Interview

ゴスペラーズ 「永遠(とわ)に」のプロデューサーと16年ぶりにタッグを組んだ新作は、スウィートでハイスペックなメッセージが詰まったバラードに。

ゴスペラーズ 「永遠(とわ)に」のプロデューサーと16年ぶりにタッグを組んだ新作は、スウィートでハイスペックなメッセージが詰まったバラードに。

あの名曲「永遠(とわ)に」をプロデュースしたブライアン・マイケル・コックス&パトリック“ジェイ キュー”スミスと、ゴスペラーズが16年ぶりにタッグを組んだ。生まれた「ヒカリ」は、スウィートでありながら“今”を強く感じさせるサウンド作りがほどこされ、アップデートされた5人のボーカル・サウンドが楽しめる。そこには「永遠に」と変わらぬ魅力をたたえ、「永遠に」からはるかに進化したゴスペラーズの音楽がある。
ゴスペラーズが開拓した“ボーカル・グループ”というジャンルも、テクノロジーの波を受け、これまでになかったハモりが誕生している。その最先端に位置するブライアンと“ジェイ キュー”が、アジアに本格進出をしようとするタイミングと、ゴスペラーズが王道を極めたいと決心したタイミングがピタリと一致。奇跡のバラードが生まれたのだ。
カップリングは映画しまじろう『まほうのしまの だいぼうけん』の主題歌「まっすぐな橋」で、大人と子供が一緒に楽しめるバラードになっている。
このバラード・シングルは、音楽シーンに独自のポジションを持つゴスペラーズからの、スウィートでハイスペックなメッセージである。

取材・文 / 平山雄一

スウィートで直球なバラードにしようということで「ヒカリ」を選んだ(安岡)

このプロジェクトは、どんな風に始まったんですか?

安岡 優 まずブライアン・マイケル・コックス&パトリック“ジェイ キュー”スミスと久しぶりにやろうっていう話になって、オファーしてみたらゴスペラーズ用にけっこうな曲数を書き下ろしてくれたんです。この「ヒカリ」以外にもすごくいい曲がいっぱいあって、このあともまた彼らと制作を続けていくんですけど、その中から最初にリリースするのが「ヒカリ」です。

「ヒカリ」にした理由は?

安岡 冬のタイミングっていうのも含めて、「永遠に」じゃないですけども、スウィートで直球なバラードにしようということで「ヒカリ」を選んだ。それが去年の10月で、11月に日本語の歌詩を書き始めて、12月に“ジェイ キュー”が16年ぶりに来日してくれまして、レコーディングが始まった。

リーダーとしては「次はバラードで行こう」という戦略があったんですか?

村上てつや バラードで行こうっていうより、前作アルバム『Soul Renaissance』の後をどうしましょうっていうことをメンバーやスタッフと慎重に話し合った。俺はさっさと次のところに行ってもいいかもなって思っていたりもしたんですよ。でも最終的には、「もう一回行こう」っていうことになった。ただ、『Soul Renaissance』は俺たちのルーツである“90’s R&B”をコンセプトにしていたけど、“90’s”っていう部分を外して、もう一回スウィートなR&Bを届けようと。それと『Soul Renaissance』が、「アルバムのバランスで言うとバラードが少し足りなかったね」っていうのもあったので、そこが少しやり残したことだったのかもしれない。それがミーティングの中で浮かび上がってきて、「90’sを外そう」っていうところから、外部の作曲家やプロデューサーの力を借りようという話になった。で、コラボレーションできる人を探そうっていうところからスタートして、探しているときに朗報が届いたということなんですよね(笑)。

朗報?

安岡 ちょうどブライアンと“ジェイ キュー”が、もっと日本でいろんな展開をしていこうというタイミングだったんですよ。

村上 だから声を掛けたら、すごく早いリアクションが来た(笑)。

“ジェイ キュー”が世に出た最初の作品として「永遠に」がいちばん最初にあるんですよね(村上)

向こうもやりたいと。

安岡 そう。その連絡を聞いてすぐに曲を作ったぐらいの感じで。

村上 “ジェイ キュー”が日本に来て改めて彼らの気持ちを語ってくれたんですけど、まずブライアンはまさに僕らと作業してる1年ぐらいの間にビッグネームになっていった。“ジェイ キュー”はそれを真横で見ていたんです。で、次に“ジェイ キュー”がブレイクするんですけど、そのタイミングが「永遠に」の作業だった。結局、“ジェイ キュー”が世に出た最初の作品として「永遠に」がいちばん最初にあるんですよね。アメリカのWikipediaにそう書いてある(笑)。

安岡 彼のキャリアのスタートが「永遠に」だと。

村上 そういうものがあったからこそ、彼らが「また日本でいろいろやっていこう」って言ったときにゴスペラーズから声が掛かってきたというのは、彼らにとってもきっといいタイミングだったのではないかと思います。ホントに頼んだ以上の数のリアクションがあった(笑)。

安岡 このタッグだけでアルバム1枚作れるぐらいの曲数を送ってきてくれて。

じゃあ、次のアルバムは全曲彼らとやるの?

