モリコメンド 一本釣り  vol. 53

Column

MAMALAID RAG 最新作『GOODBYE』はまちがいなく、現代の音楽シーンにおける最上のポップス・アルバム

MAMALAID RAG 最新作『GOODBYE』はまちがいなく、現代の音楽シーンにおける最上のポップス・アルバム

日本における上質なポップスの作り手といえば、MAMALAID RAGを挙げないわけにはいかない。1995年に結成、2002年にミニアルバム「春雨道中」でメジャーデビューしたママラグ。表題曲「春雨道中」は全国のFM曲でパワープレイされ、シュアな耳を持つ音楽ファンに支持された。同年発表された1stフルアルバム『MAMALAID RAG』も音楽専門誌などで高評価を獲得。当時23才だったソングライターの田中拡邦は“若きポップマエストロ”として注目されることになった。当初は3ピースバンドとして活動していたのだが、ドラマー、ベーシストが脱退、2007年以降は田中のソロ・バンドとなっている。

バート・バカラック、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、ジョアン・ジルベルト、大瀧詠一などの影響を感じさせる、つまりロックンロール、ブルース、ボサノバ、AORなどのエッセンスをたっぷり含んだ楽曲、そして、卓越した演奏技術とアコースティックな手触りのサウンドメイク。ママラグが生み出すオーセンティックなポップミュージックの魅力は、前作『So Nice』以来、約3年半ぶりとなるニューアルバム『GOODBYE』からも存分に体感することができる。作詞・作曲・編曲はもちろん、ギター、ベース、鍵盤を演奏、レコーディングエンジニア、ミックスも手がける田中のプロダクションはさらに向上し、彼自身が「これまでの集大成とも言える、会心の作品」というほどの仕上がりになっている。その要因は、田中自身のプロデュース・ワークの進化。ここ数年のライブの充実ぶりに加え、ミクロとマクロの両方の視点をバランスよく持ちながら制作に臨めたのが最大のポイントと言えるだろう。

「演奏のライヴ感に加えて考えたのが、常に全体を俯瞰で監視してアルバムを仕上げる、ということです。20代の半ばからずっとそれを訓練していたのですが、それでもどうしても実際の制作となると、ミクロに入り込んでしまうことが多かったのです。それが今回はマクロに視点を固定しながら、ミクロを作り込むことに成功した、と言う実感があります。そういった意味で、デビューからこれまでの一つの到達点・集大成と思っています」

美しい疾走感をたたえたグルーヴと洗練の極みというべきソングライティングがひとつになったポップチューン「Bon Voyage!」、60年代ポップスの粋を現代的なサウンドで描き出した「素敵なイルサ」、70年代サザンロックの雰囲気を感じさせる「都会の楽園」、いぶし銀のブルース・フィーリングに溢れた「三日月の夜」などを収めた本作。まず印象に残るのは、心地よい揺れを感じさせるバンドサウンドだ。コンピューターで完璧に制御された音楽ばかりが聴こえてくる現代において、楽器本来の音、演奏者の息使いが感じられるような『GOODBYE』のグルーヴはきわめて貴重。また、豊かな奥行きを持つサウンドメイクも、楽曲と演奏の魅力をしっかりと引き立てている。

「10曲中6曲のリズム同録のトラックでは、個々の楽器の”ズレ”が生み出すライヴ感を大事にしようと考えて制作しました。ドラム(伊吹文裕)、ベース(田中)、キーボード(清野雄翔)の3人での同時録音ですが、当初の計算通りのズレ方・位置関係に録音でき、躍動感が出たと感じています。これまでの作品との音質的な差異は明確に感じられると思いますが、その理由の一つは、現在所有する機材の扱いがこれ以上ないほど完全になったことです。こればかりは経験によるところが大きく、数多くのこれまでの実験の成果が反映されたと考えます。もう一つは、マスタリングエンジニアの巨匠、田中三一さん(佐野元春、JUDY&MARY、BOOM BOOM SATELLITESなどの作品を手がけてきたマスタリングエンジニア)と共同で行ったミキシングです。私がベーシックのミックスを作り上げ、田中三一さんがそれを修正、さらに私が微調整という一つの理想とも言えるプロセスで作り上げました。創作者の私の意向と、超・客観視の田中三一さんの職人技術的視点の両方が高音質を生んだと思っています。高音質と言っても、パッと聴いて派手とか、いかにもワイドレンジとかそういうものではありません。グッと深みがあり、飽きのこない本当の意味での上質な音に仕上がっていると思います」

さらに特筆すべきは、深度を増した歌詞の世界。『GOODBYE』というタイトルが示唆する通り、アルバムの根底には“別れに伴う悲しみ”が流れている。客船の結婚式を見送りながら別れてしまった恋人を想う表題曲「Goodbye」。行き先の違う飛行機に乗った“君”と、空港を立ち去れないでいる“僕”が詩情豊かに描かれる「エアポート」。表面的な刺激やギミックに頼ることなく、平易な言葉で豊かな広がりを持った歌を綴るソングライティングは、まさにポップマエストロと呼ぶにふさわしい。30代後半になり、豊潤な表現力を身に付けたボーカルも素晴らしい。

“悲しみも さよなら”と歌われる「Good Night」でエンディングを迎える『GOODBYE』は、今現在、MAMARAID RAGのオフィシャルHP(www.mamarag.com)、ライヴ会場のみで販売。たとえば大瀧詠一の『A LONG VACATION』、キリンジの『3』を好きなリスナーは、絶対に手に取るべきだと思う。『GOODBYE』はまちがいなく、現代の音楽シーンにおける最上のポップス・アルバムなのだから。

文 / 森朋之

ライブ情報

2月24日(土) 東京 二子玉川 KIWA
2月25日(日) 東京 渋谷 SONGLINES

オフィシャルサイトhttp://www.mamarag.com/

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