黒川文雄のエンタメ異人伝  vol. 12

Interview

ゲームクリエイター松山洋氏(上)情熱の原点は「週刊少年ジャンプ」

ゲームクリエイター松山洋氏(上)情熱の原点は「週刊少年ジャンプ」

ページをめくっていたら、ある作品でピタっと止まった

分かります、分かります。すごかったですよね、あの頃(笑)。

松山 「外道は死ね~」とか言って人を殺してるわけですよ。「あれ、ちょっとこれはオレには早い」って思ったんですけど、あのお兄ちゃんたちが夢中になってたのは、これじゃないよなって。そう思いながらページをめくってったら、ある作品でピタっと止まって、これだと。きっと、この作品を読んで、あのお兄ちゃんたちは狂喜乱舞してたんだって、見た瞬間に思ったんですよ。それが『リングにかけろ』(注9)との出会いだったんです、車田正美さん(注10)です。

注9:車田正美氏原作のボクシングマンガ。連載開始当初はオーソドックスなスポ根だったが、やがて見開きページで必殺ブローを放つなど破天荒なスタイルを確立。ストーリー展開やキャラクターのセリフ回しもケレン味たっぷりで絶大な人気を博した。
注10:少年ジャンプ黄金時代を代表する漫画家のひとり。主な代表作は『聖闘士星矢』『風魔の小次郎』『B’T-X』など。

それかあ~そこからきてるんだ。

松山 ボクシングです。ボクシングなんだけど必殺技があってパンチからメテオが出るんです。「ギャラクティカマグナム」(注11)ですよ。で、左手で(ギャラクティカ)ファントムを撃つと宇宙になるんですよ。この車田正美の天才性に触れて、これだと。あのお兄ちゃんたちは絶ッ対、これに夢中になってたんだと。なんてすごい世界なんだと思って、もうその瞬間に「コロコロコミック」への興味が薄れてしまって。もちろん、『ドラえもん』は安定してましたよ。 してましたけど、それ以外の作品は下ネタとギャグの応酬が多かったじゃないですか。だから、もう戻れなかったですね、刺激がなさすぎて。

それからです、「ジャンプ」を読むようになったのは。で、最初は『リングにかけろ』を読むためだけだったんですけど、そのうちにほかの作品のこともだんだん分かるようになってきて。当時の劇画、平松伸二さんとかの作品は抜群に絵が上手いんですけど、上手すぎるがゆえに背景の情報密度、キャラクターの線の多さが重いんです。

注11:『リングにかけろ』で主人公のライバルである剣崎順が放つスーパーブロー。このパンチの描写がいかに突き抜けていたかは、このあとの松山氏の説明を読んでほしい。

「BAKOOOOOM」って書いてあるんですよ!

密度があるというか、濃いですよね。

松山 でも、車田正美さんは当時もそうでしたけども、シンプルなんです。人の顔の角度が一緒なんですよ。髪のパーツも全部一緒、目の位置まで一緒。まるでハンコを押したかのように同じ絵が並ぶんですよ。で、見開きでバーンってぶっ飛ぶんですけど、レイアウトもだいたい一緒なんです。それにセリフも少ない。でも、一個一個がとにかくカッコいいセリフと絵の応酬でやってるから、実にシンプルで読みやすかったんです。しかも、カッコいいんですよ! ボクシングのパンチなのに右ストレートの擬音が「バコーン」で、しかもアルファベットなんですよ!! 「バコーン」をアルファベットで書きます!?

アッハハハハハハハ、書かないですね、それは(大笑)

松山 「BAKOOOOOM」って書いてあるんですよ! 子供なので英語的に正しいのかどうか、わかんないですよね。でも、子供ながらに英語でマンガが表現されてるのを初めて見た感覚でした。発明につぐ発明で、メチャメチャ刺激的でしたね。

でも、小学校1年で、よくそこにいきましたね。

松山 だから、あのお兄ちゃんたちに感謝ですね。彼らが盛り上がっているところを見せてくれなかったら、私は多分ずっと「コロコロ」を読んでたと思いますんで。それで、忘れもしないですけど、『リングにかけろ』はそれからもずっと人気で、人気のまま終わったんですよ。で、『リングにかけろ』の最終話って、「ジャンプ」じゃほとんどありえないんですけど、巻頭カラーで最終話だったんです。

私が知る限り、巻頭カラーで最終話を迎えたジャンプ作品って4作品しかないです。最初が『リングにかけろ』、その次が『ドラゴンボール』、そして『スラムダンク』、『こち亀』(『こちら葛飾区亀有公園前派出所』)ですね。

松山さんと「ジャンプ」の話はしたくない…

なるほど、すごいですねえ~。

松山 でも、こういう話を編集部ですると、松山さんと「ジャンプ」の話はもうしたくないって言われるんですよ。なんで全部読んでいることを前提で話すの、みたいな(笑)

確かに憧れの集英社に入っているぐらいだから、編集部の全員が「ジャンプ」のことを分かってんだろぐらいに思っちゃいますよね。

松山 私もそう思うんですけど、「いや、学生のときは普通だったから」って言うんですよ。で、「普通の人がジャンプなんか作れるかーい」とかって言ったら「普通の感覚もいるから!」って。まあ、そうかもしれないですけどね。

でも、そんなにすごいと、子供の頃に友達と話は合ったんですか。

松山 結局、友達を巻き込んでましたね。いつまで「コロコロ」読んでんだ、と。もちろん私も「コロコロ」は読んでましたよ。「コロコロ」も「ボンボン」(注12)も当時並行して読んでたんです。読んでたんですけど、「まだこのレベルか」って読みながら思ってて。それで、周りの友達に「こっち読め」と言って少年ジャンプを渡して、プレゼンするわけですよ、『リングにかけろ』のすごさを。

そうすると、だんだんみんなハマりはじめるんですね。で、小学校のお昼休みとかになると、みんなで体育館に行って、紙で作ったカイザーナックル(注13)を拳にハメて遊ぶわけですが、そこである矛盾に気づくわけです。作品の中では人差し指に1本だけ通して「キリリィッ」って音を立てて回しながらこう、指4本にカポってハメるんですけど、物理的にそれじゃあ絶対に回らないんです。じゃあ、あの「キリリリィッ」っていうアクションはどうやってるんだって。

注12:講談社から発行されていた児童向けマンガ雑誌「コミックボンボン」のこと。「コロコロ」と子供の人気を分け合っていたが2007年に休刊となった。
注13:『リングにかけろ』で主人公の高嶺竜児が使ったオリハルコンでできた伝説の武器。いわゆるメリケンサックのような形をしていて拳にはめて使用する。

そりゃそうですよね(笑)。

松山 あと、体育館のマットを立てて、みんなで必殺ブローを練習したりとか。みんな「ギャラクティカマグナム!」とか言いながらやってました。といってもただの右ストレートなんですけどね。そうやってマネできるのが多かったじゃないですか。そのあとに『キャプテン翼』が流行ったとき、「ドライブシュート!」って言いながらシュート打ってたのと一緒です。で、学校からほどなくスカイラブハリケーン(注14)禁止令が出るわけです。「せめて砂場でやれ」っていう。あと『キン肉マン』のパロスペシャル(注15)禁止令も学校で出ましたね。

注14:『キャプテン翼』で立花兄弟が使う合体技。サッカーのルールでは反則であるため何かとネタにされることが多い。
注15:『キン肉マン』に登場する超人・ウォーズマンの得意技。簡単にできそうに見える関節技なのだが、実はかけられている方はかなり大変。

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