村上 いや、全曲彼らとはやらないですね。

安岡 我々も曲を書くし。

村上 たぶん現実的にはアルバムの半分ぐらいの曲数になると思うんですけど、それでも半分をメンバー以外の曲がアルバムを占めることは、今までのゴスペラーズにはなかったですからね。

僕らが今までやってきたものをグレードアップして、「おっ、少し球を鋭くしてきたかな?」と思ってもらえるような(笑)(村上)

彼らのリアクションのお陰で、プロジェクトが急に膨らんでいった?

村上 そうですね。彼らは僕らの90年代R&Bを踏まえた体質っていうのをよくわかってくれつつも、やっぱり音は当然アップデートしなきゃいけない。僕らもそれに触発されなきゃいけないというところで、今、非常にいい流れでアルバム作りまで行ってる。その先頭に、ビジュアルも含めて「ヒカリ」がある。僕らが今までやってきたものをグレードアップして、「おっ、少し球を鋭くしてきたかな?」と思ってもらえるような(笑)象徴的な作品になった。楽曲自体は甘くてわかりやすい曲なんですけど、ディテールがよりシャープになった。前作からステップをちゃんと登ってやれてるんじゃないかな。そんな感じで去年の秋からスタートして、ようやく「ヒカリ」のリリースまでこぎ着けたという。

ということは、「ヒカリ」は久々のシングルであると同時に、次のアルバムのリード曲でもある?

村上 そうです。

安岡 『Soul Renaissance』よりもスウィートネスを強くしようっていうのがまずアルバム全体のコンセプトとしてあったので。だから、最初はバラードがいいねというのはあったんですよ。

村上 他に作業した作品もスウィートな曲なんですけど、これがいちばんストレートだったっていうことかな、うん。

安岡 そうだね。R&Bだとかそういうことは抜きにして、聴いてもらえるスウィートなラブソングっていう感じでした。「永遠に」が、まさにそうでしたからね。あれは妹尾武さんが作曲してくれたんですけど、あのときほとんどの人は、時代の最先端のサウンドプロデューサーであるアトランタのブライアン・マイケル・コックスとやったということに引っ掛かってたんではなく、やっぱりスウィートなメロディに惹かれたんだと思う。

トラックを聴くと、やっぱり「これと同じものは日本では生まれてこないな」っていうのはあるんですよね(安岡)

下品な言い方で申し訳ないけど、聴いていて最初に思ったのは、「この音、おカネかかってるわ!」っていう(笑)。

村上 そうなんですよね(笑)。最初のビートを2小節ぐらい聴いたときに、そういう感じがするんですよね。

そうそう、不思議な魅力がある。すごく丁寧に掃除された部屋に招待された感じっていうか(笑)。

村上 ははは!

安岡 「手が込んでる」っていうのとは違うんですけど。トラックを聴くと、やっぱり「これと同じものは日本では生まれてこないな」っていうのはあるんですよね。

村上 日本のトラックメイカーも素晴らしく進化したと思うんだけど。「永遠に」の頃の15、6年前からと比べたときに、とんでもなく進化したと思うんだけど、ここへ来てやっぱり、やっぱり何かが違う……(苦笑)。

安岡 何だろうなあ(笑)。

村上 デモテープが来たときに、「うわっ!」みたいなさ(笑)。

わはは! デモのときからそうだったんだ。

村上 俺たちがこんなこと言っちゃアレだけど、歌い出す前の勝負っていうのもあるじゃないですか、楽曲としては。

気配がね。

村上 ねえ! 「あらっ!」っていう(笑)。

安岡 まさに最初の2小節を聴いて「あれ? 違うぞ、これ」みたいな。

村上 歌い出す前にすでに“いい土俵”に上がってる感じ(笑)。

でもそれを望んでたんでしょ?

村上 それはそうですよ。特にトラックの話をしちゃうと、僕らだけではどうしようもないですからね。

その場でトラックを聴いて、その場でライティングをするっていう(安岡)

来日した“ジェイ キュー”とは、どんな作業をしたんですか?

村上 いちばん慎重に進めたのは、日本語に直したときのリズム的なフロー。“ジェイ キュー”にアドバイスしてもらって、慎重に進めていくっていう作業だった。それと、届いたデモテープに、日本で“ジェイ キュー”と新しくコーラスを付け加えて、それが第2サビみたいな感じになってる。そういう“付け加え”をできたのもよかったですね。

安岡 「永遠に」のアウトロのキャナルコーラスは、まさにそうだった。アウトロの部分で、「じゃあ、ちょっとメロディを書こう」なんて言って、ホントにその場でわわわっと出来上がっていくさまを目の当たりにしたんですけど、今回もそれが出来たのはホント良かったですね。その場でトラックを聴いて、その場でライティングをするっていう。

村上 僕らも第2のサビをハーモニーで作るってことを知らなかったわけではないけど、目の当たりに、パッと作っていって、その効果ですよね。「ああ、これがこの楽曲をこんなに良くするのか」という(笑)。

ミックスも日本で?

