山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 27

Column

The Whole Of The Moon /ザ・ウォーターボーイズ

The Whole Of The Moon /ザ・ウォーターボーイズ

たった一つの曲が魔法の船に変わることがある。
1985年、スコットランドから聴こえてきたバンドの「響き」が22歳のミュージシャンに見せたもの。
それは、胸躍る世界への扉を開き、「永遠」へと向かう帆をふくらませるのに充分な光と風だった。
山口洋が書き下ろす好評連載!


1985年、僕は22歳。大学を卒業したところで、ミュージシャンになれる保証なんて何もなかった頃。その曲はスコットランドからひかりのように降ってきた。実際はラジオから流れてきたのだけれど、これから歩むべき道を、闇の中ではっきりと照らし出してくれた。

その曲は今までに聞いたどんな音楽ともスケール感が違っていて、ロックンロールという魔法の乗り物に乗って、永遠の場所へと飛んでいけそうだった。この胸躍る瞬間は、ひょっとしたら永遠に終わらないのではないかと思わせてくれた。架空のようで、絶妙にリアルな情景。そして「ひょっとしたら僕にもできるかも」と思わせてくれた時点で、前回、連載にしたためたジョニ・ミッチェルとは趣を異にしていた。

ひとことでいえば、奮いたたせてくれる音楽。決して闘いのためではなく、人のこころに永遠の風景を描くための。僕は一人だけれど、決して“独り”ではなかった。

ジョー・ストラマーが世界中の居場所のない若者たちを励ましたように、この曲は夢想しがちな多感ボーイズを、無軌道な自らの夢に走らせるだけの根拠のない力があった。そして感性と志が、他人だとは思えなかった。

実際、僕がデビューした後、僕の音楽をヴォーカルのマイク・スコットに伝えるために、CDを持って海を渡った男を知っている。きっと、彼もこの曲に永遠を見たのだろう。

大雑把に云って、僕の英語は今もヒドい。けれど、稀に放たれた言葉がすっとそのまま入ってきて、こころに日本語よりも豊かな情景を描くことがある。言語だけれど、言語ではない感じ。詩人の力。響き=サウンドに意味がある。この曲がまさにそうだった。

I pictured a rainbow 僕は虹を思い描いた
You held it in your hands 君はそれを手で握っていた
I had flashes 僕には閃きがあって
You saw the plan 君には計画があった

I wandered out in the world for years 僕が何年も世界を流浪していたとき
While you just stayed in your room 君はじっと部屋に居た
I saw the crescent 僕が三日月を見ていたとき
You saw the whole of the moon 君は満月を見ていた

(意訳:山口洋)

初めて聞いたときから、僕にはこんな風に聞こえた。

ユニコーン、大砲、宮廷や埠頭、トランペット、涙の大洋、ひるがえる旗、スカーフ、星空の下にあるすべての愛しき夢と希望、彗星のしっぽ、エトセトラ、エトセトラ。

バンドという夢の乗り物に乗って、フラッシュバックという名のアトラクションのように情景が変わっていく。きっと聞いた人の数だけの情景と月があるんだろう。それがいい。限定されないことが気持ち良い。

つい最近。月とともに生きる人から教えられたことがある。新月から満月までの周期、干潮と満潮、大潮と小潮、月の引力によって引き起こされるすべてのこと。月と地球との関係、女性が月に呼応し、旧暦は月の満ち欠けと完璧に合致すること。“month”のことを何故、月と呼ぶのか。僕は何にも知らなかった。

ひとことで云えば、永遠。

それは僕らの想いも飲みこんで、もっと大きな円環を描く。だとするなら、それを夢想することだって永遠だ。

最後に、この曲をミックスしたエンジニア、ミック・グロソップから直に聞いた話を。

極東の島国に棲む僕を奮い立たせた音楽がどうやって創られたのか、ロンドンのスタジオで僕は彼に尋ねた。驚いたことに、この曲は8chで録られていた。使おうと思えば24chで録音できた時代の話。わかりやすく書くなら、この曲が収録された名盤『This Is The Sea』は低予算で創られたということだ。あのスケール感が必ずしも予算に左右されないことを知って、僕はおおいに励まされた。まず必要なものは金ではないのだ。

2018年1月31日。寒さにふるえながら、僕は神秘的な天体ショーを自宅の屋上から見つめていた。“スーパー・ブルー・ブラッドムーン”。あたまの中にはオードリー・ヘプバーンが歌う「Moon River」とこの曲が流れていた。

