Interview

集団行動の進化の形。アルバム『充分未来』を完成に導いた、真部脩一と齋藤里菜の気づきとは?

集団行動の進化の形。アルバム『充分未来』を完成に導いた、真部脩一と齋藤里菜の気づきとは?

初期の相対性理論においてメインのソングライターを務めた真部脩一とドラマーの西浦謙助が、まったく音楽経験のなかった〈ミスiD2016〉のファイナリストである齋藤里菜をボーカルに迎えて結成した新バンド、集団行動。昨年6月に発表されたデビューアルバム『集団行動』から8ヵ月という短いインターバルで早くも2ndアルバム『充分未来』がリリースされた。ゼロ年代のバンドに大きな影響を与えた真部の先鋭的な音楽性をギターオリエンテッドなロックに集約した前作からJ-POPの新たなスタンダードを生み出すべく、よりエモーショナルに、そして、バリエーション豊かに発展を遂げた全8曲は果たして何を意味するのか? 関係が深まったことでバンドとして飛躍的な成長を遂げつつある真部と齋藤の2人に話を聞いた。

取材・文 / 小野田雄 撮影 / 冨田望

彼女は僕にとってはもの珍しい人。今回のアルバムは彼女が音楽的にどんどん洗練されていく過程が色濃く表れている

相対性理論を離脱後、バンドという集団行動をしたかった真部さん、西浦さんと、音楽経験がなく集団行動が得意な齋藤さんが、2017年に結成して間もなくリリースした前作アルバム『集団行動』をまずは振り返っていただけますか?

真部脩一 集団行動は僕がバンドを作りたいという名目で始めたプロジェクトなので、前作はバンド感ということに意識的なアルバムだったんです。ただ、ほとんどの楽器を僕が弾いていて、宅録に近い形でバンド感を追い求めていた結成当初から趣向を変えたわけではなく、あくまで結果論として、サポートメンバーが加わったことによって、自然体かつ複数人で演奏する意味が膨らんでいったと思いますね。

真部脩一

齋藤さんはご自身の成長に関して、いかがですか?

齋藤里菜 音楽経験は1年半くらいになると思うんですけど(笑)、自分でも感じるくらい成長したと思いますね。前作はディレクションしてくださるレコード会社のディレクターさんと真部さんのオーダーにどうやったら応えられるんだろうとひたすら考えてはいたものの、自分がどう歌いたいのかというところまで考える余裕はなかったんです。でも、今回のアルバムのレコーディングが始まって、もちろん前作同様のディレクションがあるわけなんですけど、自覚できるようになった自分のいい部分を使って、そのオーダーに応えようと考えられるようになりました。

真部 齋藤さんは体育大出身で集団行動が得意という名目で加入したんですけど、実は得意ではなかったというか(笑)、彼女は要するにスポーツエリートだったので、体育会というフォーマット上での集団行動は超得意だったんですよ。でも、音楽制作というフォーマット上での集団行動、意思の疎通や情報共有、自分のやるべきこと、やりたいことを見つけ出すのに、すごく時間がかかったし、本人もすごく悩んだみたいなんですよね。そんな彼女は、僕にとってはもの珍しい人であって、まったく知識や経験がなく、音楽で感動した経験もないまま音楽の世界に入ってきたことが面白くもあり。ただ、世間一般にはそういう人はたくさんいるわけですから、齋藤さんはその代表でもあって、今回のアルバムではそういう彼女が音楽的にどんどん洗練されていく過程が色濃く表れていると思うんですけど、そこに至るまでの苦悩は、僕には計り知れないものがあるので……齋藤さんの口から説明してもらえる?(笑)

齋藤 そのことを話し始めたら泣いてしまうかもしれないんですけど(笑)、集団行動のワンマンライヴが昨年9月にあって、その一週間くらい前に3日ほどメンバーと音信不通になりました(苦笑)。といっても、リハーサルには行ってたんですよ。でも、リハがない日にメンバーから電話がかかってきても出ることができなくて。当時を振り返ると、1stから2ndの間に自分が成長しなきゃいけないという想いはありつつも、どうしたらいいのかわからなくなって迷走していたうえに、自分で抱え込まなくていいプレッシャーまでも抱え込んでしまっていたんです。それで歌うことが楽しくなくなってしまって、「自分が表現したいと思ってないのに、できるわけないじゃん!」って、自分のことを責めたり。メンバー含め人と話せなかった期間に自分自身とたくさん話しました。自分が本当にやりたいこと、どうなりたいのか。今の自分がどんな精神状態なのか。それをまずメンバーに伝えてみよう、と思って。そのときの自分の精神状態をメンバーに打ち明けるのは「甘えるな」って言われるかな、とか思ったりして少し怖かったけど、親身になって聞いてくれたし、「一緒に頑張ろう!」って言ってもらえたので心が軽くなりました。その一件があってから、メンバーと話す機会が増えたので、結果的には良かったんですけど……今思うと「あれは何だったんだろう?」と思ったりもしますし、自分にとっては必要な時間だったんだなとも思います。

