モリコメンド 一本釣り  vol. 52

Column

大比良瑞希 先鋭的なサウンドと普遍性を帯びたポップソング。注目の最新作はtofubeatsがリミックス

大比良瑞希 先鋭的なサウンドと普遍性を帯びたポップソング。注目の最新作はtofubeatsがリミックス

2000年代以降のR&B、オルタナフォーク、インディーポップのテイストを感じさせるサウンド、そして、日本の音楽シーンに脈々と受け継がれている歌謡曲の遺伝子。異なるふたつの要素をナチュラルに融合させた楽曲によって、感度の高い音楽リスナーの注目を集めているアーティストがいる。大比良瑞希。“エレガントなストリート・ミュージック”をテーマに掲げているシンガーソングライター/トラックメイカーだ。
 
高校生の頃から作詞作曲を始めた彼女のキャリアは、“ヘウレーカ”というバンドから始まった。UKロックを中心としたヨーロッパ音楽のテイストを反映させた楽曲は早耳のリスナーにキャッチされ、電機メーカー「デロンギ」のCMソングに起用されるなど順調な活動を続けていたが、2014年に活動休止。大比良はソロアーティストに転向する。このときのキーパーソンが、作曲家/チェリストの伊藤修平。ポップスから現代音楽までを網羅し、松任谷由実のコンサートに参加していた伊藤は大比良の才能を高く評価し、“チェロとエレキギター弾き語り”というスタイルでライブ活動をスタート。その後、伊藤のプロデュースによる1stミニアルバム『LIP NOISE』(2015年)のリリースに至る。収録曲「Sunday Morning」のMVがアップされると、注目度が一気にアップ。この年の夏にFUJI ROCK FESTIVALに出演し、さらにtofubeatsの「すてきなメゾン feat.玉城ティナ」にコーラスで参加、LUCKY TAPES、Awesome City Club、Alfred Beach Sandal+STUTSのライブに出演するなど、活動の幅を広げていく。当時流行していたネオ・シティポップの流れに乗ったという見方もあるが、R&B、ソウルミュージックなどを色濃く吸収し、幅広い層のリスナーが楽しめるオーセンティックなポッポスへと昇華させる彼女のセンスは、確実に際立っていた。

『LIP NOISE』は大比良自身による打ち込み(宅録)を中心としたサウンドだったが、2016年の夏に発表された1stアルバム『TRUE ROMANCE』では伊藤修平のアレンジによるストリングスを取り入れるなど、生楽器の要素が大幅にアップ。大比良のDTMビートと生音の融合による“エレガントなストリート・ミュージック”を明確に提示してみせた。匂い立つような女性性をリアルに描いたエレクトリックナンバー「微熱」、ジョニ・ミチェルを想起させるアコースティックサウンドとオルタナティブな音響がひとつになった「焚き火」など、ソングライティング/アレンジを含め、さらなる進化を果たした作品と言えるだろう。

2017年の8月から10月にかけて3カ月連続でデジタルシングルをリリース。『LIP NOISE』『TRUR ROMAND』との最大の違いは、バンドサウンドを前面に押し出していること。大比良の代名詞とも言えるDTMビートの要素は大幅に減り、生々しいグルーヴが渦巻いているのだ。ひとつのスタイルにこだわらず、そのときの嗜好によってナチュラルに変化していく姿勢も、あらゆる音楽がフラットに聴ける現在のシーンとリンクしていると思う。

3曲のキャラクターがまったく違うのも興味深い。「Real Love」はディスクティックなリズムを取り入れたダンスチューン。ライブのバンドメンバーである櫃田良輔(Dr/CICADA)、越智俊介(Ba/CICADA、CRCK/LCKS、Ex.カラスは真っ白)のしなやかなビート、トロピカルな雰囲気をもたらすメロディ、恋愛の熱を伝える歌詞のバランスも素晴らしい。

「アロエの花」は“Aメロ、Bメロ、サビ”という歌謡曲/J−POPの基本フォーマットを踏襲したナンバー。切なさと懐かしさを共存させたボーカル、流麗なストリングスを交えたサウンド、“あの夏の恋”をノスタルジックに描き出す歌詞を持つこの曲は、大比良の普遍的なポップネスを示している。そして「見えない糸 〜Never Be The Lonely One〜」は恋愛中の寂しさをテーマにした楽曲。ブラックミュージック、ジャズのエッセンスを取り入れたトラックと艶のあるボーカルの絡みが印象的な大人のポップスに仕上がっている。この3曲を聴けば、彼女の音楽世界がさらに深みを増していることがわかるだろう。

さらに2月21日に「アロエの花」をtofubeatsがリミックスした「アロエの花(tofubeats remix)」がリリースされる。前述した通り、早くから大比良のボーカルの魅力を評価していたtofubeatsは原曲の生々しいグルーヴを残しつつ、抑制の効いたエレクトロ・ビートを加えることで、洗練されたダンスチューンへと導いている。彼女のソングライティングと最新鋭のダンストラックとの相性の良さを再認識できるリミックスと言えるだろう。そして3月20日(火・祝)には「アロエの花(tofubeats remix)」のリリースパーティ“大比良瑞希×tofubeats”を渋谷WWWで開催。2016年のComputer Magic(NYの宅録女子)の来日イベントのサポートアクトで“tofubeats × 大比良瑞希”としてライブ出演したことはあるが、ツーマン・イベントは今回が初めて。2018年の日本における、もっとも豊かなポップミュージックを体感できる貴重なイベントになりそうだ。この後も「Real Love」「見えない糸 〜 Never Be The Lonely One〜」のリミックスがリリース予定ということなので、こちらも期待大。海外シーンとリンクした先鋭的なサウンドと普遍性を帯びたポップソングを結びつける大比良瑞希の存在はこれから、さらに大きくクローズアップされることになるだろう。

文 / 森朋之

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