Interview

羊文学 ざらりとした音にのせて繊細な感情を歌って注目を集めた3人組は前作からの4カ月でどんなふうに変化したのか?

羊文学 ざらりとした音にのせて繊細な感情を歌って注目を集めた3人組は前作からの4カ月でどんなふうに変化したのか?

昨年10月にリリースした1st EP.『トンネルを抜けたら』が注目を集めている3ピース・バンド。とりわけソリッドなギター・サウンドと繊細でメランコリックな世界を歌う塩塚モエカのボーカルのコントラストがオルタナティブロックのリスナーの耳を刺激しているようだが、その注目作からわずか4カ月のインターバルで届けられた新作は、このバンドの新局面をうかがわせる仕上がりだ。
ここでは、現体制に至るバンドの足取りをたどりながら、今回の新作からの感じられるバンドの現在地をメンバー3人に語ってもらった。

取材・文 / 兼田達矢 撮影 / 高木博史

ずっと音楽をやっていけたらいいなとは思ってたんです。それが具体的にどういうことなのかはわかってなかったんですけど。

このバンドは塩塚さんが高校生のときに結成したバンドだそうですが、一人でやるのではなくてやっぱりバンドという形だったんですか。

塩塚 そうですね。最初はYUIが好きだったので、そのマネをして家で弾き語りをしたりしてたんですけど、中学生になるとバンドの音楽も聴くようになって、やっぱりバンドがいいなと思うようになりました。

結成したときから、オリジナルをやろうとしてたんですか。

塩塚 その頃は、とりあえずバンドという形でやれればなんでもいいっていう感じで、コピー・バンドをやるかっていう話になったんです。最初は5人だったんですけど、音楽の趣味がバラバラで、とりあえずやれそうなものをいろいろやってました。そのうちに5人が4人になり、それからいちばん楽器が上手で中心だったコがやめて3人になったんですよ。それで「どうする…?」って感じなったんですけど、「じゃあ、オリジナル作ってみる?」という話になってとりあえず1曲作って…、みたいな感じで「とりあえず」「とりあえず」って高校生らしくやってました(笑)。

「とりあえず」が重なって物事が進んでいったということですが、塩塚さんのなかでより本気になるというか、バンド活動が本格化するタイミングというのはあったんですか。

塩塚 ずっと音楽をやっていけたらいいなとは思ってたんです。それが具体的にどういうことなのかはわかってなかったんですけど、「わたしはミュージシャンになる!」とずっと言ってて、その3人になったタイミングで、当時のベースのコと高校の近くのハンバーガー屋さんで「ちゃんと、がんばろう」と言い合ったんです。その時点ではオリジナル曲も何もなかったんですけど、それでも「わたしたちならできる!」って。そのときが、そのタイミングだったかもしれないです。

塩塚モエカ(Vo,Gt)

オリジナルは、作ろうと思ったらすぐに作れたんですか。

塩塚 あまり憶えてないんですけど、でもまだコードも全然知らなかったから、とりあえずコード・ブックを開いて「これとこれがきれいっぽい」みたいな感じで選んで、それで授業中も“これでいいのか?”とずっと考えてて、考え過ぎて気持ち悪くなったことは憶えてるんで(笑)、多分なかなかできなかったんだと思います。

その話を聞くと、“よくここまで続いたなあ”という感じもしますが、それはやっぱり“ハンバーガー屋さんでの誓い”が強く胸にあったからですか。

塩塚 (笑)。そうなんですかねえ。子供のときからずっとミュージシャンになりたいと思ってたということもあると思いますが、それでも羊文学でここまでやってこれたのは、そのときのことが大きいかもしれないですね。

僕は上手いドラマーになりたいわけじゃなくて、それよりも一度見ただけで“かっこいい!”と思われるようなドラマーになりたいんです。

福田さんが加入するとき、羊文学の音楽についてはどんな印象を持っていましたか。

福田 最初はやっぱり、女性ボーカルということもあって儚い感じがして、でも力強さもあって、という感じで、他にはない独特の世界観を持ってる音楽だなと思ってました。

それで、このバンドで叩いてみたいという気持ちになったわけですか。

福田 そういう気持ちもありましたけど、その当時はサポートばかりやってて自分が所属しているバンドがなかったので、そのことも大きかったと思います。

ドラムを叩くなら、自分のバンドでやりたい、と?