今でも永遠を夢想する、見事な中年でいられるのは、いつだって「The Whole Of The Moon」がこころの中にあるからだろう。

感謝を込めて、今を生きる。


ザ・ウォーターボーイズ / The Waterboys:1983年、英国スコットランド・エディンバラ出身のマイク・スコットを中心に結成。バンド名はルー・リードの曲の歌詞から名付けられた。初期はNYパンク〜ニューウェーヴの影響が強かったが、1985年、ロックにケルティック・フォーク、アイリッシュ・トラッド、プログレ、ゴスペルなどを取り込んだ3rdアルバム『This Is The Sea』を発表。オルタナティブな音楽性と神秘的・哲学的な歌詞で注目を集める。「The Whole Of The Moon」は同アルバムに収録、シングルカットされてバンドの代表曲となった(1991年英国 “the Ivor Novello Award”で”Best Song Musically and Lyrically” 受賞。U2“The Joshua Tree Tour 2017”では導入曲に起用された)。この作品でアイリッシュのフィドラー、スティーヴ・ウィッカムが客演したことをきっかけにアイルランドに移住。アイリッシュ・トラッドに傾倒し、大きく作風を変えた4作目『Fisherman’s Blues』で商業的にも成功を収める。その後NYに移住し、ロック色の強い作風に回帰するが、1990年にバンド活動は休止。1997年にはロンドンに戻ってソロ名義の2作目『Still Burning』を発表。2000年にバンド再開。2011年、アイルランドの詩人ウィリアム・バトラー・イェイツの詩に曲を付けた『An Appointment With Mr Yeats』を発表、高い評価を得る。2014年にFUJI ROCK FESTIVALで初来日を果たし、2015年1月に約4年ぶりとなるアルバム『Modern Blues』をリリース。同年4月には渋谷クアトロにて単独初来日公演を行なった。2017年9月、2年半ぶりの新作『Out Of All This Blue』をリリースしたばかり。サウンドはもちろん歌詞の評価は高く、“現代のボブ・ディラン”“スコットランドの吟遊詩人”などとも称される。

『This Is The Sea』

「Whole Of The Moon」をはじめ、スティーヴ・ウィッカムが初めてフィドルで参加した「The Pan Within」など9曲を収録。想像の翼を広げる詩と躍動感漲るサウンドが全編に迸る3rdアルバム。1985年リリース。

『Out Of All This Blue』

ダブリンと東京でレコーディングされた全23曲入りの2枚組最新作。ポップ・ミュージック、クラシックR&B、カントリー、ソウル/ファンク等を盛り込んだサウンドに「3分の2が愛や恋愛、残りの3分の1が物語や見解でできている」歌詞を乗せた意欲作。2017年リリース。

著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

Photo by Mariko Miura

1963年、福岡県生まれ。1979年に結成したHEATWAVEのフロントマン。1990年にアルバム『柱』でメジャーデビュー。1995年発表のアルバム『1995』には、阪神・淡路大震災後に作られた「満月の夕」が収録され、多くのミュージシャン、幅広い世代に歌い継がれている。アイルランドの重鎮、ドーナル・ラニー、元モット・ザ・フープルのモーガン・フィッシャーら海外のミュージシャンとの親交も厚い。2003年より渡辺圭一(bass)、細海魚(keyboard)、池畑潤二 (drums)と新生HEATWAVEの活動を開始。仲井戸“CHABO”麗市、矢井田瞳らと東日本大震災後に立ち上げた福島県相馬市を応援するプロジェクト“MY LIFE IS MY MESSAGE”の活動も続けている。昨年は14作目にあたるアルバム『CARPE DIEM』と初の2枚組セルフカヴァー・アルバム『Your Songs』を携えたHEATWAVE全国ツアーに加え、リスナーからのリクエストで構成されるソロ・アコースティック・ツアー“Your Song”で全国を廻った。4月7日(土)、8日(日)には本連載がWEBからリアルにスピンアウト。山口洋「Seize the day / 今を生きる」番外編トーク&ライブとして、これまで連載で取り上げてきたアーティストについて語るとともに、最新作『Your Songs』からの楽曲、カヴァー曲や現在制作中の新曲(!?)を演奏予定。今年初の単独ライブとなる。

オフィシャルサイト

山口洋 LIVE@国立「Seize the day / 今を生きる」番外編トーク&ライブ

再生の歌=何度でも人はやり直す
2018年4月7日(土)国立 地球屋
開場:17:00/開演:18:00
チケット料金:¥4,000+ワンドリンク

You are free=運命を創る力
2018年4月8日(日)国立 地球屋
開場:15:30/開演:16:30
チケット料金:¥4,000+ワンドリンク *高校生半額/中学生以下無料(ドリンク代別途)

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