレパートリーの中から、アメリカの黒人霊歌とジャズで第1部が始まり、デュークの原点ともいえる洗練されたポップスが披露された。そしてエルヴィス・プレスリーの「ラブ・ミー・テンダー」やプラターズの「オンリー・ユー」といったスタンダード・ソングをメドレーでうたい、最後をフランク・シナトラの「マイ・ウェイ」で締めくくった。

第2部はテレビ漫画「鉄人28号」の主題歌や、おなじみのコマーシャルソングを歌唱する場面を交えながら、オリジナルのヒット曲によって成長をとげてきた歴史がわかる構成だった。

日本を占領していたアメリカ軍によって持ち込まれたポピュラー音楽に出会い、それらを学んで吸収した時代を経て、デューク・エイセスは日本語のオリジナル曲に挑んできた。 そこから永六輔作詞・中村八大作曲による「おさななじみ」「生きるものの歌」、永六輔作詞・いづみたく作曲の「女ひとり」「いい湯だな」といったヒット曲が生まれた。

アメリカの黒人霊歌を歌って登場したデューク・エイセスは、日本の名曲を取り上げることで、それらをスタンダードにしていったグループでもあった。
彼らが1970年にテレビ番組のテーマ曲としてカヴァーした「遠くへ行きたい」は、今なおジャンルを超えて多くの歌手に歌い継がれている。

それから45年の月日が流れた2015年の4月19日、ぼくは渋谷のライブハウスで観たリトル・グリー・モンスターのライブで、「特別な何かに出会った」という気持ちになった。

もしかすると日本で初めて、世界に通用する女性ヴォーカル・グループが現れたかもしれない――、そんな可能性を見出したのだ。

そして8月にサンフランシスコで行われたJ-POPサミットを見て、漠然としていた可能性は具体的な夢に変わった。

〈参照コラム〉
サンフランシスコで確信した無名の少女たちの限りない可能性~Little Glee Monster 

サンフランシスコで確信した無名の少女たちの限りない可能性~Little Glee Monster

サンフランシスコで確信した無名の少女たちの限りない可能性~Little Glee Monster

2017.01.18

同じ年の11月に開かれた「21世紀の『上を向いて歩こう』」は、作曲家の中村八大をリスペクトする歌手やミュージシャンたちが、「上を向いて歩こう」に代表される彼の作品を歌い継ぐコンサートだった。

そこで歌われた「遠くへ行きたい」を聴いて、リトル・グリー・モンスターもまたデューク・エイセスのように、名曲をカヴァーすることで新たな生命を歌に与えていくグループだと確信した。

そんなリトル・グリー・モンスターが大先輩のデューク・エイセスと共演したのは、昨年の1月20日と22日に神奈川芸術劇場で行われた「歌い、継ぐ~永六輔さん追悼コンサート~」である。

これは「21世紀の『上を向いて歩こう』」に続いて、中村八大の長男である中村力丸氏がプロデュースした。
そのオープニングを飾ったのはデューク・エイセスとリトル・グリー・モンスターによる、「どこかで」という歌だった。

「どこかで」
永六輔:作詞 中村八大:作・編曲

風が吹いている どこかで
雲がわいている どこかで
雨が降っている どこかで
雪が舞っている どこかで

花が咲いている どこかで
鳥が鳴いている どこかで
魚が跳ねている どこかで
森がゆれている どこかで

どこかであなたが生きている
どこかであなたが生きている
どこかであなたが愛してる
どこかでわたしを愛してる

だれかが泣いている どこかで(どこかで)
だれかがおこってる どこかで(どこかで)
だれかが笑ってる どこかで(どこかで)
だれかが愛してる どこかで

どこかであなたが生きている
どこかであなたが生きている
どこかであなたが愛してる
どこかでわたしを愛してる(愛してる)

 

生きている
愛してる

歌が始まった瞬間に、ヴォーカル・グループのエッセンスが大先輩から後輩に受け渡されていくのではないか、そんな思いが頭をよぎった。

コンサート全体の背骨になっていた「歌い、継ぐ」という明確な意志と、時代というくくりを超えて生きていく歌を、作者たちの思いとともに伝えていきたいという姿勢が感じられた。

今になってみると日本のヴォーカル・グループの歴史と夢が、デューク・エイセスからリトル・グリー・モンスターへと継承されたのかもしれない。

昨年の秋、リトル・グリー・モンスターは20世紀のイギリスに誕生した名曲「ジュピター」をカヴァーして、それまでのファン層を大きく広げることになった。

彼女たちがデビュー時から語っていた3つの夢は、「武道館でコンサートをすること、紅白歌合戦に出演すること、そして世界で活躍すること」だった。

その2つの夢を2017年にかなえたリトル・グリー・モンスターが、最難関の世界にどう歩み出していくのか、なにをどう歌い継いでいくのかから目を離せない一年になりそうだ。

Little Glee Monsterの楽曲はこちら
デューク・エイセスの楽曲はこちら

著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長に就任。 著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、

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