Interview

松室政哉 天性のシンガーソングライターは多彩なメロディにのせて何を描こうとしているのか?

松室政哉 天性のシンガーソングライターは多彩なメロディにのせて何を描こうとしているのか?

松室政哉の作る歌の主人公はみんな、歌の中でしっかり生きている。それはおそらくは彼が天性のシンガーソングライターだからなのではないだろうか。繊細さと表情の豊かさとが共存する歌声、広がりや奥行きを備えた印象的なメロディ、心理描写と情景描写とが見事にリンクした歌詞も独特の輝きを放っている。2017年11月にメジャー・デビューした彼の2ndEP「きっと愛は不公平」のタイトル曲もせつなさの極致と言いたくなる曲となった。失恋した主人公の哀しみや痛みがじわじわと染みてくる。“きっと愛は不公平だ”というフレーズはあまりにも痛切だ。表題曲のMVも彼自身が監督をして制作されている。新しい才能がこれからの音楽シーンを彩っていくことになるだろう。

取材・文 / 長谷川誠 撮影 / 笹原清明

基本的にはまず自分が楽しみながら作ることが大事だなと思っています。

音楽に目覚めたのはいつですか?

小学校4年生くらいの頃、たまたま親が持っていたサザンオールスターズの『KAMAKURA』というアルバムのカセットテープをかけた時に、体の全細胞が騒ぐような感覚になったんですよ。それからサザンの音楽を聴きあさるようになって、自分も音楽を作りたいという気持ちが芽生えてきました。それでおもちゃの電子ピアノを買ってもらい、見よう見まねで曲を作るようになりました。

その当時、どのように曲を作っていたのですか?

電子ピアノを弾きながら、適当に歌って、録って。ラジカセを2台用意して、録音したばかりのテープを流しながら、机を叩いている音を入れたり。それがアレンジの楽しさを知る原点だったのかもしれません。それからはコンスタントに曲を作っていました。

音楽の道に進もうと思ったきっかけは?

中3のときに転任してきた数学の先生が餃子大王というバンドをやっていた人で、僕が曲作りをしていることを知り、バンドをやるように勧めたのがきっかけですね。僕を含めて4人のメンバーを集めてバンドを結成して、夏には“TEEN’S MUSIC FESTIVAL”という大会に出場して、全国大会に行きました。その後、バンドは解散したんですが、音楽はずっと続けていました。もともと自分ひとりでもやってみたいと思っていたので、アコースティックギターを持って歌うようになりました。

曲作りで大事にしてるのはどんなことですか?

基本的にはまず自分が楽しみながら作ることが大事だなと思っています。自分がグッと来る感覚を信じて作っているところがありますよね。そこがなくなったら、作る意味がないですから。

詞とメロディ、どっちを先に?

曲が先で歌詞はその後ですね。まず鍵盤とパソコンの前に座って、デモを作るんですよ。昨日はこういう曲を作ったから、今日はこういう曲を作っていこうって、ある程度、イメージしながら作っていく。歌詞はいつもギリギリですね。スタジオでレコーディングするようになってからも、歌録り直前まで歌詞を書いていることが多いです。

松室さんの曲はどれも情景や映像が浮かんできます。映画好きとのことですが、映画に影響を受けているところはありますか?

映画の影響は大きいと思います。自分の唯一の趣味が映画なんですよ。ドラマティックなことって、日常ではそんなには起こらないじゃないですか? でも映画の中ではいろんなドラマが展開されていくところが魅力ですよね。ドラマを探すというのは曲作りにも通じるところがあると思います。実際にこの映画に自分なりに主題歌を付けるとしたら、どんなのがいいだろうって、考えながら作ることもあるし、結末でもう1回、冒頭のシーンに戻るとか、映画のカメラ回しみたいな感覚で歌詞を書くこともあります。

好きな映画監督は?

ウディ・アレンが好きです。サブカルなものをスタンダードにしたのも彼が最初だと思うんですよ。テーマはシリアスで社会問題を扱っているのに、コメディとして描いて、良質なエンターテインメントとしても成立させていくところも見事ですよね。あの歳になった今も、1年に1本くらいのペースで作り続けているところもすごい。そうしたスタンスも含めて、ウディ・アレンから様々な影響を受けています。

昨年の11月にメジャー・デビューしたわけですが、意識や曲の作り方で変化してきたところはありますか?

メジャーの舞台に立ちたいという思いはずっと持っていたので、さらに気合いが入ったところはあるんですが、自分がいいと思ったものを作り続けるという曲作りの基本は変わりはないですね。

男泣きの美学みたいなものを描きたいという思いがあるんですよ。

今回リリースされる2ndEP「きっと愛は不公平」はどんなきっかけから生まれた曲なのですが?

