Interview

mol-74 京都発・気鋭のバンドはポップと独自性をいかに両立させたのか!?

mol-74 京都発・気鋭のバンドはポップと独自性をいかに両立させたのか!?

独自の世界観をリリシズム溢れるサウンドで表現して、敏感な音楽ファンからはすでに注目を集めているバンドだ。近作ではポップな表現にも挑んでリスナーの幅を広げていたが、サポートを務めていたベーシストを正式メンバーに迎えた今回の新作では、自らの個性をあらためて意識しながら、さらに奥行きのあるポップな表現に挑んだ意欲作を完成させた。
ここでは、バンドの中心、武市和希に今回の制作を振り返ってもらいながら、その作業を通じてたどり着いたバンドの現在とその先に開けた展望について語ってもらった。

取材・文 / 兼田達矢 撮影 / 鈴木圭

本当に自分たちがしたい音楽はどういうものなのかということを突き詰めたのが今回の作品ですね。

今回のアルバムを作り始めるときには、どんなことを意識していましたか。

僕らが初めて全国流通の作品を出したのがちょうど3年前になるんですが、『越冬のマーチ』という作品で、それは自分たちがしたいことをそのままやったアルバムなんです。僕は元々、高校生のときに“ザ・邦楽ロック”と言いますか、アジアン・カンフー・ジェネレーションやエルレガーデン、バンプ・オブ・チキンみたいなバンドにすごく憧れてバンドを始めたんですけど、そのうちに北欧の音楽にすごく影響を受け始めて、その『越冬のマーチ』というのはそういう影響を受けて自分たちがやりたいこと、それに当時のシーンにはあまりないだろうと思えるものがやれたというか…。もちろん、未熟なところはいっぱいあるんですけど、でも自分たちをアピールする、すごく尖ったものというか、「これが自分たちだ!」というものをすごく表現してたんです。

すごく納得度の高い仕上がりになったわけですね。

そうなんです。それが、このアルバムの前々作になるんですけど『kanki』という作品、それに前作の『colors』という作品からmol-74をいかにポップにできるかということに挑戦し始めたんですね。それで、その次の作品、つまり今回出す作品を1月に出そうという話になったので、そこでどういう内容にしようか考えたときに、ポップにするということを意識することでどんどん開けていった感覚はあったんですけど、自分たちがいちばん大事にすべきものは果たしてそこなんだろうか?という話になったんです。ポップにするということ、もっと言えば大衆に向けて開いていくということは、音楽を仕事にするというかプロのミュージシャンになるというのはそういうことだとは思うんですけど、でもそこに向けて進んでいくことをどんどん加速させていくのはちょっと怖いなという感覚もあって、だからもう一度mol-74とはどういうバンドなのかということを整理して、本当に自分たちがしたい音楽はどういうものなのかということを突き詰めたのが今回の作品ですね。

ポップな方向に進むことで、自分たちのいちばんコアな部分が損なわれていく感覚があったんでしょうか。

というか…、みんなで「次どうしようか?」という話をしてたときに、ギターの井上(雄斗)が「未来がある前提で作るのは良くないんじゃないか」と言ったんです。「次の作品でこのバンドがダメになったとしても絶対に後悔のないものを作らないといけないんじゃないか」「次の作品でもさらに大衆に開いていって、それで結果が出なかったときの虚しさのほうが怖いね」という話になっていって。それに、昔はもっともっと攻めてたというイメージがあるんですよ。誰もやってないことをやろうっていう。世間知らずだったけど、“自分ら、かっこいいだろ”っていう、そのときの攻めてる感じというか、そういうメンタリティが必要なんじゃないのかということを確認して、それで制作に入りました。

今回は初めてに近いんですけど、6曲中5曲がセッションで出来ました。

今回からベースの髙橋涼馬さんが正式メンバーとなって4人編成になったのはわりやすい変化ですが、バンドの編成や人数というのはmol-74にとってどの程度重要なことですか。

僕にとって、4人組であるということはすごく重要なことですね。それは、やっぱり自分が好きなバンド、影響を受けたバンドが4人組だったから、バンドといえば4人組というイメージが僕のなかに強くあって、実際mol-74は最初4人組だったんです。でも、一人抜けて、そこからずっと3人でやってて、その時間が長くなり過ぎたのか、“もう3人でもいいかな”という気持ちになってたんですけど、でも髙橋くんは僕のなかの元々のバンドのイメージにもぴったりで…。それこそアーティスト写真とかでは重要ですよね。