福田 そうですね。お父さんがドラムをやってて、小さいときから家にドラムがあって、という環境だったから自然と自分もバンドをやりたいと思うようになったし、バンドで叩くのが単純に好きということも大きいですよね。

福田ひろ(Dr)

ドラムを叩くこととバンドをやること、どっちのほうが好きですか。

福田 それはもう、はっきりバンドですね。だから、僕はバック・バンドやサポートというのがあまり好きじゃないんですよ。ドラマーのタイプって2パターンあると思うんですけど、ひとつはドラムを極めるというか上手くなることを目指してっていうタイプで、でも上手い人はいっぱいいますよね。僕は上手いドラマーになりたいわけじゃなくて、それよりも一度見ただけで“かっこいい!”と思われるような、そういうドラマーになりたいと思ってるんです。上手いとかすごいとか、そういうのとは違う何か伝えられたらいいなって。しかも、それが自分のバンドでやれたら一番いいですよね。

“この人はイケる!”となぜか思ったんですよね。

ゆりかさんが加入するときには、羊文学の音楽に対してどんな印象を持っていましたか。

ゆりか わたしがいちばん最初に印象に残ったのは「Blue.2」という曲で、すごく珍しいコード進行だなと思ったんですけど、歌詞も…、他のバンドの曲は明るい歌詞ばかりのなかで、この曲は暗くて(笑)、でもすごく引き込まれました。

そういうふうに引き込まれたときに、ちょうど「ベーシスト募集中」だったから連絡したんですか。

ゆりか いや、連絡する前は1曲しか知らなかったんです(笑)。

塩塚 いちばん最初に作った曲だよね。

ゆりか それを聴いて、なんとなく印象に残ってたから、ちょっとtwitterとか見てたらベーシストを募集してたんで連絡したんです。そしたら、曲がいっぱい送られてきて、そのなかに「Blue.2」もあったんです。

1曲だけ聴いた、いちばん最初の曲はどうして印象に残っていたんだと思いますか。

ゆりか なんでだろ…? 歌声もすごく印象的で雰囲気がもうちゃんと出来てたんですよね。ちゃんと自分の世界観ができてる音楽だなって思ったんだと思います。そのバンドが、“バンドやりたいなあ”と思ってたときにちょうどベーシストを募集してたから、何も考えずに連絡しちゃったんです(笑)。本当にたまたまみつけた、という感じでした。

ゆりか(Ba)

最初にこの3人で音を合わせたときの感触は憶えていますか。

ゆりか すごく緊張してたんですけど、でも“めっちゃ楽しかった!”と思ったのは憶えています。

塩塚 その日にもう、めっちゃいろんなことを説明したよね。

塩塚さんは、すぐにピンと来たんですね。

塩塚 その前にもいろんな人とスタジオに入って、いいベーシストの人はいっぱいいたんですけど、でも羊文学にぴったりだなという人はいなくて…。そのときは音作りもいまとはちょっと違ってたから、そのままぴったりという感じではなかったけど、でも“この人はイケる!”となぜか思ったんですよね。

福田さんも同じような感触だったんですか。

福田 ベースを指で弾いてる、その姿がかっこよかったというのもありますし、髪型がボブでベースに合ってるなあとも思ったし。それに、スタジオに入ったときのバンドの雰囲気も、ゆりかちゃんと入るといいバランスになった気がしたというか。

