Interview

「月姫」から「FGO」へ…『TYPE-MOONの軌跡』著者・坂上秋成に訊く、奈須きのこと武内崇2大人気クリエイターがもたらしたムーブメント

「月姫」から「FGO」へ…『TYPE-MOONの軌跡』著者・坂上秋成に訊く、奈須きのこと武内崇2大人気クリエイターがもたらしたムーブメント

1999年に同人ゲーム『月姫』を発表したのを皮切りに、『Fate/stay night』や『空の境界』、『魔法使いの夜』、そして近年ではスマホゲーム『Fate/Grand Order』を世に送り出してきたTYPE-MOON。そのクリエイター集団の中核を成すシナリオライター・奈須きのこと、イラストレーターであり同社の代表取締役でもある武内崇のコンビは、常にゲーム・マンガ・アニメの3大カルチャーを牽引してきた存在と言っても過言ではない。
そんな彼らが歩んできた道筋を、奈須・武内本人をはじめとする関係者へのインタビューを交えて記した書籍『TYPE-MOONの軌跡』が昨年11月に発売。TYPE-MOONの新旧ファンの間で大きな話題を呼んでいる。自他ともに認める重度のTYPE-MOONファンである著者・坂上秋成氏は、本書の執筆を通じてTYPE-MOONの“在り方”に何を感じたのか。『月姫』から『Fate/Grand Order』まで、17年もの間TYPE-MOON作品に触れ続けてきた筆者が訊いた。

取材・文 / 福西輝明 撮影 / エンタメステーション編集部

TYPE-MOON作品が業界にもたらしたもの

まずは、坂上さんとTYPE-MOON作品との出会いについて教えてください。初めてプレイした作品は?

今から15年ほど前になるでしょうか。友達から『君が望む永遠』というゲームを借りたんですが、それが僕の触れた最初の18禁美少女ゲーム、俗に言う“エロゲー”でした。それまでは美少女ゲームというものに対して「所詮はエロゲーでしょ?」と、あまり良い印象を持っていなかったんです。でも、実際にやってみたら40時間ぶっ続けでプレイして、CGをフルコンプリートするほどにハマり、目から鱗が落ちるような感動を覚えました。それで、その友人に「他のおすすめゲームはないのか!?」と迫り、あれこれプレイするうちに出会ったのが『月姫』でした。そこで描かれていた、魅力的なヒロインと独特の文体や世界観はそれまで体験したことがないものでしたし、同人サークルでこんなことができるのかという驚きもありました。
ただ、当時は原作者である奈須さんがどういう作家であるのか、何をこの作品に込めようとしているのかなどを考えながらプレイしていたわけではなく、ただ純粋に「同人ゲームにもすごいものがある」と感じただけでした。ですが今回『TYPE-MOONの軌跡』を執筆するにあたって、また一からゲームをプレイし直すうちに、奈須きのこというクリエイターが生み出す世界の中で、『月姫』はどういった位置づけにあるのか。業界にどういう影響を及ぼした作品なのかが、改めて見えてきたように思います。

『月姫』(完全版) 2000年 ©TYPE-MOON

『月姫』に改めて触れたことで見えてきたものとは?

一番大きいのは、同人作品でも業界に対して大きな影響力を示せるということを、世に知らしめたことだと思います。『月姫』以降、2002年に竜騎士07さんが頒布した『ひぐらしのなく頃に』や、2007年に同人サークル・ぶらんくのーとが制作した『ひまわり hi・ma・wa・ri』など、商業作品と比べても全く遜色のないほど面白い同人ゲームが出てきて、多方面でメディアミックス展開が成されました。しかし、それはTYPE-MOONが『月姫』によって、同人ゲームの新たな地平を切り開いたという下地があったことが大きいはずなんです。
以前、僕が竜騎士07さんにお話を伺った時、「自分は“同人からヒット作が生まれる”という構造の中に滑り込めた、最後の人間なんだ」ということをおっしゃっていました。2012年に『ファタモルガーナの館』という傑作が同人PCゲームとして発売され、その後ニンテンドー3DSやPSVitaに移植されたりもしましたが、そもそも今は『月姫』や『ひぐらし』クラスのヒット作が出てきにくい業界構造になっているように思います。
『月姫』が世を席巻していた2000年代半ばまでは「一サークル、一個人でも天下を狙える」という感覚が今よりも強く共有されていたように感じています。たとえその当時に芽が出なくても、自分も一旗揚げようと創作活動を初めて、現在大成されている作家も多いでしょう。そういう意味でも、同人の世界に“野心の種”をまいたTYPE-MOONの功績は、とてつもなく大きいと言えるんじゃないでしょうか。