視覚的なイメージの部分ですね。

4人のほうがシルエット的にもしっくりくるなとか、そういうことはすごく考えます。僕ら3人はあまり身長も違わないんですけど、そこに一人ちょっと身長の高い人が入るとそれだけで見栄えというか佇まいみたいなものも変わってきたりするし。演奏面以前に、そういうところでの影響がまず大きいですよね。それに音楽の話で言うと、やっぱりサポートだとちょっと踏み込めないところがあったりするんだなということは、特に曲作りの場面で感じました。彼が正式メンバーになって良かったなということを。彼は、サポートをする前からmol-74のことを好きでいてくれたみたいで、だから「この曲では、僕はこういうアプローチができるよ」ということをいろいろ言ってくれて、すごく刺激を受けたし、自分が足りないものを補ってくれるなということを感じたんです。3人で長くやってきたから、ドラムの坂東(志洋)にしてもギターの井上にしても、正直言って、自分に無いものを補ってくれてる感覚はもう麻痺してるところがあるんですけど(笑)、髙橋くんが自分に足りないものを補ってくれたなというのが、音楽の中身に関するところではそこが今回大きく変化したところかもしれないですね。

mol-74の曲作りは、基本的にはどんなふうに進むんですか。

いつもは、僕が家でアコースティックギターか鍵盤を弾いて曲を作るんです。その曲をメンバーに聴かせて、彼らが感じたイメージと自分のなかのイメージとが共通していればそのまま仕上げていくし、共通のイメージを持てないものはボツにするっていうことだったんです。ただ、今回は初めてに近いんですけど、6曲中5曲がセッションで出来ました。唯一4曲目だけが、去年2月に僕がスタジオにこもって鍵盤を弾いてたときに浮かんだフレーズが“これ、めっちゃいいじゃん!”と思って、歌のメロディもできていったから、キープしてあった曲で、ある小説を読んでその世界観にマッチすると思ったんで、そこから歌詞をつけました。

それ以外の曲は、最初から最後までセッションで作り上げたということですか。

まず前回のツアーのリハーサルでスタジオに入ってたときに、昼休憩になって、でも僕と髙橋くんはそのままなんとなく楽器を弾いてるなかで出来てきて、そこに他の二人も戻ってきて仕上げたんですね。それが5曲目の「◁◁ (瞼)」という曲で、いちばん最初だったんですけど、そこから全部の流れを決めてみようと思ったんです。その「◁◁ (瞼)」という曲が夜から朝にかけての時間のまどろみみたいな感じがあったんですけど、その頃には『越冬のマーチ』のメンタリティに戻そうという話も出てて、『越冬のマーチ』は冬からの春にかけての流れがあるんで、それと同じように夜から朝への流れを表すように構成を組んでいこうという話になっていきました。しかも、タイトルは全部記号にしたら面白いんじゃないかというアイデアもあったんで、それで記号に合う曲名をつけていって、それを全部並べてみて、流れを考えて、その流れに合わせて曲を作っていきました。

あのBPMの曲「▷ (Saisei)」にボウイングを合わせるという、そういう発想は“けっこう攻めたな”って自分たちでも思ってるんです。

4人になったタイミングで、セッションで作った曲が中心になったのは偶然だったんでしょうか。

それは、正直、狙ったわけではなくて、でもどうしてそうなったかは忘れちゃいましたけど…。とりあえず、僕らは「作曲:武市和希」じゃないんですよ。「作曲:mol-74」にしてるので、そこの意識ははっきり持っててほしいという話は常々してるんです。僕が持ってきたものに対して、僕が「こうしてほしい」と言った通りにやって出来上がり。それで「作曲:mol-74」というのは違うだろって。僕が持ってきたものに対して、僕ができるようなアイデアだったら最初から僕がやればいいわけで、そうじゃなくて僕が思いつかないギターを弾いてくれるからmol-74のギターなんだし、僕が思いつかないドラムを叩いてくれるからmol-74のドラムなんですよね。だから、今回も曲の流れを決めて、そこから曲作りをやる自分でやるよりも、バンド全体で流れを決めた以上、みんなでやるほうがいいんじゃないのか、みたいな。そんな感じだったと思います。逆に、いままでセッションで曲ができたことはなかったので、むしろ新鮮ではありましたね。

これまでにもセッションで作ることも考えたことがあったけど、うまくいかなかったということですか。

そうですね。うまくいったことがなかったですね。だから、いま言ってもらって気づきましたけど、髙橋くんが入ってくれて、4人になってセッションがやれるようになったということはやっぱりデカいことだったかもしれないですね。

ゼロからイチにする部分を、武市さん一人ではなくてメンバーとやることで生まれた曲は、これまでの曲とどこか違う感触はありますか。

それは、正直そんなにないですね。ただ、セッションで作ってなかったら、例えば「▷ (Saisei)」のベースから始まる、あのベースリフみたいなものは絶対なかっただろうし、ドラムはスネアの上にスプラッシュシンバルを置いて叩いてたりするんですけど、そういうそれぞれのアプローチの部分でずいぶん違うところはあるんだろうと思います。それこそ、あのBPMの曲にボウイングを合わせるという、そういう発想は“けっこう攻めたな”って自分たちでも思ってるんです。この曲を作ってから「andropやTHE NOVEMBERSの方がやってるらしい」とか聞くんですけど、それにしても「ボウイングの曲がリード曲で、しかもこのBPMはないだろ」って。だから、楽しく曲を作ろうっていう感じはずっとありましたよね。リード曲を作るにしても、自分たちがどういうバンドかということをちゃんとベースに置いた上でポップさということを追求した、みたいな感じですね。