塩塚 福田のときもそういう感じだったよね。

福田 そうだっけ。

塩塚 彼のことは全然知らなかったんですけど、他のバンドで叩いてる動画を見たら、髪も長くて女子っぽく見えたんですね。当時は、わたしも女の子ばかりでやりたかったんですけど、女の子にいいドラマーがいなかったから、ちょうどいいかなと思って。その見た目のことがあって、それで一緒にスタジオに入ってみたら、感覚的にも合ったからOKっていう。

ということは、話を整理すると、羊文学のメンバーのポイントは、外見と雰囲気と音楽的なフィーリングが合うこと、ということになりますか。

塩塚 そうですね。外見や雰囲気と音楽的なフィーリングというのはわりと直結してると思うので。

これからはもっとバンドっぽいというか、この3人でやれることを出したいと思っているので、演奏の部分ももっと面白くできたらいいなと思っています。

そうやって揃った3人で作った最初の作品「トンネルを抜けたら」を去年10月にリリースしたわけですが、その反響はどんな感じでしたか。

塩塚 その前からFUJI ROCKのROOKIE A GO-GOに出していただいたり、You Tubeの再生回数が増えたりして、“ライブハウス大好き”な人たちには届いているなと思っていて、それであれを出したから、何かがすごく変わったという感じはなくて、シンプルに“ああ、こういう感じだな”と思いました。

予想通り、という感じでしたか。

塩塚 曲の感想で、「踊らない」という曲はあまり羊文学っぽくないかなと思ってライブでやってなかったんですけど、その曲をいいと言ってくれる人がけっこういてちょっと驚きましたけど…。それから「雨」という曲をわたしはめちゃめちゃ明るいと思ってたんですけど、インタビューで「暗いよ」と言われて、“これは暗いんだ”と思ったりもしましたね。

福田 「Step」という、歌モノっぽい曲があって、その曲がみんなにいちばん響いてるみたいで、僕らはシューゲイザーっぽいとかポストロックとか、よく言われるんですけど、でもリスナーは「Step」みたいな曲をいちばん欲しがってるのかなということは思ったりしました。

確かに、塩塚さんの歌が羊文学の音楽のいちばんの個性だと感じているリスナーは少なくないと思いますが、その歌を歌っている塩塚さん自身はそのあたりについてはどんなふうに感じていますか。

塩塚 わたしはギターがあまり上手くないので、歌を大事にしているし、歌うことは好きなので、そこを気に入ってくれるのはうれしいんですけど、前のCDは自分の気持ちをそのまま歌ったような曲が多かったので、それで歌中心みたいな感じになったところもあると思うんです。でもこれからはもっとバンドっぽいというか、この3人でやれることを出したいと思っているので、演奏の部分ももっと面白くできたらいいなと思っています。

そうした前作に対する反応が、今回の新作に影響したところはありますか。

塩塚 いや、ないです(笑)。前のCDに入ってる曲はどれもだいぶ昔の曲だから、何を言われても“昔の曲だし”と思って聞いてたところもあるので。

今回は、わりと根本から変わったかもしれないですね。 

では、今回の新作を作るにあたって何か意識していたことはありますか。

塩塚 今回は、ゆりかちゃんが去年入って、そこからバンドでアレンジしてライブでできる形にした曲を入れたんですね。だから、前のCDがずっとやって曲の自己紹介みたいな部分があったのに対して、今回は「去年のわたしたち」という感じがあると思います。

ゆりかさんは、今回のレコーディングを振り返って印象に残った曲や場面は何かありますか。

ゆりか ウ〜ン…、だいたいスタジオで合わせて、その場で考えることが多いんですけど、どの曲もわりとすぐにできちゃいましたね。ただ、曲はどれもちょっとまるくなった印象があります。優しさが増えた感じというか(笑)。

