Interview

北原里英ー女優として覚醒。極限状態で挑んだ白石和彌作品『サニー/32』の現場とは。

北原里英ー女優として覚醒。極限状態で挑んだ白石和彌作品『サニー/32』の現場とは。

’13年に公開されるやいなや同年の国内映画賞を席巻した『凶悪』でブレイク。その後も『日本で一番悪い奴ら』『牝猫たち』『彼女がその名を知らない鳥たち』と快進撃を続ける白石和彌監督の最新作『サニー / 32』がいよいよ公開される。
かつてネット社会で神格化された殺人犯“サニー”。事件から14年目の夜、平凡な女性・赤理が、サニーの熱狂的なファンによって拉致監禁されたことを発端に、予想外の事件が立て続けに起こってゆくーー。
そんな現代社会の歪んだリアルをこれでもかとブチ込んだ、カオスとバイオレンスの極北とも言えるような本作において、ヒロイン・赤理を演じているのが、今春「NGT48」から卒業することを発表した人気アイドル、北原里英。
「NGT48」の地元・新潟での極寒の雪の中、ピエール瀧、リリー・フランキー、門脇麦…といった一癖も二癖もある俳優陣に囲まれての主演ーーというプレッシャーをバネに爆発的な演技を披露。見事、女優として覚醒した彼女に「2018年もっともヤバい」と噂の本作について語ってもらった。

取材・文 / 井口啓子 撮影 / コザイリサ

雪山を逃げるシーンは過酷すぎて、撮り終わったときに泣いてしまった。

まず「白石監督の映画にきたりえが!?」と驚いた人も多いと思うのですが、本作の話が決まった経緯について教えていただけますか?

実は私、もともと白石監督のファンだったんです。『凶悪』を観て、そのときは監督が白石監督だということは意識せず観ていたのですが、すごい!と。何故でしょうね。もともと明るくてキラキラした映画よりは、暗い、血が出るようなエンタメ作品が好きでしたし、生々しい感じに惹かれたというか…。
経緯としては、三年前に秋元康先生がオールナイトニッポンの中でサプライズ発表をするという企画がありまして、私へのサプライズが「北原で主演映画を撮ろう」というものでした。それで発表の後に「どんな映画が好きなの?」と秋元さんに聞かれまして、その頃観た映画の中で一番印象的だった作品が『凶悪』だったので、『凶悪』のような映画に出たいです!と即答しました。

それはすごい! まさにビンゴで夢を実現されたわけですが、その時。ラジオを聞かれていたファンの方は、北原さん主演映画がこんなものになるとは想像しなかったでしょうね。

そうですね。ラジオでの発表から月日が経ってしまいましたが、最高の形で実現できたのは嬉しかったですね。でも、今一番お忙しい白石監督の勢いを止めてしまってはいけないというプレッシャーがありましたし、台本の1ページごとに事件が起きているのではないかと思うほど、さまざまなことが次々に起こるスリリングな物語なので、興奮すると同時に、自分にできるのかな?と不安もありました。

©2018 『サニー / 32』製作委員会

撮影に入る前に、なにか準備とか役づくりはされましたか? 

赤理という女性についても、台本を読んだだけでは正直どんな子なのかわからず、事前に準備しておくべきことはありますか?と白石監督にお聞きしました。白石監督は「何も準備しなくていいですよ」と仰って、助監督の方も「いや、これはほぼ北原さんだと思ってもらって大丈夫なので」と仰いました。その時、深く考えず臨もうって腹が決まりました(笑)。
実際、撮影も気持ちが入りやすいように、ほぼ順撮りで進めて下さったので、撮影が進むにつれて、自然に赤理としてふるまえるようになりました。私が赤理になったというよりは、赤理がこちらに寄ってきてくれたような感覚です。
この『サニー / 32』はオリジナル脚本ではありますが、実際にあった事件がモチーフとなっています。当初、私はそのことを知らず、撮影中に共演者との話で知ったぐらい、余計な知識や情報をまったく入れずに臨んだので、役を演じてはいましたが、その場の自分の気持ちを大事にできたのではと思います。

©2018 『サニー / 32』製作委員会

今回は共演者もピエール瀧さん&リリー・フランキーさんの『凶悪』コンビを筆頭に、強烈な存在感を持つ方ばかりで、かなり刺激を受けられたのでは…?

撮影中は皆さん、役との向き合い方が素晴らしいと感じました。皆さんの動きを拝見しながら、自然に勉強させていただいた気がします。リリーさんは撮影後にも「今日も1日おつかれさまでした。よくがんばりましたね」とメッセージを毎日のように下さって。他の共演者の方々も様々なお声を掛けてくださり、本当に周りの方々に支えていただいた現場でした。

しかし、雪に閉ざされた廃屋や海辺でのリンチシーンは、肉体的にも精神的にも相当ハードだったのでは?