歌詞についても聞かせてください。今回の6曲の歌詞は、聴き手に情景を浮かべてもらうための最小限の言葉数ということをどんどん突き詰めていって、だからほとんどの部分は繰り返しになって、そのなかでほんのひと言だけ1コーラス目と2コーラス目とで違っているということの効果がより際立つようになっていると感じました。

僕が、そういうのが好きなんですよね。どういう情景にしようか、みたいなことは一応考えるんですけど、でも歌詞を書くことについてはあまり悩まない人で、スッと出てきたものをそのまま書いてる感じなんですよ。

ある種のパズル感みたいな感覚はあるんですか。

あります。かなりそれに近いと思います。そうやって書いたものがちゃんと曲にマッチして、しかもちゃんと情景を想像してもらえるかどうかというところが、mol-74として大事だったりしますね。

サビが同じ歌詞という楽曲は世の中にたくさんありますが、これほど歌詞のほとんどがよく似た内容で繰り返し歌われると、言葉自体が楽器のリフのような効果を生みますよね。

それは、けっこう考えます。それは、口ずさんでもらいやすいかどうかということを考えるということなんですけど、例えば「◁◁ (瞼)」なんかでも♪寝顔も笑顔も/優しい泣き顔も♪というフレーズはそれこそ口ずさみやすいかどうかということをすごく考えたし、「▷ (Saisei)」も元々は違う歌詞だったんですけど、スタッフから「覚えにくいんじゃないかな」と指摘されて、すごく考えたんですよ。それで♪夜明けの魔法♪という言葉が出てきたときに、“あっ、フックになるな”と思って。そういう“1回しか聴いてないけど、パッと出てくるな”っていうフレーズというのをすごく意識しますね。最初の頃は、情景を思い浮かべられるかということとそれをパズル的に表現するみたいなことだけを大事にしてたんですけど、でも言葉にフックがあって覚えてもらいやすいということはすごく大事なんだなというのは前々作くらいで気づいたことですね。

自分たちのやりたいこととポップさというものがうまく共存できたなという感覚があるんですよね。

メンバーのみなさんのなかにもこのアルバムで歌われているような夜から朝への物語というか、アルバムが出来上がったことで新しい夜明けを迎えたような感覚はあったんでしょうか。

ありましたねえ。というか、ちゃんと「mol-74だな」と言えます。自分たちのやりたいこととポップさというものがうまく共存できたなという感覚があるんですよね。前作、前々作ついては、自分たちのやりたいこととポップさと、その両足にうまく重心が乗ってるのではなくて、片方に重心が傾いている感じがあったんですけど、今回は両足がちゃんと地に着いてる感じがしてるんです。『越冬のマーチ』をそのまま繰り返すのではなくて、『kanki』や『colors』でやったことをちゃんと踏まえた上でのドシッとした感じというか、両方にちゃんと重心が乗ったアルバムになったなという気がしています。

最後に、ライブについて聞かせてください。まず単純に思うのは、今回のアルバムでもシンセをはじめとしていろんな音が鳴っていますが、4人でどういうふうに演奏するんだろう?ということです。

もちろん、ライブ用にアレンジしますが、僕自身はある程度音源に忠実に演奏したいとは思ってるんです。あるライブを見に行って、“あのバージョンが聴きたかったのに…”ということがあってショックを受けたことがあったので、極力アレンジは変えたくないとは思っています。

このアルバムを携えてのツアーが終わるときには、どういう感触を持って終えられるといいなと思いますか。

“これで間違いなかったな”と思って、終わりたいですね。アルバムの最後の歌詞は、♪きっと、そう/間違いじゃない♪とか♪きっと、そう/これでいい♪とか、まさしくツアーが終わったときに、自分自身にも響く歌詞だと思うんです。

そういうふうに終えられたら、それはまた次につながりますね。

そう思います。

期待しています。ありがとうございました。

武市和希(mol-74)さん画像ギャラリー

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ライブ情報

「▷ (Saisei)」release tour
1月26日(金)京都・京都MUSE w/Halo at 四畳半
1月27日(土)徳島・徳島club GRINDHOUSE w/Halo at 四畳半/the circus(Opening Act)
3月24日(土)宮城・仙台LIVE HOUSE enn 3 rd
3月25日(日)新潟・新潟CLUB RIVERST
3月31日(土)北海道・札幌SOUND CRUE
4月6日(金)福岡・福岡the voodoo lounge
4月8日(日)香川・高松TOONICE
4月15日(日)大阪・大阪Music Club JANUS
4月22日(日)愛知・名古屋APOLLO BASE
5月13日(日)東京・恵比寿LIQUIDROOM

mol-74(モルカルマイナスナナジュウヨン)

武市和希(Vo,Gt,Key)、井上雄斗(Gt,Cho)、髙橋涼馬(Ba,Cho)、坂東志洋(Dr)の4ピース。京都にて結成。日常にある身近な感情を武市の透き通るようなファルセット・ヴォイスを軸に、北欧のバンドにも通じる冷たく透明でありながら、心の奥底に暖かな火を灯すような楽曲で表現している。

オフィシャルサイトhttp://mol-74.jp