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【レビュー】オリジナルアニメ大作『さよならの朝に約束の花をかざろう』。岡田麿里×P.A.WORKSの信頼関係から確信できた素晴らしさ

【レビュー】オリジナルアニメ大作『さよならの朝に約束の花をかざろう』。岡田麿里×P.A.WORKSの信頼関係から確信できた素晴らしさ

『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ』をはじめ数々の大ヒットアニメ作を手がけている脚本家・岡田麿里が、初めてアニメ監督に挑戦した。しかもアニメーション制作のパートナーは、丁寧な作品作りに定評のあるあのP.A.WORKSだという。その報を目にしてまず頭に浮かんだのは、「この作品は絶対に素晴らしいものになる」という確かな予感だった。その無条件の予感は、実際に『さよならの朝に約束の花をかざろう』を観て確信へと変わった――。

長寿ゆえに外見が変わらない主人公・マキアと、彼女が息子として育てていくエリアルの成長を軸として、どの世代の人が観ても“人生そのものの意味”を考えさせられる壮大なストーリー。そして劇場版の名にふさわしい圧倒的に美しくスケール感にあふれた“ルック”。岡田にとってエポックメイキングな作品として語り継がれるであろう『さよ朝』は、アニメーション制作を支えた見事なスタッフワークも特筆すべきものだ。ここでは、間もなく公開『さよ朝』をより深く楽しむガイドとなるべく、アニメーション制作スタッフの視点から紹介したい。

文 / 阿部美香


『さよ朝』のマキアは岡田麿里×P.A.WORKSが描いてきた女性像の集大成

一般的なアニメ好きにとって岡田麿里ワークスの代表作といえば、『あの花』や『ここさけ』が最初に思い浮かぶのかもしれないが、岡田麿里とP.A.WORKSが培ってきた深い信頼とクリエイティブの確かさは、彼女のキャリアの中でも注目すべきものだ。

遡ること10年前。岡田が本格的にP.A.WORKSとタッグを組んだのは、シリーズ構成・脚本として参加した2008年放映のTVシリーズ『true tears』から。『true tears』はP.A.WORKSが初めて制作元請けを担当した記念すべき作品でもある。さらにその後、働く女性を主人公とし、後の『SHIROBAKO』『サクラクエスト』へと引き継がれるP.A.WORKS“お仕事シリーズ”の第1弾として高く評価される『花咲くいろは』、海の世界に住む少年少女たちの初恋と地上の人々との交流を描き、現代に日本の“おとぎ話”をファンタジックに蘇らせた『凪のあすから』、強くミステリアスな女性主人公を取り巻くハードな世界観とバトルアクションに挑戦した『CANAAN』など、P.A.WORKSのアニメーション制作会社としてのストーリーの大切な場面に、岡田麿里の名前は幾度も刻まれてきた。

そんなP.A.WORKS作品において岡田は脚本家として、ヒロインの“成長と自立の物語”を女性ならではの視点でリアルな情感とともに描き続けてきた。3人の高校生ヒロインが苦難を乗り越えて頑張る『花咲くいろは』、5年間の冬眠を経て失ってしまった人を好きになる気持ちを取り戻していくヒロインと、初恋によって成長していく少年少女を描いた『凪のあすから』など、複雑な背景を純粋さと透明感あふれるポジティブさを持って成長していく女性のひたむきな姿は、『さよ朝』の主人公・マキアとも大いに重なる。

故郷を追われ仲間を失い、長寿のため10代半ばで外見の成長が止まるため、寿命の短い人間とは違う人生を送る宿命を余儀なくされた孤独を抱えた少女が、ひとりぼっちになってしまった赤ん坊・エリアルを育てることで大きな愛情を得て、立派な“母”へと成長していくマキアは、これまでP.A.WORKS作品で描いてきた女性像の集大成なのだろうか。P.A.WORKS作品における岡田が描く女性の成長には、必ず“家族”の物語が密接に絡み合っているのも、『さよ朝』へと繋がるキーワードのように感じられた。

それでいえば、女性の成長が“時の流れ”とともに語られ、それぞれの年代へとテーマを訴えかけてくるのも岡田×P.A.WORKS作品の魅力だ。例えば『花咲くいろは』では、片田舎のさびれた温泉旅館「喜翆荘」を守るストイックな祖母・四十万スイ、その祖母のもとで仲居として働くことになった元気でひたむきな高校生・松前緒花、緒花をスイに託して“仕事”と“女”に生きる強く奔放な母・松前皐月という三代に渡る女の様々な生き方に人生を考えさせられた。それが『さよ朝』では、息子・エリアルを含めた周囲の人々が、自分を残して老いていく“時の流れ”の中で、マキアは内面的に成長していく。『花いろ』では三代に渡った“女性の人生”と変わりゆく姿が、『さよ朝』ではマキアひとりを通じて表現されているのも面白い。

