LIVE SHUTTLE  vol. 229

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桑田佳祐「もっとはしゃいでいきますよー」。ソロ活動30周年を迎えてもなおエンターテインメントを極め続ける男の魅せる&聴かせる多幸感満載パフォーマンス

桑田佳祐「もっとはしゃいでいきますよー」。ソロ活動30周年を迎えてもなおエンターテインメントを極め続ける男の魅せる&聴かせる多幸感満載パフォーマンス

1年前、桑田を巡る女性といえば、ある意味カルトな“ヨシ子さん”であった。あれから時は過ぎ、そこに加わった女性は、大衆性の権化たる“みね子”である。これは大きな変化だ。1年前、同じ横浜アリーナで披露された既発曲を含み、さらに驚きの発展を遂げたのが8月にリリースされた『がらくた』で、そのあと、両日300人という、桑田にとって奇跡的な極小キャパの〈Billboard Live Tokyo〉(=ホップ)、さらに夏の〈ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017〉(=ステップ)を経て、大きくジャンプする場所が、今回のツアー〈桑田佳祐 LIVE TOUR 2017「がらくた」〉である。ここでは12月30日の横浜アリーナの模様をレポートする。

取材・文 / 小貫信昭 写真 / 西槇太一

「ウィーッス! 横浜に帰って参りましたーっ!」

1曲目は「しゃアない節」。冒頭、「ようこそみなさん横浜アリーナ」と歌詞を替え、ステージと客席がグッと近づく。2曲目は「男達の挽歌(エレジー)」だ。気づけばこの日、桑田は粋な刺繍入りジャケットに、ダンディな中折れ帽といういでたちで、フォーマルな印象である。歌い終わるとジョー・ジャクソンの『I’m The Man』のジャケットのように、上着の裏地を大きく見せるポーズをキメる。そして、ゆるいレゲエが心地よい「MY LITTLE HOMETOWN」では、スクリーンに終盤、茅ヶ崎の伝統行事“浜降祭”を思わせる映像が。2017年は、映画『茅ヶ崎物語』も公開された。

最初のMC。「ウィーッス」と呼びかけ観客を鼓舞し、「横浜に帰って参りましたーっ!」と挨拶する。

“純”な恋心を美メロに乗せた「愛のプレリュード」では、ハットもジャケットも脱ぎ、Tシャツの身軽な姿へ。さらに似たタイトルの「愛のささくれ〜Nobody loves me」へ。これらの主人公、想いが成就されない“プラトニック状態”であるのは共通する。バンドの演奏は、いきなり絶好調だ。メンバー同士が有機的に響き合い、極上のグルーヴを醸し出す。「口説いてたのに」のところで親指と人差し指で“あとちょっと”の仕草をするなど、歌詞の同期にとどまらず、さらに意味を盛り込む“振り付け”も冴えていた。

「大河の一滴」は、イントロからして物語性が押し寄せる。ライヴでは特に、疾走感溢れるものになっている。男女のセリフ部分は、オリジナル音源より、さらにR指定が深いものへ。

具象と心象がミックスされたような映像が効果的だったのが「簪 / かんざし」である。先月、東京ドームで聴いたときとは、歌い方のニュアンスが変化している部分もあるような。「甘くジャズなど〜」の歌詞の手前で、そんな印象をより高めるアレンジになっていた気が……。個人的にはこの曲の“ピロロォ〜”では、映画『パリのめぐり逢い』のフランシス・レイの音楽を思い出す(直接の関連はないだろうが……)。

混じりけのないポジティブな気分にさせてくれる「百万本の赤い薔薇」で花びらのシャワーを浴び、気高さを胸に秘めたホーンの響きで始まる「あなたの夢を見ています」では、ダンサーたちのコケティッシュな動きでステージが華やぐ。その際、ハンドクラップを誘い、歌の合間に「ありがとう」の言葉を加える桑田であった。

プライバシーの崩壊という逃げ隠れできないテーマの「サイテーのワル」は、火炎が吹き上がる派手な演出だった。桑田のシャウトに、鬼気迫る凄みが宿る。いつもより奥座敷から発せられる別の迫真ボイスとでもいうか、まさにそれを浴びた。

しかし一転。空気も澄みわたり、緑が香る「古の風吹く杜」へ。鎌倉の景色がスクリーンに映る。悠久の時を紐解くかのようなメロディが心地よい。さらに、同じ脈拍で聴けたのが「悲しみよこんにちは」。ウクレレのアクセントがバカラックセンスにも受け取れる。下手から上手へ確かな歩幅で歩く桑田のパフォーマンスが、前を向いていくことの大切さを教えるこの曲にぴったり。また、小品でありながら、実に丁寧に演奏され、心に残ったのが「Dear Boys」だった。

雨のSEから金原千恵子の等圧線を無尽に操るようなバイオリンのソロ。そして桑田が、自らのギターのみで歌い始めたのが「東京」だ。この曲といえば、イントロからバンドのリズムがそそり立つ印象だったから、実に新鮮だ。

さらに「恋人も濡れる街角」から「Yin Yang(イヤン)」へという、この趣向はすでに観ていたが、前に観たときからは大きな変化が。「恋人も濡れる街角」が、月亭可朝のヒット曲「嘆きのボイン」を下敷きにした替え歌風になっていた。でもこれ、艶やかにダンサーたちがフェリーニ的祝祭を醸しつつ踊るなか、「Yin Yang(イヤン)」の、「イヤン」に続く「アップサイドダウン」が“オッ〇イダウン”と聞こえなくもないコーラスへの、つまりは伏線だったのだろう(“ボイン”は巨乳を意味する昭和言語)。