真部 僕もドラムの西浦さんもものを作るうえでなるべくアーティスティックな態度を取らないようにしているんですね。というのも、あくまで商品に帰結する形でものづくりをしたいと思っているので、そういう音楽を作るうえでアーティスティックな態度が邪魔になってしまうんです。ただ、そういうスタンスでいたはずなのに、まったくアーティスティックでない齋藤さんが加わったときに、今までの自分たちがどれだけクリエーションの世界における共通言語に頼ってきたかを痛感させられたというか、齋藤さんとコミュニケーションを取ることができなくて。集団行動はそういう歪な関係性から活動が始まったので、ボーカリストとしての彼女と音楽素人の彼女をどういうバランスで扱っていいのかわからなかったということもあって、脱素人してもらうべく、言いたい放題言っていた結果、齋藤さんにかかるプレッシャーが大きくなってしまい、メールの返信の文章がどんどん短くなっていき……(笑)。

齋藤 たしかに(笑)。当初は絵文字を使ってメールを送っていたりもしたんですけど、そのうち、絵文字を使う気にもならなくて。

真部 そうだね、絵文字を使ったら使ったで「読みづらいわ!」って言ったりとかもしてたんで(笑)。

(笑)そんな感じだと、齋藤さんがどうすればいいか余計にわからなくなっちゃいますよね。

真部 それで彼女が消極的になっていくんですけど、さらにそれに対して、ダメ出しをしたり、バトルが繰り広げられたという(苦笑)。

齋藤 本当、あのときは負の連鎖でしたよね。

真部 その負の連鎖を乗り越えて出来たのが、今回のアルバム『充分未来』なんです(笑)。

齋藤里菜

その追い詰められた状態を超えた先で、齋藤さんが見出した自分のいい部分というのは?

齋藤 声の質ですかね。だいぶ聴きやすくなったと思います。1stでは、自分の声質もわかっていなかったし、オーダーに対して、どうすれば応えられるのかもわからなかったんですけど、2ndのレコーディングを通じて、そうしたことが自分でもわかってきましたし、音域もだいぶ広がりましたね。

真部 体育会ノリで、がむしゃらだったよね。

齋藤 そうですね。考えないで、とりあえずやろう!って思ってました。

真部 「練習してるの?」って聞くと、即答で「してます!」って逆ギレ気味に返ってきて(笑)。でも、どういう練習をしているかというと、帰り道に大声で歌っているらしく、この間も職務質問されたんでしょ?(笑)

齋藤 そうなんですよ! 行き帰りに自転車に乗りながら熱唱するのがストレス発散にもなっているし、自分にとっては発声練習だと思ってもいるんですけど、歌いながら帰ると職質されるんですよ(笑)。この間なんか、一週間に3回ですから。

(笑)完全に不審者扱いじゃないですか。

齋藤 しかも、パトロール中のパトカーだったりするんですよ。車の中にも聞こえるのかと驚きましたし、白バイにも止められましたね(笑)。まぁ、それでもめげずに歌ってますけど。

真部 その心意気! これからの齋藤さんの成長は、スマートな練習方法をいかにして見つけるかだね(笑)。

齋藤 ですね。捕まらない練習方法を(笑)。

そうした試行錯誤や葛藤がありつつ、齋藤さんの歌はどの曲を聴いても、まったくブレがないところに大きな特徴がありますよね。

真部 そう、もともと彼女の歌はボーカロイド的というか、不確かなものを受けつけない声なんですよね。ストイックに訓練を続けてきたので、正確性はどんどん上がっているんですが、逆に曖昧な音程にならざるを得ない箇所では、それが味にならずにミスに聴こえるっていう(笑)。だから今回のアルバムでは、齋藤にとって不慣れな、いわゆる“不確かな”要素、人間味、自意識みたいなものをエッセンスとしてどのくらい乗せられるかというのが挑戦でした。結果、すごくバランスよく仕上がったと思います。

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