佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 29

Column

移民の心を素直な気持ちで歌う大城バネサ~「今帰仁(なきじん)の春」

移民の心を素直な気持ちで歌う大城バネサ~「今帰仁(なきじん)の春」

大城バネサの歌う「今帰仁(なきじん)の春」を聴いたのは2017年の秋だった。
沖縄の楽器、三線の素朴な響きから始まるこの歌は、大城バネサの実体験にもとづく歌詞に、彼女が自らつけたメロディーで完成した作品だ。

タイトルの今帰仁(なきじん)は、沖縄本島の北部にある国頭(くにかみ)郡今帰仁(なきじん)村の地名である。

この歌は今もアルゼンチンに住んでいる90歳の祖母(オバー)が、移民してから65年ぶりに生まれ故郷の今帰仁村に帰った時、同道していた大城バネサがオバーの気持ちに自らの体験を重ねて、移民の普遍的な思いを綴ったものだ。

アルゼンチンのブエノスアイレスと沖縄県の今帰仁村は、ちょうど地球の反対側に位置している。
距離にして18,000Km、時間にして22,000時間、それだけ離れていても心はいつも、どこかで必ず繋がっている……。

今帰仁(なきじん)の春
作詞:青山るみ 作曲:大城バネサ

ブエノスアイレスの町に 秋が漂うとき
故郷(ふるさと)今帰仁は 春を迎える
あなたと古宇利に渡り 語りあった日々
きらきらいつでも 目の前に広がる

ウチナーをはなれて60年
時代は変わったけど
あなたと私のキズナは
いまも変わらない

今帰仁に春が来る頃 あなたはどうしてる
私はあなたを思って 今日も岬に立つ

沖縄から海外に移民した人たちがふるさとに帰ってくる世界ウチナーンチュ大会は、1990年に始まったお祭りで5年に1回、那覇の町で開かれている。
大城バネサの母方のオバーは2016年に開かれた第6回の大会に、アルゼンチンから参加して65年ぶりに今帰仁を訪ねた。

五年に一度の祭り あなたに逢いにきた
変わらぬあなたの笑顔 三線の歌声
一晩中踊ったら さよならが来るけど
もう忘れない あなたと城の跡

必ず戻ると約束して
あなたの手を握る
1万8千キロの空は
いつもつながっている

今帰仁に春が来る頃 あなたはどうしてる
私はあなたを想って ひとり岬に立つ

今帰仁の城の跡に 桜は咲いてますか
ブエノスアイレスは 今年もにぎわう

アルゼンチン生まれの日系アルゼンチン人2世だった大城バネサは、父親は沖縄県生まれ日系1世、母親も両親が沖縄県出身の日系2世だった。
幼少の頃から家の中では沖縄方言のウチナーグチで話し、祖父の弾く三線の音色を聴いて育ったという。
しかし家から外に出ればスペイン語を話していたから、沖縄民謡や日本に親しんでも日本語が話せるわけではなかった。
それでも日系人の間で開催されるカラオケ大会などで、日本の演歌を唄い始めて注目されて、NHKのど自慢アルゼンチン大会で優勝した。

そして2002年に東京のNHKホールで開かれたのど自慢チャンピオン大会で、グランドチャンピオンになってスカウトされて来日し、日本語のレッスンを受けて片言で話せるようになり、2003年に演歌歌手としてデビューした。

自分のルーツをたどるかのように沖縄の音楽を歌うようになっていったのは、沖縄にルーツを持っていたことから、2014年に「美ら島沖縄大使」に任命されたのがきっかけだった。
そこからごく自然な出会いとして沖縄の民謡にも目覚めて、自分でもオリジナル曲を作るようになった。

それがアルゼンチンに移住した後も、故郷を思っていた三線をいつも弾いて亡き祖父を歌った、「三線のかほり(移民の唄)」である。
戦前に沖縄から移住した祖父は島を出る前に描いていた夢と、あまりにもかけ離れていてた過酷な現実に直面して、相当な苦労をして生きてきたという。

これも実話にもとづく、なんとも素直な歌だった。

遠い昔に 旅にでた
思いもつかぬ 遠い町
わき目もふらず 働いて
故郷を思う 暇もなく
やせ細るまで 働いた

仕舞い込んだ 荷物の中
見つけた三線 木のかほり
故郷の思い出 甦り
それから毎日 輝いた
歌と踊りが 甦る

苦労ばかりの生活のなかでも、三線による歌や踊りが故郷を思い出させてくれた。
それが心の支えになって、家族とともに生きてこられたのだ。

やがて二人は 結ばれて
家族も増えて 幸せに
毎日三線 鳴り響き
歌と踊りは にぎやかに
笑い声は 鳴り響く

二人はたくさん 働いた
わき目もふらず 働いた
やがて三線 鳴りやんだ
やがて三線 鳴りやんだ
夜空ン星に 登りました

この歌に注目が集まったのは、2016年にNHK沖縄放送局が募集した「世界に伝えたい沖縄のうた」のアンケートで、「島人ぬ宝」(BEGIN)、「島唄」(THE BOOM)などのヒット曲とともに選ばれたことだった。

日本に来てデビューして15年、今では日本語でも普通にコミュニケーションをとれるようになった大城バネサのピュアな思いが、自らの祖先のルーツ・ミュージックと結びついて爽やかな風を吹かせ始めた。

大城バネサの楽曲はこちらから

著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。
「マイ・ラスト・ソング」では構成と演出を担当。
2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長に就任。
著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)。

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