Interview

受け止め方は人それぞれに─。深川麻衣と山下健二郎が語る、『パンとバスと2度目のハツコイ』ならではの深みと味わい。

受け止め方は人それぞれに─。深川麻衣と山下健二郎が語る、『パンとバスと2度目のハツコイ』ならではの深みと味わい。

ルーティーンだった日常にもたらされる、初恋相手との10年ぶりの再会という非日常。思いがけない出来事をきっかけに、各々の〝こじらせた想い〟が交錯していくさまを描き、昨秋の第30回東京国際映画祭でも注目を集めた『パンとバスと2度目のハツコイ』が、満を持して封切られる。ひとひねり加えた恋愛映画の名手こと今泉力哉監督によるオリジナルストーリーを立体化せしめたのは、乃木坂46での活動を経て女優として独りだちした深川麻衣と、三代目 J Soul Brothersの一員であり、演技やラジオなど幅広く活躍中の山下健二郎の2人。〝今泉ワールド〟を生きた日々、また、その世界観に触れて感じたことなどを、ざっくばらんにトークしてもらった。

取材・文 / 平田真人 撮影 / 荻原大志

いっさいネガティブなことを口にしなかった深川麻衣の心意気と山下健二郎の〝素の喋り〟が撮影現場のいい雰囲気を生んだ

まずは今泉力哉監督の脚本と、今回演じられた役柄についての印象からお聞かせください。

深川 全編を通して何か大きな事件が起きるというわけではありませんが、日常の一部分を切りとったような温かさが漂う今泉監督が撮る映画の雰囲気が、元々すごく好きでした。なので、こうして参加することができて、本当にうれしかったです。〝パンバス〟の脚本も…やはり観てくださっている方が自分自身の経験であったり、日常の出来事に当てはめて考えていただけるのではないかな、という印象を受けました。
私の演じたふみについては…プロポーズされるくらいまで付き合っていた男性がいたとしたら、私なら喜んで受けるなと思ったんですけど(笑)、ふみは一つ一つ立ち止まって、『これでいいのか?』と考えちゃう女の子なんですよね。その自信のなさや空回りしているところはすごくかわいらしく感じましたし、ちょっと自分に似ている部分もあるなと思いました。たとえば、何か凹む出来事があったとしても、わりとお風呂に入ってご飯を食べて寝れば、次の日にはリセットできているタイプではあるんですけど、傍から見たらどうでもよさそうなことを気にして考えちゃうところとか、「あ〜、わかるなぁ」って。

山下 まず台本を読んだ時に、すごく独特な世界観だなと思いました。それから今泉監督の作品を何作か拝見して、『あ、こういう雰囲気なんだ』とつかみ始めて。今までこういったテイストの作品に出演したことがなかったので、僕の中ではゼロからのスタートになりました。そういう意味では、挑戦でもありましたし、参加したことによって自分が成長したことを実感できるくらい、育ててもらった作品だなと感謝しています。
特に、今泉監督と一緒にいろいろ話し合って、湯浅たもつという人間をつくっていけたことが非常に今回うれしかったです。というのは、たもつという男の理解できない部分と共感できる部分というのが、ガッツリ僕の中で分かれているからなんです。

それはたとえば、どういった部分でしょう?

山下 まったく理解できないのは、自分との子どもまでいたのに浮気をして、それが原因で離婚して、ほかの男とどこかへ行っちゃうような奧さんへの思いを断ち切れないというところです。僕の中ではゼロに等しくて(笑)。そこは最後の最後までちょっと僕を悩ませた部分だったので、監督と「どうなんですかねぇ…」って言いながら、つくっていった部分でした。でも、たもつという人物像そのものはすごく好きです。ほっこりしていて、結構抜けていてかわいらしくおちゃめな部分もあって、そこは共感できた部分でしたし…僕もこういう性格かな、なんて思ってもいました。

ふみとたもつは、ともに青春を過ごした中学時代から10年後、いろいろな経験を経てから再会するわけですが、その歳月を心の中で埋める作業を、それぞれどのようになさったのでしょうか?

深川 ふみの日常は、家と勤めるパン屋との往復で、だいたい生活のリズムが決まっているんですね。そこへ、たもつという初恋の相手が現れたことで、非日常が加わったという部分があって。気持ちの変化もたくさん起きただろうし、もっとたもつのことを知りたいって、どんどん気になっていったんだろうなと思うんです。撮影はシーンの順番どおりというわけではなくて、結構まちまちだったんですけど、休憩時間も山下さんとお互いの役についてお話をしていたので、自然な流れで最後のシーンまで撮ることができたと感じています。

山下 たもつも、ふみと再会した時はビックリするわけですけど、居酒屋でいろいろと──実は中学を出てからこういうことがあって、というふうな話をしていたら、その空白の時間に起こったことが想像できて、アッという間に10年間を埋められたという感覚があったんです。
なので、ふみとの距離を縮めることに関しては、あまり時間が掛からなかったんですよね。ちょっと話はズレちゃうんですけど、実はこの作品の撮影の後に、リアルで小学校2年生の時に好きだった初恋の人と久しぶりに再会する機会があって。2人きりではなくて何人か同級生もいたんですけど、実際あまり変わっていなかったんですよ。何十年空いたとしても、男女問わずに同級生として濃い時間を過ごしていた感覚というのは、すぐによみがえるというか…当時の感覚って、ずっと残っているんだな、人間ってそういうところがあるんだな、ということを、〝パンバス〟の後だっただけに、なおさら実感したんです。