塩塚さんがこの1年の間に優しくなったということなんでしょうか。

ゆりか 大人になったんじゃないですか(笑)。

塩塚 前を知らないじゃん(笑)。

(笑)。福田さんは今回の4曲の制作を振り返って、印象に残っていることはありましたか。

福田 今回はドラムのチューニングが全曲違うんです。そこにかなり手こずって、お昼休みも食べないでずっとチューニングしてたということがあるんですけど、特に「マフラー」という曲は90年代のスロウダイブというバンドのスネアの音に近づけたりして、自分がいちばん好きな音を追求した曲で、すごく浮遊感が溢れる仕上がりになったと思っています。

福田さんは、以前の楽曲と比べて今回の4曲に変化を感じていますか。

福田 「トンネルを抜けたら」の2曲目の「春」という曲がいまは一番知られている曲だと思いますが、その曲は相手をディスるというか、相手に対するトンがった気持ちを歌ってるんですよね。でも、「トンネルを抜けたら」のなかでは「Step」という曲が一番新しい曲で、そこでだんだん人に寄り添う感じが出てきて、それこそトンネルを抜けたなという感じがしたんですよ。それで、今回は4曲とも寄り添ってくれるような感じが歌詞にあって、それは「オレンジチョコレートハウスまでの道のり」というタイトルにも表れてると思うんです。トンネルを抜けて前に進んでるな、という感覚が前作と比べるとあるなと思いますね。

なるほど。この福田さんの解説について、塩塚さんはいかがですか。

塩塚 その通りだと思います(笑)。前は、自分が嫌だと思ってることとか“みんな、そう思ってるけど言わないだろう”というようなことを歌で言う、みたいな感じでやってたんですけど、今回はそういう気持ちはあまりなくて、それよりも“こういう音楽をやりたい”とか“こういう曲をライブで演奏したら、いいだろうな”とか、そういう気持ちで作った曲なので、わりと根本から変わったかもしれないですね。

その変化は、どうして起こったんだと思いますか。

塩塚 単にそういう嫌な気持ちになることがなくなったというか、前のCDの曲は思春期のグチャグチャした感じをまだ引きずってる時期に作ったものだったからそういう感じだったと思うんですよ。でも、メンバーが変わって、高校時代に一緒にやってたメンバーがいなくなって、私自身も高校時代の気分が抜けたし、それにメンバーがみんな歳下になったのに変わらず「なんだよ!世の中!」みたいなことをワーワー言ってるのはヤバイと思ったし…。ヘイトというか、嫌な気持ちを曲にすることばかりやってると、自分も幸せになれないし、曲が作れなくなるなと思ったんです。でも、長くやりたいから、やっぱりいろんなことを曲にしようって。そういうふうに思って、今回は作りました。

さて、その作品が2月にリリースされるわけですが、来年の今頃、羊文学はどうなってると思いますか。

塩塚 それはわかりません。だって、1年後には消えてるかもしれないし(笑)。

では、1年後にはどうなっていたいですか。

塩塚 1年後…、楽しくやってたいですけど(笑)、去年の今頃はメンバーがいなくて、わたしが一人でライブハウスで弾き語りをやってたんですよね。それがいまはこうしてインタビューを受けてるのは大躍進だと思うので、この1年もさらに大躍進に期待ですね。

期待しています。ありがとうございました。

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ライブ情報

羊文学『オレンジチョコレートハウスまでの道のり』リリース記念ワンマンライブ〜オレンジチョコレートハウス〜

4月1日(日) 東京・下北沢BASEMENT BAR

羊文学

塩塚モエカ(Vo,Gt)、ゆりか(Ba)、福田ひろ(Dr)によるスリーピースロックバンド。2012年、高校1年生の時に結成。その後、メンバーチェンジを経て、2017年3月に現体制となり、現在は下北沢、渋谷を中心にライブ活動を展開中。2017年10月、デビューEP.「トンネルを抜けたら」をリリース。

オフィシャルサイト
https://hitsujibungaku.jimdo.com