佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 27

Column

小袋成彬の「Akimoto Kun (仮)」を10数回つづけて聴いて、さらに聴きたくなったのはどうしてだったのか?

小袋成彬の「Akimoto Kun (仮)」を10数回つづけて聴いて、さらに聴きたくなったのはどうしてだったのか?

新しいタイプの表現者として日本の音楽シーンをリードしていくのだろうと思っていた小袋成彬が、作・編曲者ではなくシンガーとしてのアルバムを完成させて4月にリリースするというニュースが入ってきた。

いち早く知人から渡された6曲入りの音源を1月15日に聴いて、新しい才能の出現に驚いて、そのことを伝えずにはいられなくなってしまった。

何よりも歌声の音色にハッとさせられたのは、「Akimoto Kun (仮)」という5曲目に入っていた曲だった。
歌い出しの歌詞はこう始まるが、何度聴いてもハッとしてしまうのだ。

? 喘息をこらえて 縁側の座椅子で 朝まで話そう
  線香ただようリビング ぼくらを睨む君の親父の遺影
陽炎に僕らは溶けた

ほんとうに肺病患者のように抑えた低い声、呼吸器系に負担をかけない発声。
そして太い音色の歌声の次に、歌詞の展開にも驚かされることになった。
そもそも「喘息」や「遺影」はこれまで、歌謡曲やポップスの世界ではタブーに近い言葉だったように思う。

歌声は2コーラス目から、オクターブ上の高い音色になる。

? 今度は君が倒れた 隣の町の噂でさ
一番に駆けつけたのが自慢でさ
それから心だけは 半年以上も動いた
見慣れた寝顔に 髭が

もの悲しさに満ちているサビのフレーズも、泣きを抑えた響きが新鮮で印象に残る。

白い肌が勲章なのさ 二人の
  二人だけの

そして最後はこう終わっていくのだが、歌い出しとは対照的に伸びのある高い声になる。
さらにコーダに入ると鳴き声か、哭き声にも聴こえてくる。

歌唱と言葉と音楽が一体となった作品で、しかも純度がきわめて高いからなのだろうか。
何度でもリピートして聴きたくなるし、ぼくは10数回つづけて聴いたが、まったく飽きることはなかった。

何度もなんども鳴き声を聞きながら、孤独な荒野の狼を思った

? だから僕は白昼夢の中に 意味なんて求めないからさ
  また君に会えるまで 薪をくべ続けなきゃ
続けなきゃ Ah Ah Ah

宇多田ヒカルが2016年9月に発表したアルバム「Fantome」のなかで、「ともだち」にゲスト参加したことで知った小袋成彬だが、その才能に感心したのはAdieuの「花は揺れる」を聴いたときだった。

野田洋次郎(RADWIMPS)が作詞作曲を手がけた映画主題歌の「ナラタージュ」と、カップリングの形で出た「花は揺れる」は、17歳の女子高生の歌声を活かすアレンジとサウンドが素晴らしかった。

だからプロデューサーとして活躍していくのだろうと思っていたら、フル・アルバムでソロ・デビューするということを知った。 いろいろ資料にあたってみたら、1年半も前のインタビューで、こんな発言をしていたこともわかった。

曲をつくっている時は自分をどう表現するかが一番大切で、他人にどう思われるか、何を言われるかが二の次になってくるんです。なので、歌をうたうことに興味がなくなった。けれどもアーティストのプロデュースをする際に、歌詞を書くためにその人の人生について深く話を聞くことがあって、人の人生をのぞくと自分が歌いたいことが見えてくる。なので最近は「歌いたい」欲求が強くなってきています。

これを読んでみて、なるほどと納得がいった。
「人の人生をのぞくと自分が歌いたいことが見えてくる」というのは、今の時代にあっているし、的確な判断だったと思う。

誰もが簡単に自己表現として音楽をカタチにできて、それを発信することが可能になったここ4半世紀で、プロフェッショナルとアマチュアの差がなくなってしまった。

そんな時代に自分で起業して音楽ビジネスにも関わりながら、裏方の立場でプロとして高い評価を受けたところで、満を持してアーティストの道を究めようということなのだろう。

彼のツイッターを見たら、アーティストへと向かっていく心情が、端的に語られているつぶやきがあった。

完成したばかりのアルバムを聴いたが、今どきのコマーシャリズムに媚びたところがなく清々しい。
三島由紀夫の言葉でいえば、表現者としての「純潔」が感じられる。

日本語による新しい表現を音楽で成立させたいという意思が、最初から最後の曲にいたるまで一貫しているのが潔い。

これは視界も行動範囲も狭いぼくの個人的な思いではあるが、世界からいよいよ置き去りにされそうな危機にある日本で、志の高い音楽家たちが動き始めているように感じている。

海外の作品と時間差も温度差もなく競い合える、そんな新しい日本の音楽がすでに誕生しているのかもしれない。

と、ここまで書いたところで、以下の資料が届いた。

小袋成彬がソニー・ミュージックレーベルズ EPICレコードジャパンよりメジャーデビューが決定、4月25日(水)に1stアルバム『分離派の夏』をリリースする。
アルバムプロデュースを手掛けるのは宇多田ヒカル。自身のアルバム「Fantôme」(2017年)収録曲「ともだち」に小袋成彬をゲストボーカリストに招いたのが契機となり、彼女にとっては初の新人アーティストのプロデュース作品となる。

コラムに書いた内容に付け加えると、ぼくが大いに驚かされた5曲目の作品はアルバム『分離派の夏』の4曲目に収録されている。
正式タイトルは『Daydreaming In Guam』になっていた。

いま、この時代にコマーシャリズムよりも芸術性を優先させるアーティストが誕生したことを、喜ばずにはいられない。

リリース情報

1stアルバム「分離派の夏」(読み:ぶんりはのなつ)
4月25日(水) 発売
通常盤 ESCL-5045
価格 \3,000(税込) \2,778(税抜)

収録曲
01.  042616 @London
02.  Game
03.  E. Primavesi
04.  Daydreaming in Guam
05.  Selfish
06.  101117 @El Camino de Santiago
07.  Summer Reminds Me
08.  GOODBOY
09.  Lonely One feat. 宇多田ヒカル
10.  再会
11. 茗荷谷にて
12. 夏の夢
13.  門出
14.  愛の漸進

小袋成彬が参加した宇多田ヒカルのアルバム『Fantome』

著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。
「マイ・ラスト・ソング」では構成と演出を担当。
2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長に就任。
著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)。

美輪明宏と「ヨイトマケの唄」 天才たちはいかにして出会ったのか

著者:佐藤剛
出版社:文芸春秋

三島由紀夫、中村八大、寺山修司・・・・・・

時代を彩った多くの才能との邂逅、稀代の表現者となった美輪明宏の歌と音楽に迫る、傑作ノンフィクション!

「自分以外の人によって、己れの人生を克明に調べ上げ語られると、そこには又、異なる人物像が現出する。歴史に残る天才達によって彩色された果報な私の人生絵巻が、愛満載に描かれていて、今更ながら有難さが身に沁みる」――美輪明宏

vol.26
vol.27
vol.28