ハンサムクリエイター・中道慶謙が『Last Standard』に仕掛けた野望  vol. 3

Interview

『Last Standard』明かされるサイコダイブシステムの全容

『Last Standard』明かされるサイコダイブシステムの全容

「将来的に、国家の概念はなくなると思います」

これは、I From Japan代表、中道慶謙氏の言葉である。中道氏の肩書はCEO兼プログラマー。UNTIESからリリース予定の『Last Standard』を制作する、若きゲームクリエイターだ。

なぜゲームクリエイターのインタビューで国家の話題が出てくるのか? 不思議に思う方も多いだろう。だがこれこそ、我々が中道氏に魅了された一言であり、今回のインタビューでもっとも多くの人に読んでもらいたい“野望”の一端なのだ。インタビューのラストとなる今回は、中道氏の思い描く世界の未来と、その中でサイコダイブシステムが果たす役割について話を聞いていく。

インタビュー取材・文 / 高城暁・大工廻朝薫(SPB15)


中道氏とI From Japanがサイコダイブシステムに秘めた野望

前回の記事では、『Last Standard』の核としてのサイコダイブシステムとその仕組み、そしてサイコダイブシステム構想の存在について話を聞くことができた。ここからはいよいよ、『Last Standard』の先にあるサイコダイブシステムの可能性と、中道氏の思い描くインターネットとVRの先に待つ未来予想図に迫る。

「サイコダイブシステムをVR空間における個人認証システムとして活用する」というお話、大変興味深いです。最初からこういった構想があったうえで、サイコダイブシステムを受け入れてもらうための第一歩として『Last Standard』というゲームを作った、という認識でよろしいでしょうか?

中道 どちらかと言えばそうですね。脳を研究し始めたきっかけは映画『マトリックス』(※)とかだったので。形にするうえで、ゲームが一番具現化しやすかったんですよ。初めて見るサービスに自分の個人情報を預けるのってなんとなく抵抗があると思うんですが、SNSのデータを基に自分だけの武器が生み出されて、人とは違う戦いかたができるゲームとなれば、自分のデータではどうなるのか興味が湧いてくる。ハードルがかなり下がると思うんです。 

※:1999年に公開されたアメリカ映画。仮想現実空間を舞台に、人間とプログラムとの戦いが描かれる。全3部作となっており、続編に『マトリックス リローデッド』、『マトリックス レボリューション』が存在する。

それはありますね。サイコダイブシステムが未来の社会システムに組み込まれていくとすれば、ある意味では『Last Standard』が世界を変えるきっかけになるのかもしれませんね。

中道 I From Japanという社名を決めたのは、実はそこにつながっているんです。僕の考えでは、将来的には生まれた土地で国籍を決めるのではなく、企業に所属することが国籍になると思っているんですよ。 

SF作品に出てくる企業国家(※)のような枠組みですね。

※:巨大化した企業が経済活動の枠を超え、福祉や教育といった行政サービスを始めとした国家機能を代行するというもの。フィクション作品では、経済的な利益を優先する国家体制として描かれることが多い。企業による統治として歴史上有名なものに、イギリス東インド会社によるインドの実効支配がある。

中道 将来的に、今あるような土地をベースとした国家の概念はなくなると思います。宗教や思想、所属する企業でその人が決まる。今は国からもらっている年金なんかも、宗教や企業によって賄われる。「~人」という括りもなくなります。 

日本人やアメリカ人という、現在の国家単位での括り自体がなくなるということですね。

中道 いま、ビットコインを始めとする仮想通貨の流れが来ていますよね。国による後ろ盾がないなんて言われたりもしますが、そもそもその国のお金に価値がない国なんていっぱいあります。その国の人たちが自分の生活を守ることを考えると、もう信用のない貨幣は必要ない。となれば、国も必要ないんです。

経済的には、すでに国家の枠組みが不要な段階に差し掛かりつつあると。少し脱線するのですが、その場合は生まれてきた子どもの国籍はどうなるのでしょうか?

中道 たとえば親がI From Japanという企業の所属なら、教育も含めてI From Japan傘下のサービスを受けて育ちます。企業が持つ大学や高校ですと、そこに特化した技術を学ぶことになるかもしれません。そのうえで働ける年齢になったときに、改めて自分の所属する企業を選択する、という形になると思います。

なるほど。

中道 それで、もし将来的に僕らの企業に所属する人こそが日本人ということになるのであれば、社名にはJapanを付けておきたい。“I From Japan”という社名には、そのような理由があります。

 

VR技術の発展によってサイバースペースが可視化され、VR空間上に新たなコミュニティとサービスが形成されていくと、その過程で必ず個人を認証するシステムが必要となる。中道氏はサイコダイブシステムを、言語学を利用した個人認証システムとして活用しようというのだ。

これが機能したとき、VR空間はさまざまな経済活動が繰り広げられる新たなフロンティアとなる。ここには国境や領土といった地理的なしがらみは存在せず、したがって国家という枠組みも存在しない。人々はサービス提供者である企業を選択し、自らの意志で帰属関係を結ぶこととなる。やがて経済活動の主体がこのVR空間へと移行すれば、実質的に人類は国家という枠組みから脱却することとなるだろう。

中道氏の想定している未来社会とは、おそらくはこういうことだ。かつてはSF作品の中で語られてきた世界観だが、近年になってVR技術が目覚ましい発展を遂げたことで、決して夢物語ではなくなっている。

こうした社会において、サイコダイブシステムによる個人の特定が非常に大きな役割を果たすことは想像に難くない。これはサイコダイブシステムが持つ将来の展望というよりも、野望と呼ぶほうがふさわしいだろう。中道氏はサイコダイブシステムに、これほどまでの“野望”を秘めていたのだ。

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