Interview

『あの花』『ここさけ』を経て、岡田麿里はなぜファンタジー大作を描いたのか? 監督初挑戦で臨んだ『さよ朝』誕生秘話

『あの花』『ここさけ』を経て、岡田麿里はなぜファンタジー大作を描いたのか? 監督初挑戦で臨んだ『さよ朝』誕生秘話

初監督が務まったのは、スタッフの力量と熱量が高かったおかげです

話が前後してしまいますが、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』や『心が叫びたがってるんだ。』は岡田監督の生まれ育った秩父が舞台のモチーフになっていて、その中にちょっと非日常的な要素が入ってくるお話でしたけど、『さよ朝』の時代と舞台をいわゆるファンタジーの世界にしたのは、どういった意図があったのでしょうか?

マキアをはじめとするイオルフの人たちは年齢を重ねても容姿が変わらないという設定ですけど、仮に時代と舞台を現代に移しても描ける作品ではある、と自分では思っているんです。では、なぜ敢えてファンタジーにしたのかというと……やっぱり自分が観たい劇場映画にしたいな、という思いが強かったからですね。アニメという表現の長所は、見たこともない世界が見られるところにある、と私は思っているので、そこは最大限追求したかった。

今でも原作つきのファンタジー作品はわりとあるんですけど、オリジナルのファンタジーは少なくなっているんですよ。私たちが子どもの時はオリジナルのファンタジー作品がたくさんあって、空を飛ぶ瞬間の高揚感とかハンパなかったので(笑)、そのドキドキに……大人になった自分が書きたいと思っていた内面的な話をミックスさせたら、もしかすると見たことがないような作品が生まれるんじゃないかなと思ったところから、具体的にふくらませていきました。

時代や舞台を限定しない世界観によって、いろいろと想像をふくらませることができるという利点もあったのではないかと思います。

現実の世界で今回のテーマを描くと、ちょっと生々しくなりすぎちゃうような気もしたんですよね。なので、セリフもアクが強い言葉を使っていないですし、なるべくシンプルで過剰な装飾をしない話にしようと心がけました。実際、画の力と作品の世界観が物語を包んでくれたように感じているんですが、本当に今回はスタッフに恵まれたという思いが強いです。何もないところから物語の世界を構築するのって、すごく大変なことで……しかも私のように、初監督なんて偉そうに言っているけど何もわかっていない人間を、全力で支えてくださって、ものすごく高い熱量で作品に取り組んでくださったんですね。アニメって、画に力があると世界にスッと入れるというか、逆に画に引っ張られなくなるんですよ。『さよ朝』はまさにそういう仕上がりだったので、スタッフのみなさんには心から感謝しています。

変な話、初監督というプレッシャーとの戦いでもあったのではないでしょうか?

やっぱり現場に入って最初の方は、「迷っていると思われたくない、しっかりしなくちゃ、監督なんだから!」という力みがあって、すごく肩ひじを張っていました。それを見透かされたらどうしよう、という恐怖もあったんですけど、逆にスタッフのみなさんが頑なな心をほぐしてくれたというか、「わからなかったら、わからないと言っていいんだ。一緒に考えてもらって、そこで学べばいいんだ」と、いい意味で開き直らせてくれたんです。なので、制作の後半は精神的に楽になりましたね。

とはいえ、初めてのことが多くて、それこそコンテを描くのも初めてでしたし、すべてのスタッフと対話をするというのも、やっぱり初めてのことで。アニメにおける“本読み”はシナリオ打ち合わせのことを言うんですけど、今までは“本読み”で顔を会わせる人たちだけに話せば済んでいたことを、監督という立場からいろいろな人に話したのは、本当に貴重な経験になりました。毎日、自分が至らなすぎて落ち込むことも多かったんですけど、それでもスタッフのみなさんが頑張ってくださっているのを見ていると、落ち込んでいる場合じゃないなって(笑)。そんな私でも監督が務まったのは、日本のアニメーション・スタッフの力量と熱量が相当高いからだと、自信をもって言うことができます。

ここまで“『さよ朝』ロス”になっているということは、出し切れたんだと思います

『さよ朝』は、P.A.WORKS代表・堀川憲司さんからの「岡田さんのありったけを見たい」という要望がそもそもの始まりだったそうですが、ご自身としては、すべてを出し切れたという実感はありますか。

そこは……制作の途中から、何だかよくわからなくなってしまったんです。“出し切る”ってどういうことなんだろうなと思った時に、何というか……スタッフへの過剰な愛があふれ出てくることに気づいてしまって(笑)。でも、関わってくれたスタッフのことをこんなにも好きだということは、たぶん出し切れたんだろうと思います。

となると、今は“『さよ朝』ロス”状態にある?

