モリコメンド 一本釣り  vol. 54

Column

PAELLAS 豊かな音楽でしか味わえない、意味を超えた快楽。注目のバンドが新作で魅せるクオリティ

PAELLAS 豊かな音楽でしか味わえない、意味を超えた快楽。注目のバンドが新作で魅せるクオリティ

昨年大ブレイクを果たしたSuchmosを筆頭にcero、never young beach、Yogee New Wavesなど、既存の日本のシーンとは一線を画すバンドが登場して早数年。海外のインディーロック、オルタナとリアルタイムで同期した音楽性によって注目を集めた彼らの存在は“オーバーグランドに対するカウンター”という時期を経て、いまやメインカルチャーとして認知されていると言っていい。今回紹介する“PAELLAS”も、そんな潮流のなかから登場したバンドのひとつ。D.A.N.、WONK、DATS、yahyelなどと並び、次世代のシーンを形成する可能性を持った4ピースバンドだ。

MATTON(V)、bisshi(Ba)を中心に大阪で結成された前身バンドを経て、2014年に上京、本格的な活動をスタートさせた彼ら。何度かのメンバーチェンジによって、現在はMATTON、bisshiにSatoshi Anan(G)、Ryosuke Takahashi(Dr)という構成で活動している。ユナイテッドアロウズの映像企画「NiCE UA」(2014年)の音楽を担当するなど、ファッション業界とも関わりがあり“都市生活者のためのオシャレな音楽”というイメージをまとっている彼らだが、その音楽性は高度にしてディープ。既に世界標準と言っても過言ではないほどのクオリティを備えているのだ。

ミレニアム世代のバンドであるPAELLASは、YouTube、SNS、サブスクリプションといったメディアと自然に接し、そのなかで得た情報やスキルを自らの楽曲に取り込んできた。海外のオルタナR&B、インディーロック、エレクトロ、ハウスなどをナチュラルに吸収、独自のアンサンブルへとつなげるセンスと技術は、現代のシーンのなかでも群を抜いている。たとえばSpotifyでフランク・オーシャンやザ・ウィークエンドと並べて聴けば、サウンド、楽曲の質を含め、まったく遜色ないことがわかってもらえるはずだ。

さらに印象的なのが、MATTONのボーカル。中音域、低音域を活かしたボーカリゼーションは心地よい耳障りと危うい色気を同時に描き出し、ハイトーンボイス系のボーカルが多い現在のシーンにおいて、はっきりと際立った個性を発揮している。J−POP的な要素が少ないPAELLASの音楽は“歌モノ”とは言えないかもしれないが、MATTONの滑らかな歌声がこのバンドの武器のひとつであることはまちがいないだろう。

作品によって音楽性(とバンドの構成)を自由に変化させてきたPAELLASは、2018年3月7日にリリースされる「Yours」で“これぞPAELLAS”と呼ぶべき明確な個性を提示している。まず注目してほしいのは、生々しさを増したバンドサウンド。シンセパッドなどを取り入れ、エレクトロ的なアプローチも多かった彼らだが、今回はシンプルかつソリッドなアンサンブルへと移行しているのだ。その変化を象徴しているのがリードトラックの「Echo」。シーケンスを流しながらメンバーが即興でフレーズを出し合い、それをDTMに打ち込んで構築したというこの曲は、セッションによる偶発性と緻密なアレンジメント共存する、まさに新機軸というべき楽曲に仕上がっている。マスタリングを担当したのは、トーキング・ヘッズ、MGMT、ボン・イヴェールなどの作品を手がける大御所マスタリング・エンジニアのグレッグ・カルビ。ひとつひとつの音を際立たせ、サウンドの陰影をシャープに描き出すサウンドプロダクトも、楽曲の魅力をさらに増幅させている。

もう一つの変化は、日本語の歌詞の割合が大幅に増えていること。洋楽的なメロディ、グルーヴの良さを損なうことなく、日本語の響きを活かしながら“横たわっている/大きなものだけを/信じるのは もうやめた”(「Echo」)、“はじめて/歌にしかない言葉/あなたには言えた”(「Miami Vice」)といったパンチラインを放つ。MATTONが紡ぎ出す歌詞の世界は本作「Yours」によって、完全に新たなフェーズに突入したようだ。前作「D.R.E.A.M.」でトライした“日本のオーバーグランドへの接近”をさらに推し進め、コアな音楽ファンを唸らせる音楽性と幅広いリスナーにリーチする大衆性を共存させた本作は、このバンドの存在をさらに大きなフィールドへと導くことになりそうだ。

海外のポップミュージックとリアルタイムでリンクすること自体は、取り立てて特筆すべきことではない。ただ単に“いまの洋楽っぽい”だけではなく、それを自らの血肉にまで深く取り込み、さまざまな要素——偶発的に生まれたフレーズ、グルーヴと意味の強さを兼ね備えた歌詞など——を加えることで独自のサウンドを描き出していることこそが、PAELLASの魅力であり、才能の根拠なのだ。まずは「Echo」における音と声の気持ち良さを味わってみてほしい。そこには豊かな音楽でしか味わえない、意味を超えた快楽が存在しているはずだ。

文 / 森朋之

本作のハイレゾ音源(PCM 96kHz/24bit)が3月7日(水)よりmoraで独占先行配信開始!
昨年発売のミニアルバム『D.R.E.A.M.』のハイレゾ音源も!

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