Interview

玉木宏『悪と仮面のルール』での驚異の役作りとロケを述懐、デビュー20周年を迎えた今の想いを明かす

玉木宏『悪と仮面のルール』での驚異の役作りとロケを述懐、デビュー20周年を迎えた今の想いを明かす

ウォール・ストリート・ジャーナル誌の2013年“ベストミステリー10”に選ばれた芥川賞作家・中村文則原作の小説が映画化された。たったひとりの愛する人のために、殺人に手を染める主人公〈文宏〉の孤独と覚悟と悲壮な想いを体現したのは玉木宏。入念な準備によって、監督からも100%の信頼を寄せられていたという彼の驚きの役作りから作品の解釈、そして今年、俳優デビュー20周年を迎え、役者として今思うことなどを聞いた。

取材・文 / 山崎麻 撮影 / 三橋優美子

鍼を50本ほど打って臨んだ“殺人者”役、瞬時に想像力を働かせて「柔軟に対応」した撮影現場

重厚なテーマの作品ですが、〈文宏〉の役作りについて教えてください。

難しく作ろうと思えば難しくなってしまう作品だと思いますが、原作の後書きに「これはある種、恋愛小説だ」ということが書かれていて、それが助けになりました。脚本を読んだときも、やはり〈香織〉と〈文宏〉の究極の純愛物語だと思ったので、役についても非常にシンプルな組み立て方にしました。〈香織〉がいなければ父親を殺すことも、顔を変えることもなかった。すべては〈香織〉がいたからこそなんです。あとは、部分的に整形する人は世の中にいますけど、他人の顔をそのまま入れ替えるということはないと思うので、そうしたときにどうなるのか想像をして、鍼を打って表情筋をこわばらせることによって、顔が上手く使えない感じを少しでも出せたらいいなと思っていました。

鍼を打ったんですか!?

そうなんです。鍼の効果は2週間くらいなので、最初に50本ほど打ってもらい、撮影期間――だいたい1カ月近くを順撮りではないんですが、撮影の間に自然に元の状態に戻っていくという過程を経ました。

鍼を打っての演技は初めてだったと思うんですが、表情がこわばったうえでのお芝居で気を付けたことは?

実際、顔が突っ張って変な感じはしていましたけど、顔に違和感があるという思い込みだけでも演技が変わる気がしていました。でも、目と心の中と今までのクセは変わらないと思ったので、そこだけは自由に演じました。だから常に表情に緊張感を持っていたというわけではなかったですね。

中村哲平監督は、玉木さんが完璧に準備をしてくるので100%信頼できたとおっしゃっています。鍼の他にはどんな準備をされたのでしょうか。

セリフを覚えて現場に行くくらいで、他に大きな準備はしていないです。ただ、舞台と違って稽古期間があるわけでもなく、現場に行くとすぐ撮影が始まってしまうので、どういう現場なのかはその日にならないとわからない。今回はすべてロケーションで、美術さんがすごく味のある空間にしてくださいましたから、瞬時に想像力を働かせて、この空間ならこう動くとか、このタイミングでこうするのではないかという自分なりに明確なものをその場で用意しました。その準備のことを言ってくださったのかもしれないですね。監督もいつも「〈文宏〉だったらどう動くと思いますか?」と聞いてくださっていました。僕自身、現場に行ってみて、そこで柔軟に対応していくというやり方でしたね。

本作の重要な要素である“邪”ですが、多少なりとも誰しも邪の心を持っているのではないかと思いながら映画を拝見しました。

「中途半端な邪になってしまった」というセリフがありましたけど、〈文宏〉は結局、“邪”にはなりきれなかったんです。善悪の中で彷徨っている姿が、彼の人間らしさだと思うので、“邪”について深くは考えませんでした。むしろ、彼はそういう特殊な家系に生まれてきたので、人は育つ環境によって運命を左右されるという点に想像を膨らませました。

確かに〈文宏〉は生まれながらの悪というわけではないですもんね。

ちょうどこの映画の宣伝が始まった頃、TVのドキュメンタリーで殺人を犯した夫婦の事件を扱っていて、その夫婦の息子さんのインタビューを見たんです。彼には何の罪もないけど、周りからは犯罪者扱いされてしまう。そこが〈文宏〉とちょっと似た人生なのかなと感じました。彼がインタビューに応えた理由について、自分の存在意義を残したいというようなことを言っていたんですが、〈文宏〉も〈文宏〉なりの存在を〈香織〉のために残したかったんだと思います。だから“邪”として悪事を犯すというより、すべては〈香織〉のためにやってしまったというイメージ。人を殺めた罪を抱えて生きていかなければならない葛藤を見せた方が〈文宏〉らしいと思いながら演じていました。

特殊な設定ではあるけれど、ある意味、ものすごい人間くさいという。

そうです。入り口が特殊なだけで、感情的には真っ当だと思います。