本当に。ロスってますね(笑)。あまり人と深く関わらずに生きてきたので、ガッツリ関わってしまったなという意味をこめて、自分自身を出し切ったと。逆に、あんなにスタッフのみなさんに頑張ってもらったのに、「出し切れなかった」とは言いたくなくて。ただ、自分の中にも当然あるんですけど、不完全な面や欠落しているところを埋めようとしている人たちの話を描き切れたらいいなという思いは、当初からありました。

実は『さよ朝』を観ながら思い浮かんだのが、「欠落」という二文字だったんです。それを埋めようとしている人たちの物語なのだ、と。『さよ朝』に限った話ではなく、今まで岡田さんが紡いできた物語に登場するキャラクターはどこか何かが欠けていて、それを埋めていこうとするからこそ前に進めたのではないか、と勝手ながら解釈をしました。

そうですね……たぶん、欠落しているものを埋めるという描写を、作品によっては監督やプロデューサーからピーキーに、強度を高めに求められることもあるんですけど、欠落しているものを埋めていく作業って、美しさもあると思うんですね、変な言い方ですけど。そこに生まれる優しさのようなものを、今回は描いていきたいなという思いがあって。しかも、できるだけシンプルに見せつつ、細部を見ていくと「あれ?」「ん?」と引っかかるような作品になるといいなって。そういう意味では、自分がずっとやってきたかったことに挑戦させてもらえたのかなと。

何でしょうね、P.A.WORKSというスタジオは、やっぱり自分にとっては特別なんですよ。なので、P.A.WORKS作品へのセルフオマージュも結構入っていて。コアなファンの方々には、そのあたりも見ていただけたらな、と思います。そんなふうに、『さよ朝』では今までやってみたいと考えていたことも全部やらせていただけたので、逆にこれからどうしていこうかなって、途方に暮れていたりもします(笑)。

そんな……かなり気が早いですが、次回作に期待をしていますので(笑)。

わ、それはそれでどうしよう(笑)! でも、そうやって期待していただけるのは、作品に込めた思いが届いたのだと受け止めて、活力にさせていただきます。

作品レビューはこちら
【レビュー】オリジナルアニメ大作『さよならの朝に約束の花をかざろう』。岡田麿里×P.A.WORKSの信頼関係から確信できた素晴らしさ

【レビュー】オリジナルアニメ大作『さよならの朝に約束の花をかざろう』。岡田麿里×P.A.WORKSの信頼関係から確信できた素晴らしさ

2018.02.22

映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』

2018年2月24日(土)ロードショー

【スタッフ】
監督・脚本:岡田麿里(『心が叫びたがってるんだ。』脚本、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』脚本、『花咲くいろは』脚本)
副監督:篠原俊哉
キャラクター原案:吉田明彦
キャラクターデザイン・総作画監督:石井百合子
メインアニメーター:井上俊之
コア・ディレクター:平松禎史
美術監督:東地和生
美術設定・コンセプトデザイン:岡田有章
音楽:川井憲次
音響監督:若林和弘
主題歌:rionos「ウィアートル」(ランティス)
アニメーション制作:P.A.WORKS
製作:バンダイビジュアル/博報堂DYミュージック&ピクチャーズ/ランティス/P.A.WORKS/Cygames
配給:ショウゲート

【キャスト】
マキア:石見舞菜香
エリアル:入野自由
レイリア:茅野愛衣
クリム:梶 裕貴
ラシーヌ:沢城みゆき
ラング:細谷佳正
ミド:佐藤利奈
ディタ:日笠陽子
メドメル:久野美咲
イゾル:杉田智和
バロウ:平田広明

©PROJECT MAQUIA

映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』オフィシャルサイト

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