山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 25

Column

Mr. Bad Example/ウォーレン・ジヴォン

Mr. Bad Example/ウォーレン・ジヴォン

HEATWAVE山口洋が影響を受けたミュージシャンとR&Rの魔法を解き明かす連載も25回目。
満を持して書き下ろすのは、ウォーレン・ジヴォン。
リンダ・ロンシュタット、イーグルス、ジャクソン・ブラウン、ボブ・ディラン、ニール・ヤング、ブルース・スプリングスティーンら錚々たるミュージシャンから厚い信頼を得ながら大衆に媚びることなく「我が道」を歩き続けたシンガーソングライターの轍に迫る。


我がこころのヒーロー、ウォーレン・ジヴォン。

「孤高」、「知る人ぞ知る」。あるいは「ミュージシャンズ・ミュージシャン」みたいな言葉を安易に使いたくない。有名と無名の差なんて、本人の出世欲とマネージメントの力量の差でしかなかったりするのだから。

確かに彼は多くの人に知られてはいない。けれど、誤解を怖れず、言いたいことを言い、歌いたいことを歌い、酒に溺れ、何度も同じ轍を踏み、時に破綻しながらアウトサイダーとしての生き方を貫き、ある種の人間に決定的な影響を与えた。バックストリートの偉人。

その男、ウォーレン・ジヴォン。1947年1月24日、イリノイ州シカゴ生まれ。2003年9月7日、56歳で肺ガンで亡くなるまで。数奇かつ波乱の人生を生き、その目で見たものをいくつもの歌に遺してくれた。

あるときは暗闇を照らすヘッドライトのように、またあるときはたましいを鼓舞する渇いた風のように、あるいは都会を吹き抜ける遠吠えのように。僕にとってそれらは光そのものだった。

デニス・ホッパー、ハンター・S・トンプソン、ヘンリー・ミラー、ショーン・ペン、チャールズ・ブコウスキー、エトセトラ。勝手に受け継がれるアウトサイダーの系譜。

バックストリートを歩くための処世術、覚悟、取るべき態度。逆風のいなし方、正しく中指を立てる方法、酒に飲まれない肝臓の鍛え方、群れない方法、屈辱と孤独とのつきあい方、偽物の見分け方、笑いという最終兵器の使い方、エトセトラ、エトセトラ。

みなさんがもし彼に興味を持ったなら、入門編としてぜひ手にしてほしい2枚組のアンソロジー『I’LL SLEEP WHEN I’M DEAD』( “眠るのは死んでからにする” タイトルからして秀逸)に彼への賛辞が掲載されている。いくつか紹介する。いわく、

ウォーレンはどんなことだってやる男だよ。まぁ、銀のブーツからウォッカをあおったりとか、そうまでして飲んだりはしないがね。 クリント・イーストウッド
俺は見たことあるよ。彼が銀のブーツからウォッカ飲んでるのを。 リチャード・ギア
誰だい、そのウォーレン・ジヴォンとかって野郎は? ワディ・ワクテル
善良で、邪悪で、醜悪で、シニカルな衣装を着たモラリストだね。ポップ・ミュージックにはまず表れないようなアメリカ人の要素をうまくものにしてると思う。 ブルース・スプリングスティーン。

いくつか映像も。気になったらぜひご自分で検索されたし。「Searchin’ For A Heart」ではアウトサイダーの哀愁が見事に描かれる。

最期の時間が迫ったウォーレン・ジヴォンをブルース・スプリングスティーンがギターと歌で励ます図。その友情に胸が熱くなる。「Warren Zevon & Bruce Springsteen / Disorder In The House」で検索を。

ふぅ。

最後に僕がもっとも励まされた曲を、島本範之さんによる名訳で紹介したい。実にヒドい歌だ。でも、わかってもらえると思う。この歌は特定の誰かを傷つけるために書かれてはいない。

Mr. Bad Example / ウォーレン・ジヴォン (島本範之 訳)

始まりは教会の侍者
聖なる行いというやつを
調べた上で身につけた
「児童基金」という名の金庫から
小銭を残して札だけくすねた
カマーバンドの中に隠して

親父のじゅうたん屋でバイトした
主婦と売り物に手をつけて
家具をトラックでスポーケンまで運び
合成皮革のソファーまで売り払った

7つの大罪もよく知っている
忙しい中でそれらをやっている
凝り性なのが自慢で
暇な時間などありはしない
強欲で短気
人を騙すことも厭わない

俺はミスター・バッド・エギザンプル
恥知らずの卑怯者
愉しくやりたいだけで
誰が傷つこうと知ったことじゃない
俺はミスター・バッド・エギザンプル
見てみなよ
100まで生きて 悪名を轟かせる

当然ながら法科に進み
学位も取った
顧客をカウンセリングし
精神異常を強調した
それからハゲをよそおい
植毛の会社で働いた

(中略)

次にモンテカルロに行き
賭博で遊んだ
植毛で稼いだ金を失い
残った金で女を買った
彼女は俺を部屋に呼び
大袈裟にやってくれた

彼女のパスポートと
カツラを盗み
空港から夜行便に乗った
14時間後 俺はアデレイドで
日陰で一杯やりながら
求人広告を見ていた

街中にエージェンシーを開業し
アポリジニを雇って
オパールを掘らせた
連中の賃金は押さえこみ
大胆な賃下げを断行した
そして労災保険を取り上げ
救済難民にしてやった

