山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 28

Column

アイリッシュネスに咲いた逞しき温室の花/ホットハウス・フラワーズ

アイリッシュネスに咲いた逞しき温室の花/ホットハウス・フラワーズ

バンド名とは裏腹に、その音楽は野獣のようなパッションで、彼の耳を釘付けにした。それはメソッドからの解放、果てしなく自由で魅力的な“アイリッシュネス”への入り口だった──。
デビューから30年、アイリッシュ・ソウルの花を咲かせ続ける稀代のライヴ・バンドの粋に迫る。


彼らの曲を初めて聞いたのは居候先のNY、イーストビレッジにあるアパートの屋上。なけなしの17ドルをはたいて買ったラジオから流れてきた「Hallelujah Jordan」。ジャックと豆の木みたいに、どこまでも天に伸びていくソウル・ミュージック。90年代のはじめのこと。

他人だとは思えないシンパシーを感じた。音楽という衝動の根底に流れるもの、彼らに影響を与えたであろうもの、曲に込めた想い、エトセトラ。やがて、彼らは母国アイルランドでバスキング中にU2のボノに見いだされ、デビューしたことを知る。

彼らとはいずれ会うことになるだろうと直感したが、ほどなく日本にやってきて、僕がDJを担当していた番組に遊びにきてくれた。あまりにもあっけなく出会いすぎて、拍子抜けするくらいに。思えば、あのときが初めて本物の“アイリッシュネス”に触れた瞬間だったのかもしれない。それから僕はたくさんのアイリッシュに会うことになるのだけれど、入り口として彼らは最高すぎた。

ヴォーカルのリアム・オ・メンリィとは何度か一緒にツアーをした。ひとたびスイッチが入ると、リハーサルなんて関係なくなる。演奏は即興性に満ち満ちていて、音楽の神様が取り憑いている獣のようだった。おそらく“その感じ”は彼の国最高のソウル・マン、ヴァン・モリソンにいちばん近い。空気という実体のないものを掴んだり、引き延ばしたり、凍らせたり、投げつけたりできるのだ。そして目が怖いくらいに美しい。

一緒に演奏しているとき、考えていたら、到底反応できない。彼を信じて感じるしかないのだ。自我はリリースするだけ。文字を持たなかったアイリッシュが口承で伝えてきたこと。譜面なんて要らない。知らないことは恥ずかしいことではなく、今この瞬間に知ればいい、ということ。僕が知らない曲を臆面もなく人前で演奏できるようになったのはリアムをはじめとするアイリッシュのおかげだ。彼らは僕をメソッドから解放してくれたのだ。

リアムの即興性はライヴだけでなく、レコーディングでも発揮されるようになる。チェコで録音されたソロアルバムのタッチが水滴のように瑞々しいので、どうやって録ったのか聞いたことがある。すると、彼はこう云ったのだ。

「うーん、スタジオで“RECORDING”という赤いランプがついたら、僕は無になって何も考えないんだよ。何かが降りてくるのを待っているだけ。降りてきたときには歌詞もメロディーも何もかもその場でできてるんだよ」。そんなイタコみたいなこと云われても。笑。曲もないのに、スタジオに入る勇気を僕は持ち合わせていない。

彼はトラッドも世界中の音楽も分け隔てなく愛し、演奏する。バウランもホイッスルもピアノもギターも分け隔てなく抜群に上手い。そしてたぶん、何も考えていない。感じているだけ。なによりも彼の歌はたましいから発せられる祈りのようだ。ほんとうの意味でのソウル・ミュージック。

そうそう。もうひとつ書いておきたい。待ち合わせもしていないのに、彼とは世界のあちこちでばったり会うのだ。初めて訪れた異国の街で、向こうからリアムが歩いてきて、僕はびっくりするけれど、彼は大して驚きもしない。そんなの良くあることさって、彼は笑う。

2011年、震災のあと。名だたるアイリッシュのミュージシャンたちがダブリンに集結して傷ついた日本のためにコンサートを行った。ネットで中継を見ていて、僕はその“アイリッシュネス”に目頭が熱くなった。実のところ、このコンサートの実現のため、いちばん骨を折っていたのがリアムだった。そんな役目、誰よりも向いていないはずなのに。

その年の終わり。どうしても被災地に行きたいという彼を福島に連れていった。人々の暮らしが跡形もなくなった海辺の町を自らの目に刻んだあと、大勢の子供たちの前で彼はたましいから音楽を奏でた。会場にはその町のハンディキャップを抱えた子供たち、ほぼ全員が招待されていた。

子供たちはまるでマサイ族のようにリアムの音楽に反応する。跳ぶもの、身体を揺らすもの、叫ぶもの、目を閉じるもの。なんというか、ほんとうに美しい眺めだった。これが音楽だと僕は思った。彼はたましいで子供たちと会話していた。