スクリーンに稲川淳二風の桑田が現れ、怪談が始まる。波乗亭米祐の名で落語に挑戦した桑田だが、怪談にも手を伸ばしていたのか! 最後に“ヨシ子さん”らしき人影も。そういや「Yin Yang(イヤン)」のときも、ダンサーの佐藤郁美に「ヨシ子さんだよね?」と訊ねる部分が。もしやこれも伏線か……。

「君への手紙」では、歌詞の一部を「みなさんいつもありがとう 今年もあとわずか」と、そんなふうに変えていた。会場全員に配られていた腕時計型フリフラ“がらくたライト”の光が絨毯となり、さらに会場を一体にした。

2017年。誰もが口ずさめるという、本来、流行歌=ポップスが本分とすべきことを、見事にクリアした稀有な楽曲例である「若い広場」は、「まだまだひよっこ」という、桑田のキメゼリフとともに始まる冒頭、“みね子”じゃなく、薬局店頭マスコットの「イチコぉ〜」と、こっちの名前を呼ぶ。そしてこの日も会場が、共に同じ歌を歌うという行為を通じ、連帯を果たした。また、星雲渦巻くスクリーンの演出も効果的だった「ほととぎす [杜鵑草]」は、広い会場の隅々にまで、細やかに染みわたった。名曲。

バンドによる、ツェッペリンの「Moby Dick」風のインストが始まり、各メンバーのソロが。この曲と兄弟分のようなリフを持つ「過ぎ去りし日々(ゴーイング・ダウン)」へと続く。しかし場内は唖然。ロングの白髪に杖を持ち、“別人格”になった桑田が飛び出してきたからだ。「シェキナベイベェ〜」などと叫んでいたので、この“人物”は日本に本格的なロックを根付かせた、偉大な“あの方”を彷彿させ、そのリスペクトを感じた。

「オアシスと果樹園」からは、理性の割合が減り、音楽に衝動で応えようとする自分が勝っていった。思えばソロ活動30年の節目であり、続く「悲しい気持ち(JUST A MAN IN LOVE)」は感慨深い……いや……、懐かしさが入り込む隙間がないくらい、今聴いても、いつ聴いても、胸キュンかつ腰をウズウズさせるのがこの曲だ。

「波乗りジョニー」では、ステージ後方にずらりと並ぶダンサーたちに目がいく。でも、ちょっと妙だ。普段よりもっこりしてる。正体は、ムキムキの男性陣なのだった。実は夏頃、桑田に取材したとき、「この曲の演出は新たに考えねば」みたいなことを言っていたのを思い出す。あとから女性陣も登場し、これまでどおりの演出も堪能できた。

最後は「ヨシ子さん」。かなりグレードアップしていたので報告したい。その前に……「Yin Yang(イヤン)」のとき、そして怪談のときの、“彼女”にまつわるひとコマも、ここでスクリーンにダイジェストされた。ここまでの伏線が、すべて回収されたのだ。でも今回の“ヨシ子さん”。「それは衣装じゃなく装置です」と言わしめた、あの紅白の小林幸子のようだ。グングンせり上がり、しまいに富士山頂上のご来光のように見える。思わず客席で、私はその方角へ、そっと手を合わせたのである。

アンコールは「スキップ・ビート(SKIPPED BEAT)」「銀河の星屑」「白い恋人達」「祭りのあと」、さらに「明日晴れるかな」と、別腹もすべて満腹メニューである。「2018年がみんなにとって良い年でありますように」というメッセージを送りつつ、その言葉に続けて、「もっとはしゃいでいきますよー」と、あえて“はしゃいで”という表現も使っていたのも印象深かった。

WOWOW presents桑田佳祐 LIVE TOUR 2017「がらくた」supported by JTB 2017.12.30@横浜アリーナ SET LIST

M01. しゃアない節
M02. 男達の挽歌(エレジー)
M03. MY LITTLE HOMETOWN

M04. 愛のプレリュード
M05. 愛のささくれ〜Nobody loves me
M06. 大河の一滴
M07. 簪 / かんざし
M08. 百万本の赤い薔薇
M09. あなたの夢を見ています
M10. サイテーのワル
M11. 古の風吹く杜
M12. 悲しみよこんにちは
M13. Dear Boys
M14. 東京
M15. Yin Yang(イヤン)
M16. 君への手紙
M17. 若い広場
M18. ほととぎす [杜鵑草]
M19. 過ぎ去りし日々(ゴーイング・ダウン)
M20. オアシスと果樹園
M21. 悲しい気持ち(JUST A MAN IN LOVE)
M22. 波乗りジョニー
M23. ヨシ子さん
EN01. スキップ・ビート(SKIPPED BEAT)
EN02. 銀河の星屑
EN03. 白い恋人達
EN04. 祭りのあと
EN05. 明日晴れるかな

桑田佳祐 LIVE TOUR 2017「がらくた」、WOWOWプライムにてオンエア!

OA日:2018年1月3日(水)20:00〜(WOWOWプライムにて)

桑田佳祐(くわた・けいすけ)

1956年2月26日生まれ、神奈川県茅ヶ崎市出身。1978年にサザンオールスターズとしてシングル「勝手にシンドバッド」でデビュー。1987年リリースの「悲しい気持ち(JUST A MAN IN LOVE)」でソロ活動を開始。2017年10月にソロ活動30周年を迎えた。2017年8月23日にはニューアルバム『がらくた』を発表。10月より全国アリーナ&5大ドームツアーを敢行。2018年1月3日にはソロ30周年記念ベストミュージックビデオ集『MVP』をリリース。

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