曲自体は1stEP「毎秒、君に恋している」と同じ時期に作っていました。その時点でこれは悲しい歌になるなって感じていて、歌詞を書く最初の段階で、“きっと愛は不公平だ”というサビのワンフレーズだけは頭の中で鳴っていたので、この人はなんでそう思ったんだろうって考えて、そこから広げていきました。前作は恋をした瞬間の気持ちを歌った曲で、次がこんなに悲しい歌でいいのかなってちょっと思いましたけど、“愛は不公平だ”という言葉があまりにも強く鳴っていたので、そのフレーズをガイドとして作っていきました。

この曲が説得力を持っているのは、主人公の気持ちに深く踏み込んで描いているからなんだろうなと思いました。

そういうところに気持ちを持っていって書くのは大変ではありましたけど、内面を深く掘り下げようとは思っていました。敢えて情景描写をしないように意識して書いていて、最後の大サビで転調するところで初めて情景描写が出てくるんですが、自分の中では意識したわけではなくて、つい出てしまったという感覚なんですよ。ずっと内側に貯め込んでいたものが一気にあふれでてしまったというか。曲が完成したときに、それがうれしいというか、おもしろいなと感じました。自分はそういう感覚で過去の場面を観たくなる人間なんだなって。

前作収録の「オレンジ」もそうですが、松室さんの歌う歌って、哀しみやせつなさが伝わってくるものが目立っています。自分ではどう感じていますか?

シンガーソングライターとして活動し始めた16、17歳くらいから、自分の中でひとつのテーマみたいなものがあって、男泣きの美学みたいなものを描きたいという思いがあるんですよ。男が泣いてる姿は滑稽だし、あまり他人には見せたいものじゃないと思うんですけど、だからこそ、そこに人間としてのいとおしさやけなげさが表れるじゃないかなって。すべての曲でそこを描こうとしているわけではないんですが、裏テーマとして、哀愁が漂っていたり、ちょっと笑えたりということを目指しているところはありますね。ウディ・アレンの映画を観ていても、いつもは屁理屈ばかり言ってる主人公がふと見せた悲しげな表情にグッと引きこまれたりしますし。

サウンド的にはアコギやストリングスを使いながらも、ざらついた感触も備えたロックサウンドになっていて、OASISに通じるセンスを感じました。

OASISを始めとする90年代のイギリスのロックバンドのストリングスの入れ方を参考にして作っていきました。歌詞がほぼできあがった段階でアレンジをお願いした河野 圭さんと話している中で、この方向性が固まっていった。きれいなバラードにすることも可能だったんですが、どこかに一筋縄でいかないような違和感がほしかったんですよ。ドラムもマイクの本数を減らして、あえてざらざらした音で録りました。仕上がったときに、この曲の世界観にぴったりになったなと感じました。

レコーディングで歌うときに、こだわったこと、イメージしていたことはありますか?

皆さんの演奏含めて、オケがしっかり方向性を示してくれていたので、どう感情を出すか特に考えず、音に合わせて、その流れに乗って歌うという感覚でした。素晴らしい演奏があったら、感情のスイッチを入れなくても、自然に歌えるんだなということは改めて感じました。

(MVは)曲と映像の間に流れてるものを感じとってもらえたら、うれしいです。

この曲のMVの監督もやられているとのことです。映画が大好きということから考えると、自然な流れとも言えそうですが、自分で撮ることにしたのはどういう経緯からですか?

聞いていただいてありがとうございます(笑)。この曲があがったときに、オフィスオーガスタの最高顧問の森川さんが「この曲、松室が監督やったらどうだ?」ってボソッとつぶやきまして(笑)。僕はもともと映画が大好きだし、いつか映画監督をやりたいと思っていたので、うれしい話ではあったんですが、まったく経験もないし、当然、不安もありました。映像スタッフに助けてもらいながら、作ることが出来て、とても楽しかったです。初めて曲作りをした時と同じような喜びがありました。

自分が作った曲を自分で監督する上では、どんなことをポイントにしましたか?

曲は曲として完成しているので、その曲をなぞるだけでは意味がないということは思っていました。この曲を聴きながら浮かんだストーリーを俳優さんにも演じてもらったので、曲と映像の間に流れてるものを感じとってもらえたら、うれしいです。これがこうなったから、こうなった、というような具体的なつながりがあるわけではないのですが、つながりがまったくないというわけでもないので、それぞれ自由に楽しんでもらえたらうれしいですね。

MVの監督をしたことは大きな経験になりましたか?

大きかったです。曲を作ることと映画を作ることは無関係ではないと思っているんですよ。やり方は全然違うけど、根本的なことは変わりないし、いつかは映画を作りたいので、とてもいい経験になりました。

僕は曲を作ることが一番楽しいんです。そこがずっと自分の音楽活動の軸になっている。

2曲目の「踊ろよ、アイロニー」はバンド・サウンド全開の曲で、ライブの風景が見えてきそうでした。

すでにライブではやっていて、お客さんの反応もいい曲なんですよ。音源として出すのは初めてなんですが、若いメンバーでレコーディングしました。鍵盤だけは僕よりも年上の磯貝サイモンさんにお願いしましたが、ギターはOKAMOTO’Sのオカモトコウキくん、ドラムは黒猫チェルシーの岡本啓佑くん、ベースはいつもやってもらっている植松慎之介くんで、同世代がああだこうだ言いながら、レコーディングする楽しい空気もそのまま音として録れたと思っています。

