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初舞台化!『「GANTZ:L」-ACT&ACTION STAGE-』開幕。究極の戦いを前に、あなたならどうする?

初舞台化!『「GANTZ:L」-ACT&ACTION STAGE-』開幕。究極の戦いを前に、あなたならどうする?

奥浩哉の漫画『GANTZ』の初舞台化となる『「GANTZ:L」-ACT&ACTION STAGE-』が1月26日に天王洲 銀河劇場で開幕した。原作コミック『GANTZ』は累計発行部数2,100万部の大ヒット作。死んだはずの人間が“GANTZ”と呼ばれる不気味な黒い球体に謎の星人と戦わなければならないミッションを強いられる、登場人物たちの過酷な生き残りゲームを描いたこの物語は、これまでにゲーム化やテレビアニメ化、実写映画化がされているだけに、壮絶な死闘が繰り広げられる“GANTZ”ワールドを、生身の人間が観客の目の前で演じる舞台という空間の中でどのように再現されるのかと、初舞台化に大いに興味をかき立てられた“GANTZ”ファンも多かったことだろう。鈴木勝秀が脚本・演出を手がけた舞台版『「GANTZ:L」-ACT&ACTION STAGE-』。初日前日に行われたゲネプロのレポートをお届けする。

取材・文 / 松浦靖恵

いったい自分はどんな選択をするのだろう

この物語の主人公は玄野計(百名ヒロキ)。彼は“いい人”には見えるが、どうやら冴えない学生生活を送っている普通の大学生らしいということが、その風貌や人当たりの良さからすぐさま伝わってきた。そんな、この世の中のどこにでもいそうな彼が、ある日偶然駅のホームで再会した同級生・加藤勝(高橋健介)とともに線路に落ちたホームレスを救出する際、ホームに入ってきた電車に轢かれてしまう。その出来事がきっかけとなり、彼の人生は予想もしていなかった展開を迎えることになる。

気づくと見知らぬ部屋にいる玄野。そこにあったのは、“GANTZ”と呼ばれる不気味な黒い球体だ。球体の正体はもちろん、自分が事故死してしまったことや今自分が置かれている状況がなかなか理解できずに戸惑っている彼に、“GANTZ”は“星人”と戦うミッションに参加することを指示する。

冒頭、抑揚のない電子音声で、ただ淡々と何度もアナウンスが繰り返された「部屋に来たい人はできるだけいっぱい人を連れて来てください」という言葉。“GANTZ”からのメッセージであろうこの言葉が持つ本当の意味を、玄野だけではなく観客たちも物語が進むにつれて徐々に理解していくことになる。

死者が集まる部屋、つまり“GANTZ”がいる部屋には、玄野や加藤のほかにも、かわいらしい女の子だが、どこか暗い影を纏っている岸本恵(浅川梨奈)、元タレントの阪本実(村瀬文宣)、小学校教師の小池修(影山達也)、裏社会で生きてきた矢野誠(藤田玲)、高校生の西丈一郎(佐藤永典)がすでに転送されていた。彼らは現世では出会うことはなかったが、自ら死を選択した者や事故死した者など、“死”によって出会うことになってしまうのだった。

ここから見ず知らずの彼らが協力しながら壮絶な戦いを繰り広げていくことになるのだが、何度もこのミッションに参加している西の「星人を倒すごとに得点が加算され、そのポイントが100点になったらこのミッションから解放されて生き返ることができる」という情報に、この戦闘ゲームからは簡単に離脱することができないことを知る。そう、この場所から自分が逃れるためには戦いを続けなければならないのだ。

脚本・演出を手がけた鈴木勝秀は、矢野、坂本、小池、玄野の大学の同級生・高橋浩一(大原海輝)という舞台版オリジナルキャラクターを登場させている。原作漫画のあらすじや設定を十分に知り尽くしている観客たちや『GANTZ』を初体験する観客たちにも、新たに登場したキャラクターがどんな性格を持った人物なのかを、その風貌や行動、セリフから想像させる余白を作り、それぞれの人物像を自分の中で次第に形づくっていく“お楽しみ”をこの舞台版の中に作ってくれたんだと思った。

原作にもいるキャラクターと舞台版オリジナルキャラクターは、この舞台の中で初めて出会う。それぞれ異なる人生を生きてきた人たちが、過酷なミッションを繰り返していくなかで、ひとりひとりどういう選択をしていくのか。そして、究極の戦いのなかでどのようにそれぞれが変化していくのか。それらをリアルタイムで体感することにワクワクしてしまった。

物語が進むにつれて、観る者は登場人物の誰に共感し、誰に共感できないのか。なぜ自分はそう思うのかと、自問自答する場面が増えてくるはずだ。そして、“GANTZ”という正体不明の物体にコントロールされてしまう世界に否応なしに放り込まれてしまったら、いったい自分はどんな選択をするのだろうと想いを巡らせてしまうだろう。平凡な生活を送っていた普通の大学生だった玄野ですら、パワーアップアーマの“GANTZ”スーツを装着したことで自分の力を過信するようになってしまう。“GANTZ”からのミッションを疑問なく受け入れ、自分が生き返るために他者を傷つけるのは正義なのだと言い聞かせるように、正体不明の異形星人と戦うようになってしまうのだ。玄野を演じた百名は、自分の人格が無意識に変化していく様を物語の流れの中で自然に掴み取り、その変化の怖さというものをじわりじわりと感じさせてくれた。

そして物語は、“GANTZ”の存在を知る男・和泉紫音(久保田悠来)が企てたある計画が実行されることにより、終盤に向かって加速していくことになるのだが、なにごとも器用にこなしてしまう完璧な人間として描かれていた和泉が、計画を実行したその先に見る“GANTZ”との出会いに心躍らせている姿はあまりにも切なかった。和泉にとってはただのゲームなのかもしれないが、彼の自分勝手な考えから実行される計画には無慈悲にも巻き込まれてしまう人たちがいる。もしかしたら、そこに現実に起こっているテロや戦争を思い起こす観客も多いかもしれない。

30-DELUXがつけたアクションはキャラクターに合わせそれぞれに違いを作っていて、“GANTZ”スーツを装着したキャストたちのスピード感溢れるアクションと熱量が高いバトル、そしてアクションの中に心情を埋め込んだハードな動きからは登場人物たちの個性や心の葛藤までもが伝わってきた。

残虐な行為が高揚感を生む。しかも、自分だけがやっているんじゃない、みんなもやっているんだからいいじゃないか。そんな自分勝手な逃げ場を作り、正当化するようになる。これが人間の恐ろしさなのだろう。しかし、それは誰にでも起こることなのだろうか。人間は自分を守るためにはいとも簡単に凶悪な考えに支配されてしまう生き物なのだろうか。そんなことを思ったのは、加藤がどんな過酷な状況に陥っても自分の想いや生き方を貫こうと立ち向かっていく──自分が進むべき道を自らで選択し、その選択を信じてまっすぐに進んでいく潔い姿を見たからかもしれない。

この物語の中にいる登場人物たちは、あなたの中にいるのかもしれない。あなたは何かをきっかけにして彼らのようになるかもしれない。大好きな人を一途に追いかける岸本も、残虐な行為に高揚感を覚える和泉も、平凡に生きてきたはずなのに激変した生活に順応しながらも葛藤する玄野も……。人間の愚かさ、生への執着と刹那、そしてそれらすべてへのどうしようもない愛しさを『GANTZ:L』は見せつけてくれた。

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