とてもハードでした。高いところから飛び降りるようなシーンもスタントなしで演じましたし、海辺のシーンでは大きい雹が横なぐりで降ってきて…、人生でいちばん辛かったです。特に薄い衣装で雪山を逃げるシーンは過酷すぎて、撮影が終わったときに泣いてしまいました。寒くて泣いたのは初めてでした(笑)。

職業的な意味でのアイドル映画ではなく、偶像・虚像的な意味でのアイドル映画

まさに壮絶な現場だったわけですが、あの荒涼とした風景も鬼気迫る人間模様も、この環境でないと撮れないものだったんでしょうね。

そうだと思います。撮影が終わったときに白石監督が「『凶悪』の5倍辛かった」と仰っていたのも嬉しかったですし、完成した映画を観て、新潟で撮影したことに意味があるシーンばかりで本当に頑張って良かったと思いました。過酷な状況にみんなで立ち向かっていたことで、共演者の方々とも一体感が生まれて。撮影は三週間ほどだったのですが、その間、東京には戻らず缶詰め状態で、だんだん家族のような気持ちが芽生えてきて…。まさに映画の世界とリンクしていたので、そういう意味でもリアルに撮れたのではないかと思います。

©2018 『サニー / 32』製作委員会

そういう虚実皮膜な構造は、サニーとして神格化されていく赤理と実際にアイドルである北原さんにも重なりますよね。

どうなのでしょうね…。唯一、理解できると思ったのは、赤理が何も起こらない日常の中でストーカーの被害に遭い、気味が悪く怖いのですが、どこかでその非日常をワクワクしている。いざ自分がその立場になったら絶対に嫌なのに、どこかで変なことが起きないかなという、そういった感覚は私にもありますし、おそらく人間誰しも持っているものなのではと思います。赤理がサニーとして覚醒したのは、非日常的な状況がそうさせたのかもしれませんが彼女自身、心のどこかでそういう存在になることを憧れていたのだと思います。
現実離れした話ではあるのですが、人間誰しも持っている潜在的な欲望を描いたという意味ではリアルな映画だと思います。今やネットの方がリアルだという方も多くて、こうした事が起こらないとも限らないですし、他にも今の現代社会が持っている問題が詰め込まれた作品だと思うので、特にスマホ世代の若者に観ていただきたいですね。

白石監督は本作を「アイドル映画」と公言されてますが…?

撮影前から白石さんは「アイドル映画を撮ろうと思っているんだよね」と仰っていました。私は『凶悪』が好きなので、これがアイドル映画だとはまったく感じなかったのですが、完成した作品を観て、これは職業的な意味でのアイドル映画ではなく、偶像・虚像的な意味でのアイドル映画なのだ!と腑に落ちました。今はネット上で誰でも有名になれる時代ですし、確かにこれは現代の、白石和彌氏によるアイドル映画だなと。

©2018 『サニー / 32』製作委員会

まさに白石監督にしか撮れない、壮絶なアイドル映画だと思います。北原さんにとっても重要な女優開眼作になったのでは?

そうですね。女優の仕事は、普段絶対に経験できないことが、経験したくない(笑)ことができるのがすごいなと思いますし、私自身、みんなで集まって何かを作り上げることが好きなタイプなので、映画の現場の雰囲気はとても好きです。今回でちょっとやそっとのことでは辛いと思わなくなったと思うので、いいものを作るために自分がしっかりがんばれるような女優になれたらなと思います。

映画『サニー / 32』

2018年2月17日全国公開

北原里英
ピエール瀧 ・ 門脇 麦 ・ リリー・フランキー
駿河太郎 音尾琢真(特別出演)
山崎銀之丞 カトウ シンスケ 奥村佳恵 大津尋葵 加部亜門 松永拓野 蔵下穂波 蒼波 純

スーパーバイザー:秋元 康
脚本:髙橋 泉
音楽:牛尾憲輔
監督:白石和彌
主題歌:「 pray 」牛尾憲輔+田渕ひさ子
オフィシャルサイトhttp://movie-32.jp
©2018 『サニー / 32』製作委員会

北原里英

1991年6月24日生まれ。愛知県出身。 秋元康プロデュースによるアイドルプロジェクト「AKB48」のメンバーとしてデビュー。同グループでの約7年の活動を経て、’15年より、新潟を活動の拠点とする「NGT48」チームNⅢのキャプテンを務める。女優としても多くの作品に出演しており、主な映画出演作品としては、『グラッフリーター刀牙』(12)、『ジョーカーゲーム』(12)、『任侠野郎』(16)などがある。

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