『月姫』頒布以前の1998年にweb小説としてホームページ上に掲載され、後に全2巻の同人誌として刊行された『空の境界』について、坂上さんはどのように捉えていらっしゃるでしょうか?

『空の境界』は独特な魅力をもった作品ですよね。実は最初に一読した時、僕は内容を上手く理解できなかったんです。ただひたすら文章の密度に圧倒されるだけで、細かい部分に関してはほとんど分からなかった。でも、もう一度読まなければと思って、1ヶ月ほど間をおいてからリトライしたら、一度目は見えてこなかったものが見えてきてものすごく面白かったんですよ。

『空の境界』上巻 講談社ノベルス 2004年 © 奈須きのこ

『空の境界』下巻 講談社ノベルス 2004年 © 奈須きのこ

そのお気持ち、よくわかります。僕自身もまったく同じ感覚を覚えました。

『空の境界』の大きな魅力は、容易に既存のジャンルへ回収できない点にあると思うんです。完全なミステリーというわけでもないし、純文学や一般エンタメ、あるいはライトノベルとも異なっている。『空の境界』はある意味で奈須さんの持ち味、複雑な世界設定をリリカルな文体で描くという部分が最も尖った形で出ている作品なので、それが「どのジャンルにも当てはまらない」という印象を与えてくるのかもしれません。星海社の編集者であり、『TYPE-MOONの軌跡』の発起人でもある太田克史さんは、奈須さんの作品を「新たな文学のステージに到達した」として、「新伝綺」という新たなジャンルに位置づけています。『空の境界』は同人小説でありながら、文学に新たなカラーを生み出すきっかけを作った作品だったんだと感じています。

『空の境界』は2007年に劇場映画化されたことも、大きな話題となりました。

それまでアニメ映画で全三部作、とかはよくありましたけど、『空の境界』は全七部作ですからね。『終章/空の境界』や『未来福音』なども含めると、全部で11作品も映画化されています。同人小説を元にした映画としては、空前にして絶後の出来事ですよ。

一方、『月姫』や『空の境界』以上に大ヒットして世間に認知されている『Fate/stay night』については、どのようにお考えでしょうか?

今でこそ “戦うヒロイン”を描く美少女ゲームは多く存在しますが、そのパイオニアとなったのは『Fate』だったと思います。1990年代後半から2000年代前半は、Leafの『To Heart』のような学園ものや、Keyの『Kanon』『AIR』といった日常系の作品が強い影響力を持っていました。そこから戦うヒロインを主軸に描く美少女ゲームが増えていったのは、『Fate』がきっかけなのではないかと。もちろん、それまでもLeafの『痕』や、ニトロプラスの『Phantom -PHANTOM OF INFERNO-』といったバトル要素を含んだ傑作はありましたが、『Fate』の場合は移植版も含めて幅広いユーザーに“戦うヒロイン”像を浸透させたという点が重要なのかなと思います。
そういう意味でも、『Fate』は美少女ゲーム業界に多大な影響を及ぼした作品として位置づけられますし、TVアニメや劇場映画、コミカライズ、そしてスマホゲームなど、メディアミックスの幅広さと浸透度においても頭抜けています。むしろ、TVアニメや現在大ヒットしているスマホゲーム『Fate/Grand Order』で初めて『Fate』に触れたという若いユーザーの中には、元がエロゲーだったことを知らない人も多いのではないでしょうか。エロゲーというアングラな世界で誕生したものが、これだけ数多くの人々の心に届き、とてつもない発展を遂げてしまった。これは結構とんでもないことだと思います。

『Fate/stay night』PS VITA版パッケージ ©TYPE-MOON

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