俺はミスター・バッド・エギザンプル
恥知らずの卑怯者
愉しくやりたいだけで
誰が傷つこうと知ったことじゃない
俺はミスター・バッド・エギザンプル
見てみなよ
100まで生きて 悪名を轟かせる

(後略)

誰もが自分らしく生きたいと模索する2018年。スプレンディッド・アイソレーション(素晴らしい孤独、意訳、山口洋)を知る人間だけが描ける世界。ぜひ、音楽と共に聞いてもらいたい。ポルカな曲調と相まって、からだじゅうに不思議な力が湧いてくる。音楽の魔力。コンプライアンスなんて微塵もない。

感謝を込めて、今を生きる。


ウォーレン・ジヴォン(本名:Warren William Zevon):1947年1月24日、シカゴ生まれ。父親はロシア系ユダヤ人の移民で幼少期から波乱の人生を歩む。中学時代はクラシックの神童として知られ、その後、ボブ・ディランの影響でフォーク〜ロックへ傾倒。1969年に1stアルバム『Wanted Dead or Alive』を発表。その中の一曲「She Quit Me」が、映画『真夜中のカウボーイ』のサウンドトラックに収録されたが、アルバムが脚光を浴びることはなかった。70年代初期にはピアニストとして、またエヴァリー・ブラザーズのディレクターとして活動。1976年、リンダ・ロンシュタットが楽曲を取り上げたことで注目を集め、親友ジャクソン・ブラウンのプロデュースによる『さすらい(Warren Zevon)』で再デビュー(『ローリングストーン』誌の5つ星、『タイム』誌の“70年代のベスト10作品”のひとつに選ばれた)。1978年、プラチナレコードとなる『エキサイタブル・ボーイ(Excitable Boy)』をリリース。続いてブルース・スプリングスティーンとの共作「Jeannie Needs a Shooter」を含む『ダンシングスクールの悲劇(Bad Luck Streak In Dancing School)』(1980年発表)、『炎のL.A.(Stand in the Fire)』(1981年発表ライブ盤)、『外交使節(The Envoy)』(1982年発表)、『A Quiet Normal Life』(1986年発表ベスト盤)等のアルバムを発表。イーグルス、ビーチ・ボーイズ、ニール・ヤング、ボブ・ディラン、ジェリー・ガルシア、チック・コリアら多くのミュージシャンの信頼を集め、彼らとの交流も厚かった。1987年にはR.E.M.のメンバーやボブ・ディランらが参加したアルバム『センチメンタル・ハイジーン(Sentimental Hygiene)』を、1989年には『トランスバース・シティ(Transverse City)』を発表。90年以降は『ミスター・バッド・エグザンプル(Mr.Bad Example)』(1991年発表)、『Learning to Flinch』(1993年発表ライブ盤)、『Mutineer』(1995年発表)、『ライフル・キル・ヤ(Life’ll Kill Ya)』(2000年発表)、『マイ・ライデスヒア(My Ride’s Here)』(2001年発表)をリリース。2002年、末期の癌であることを公表。残された時間の中で曲を書き、歌を歌い、楽器を奏で、アルバム『The Wind』を完成させた。2003年逝去。

『さすらい』

WPCR-17734 ¥1300(税別)
ジャクソン・ブラウンがプロデュース、デヴィッド・リンドレーやワディ・ワクテル、ネッド・ドヒニーらが参加した1976年の再デビュー盤。SOUND OF WEST COAST 1300 Collection(SHM-CD)として2017年6月に再発。「I’ll Sleep When I’m Dead」収録。11曲入り

『Excitable Boy』

1978年発表。プラチナディスクも獲得。

5CD ORIGINAL ALBUM SERIES BOX SET

【収録アルバム】
1 『Bad Luck Streak In Dancing School』[80年 全米20位]
2 『Excitable Boy』[78年 全米8位(ゴールド)]
3 『Stand In The Fire』[81年 全米80位]
4 『The Envoy』[82年 全米93位]
5 『Warren Zevon』[79年 全米189位]

著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年、福岡県生まれ。1979年に結成したHEATWAVEのフロントマン。1990年にアルバム『柱』でメジャーデビュー。1995年発表のアルバム『1995』には、阪神・淡路大震災後に作られた「満月の夕」が収録され、多くのミュージシャン、幅広い世代に歌い継がれている。アイルランドの重鎮、ドーナル・ラニー、元モット・ザ・フープルのモーガン・フィッシャーら海外のミュージシャンとの親交も厚い。2003年より渡辺圭一(bass)、細海魚(keyboards)、池畑潤二 (drums)と新生HEATWAVEの活動を開始。仲井戸“CHABO”麗市、矢井田瞳らと東日本大震災後に立ち上げた福島県相馬市を応援するプロジェクト“MY LIFE IS MY MESSAGE”の活動も続けている。昨年5月には14作目にあたるアルバム『CARPE DIEM』をリリース。12月26日にはHEATWAVEの全楽曲から23曲を厳選した初の2枚組セルフカヴァー・アルバム『Your Songs』発売したばかり。

オフィシャルサイト

HEATWAVEセルフカヴァーアルバム『Your Songs』リリース記念 山口洋トークショー&サイン会

2018年1月17日(水)HMV&BOOKS SHIBUYA

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