今年、フジロックに彼らがやってくる。アイリッシュネスに咲いた逞しき温室の花。本物のソウル・ミュージックを体験したい方にはこころからお勧めしたい。僕も久しぶりに会いにいこうかな。


ホットハウス・フラワーズ / Hothouse Flowers
ゲール語小学校の同級生だったリアム・オ・メンリィ(vocal,keyboards,バウローン)とフィアクナ・オブレナン(guitar)がアイルランドの伝統楽器を使って国内の音楽コンテストに出場したり、ストリートで演奏したりしていたことがきっかけで、ピーター・オトゥール(bass)、デイヴ・クラーク(drums)らが加わり、ダブリンで結成。U2のボノに見出され、1987年にデビューシングル「Love Don’t Work This Way」を発表。1988年に1stアルバム『People / ピープル』でメジャーデビューを果たす。ボノに「世界一のホワイト・ソウル・シンガー」と言わせたリアムのソウルフルな歌声と、それを支える卓越した技術を持つメンバーたちの奏でるR&B、ゴスペル、カントリー、フォーク、アイリッシュ・トラッドなどのルーツ・ミュージックをブレンドしたスケールの大きなサウンドで注目を集める。1990年には2ndアルバム『Home / ホーム』、1993年に3rdアルバム『Songs From The Rain / ソングス・フロム・ザ・レイン』をリリース。アイリッシュ・ロックの傑作として高い評価を得るが、その後バンド活動を休止。5年後、リアム、フィアクナ、ピーターの3人で活動を再開。1998年、4thアルバム『Born / ボーン』、2004年『Into Your Heart』発表。十数年ぶりの最新作『Lets Do This Thing』を完成させたばかり。ライヴ・バンドとしても評価が高く、2001年〈FUJI ROCK FESTIVAL〉ではFIELD OF HEAVENの大トリを務めた。今年はデビュー・アルバム『People』発表30周年を記念して〈The Ray D’Arcy Show〉に出演、アイルランド国内でのイベントをはじめ、7月27日〜29日には〈FUJI ROCK FESTIVAL’18〉への出演も決定した。


『People / ピープル』

1988年発表のデビューアルバム。「I’m Sorry」、「Don’t Go」の大ヒット曲を放ち、全英チャート2位を記録。

『Home / ホーム』

デビュー作から2年ぶりに発表された2ndアルバム。スケール感、即興性を増した躍動感溢れるサウンドで、バンドの地位を不動のものにした。

『The Best Of Hothouse Flowers / ザ・ベスト・オブ』

「I’m Sorry」「Don’t Go」から「Forever More」まで全16曲を収録したベスト盤。2000年発表。

著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年、福岡県生まれ。1979年に結成したHEATWAVEのフロントマン。1990年にアルバム『柱』でメジャーデビュー。1995年発表のアルバム『1995』には、阪神・淡路大震災後に作られた「満月の夕」が収録され、多くのミュージシャン、幅広い世代に歌い継がれている。アイルランドの重鎮、ドーナル・ラニー、元モット・ザ・フープルのモーガン・フィッシャーら海外のミュージシャンとの親交も厚い。2003年より渡辺圭一(bass)、細海魚(keyboard)、池畑潤二 (drums)と新生HEATWAVEの活動を開始。仲井戸“CHABO”麗市、矢井田瞳らと東日本大震災後に立ち上げた福島県相馬市を応援するプロジェクト“MY LIFE IS MY MESSAGE”の活動も続けている。昨年は14作目にあたるアルバム『CARPE DIEM』と初の2枚組セルフカヴァー・アルバム『Your Songs』を携えたHEATWAVE全国ツアーに加え、リスナーからのリクエストで構成されるソロ・アコースティック・ツアー“Your Song”で全国を廻った。4月7日(土)、8日(日)には本連載がリアルにスピンアウト。山口洋「Seize the day / 今を生きる」番外編トーク&ライブとして、これまで連載で取り上げてきたアーティストについて語るとともに、最新作『Your Songs』からの楽曲、カヴァー曲や現在制作中の新曲(!?)を演奏予定。

オフィシャルサイト

山口洋 LIVE@国立「Seize the day / 今を生きる」番外編トーク&ライブ

再生の歌=何度でも人はやり直す
2018年4月7日(土)国立 地球屋 ※SOLD OUT
開場:17:00/開演:18:00
チケット料金:¥4,000+ワンドリンク

You are free=運命を創る力
2018年4月8日(日)国立 地球屋 ※SOLD OUT
開場:15:30/開演:16:30

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BRAHMANのスペースシャワーTVで放送される特別番組「V.I.P. ―BRAHMAN―」に出演

リピート放送:3月6日(火)21:00~、3月11日(日)20:00~
出演:BRAHMAN、細美武士(the HIATUS / MONOEYES)、谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)、山口洋(HEATWAVE)

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