独自のファンタジー世界構築のため集まった超優秀な制作チーム

そして『さよ朝』を語る上で特筆すべきは、最初に述べた映像美=映画としての見事なルックだ。本作のキャラクター原案を担当したのは、岡田監督たっての希望で参加が実現したという吉田明彦。吉田明彦といえば、『オウガバトル』シリーズや『ファイナルファンタジータクティクス』、『ニーア オートマタ』などの大作ファンタジーゲームで、繊細でありながらも重厚なタッチで独創的なキャラクターを生み出してきたイラストレーター。ファンタジックな設定が魅力の『さよ朝』にはベストのスタッフフィングだろう。

また、吉田の原案を温かなキャラクター――嫌みのない可愛らしさの中に立ち上がる凛とした強さと豊かに変化する表情を伴って映像に落とし込んだのは、総作画監督とキャラクターデザインを務めた石井百合子だ。石井と岡田監督は、『さよ朝』と近いファンタジックな世界を持つ『凪のあすから』を筆頭に、岡田が関わったP.A.WORKS作品に数多く参加。岡田のキャラクター世界を最もよく知るアニメーターとしての手腕を存分に発揮している。

また岡田の作品世界を熟知し、『あの花』や岡田×P.A.WORKSの主要作品である『花咲くいろは』『凪のあすから』を監督・演出として数多く手がけてきた副監督・篠原俊哉の存在も、岡田の初監督において大きな役割を果たしていたのではないかと思う。以前、P.A.WORKSが発行した『凪のあすから 設定資料集 デトリタス』でのクリエイターインタビューで篠原は、岡田作品について「一緒に仕事をするたびに新しい引き出しを見せてくれ」、「岡田さんのシナリオを映像化するには、監督としてかなりプレッシャーを感じる」とその才能を絶賛。同誌では岡田も篠原について「篠原監督はバランス感覚も、スタッフをまとめあげる力も素晴らしい方」であり、「本当にすごいのは、監督としての大人の目線を持ちながらも、最後の最後で作家性が強いところだと思う」とリスペクトを送っていた。そのふたりの監督、副監督としての作家性の高いコラボレーションを『さよ朝』で観ることができるのは、幸せなことだ。

風景美術もハイレベル。映画ならではのスケール感・ディテールに注目して観てほしい

そして『さよ朝』の映画的な“ルック”を強く支えているのが、美術監督・東地和生が手がけた美しい背景。東地も、岡田×P.A.WORKS作品では欠かせない存在だ。満々とした水に囲まれ、ギリシャ神話や地中海の建物を思わせるような石造りの建造物が立ち並ぶマキアの故郷・イオルフ、マキアとエリアルが身を寄せるヘルム農場の雄大な田舎風景、マキアたちに苦難を与えるヨーロッパの香り漂うメザーテの王宮と王都、抑圧された暗さの中に民衆の力をあふれさせている鉄鋼の町ドレイル。どの風景も見事な美しさと強さをたたえ、繊細でありながらもダイナミックに『さよ朝』の世界観を表現している。

なかでも美しさに目を奪われるのは、表情豊かな雲が散る多彩な色合いをたたえたリアリスティックな空と、雪をいただき揺るぎなく存在する澄み切った山の風景だ。空の表現は、東地が様々な作品で称賛を浴びており、さらに水の上に立つ個性的な石造りの風景は『凪のあすから』、空気の静けさすら体感させてくれる山々の風景は『花咲くいろは』などでも絶賛されてきた。それらの景色を凝縮したかのような『さよ朝』は、東地ワークスの真骨頂といえるだろう。

『さよ朝』の鑑賞にあたっては、これらの実力あるスタッフワークにもぜひ注目してもらいたいと強く思う。

岡田麿里監督のインタビューはこちら
『あの花』『ここさけ』を経て、岡田麿里はなぜファンタジー大作を描いたのか? 監督初挑戦で臨んだ『さよ朝』誕生秘話

『あの花』『ここさけ』を経て、岡田麿里はなぜファンタジー大作を描いたのか? 監督初挑戦で臨んだ『さよ朝』誕生秘話

2018.02.18

映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』

2018年2月24日(土)ロードショー

【スタッフ】
監督・脚本:岡田麿里(『心が叫びたがってるんだ。』脚本、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』脚本、『花咲くいろは』脚本)
副監督:篠原俊哉
キャラクター原案:吉田明彦
キャラクターデザイン・総作画監督:石井百合子
メインアニメーター:井上俊之
コア・ディレクター:平松禎史
美術監督:東地和生
美術設定・コンセプトデザイン:岡田有章
音楽:川井憲次
音響監督:若林和弘
主題歌:rionos「ウィアートル」(ランティス)
アニメーション制作:P.A.WORKS
製作:バンダイビジュアル/博報堂DYミュージック&ピクチャーズ/ランティス/P.A.WORKS/Cygames
配給:ショウゲート

【キャスト】
マキア:石見舞菜香
エリアル:入野自由
レイリア:茅野愛衣
クリム:梶裕貴
ラシーヌ:沢城みゆき
ラング:細谷佳正
ミド:佐藤利奈
ディタ:日笠陽子
メドメル:久野美咲
イゾル:杉田智和
バロウ:平田広明

©PROJECT MAQUIA

映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』オフィシャルサイト