歌詞からは若い世代に向けてのメッセージも感じ取れます。

僕らって、Twitterが出てきた時が中学生か高校生で、Twitterがない時代と爆発的に使い出した時代、両方を多感な年齢で経験しているんですよ。今の若い子はTwitterがあるのが当たり前の時代の中で育ってきている。SNSやネット上でのつながりをすべて否定しているわけではないし、顔を合わせても合わせなくても、コミュニケーションの本質は変わらない。どちらも知ってる世代だからこそ、歌える歌を作ったら面白いんじゃないかと思って作りました。コミュニケーションの本質って、時代が流れても変わらないと思っているので、10年後20年後にこの歌詞を見たら、どう感じるんだろうなって、自分自身、楽しみでもありますね。

3曲目の「Jungle Pop」は昭和歌謡のテイストが漂いながらも、今の感覚も備えた曲です。

イメージとしては、昭和歌謡に影響を受けたサザンオールスターズに影響を受けたこの曲みたいな(笑)。曲自体は大阪に住んでいる頃からあって、ライブでも何回かやっています。

音楽が歌詞のモチーフになっていて、松室さんが音楽を作っていく上での思いも込められているのではないかと感じました。そのあたりはいかがですか?

今って、曲がどんどん消費されていく時代だと思うんですが、その流れに抗うという感覚ではなくて。それなら、作れる曲をどんどん作って、どんどん出して、ちょっとでも自分を残していくやり方もあるんじゃないかと思ったんですよ。同じような言葉を使ったとしても、それぞれの人が自分のDNAを持ちながら、出てきた言葉には意味があるんじゃないかなって。

歌詞に“ポップミュージック”という言葉がありますが、松室さんは自分の作る音楽のジャンルについて、どう考えていますか?

基本的にポップミュージックっていうのは全部のジャンルを包んでるすごさがあると思っていて。ロックであろうが、ジャズだろうが、ブルースだろうが、ピコピコ鳴っていようが、ポップスの中でできることがあるのがポップスの強みだと思ってるので、これはしちゃいけないっていうのは自分の中ではないですね。今回の2ndEPは3曲目まではエレキギターがギャンギャン鳴っていて、前作とはまったく違う感じになっていますし。

4曲めの「スニーカー予報」は懐かしい音色のエレピが軸となった曲です。

3曲作った後に、このCDに入れることを考えながら最後に作った曲なんですよ。全部の曲でギターがギャンギャン鳴ってても良かったんですが、4曲のストーリーとしては、心を落ち着かせるサウンドがあったほうがいいなと判断しました。アコギとエレピとベース以外は打ち込みの音なんですけど、独特の暖かさみたいなものが出せたかなと。

歌詞ではポジティブな姿勢が伝わってくる最後の1行が特に素晴らしいなと思いました。

履くために買ったスニーカーなのに、天気のことを考えてなかなか履けてないって本末転倒じゃないですか。でもそうやって決めつけてしまって、自分の中で蓋をしなくてもいいのに蓋をしてしまっている自分って、どこかにいるんですよ。確固たる部分を持つことも大事ですけど、凝り固まってしまわないように、定期的に自分を見つめて、チェックすることが必要だなって。それまで受け入れられたものが受け入れられなくなるって、悲しいですから。そういうことも含めて、歌にしました。

今後、どんな音楽活動をやっていきたいですか?

僕は曲を作ることが一番楽しいんですよ。そこがずっと自分の音楽活動の軸になっている。もちろんライブで人前で歌うことも楽しいんですが、曲を作った時の喜び、爆発力、エネルギーみたいなものが最大の原動力になっています。そこは最初にラジカセ2台で曲を作り始めた時から変わらないんじゃないかと思っています。なので、これからも常に新しい曲を作り続けて、その曲を皆さんに聴いてもらえたらと思っています。そういう日々をずっと続けていくことこそが自分にとっての幸せであり、喜びですね。

松室政哉さん画像ギャラリー

その他の松室政哉の作品はこちらへ

松室政哉

1990年1月4日生まれ。小学生の頃、カセットテープから流れたサザンオールスターズに感銘を受け、おもちゃのピアノで作曲を始める。中学から本格的に音楽活動を開始。「インディカ29」のボーカルとして”TEEN‘S MUSIC FESTIVAL”の全国大会に出場。高校からはシンガーソングライターとして活動を始め、”閃光ライオット”のファイナリストに。2013年、オフィスオーガスタに見出され、2014〜2015年はオープニング・アクトとして、2016年からは先輩アーティストと名を連ねメインアクトとして”Augusta Camp”に出演。2017年11月1日にAUGUSTA RECORDS / ユニバーサルミュージックよりメジャー・デビュー。2018年2月21日に2nd EP「きっと愛は不公平」をリリースする。

オフィシャルサイトhttp://matsumuroseiya.com/