そんな2人=ふみとたもつがパンをつくりながら会話しているシーンで、たもつの言葉に動揺したのか、ふみがチョコでパンに描いている円が微かに歪むんですよね。あれは今泉力哉監督の演出だったのか、あるいはお2人のお芝居から生まれたのか…まずはそこから振り返っていただければと思います。

深川 あれは演出ではなくて、本当にぶっつけ本番で描いていて微かに揺れてしまったんです。たもつがいきなり別れた奧さんの話をし始めたので…和やかな空気が微妙に変わるんですよね(笑)。果たして、ふみの気持ちに気づいているのかいないのか…たもつは鈍感なところがあるので、平気で奧さんの話をしてくることに対する動揺が、あのシーンでは見えたんじゃないかなと思っていて。

いわゆる芝居を超えた芝居だったんですかね?

深川 はい、意図していなかったんですけど、手元が揺れてしまって。

山下 うん、そうだったねぇ。

山下さんはあの時、ふみの動揺をたもつとして感じていたんでしょうか?

山下 そういうところにも気づいていましたけど、たもつとしても、実はいっぱいいっぱいだったんですよね。彼は彼で、ふみに自分の奧さんに対する思いを聞いてほしいという(笑)。僕自身、そのマインドになっていたので、どちらかというと自分の話を聞いてくれというモードに入っていたんです。

今泉監督の演出は基本的に緻密なのか、大らかな感じなのか…どちらでしょう?

深川 私たちが考えてきたことや、役者さんから出るアイデアを信頼してくださる監督という印象があります。わからないことや疑問に思っていることを質問すると、本当に丁寧に答えてくださるし、語り口は物静かなんですけど、内なる情熱を燃やしていらっしゃるという感じがありました。

山下 まず自分が考えてきた芝居をしてみせるんですけど、「たもつという人間は、山下くんの中でどういう人物なの?」という感じでディスカッションをして、2人とも納得した上で撮る、といったカタチが多かったですね。1回撮ってみて、「違うバージョンも、もらっていい?」ということもあったりして、結構いろいろとパターンを変えて芝居をしました。

©2017映画「パンとバスと2度目のハツコイ」製作委員会

となると、本編をご覧になって「このテイクを使ったんだ!」と思ったりも?

山下 核となるシーンは結構何パターンも撮ったので、「あ、こっちのテイクが監督の正解だったんだ」と、観ながら思うところが多々ありました。あと、今泉監督は長回しで撮ることが多いので、〝間〟をすごく大切にされていて。そこは僕も共感しました。リアルに日常生活を考えてみると、「会話ってこのぐらいのスピードだよなぁ」とか「間が少しあるよなぁ」と思いましたし、そこのリアリティにこだわっていらっしゃったので、演じていてもすごく気持ちよかったです。ただ、長回しはセリフを何ページ分も覚えないといけなかったから、ちょっと苦労しましたけど(笑)。

ちなみに撮影期間中、お互いにどんな印象を抱きました?

山下 深川さんは現場でネガティブなことを言わないんですよ、いっさい。そこがスゴイなと思って。

深川 いやいやいや…(照れる)。

山下 そこは本当に、ちゃんと見習わないとなと思いました。それと…パン屋さんって実際、朝が早いじゃないですか。でも、ふみには夜明け前だからこそ味わえる、彼女だけの特別な時間があって…お金では手に入らないプライスレスな体験をしている。そういう部分を、深川さん自身もすごく持っているような気がするんですよね。なので、この仕事をしている時の深川麻衣という人は、本当に自分の好きなことをやっているんだなと感じたし、ふみとリンクしているようにも思えました。

深川 さっきもちょっとお話したんですけど、たもつはちょっと鈍感で抜けているところがあるというか、相手がどう思っているか考えずに自分の思いを素直に言ってしまうシーンがいくつかあって。あの…こんなことを言ってしまうとすごく失礼なのかもしれないですけど、大室山に2人で行ったにもかかわらず無意識に自分の思いをしゃべって、ふみを怒らせるシーンで、「山下さんにも、こういうところあるんじゃない!?」って思っちゃったんですよ(笑)。

山下 ワハハハハ! あ~、でも、あるかもしれない(笑)。

深川 もちろん、たもつとして口にしたセリフなんですけど、結構本気でムカッとしたんです。初恋の相手に「大室山まで一緒に行こう」って言われたら…ちょっと期待するじゃないですか、心の中で。何かいい雰囲気なのかなって。でも、いきなり、別れた奧さんが今でも好きだなんて言うから、『何なんだ、この人!』って…。ただ、フォローするわけじゃないですけど、山下さんご自身は現場を盛りあげようとする感じじゃなくて、本当にそのまま口にした言葉が場を和ませることが多々あったので、それは天性のものでいらっしゃるんだなって思いました。あ、もちろんイイ意味で、です(笑)!

山下 最後のひと言で救われました(笑)。でも、そんなふうに思っていてくれたなんて…ありがたいです。

©2017映画「パンとバスと2度目のハツコイ」製作委員会

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