黒川文雄のエンタメ異人伝  vol. 12

Interview

ゲームクリエイター松山洋氏(上)情熱の原点は「週刊少年ジャンプ」

ゲームクリエイター松山洋氏(上)情熱の原点は「週刊少年ジャンプ」

音楽、映画、ゲームなどを総称するエンタテインメントは、人類の歴史とともに生まれ、時代に愛され、変化と進化を遂げてきました。 そこには、それらを創り、育て、成熟へ導いた情熱に溢れた人々がいます。この偉人であり、異人たちにフォーカスしインタビュー形式で紹介するエンタメ異人伝。

松山洋の人生と彼が生み出す作品は、良い意味で「特殊」だ。今回のインタビューを読んでいただければ、私の言った「特殊」という意味はきっとご理解いただけるだろう…。ただ、読み進めていく途中では、彼の姿は単にエンタテインメントへの想いが熱く、濃く、深い人、としか映らないかもしれない。いや、それでは困るのである・・・待ってほしい、全てを読み終わるまでのしばしの時間、この「エンタメ異人伝」にお付き合いいただきたい。

松山洋にとって、エンタテインメントは単なる「娯楽」ではない。それは彼に言わせれば人を救う薬、そう、「娯楽」の「楽」に「草冠」が必要なものだ。エンタテインメントは人々を救うもの…そんな純粋な気持ちはどこから生まれるのか…今回の「エンタメ異人伝」は、松山洋を形成するもの、彼を動かすモチベーションに迫るものである。

インタビュー取材・文 / 黒川文雄

卒業式で感動して泣いたことなんてない

松山さんはイラストもお上手ですし、シナリオまで手掛ける、そして、マンガやエンタテインメントの知識も豊富ですが、やっぱりプロデューサーや社長になるときの苦労がいろいろあったと思います。今日はそのあたりをより深くうかがえたらと思っています。

松山 はい、よろしくお願いします。

では、さっそくですが、まずは幼少期のお話からうかがわせてください。福岡のご出身だと思うのですが、福岡のどのあたりですか?

松山 両親は熊本の八代出身で、母親が実家に帰って私を生んだので本籍は最初熊本だったんです。ただ、ずっと福岡で生活してますから出身は福岡の博多区になりますね。

少年時代

思い出としてあるのは、やっぱりその博多区からですか。

松山 そうですね。ただ、父親が建設業界の仕事をしていて、転勤が多かったので実は九州中をちょこちょこ移動してるんですよ。

そんなにいろんなところを回られたんですか?

松山 はい、小学校も中学校も2回変わっています。対馬ってあるじゃないですか。あそこで小6から中2ぐらいまで、3年ほど生活していたこともあります。転校が多かったから、おかげで自己紹介に慣れたっていうのがありますね。学校が変わると友人関係がリセットされるじゃないですか。ゼロから人間関係を構築していくっていうのを子どものときからやらなきゃいけない環境というか立場だったんで。でも、だからなのか、ちょっとヘンな子どもでした。卒業式で感動して泣いたことなんてなかったですから。

それはやっぱり短期間に対人関係が変わるとか、自分の環境が変わることに対してすごくドライになった感じですか。

松山 他の人よりその学校にいた期間が短いですから愛着が少なかったというのはあるかもしれないです。でも、もともとの性格的なものもあったでしょうね。誰かが死んだわけでもないのに、なんでみんな卒業で泣くんだろうって正直思って。

中学時代

確かにそのとおりですね(笑)。

松山 ですよね。大きくなって小学校を卒業して中学生になって、うれしいはずじゃないですか。で、中学を卒業して今度は高校になる。新しいステップアップなのに、なんでこんなに泣くんだろう、特に女子は…って。それでまあ、子供ながらに転校が多かったからかなあぐらいに思っていたんですけど、大人になってから振り返ると、そもそもそういう性格だったんだなと思いますね。

私の性格を形成しているのは「週刊少年ジャンプ」

なぜ、そういう性格になられたとご自身では思われますか?たとえばご両親と一緒にいろんなところを転校して回ったがゆえに自分なりの生き方としてそうなっていったのでしょうか。

松山 いや、私の性格を形成しているのは「(週刊)少年ジャンプ」です。

やっぱり、そこですか(笑)。

松山 マンガを食べて大きくなったので、すべての物事の価値観がだいぶマンガ的ですね。もちろん、親から学んだことも多いですけど、生き方とか、かっこいいってことはこういうこと、かっこ悪いってことはこういうこと、っていうのは、ほぼ「少年ジャンプ」から教わってますね。

ということは少年期のエンタテインメントといえばイコール「少年ジャンプ」という感じですか。

松山 「ジャンプ」ですね。6歳のときから読んでますから。

6歳から!?

松山 読み始めて今年で42年目になりますけど、1号欠かすことなく全ページ読んできました。だから、ちょっとヘンな話ですけど、今「少年ジャンプ」と仕事してるじゃないですか。で、当たり前ですけど、この年齢になると打ち合わせの編集担当も年下になってくるんですけど、最近「ジャンプ」の編集者さんたちから「松山さんとジャンプの話はしたくない」って言われるんですよ(笑)。

それはまたなぜですか?

松山 要するに、私は「ジャンプ」について知ってることを前提で話すんですよ。

ああ、「ジャンプ」の編集者なんだからよく知ってるだろう、と。

松山 だって、「少年ジャンプ」の人じゃないですか! 『ジョジョ』(荒木飛呂彦氏原作の『ジョジョの奇妙な冒険』)の話をするにしたって、『ジョジョ』の連載の前にやってた『ゴージャス★アイリン』(注1)の2話分の読切と……。

注1:メーキャップを施すと凄腕の殺し屋に変身する16歳の女の子・アイリンの活躍を描いた荒木飛呂彦氏原作のアクションマンガ。

そこからか~。

松山 その前にやってた、17週で打ち切りになりましたけれども『バオー来訪者』(注2)っていう作品。あの作品も我々にとってはものすごくショックで。荒木さんの天才性が。で、その前がデビュー作である『魔少年ビーティー』(注3)。10週で打ち切りになったんですけど、あの作品は早すぎたんですよ。10年早かったんです、センスが。それで、今から30年前ですけど、装いも新たに『ジョジョの奇妙な冒険』っていう作品が!あの、荒木飛呂彦が帰ってくるって!

 

注2:悪の秘密組織・ドレスによって生物兵器にされた少年が予知能力を持つ少女とともに戦うSFバイオレンスアクション。打ち切り作ながらほぼすべての伏線を回収するなど完成度が非常に高く、現在も根強い人気を誇っている。
注3:冷徹ながら正義感の強い少年・ビーティーが、悪魔的な知能と心理的駆け引きを駆使して悪人たちに制裁を加えていく。荒木飛呂彦氏の初連載作で後年の『ジョジョ』の頭脳バトルの片鱗が見られる。

なるほど(笑)。

1 2 3 4 >
vol.11
vol.12
vol.13