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Mr.Children 主題歌でもあるドラマとどのように響き合うか? 最新シングルから届くメッセージを紐解く

Mr.Children 主題歌でもあるドラマとどのように響き合うか? 最新シングルから届くメッセージを紐解く

Mr.Children、2018年のスタートなる新曲「here comes my love」が、早くも配信でリリースされた。さっそくDLして聴いた人も多いだろう。深田恭子主演のフジテレビ系ドラマ『隣の家族は青く見える』の主題歌である。この原稿を書いているのは、ドラマ初回が終了した時点だが、夫婦を巡る、まさに現在的なテーマを扱っていて、今後もストーリー展開から目が離せない。そして主題歌が、ドラマとどのように響き合うかにも注目だ。

○主題歌として

桜井和寿がコメントを発表しているので、改めて掲載しておこう。

この物語の登場人物達の、
また、その物語に自分を重ね共感するであろう皆さんの背中を押すことができるように、
この曲に心を込めて制作しました。
登場人物達の未来がどうなっていくのか、とても楽しみにしています。

桜井和寿

注目したのは、[登場人物達の未来がどうなっていくのか]の部分である。こうコメントしているからには、楽曲制作においても、頭の片隅にあったことだろうし、もしそれが反映されているとしたら…、という仮定のもと、書き進んでいくことにしたい。

ドラマの主題歌といっても、実に様々である。毎回、観始めた時の気分に立ち返られせてくれるものもあるし、特に最終回、「そうか、ゴールはここだったのか」と、強く指し示してくれるものもある。

「here comes my love」の場合はどうだろう? 僕が想うに、毎回、歌詞の響く部分が観る者にとって“変化していくタイプ”ではなかろうか。例えばある時は[夢見て暮らしている]であり、ある時は[その手が離れてしまっても]だったり、ストーリー展開により、変化する…。

これは、やがてこの楽曲が主題歌という立場を離れたあとも関係していくことだろう。聴く人が、それぞれの日常と響き合わせる番になっても、歌詞に散りばめられた様々なイメージが、様々な想いを救い上げてくれる筈なのだ。では次に、そのイメージに関して、具体的に書いていこう。

○歌詞の注目点

冒頭から掴まれる。自分が直面する困難に対して、逡巡する姿が描かれている。ふたつの気分がブランコのように揺れている。でも気付けば我々は、早くもそれに乗り込み、歌の世界観に、どっぷり浸かり始めている。

比喩が多い表現へ移る。[鯨のように]、[彷徨うピノキオの気分だ]。クジラが出てくると、アルバム『SENSE』の頃を思い出すファンもいるかもしれない。でもこの場合、「ピノキオ」の一場面になぞらえてのことだろう。あれは人間の心に潜む邪悪や虚栄がテーマとなっている物語だが、後半のクライマックス部分で、クジラに飲み込まれる主人公達が描かれている。

さらに「here comes my love」の場合、海という存在を、イマジネーション豊かに拡げていく。未来は[波がさらっていって」しまうほど危ういものであり、[灯台の灯り]と[今の僕]が対比され、かつての自分はそうであったはずなのに…、そんな自問自答がなされる。

○サウンドの注目点

印象派的なピアノが響くイントロから、適度にリップノイズを伴う桜井の歌が聞える。“♪巨大な鯨”の歌詞と同時に頭をもたげる右チャンネルのディストーションのギターや、“君を照らしてる”で隅々に気を配るように丁寧に♪タタタと鳴るドラムは、紛れもなく歌詞と呼応している。伴奏があって歌があるという、単なる二層構造を越えた多層さであり、楽器と声が、自然な会話を交わしている。

後半に従い、ストリングスやホーンも絡んできているが、とってつけた感じがしない。在るべきもの、鳴るべきものが、ただそこに在る、鳴っている、という風情なのである。このあたりは、8人による自由闊達な音色のアンサンブルを打ち出した、“ヒカリノアトリエ”を経験したからこその成果かもしれない。

前半と後半の、キャラクターが違う二度のギター・ソロも特徴的で、左チャンネルからの短い前半のソロは、主人公の心の揺れを内包しつつ、抑制的かつメロディアスに響く。そして、そのまま歌のオブリガートも務める。

後半では堰を切ったかのように、ハードロックの快感を威風堂々と謳歌するソロが響く。

○タイトルの意味するもの

ではなぜ、この歌は「here comes my love」と名付けられたのだろう。主人公とその相手は、激しい潮の流れに翻弄され方向を失い、不可抗力に取り囲まれ、それでも泳ぐことをやめない。そしてその時、聞えてくるのが「here comes my love」という言葉だ。

もしやこれ、まだ歌詞がない段階で、ハミングしながらメロディを紡いだとき、ふとここだけは、具体的に“降りてきた”ものだったのかもしれない。そしてこの部分は、桜井の歌がミックスボイス的発声から、純粋なファルセットへと切り替わるように聞こえる。切なさが口径を細め、その代わり水圧を増すような、そんな響きに胸が震える。

“here comes …”という表現だが、例えばビートルズの「ヒア・カムズ・ザ・サン」(Here Comes the Sun)やユーリズミックスの「ヒア・カムズ・ザ・レイン・アゲイン(Here Comes The Rain Again)」のように、天候に関してよく使われる言葉でもある。

それは人間がコントロールできるものではない。歌詞のなかでイメージを拡げていく、潮の流れとも重なる。そしてエンディングでは、タイトルの言葉に続けて、こう歌われる。[いつかきっと][辿り着けるよね]。

海図を持たないのが人生である。しかし、泳ぐのを止めてしまえば、もはやそこに人としての意志のカケラも残らない。ならば泳ごう。そんな力強いメッセージが、ドスンと届いてくる歌でもある。

○最後に

バンドとして、さらに良質な化合物にならんとする彼らの旅は、ずっとこれからも続いていくのだろう。道中の土産話が、常に魅力的なものであることを祈りつつ、今はこの曲を、何度も何度も聴くことにしよう。

文 / 小貫信昭

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Mr.Children

1992年ミニアルバム「EVERYTHING」でデビュー。1994年シングル「innocent world」で第36回日本レコード大賞、2004年シングル「Sign」で第46回日本レコード大賞を受賞。「Tomorrow never knows」「名もなき詩」「終わりなき旅」「しるし」「足音 ~Be Strong」など数々の大ヒット・シングルを世に送り出す。これまでに37枚のシングル、18枚のオリジナルアルバム、4枚のベストアルバムをリリース。2017年7月26日にNew Single「himawari」をリリース。3月からの全国ツアー「Mr.Children Hall Tour 2017 ヒカリノアトリエ」に続き行われた、6月からの「Mr.Children DOME & STADIUM TOUR 2017 Thanksgiving 25」も無事終了した。

オフィシャルサイトhttp://www.mrchildren.jp