安岡 そうですね。

このハイグレードな音の秘密は?(笑) 後ろで鳴っているハーモニーの声の音質を、かなり変えてるの?

村上 けっこう極端に変えてます。

安岡 ちょっと今までしたことがないような、彼らが最近やっている技術を少し使ってます。

村上 生音からかなり遠い部分もあるんだけど、結果としてゴスペラーズのハーモニーが印象に残る曲作りをするんだったら、今はそんなことにこだわってもしょうがないよねっていうところで。

やらないんじゃなくて、やったほうがいいだろうっていう。

村上 そうそうそう。そういう感じってなかなか思い切って舵を切れないところもあったんですけど、こういう外部のスタッフと一緒にやる機会に導入する方がやりやすい(笑)。

安岡 いい意味で理由があるっていうね(笑)。まさに今回も、いいとか悪いとかは置いておいて、昨今の声に対する音の作り方っていうのがあるじゃないですか。それこそ日本、アメリカだけじゃなく、韓国のボーカルグループも含めての“音つき”っていう。それを消極的な意味で使うのではなく、「じゃあ、俺たちがそれを使ったらどういう音になるんだろう」っていう。

村上 これはそもそも、ボーカルのピッチ直しシフトとかにも同じ問題があって。あれが生まれてしまってから、歌えない人の方が、歌がメチャクチャ上手くなるっていう、究極の矛盾を抱えてしまったわけじゃないですか(苦笑)。

改めて昨今の向こうのR&Bの聴き直しをやってみて、その内側を覗けた部分も当然ありましたね(村上)

そうだね。

安岡 誰が歌ってもそうなる。

村上 CDに関しては、上手くなっちゃう。そういうエフェクターとの付き合い方ってホントに微妙。だからそういうテクノロジーを、ハーモニーの部分でどう使うか。使ってみて試すいい機会だったなと思って。

安岡 ハーモニーの部分にしかそれは使ってないんですけど。

村上 改めて昨今の向こうのR&Bの聴き直しをやってみて、その内側を覗けた部分も当然ありましたね。ま、ライブって意味で言うと、僕らは今までのものを変えるっていう話でもないんですけど。

ライブが上手だから大丈夫(笑)。

安岡 はははは!

村上 まあね(笑)。ただ出来上がった音源として出されるものと勝負してるわけですからね。

安岡 そうそう。“ジェイ キュー”がここ数年、韓国のボーカル・グループの曲もやってて、ヒット曲もあるわけですよ。たとえば我々はそういう音源と戦うわけじゃないですか。日本に韓流の音楽が当たり前にリアルタイムで飛び込んでくる時代になってる。だからそういう意味では、今回やったことのひとつを、「なるほど!こうなるのか!」と思えることもありました(笑)。

俺たちは2000年から2005年に“自分たちの王道”を作ることができたからこそ、それ以外のことをやる時間があった(安岡)

世界やアジアの音楽シーンにとっても、深い意味のあるプロジェクトなんだね。

安岡 そうそう。

村上 その現象に関して言えば、「日本も頑張らないとな」っていうのはあるよね。あくまで俺たちっていうよりは、「音楽業界全体で頑張ろう」ぐらいの話ですけど(苦笑)。

安岡 俺たちは2000年から2005年に“自分たちの王道”を作ることができたからこそ、それ以外のことをやる時間があった。いろんな経験、いろんな音楽のジャンル、それこそ“ハモ騒動”というカバーアルバムも含めて、いろんな音楽のジャンルをこの23年間でさわって、もう一回R&Bに帰ってきたときに、自分たちの幅が広がったからすごくスッとひとつにまとまったのかなというのはありますね。

そしてカップリングの「まっすぐな橋」は、酒井(雄二)さんが書いた超王道のバラードだね。

安岡 これはもういい意味で、ジャンルレスなぐらい王道です。

日本語でしかできないバラードだ。

安岡 そうそうそう。今回は『しまじろう』の映画のお話をいただきまして、子供と大人が一緒に見る映画という上映の仕方があるらしいんですよ、いくら騒いでもいいみたいな。

聴く人にとってもそうだと思うので、長い時間を掛けて育っていくような曲になったなあと思ってます(安岡)

あるある、子どもが「しまじろう、がんばれー!」って言える。

安岡 そういうのがあるらしくて、我々はあんまりわからないじゃないですか。だけどそういう見られ方をするということで、酒井さん的には「子供が聴いたら子供が主人公のようにも思うし、親が聴いたら子供を巣立たせる、見送る、そして帰りを待つ親が主人公のようにも聞こえるし」という2つの視点を曲の中心に置いてという書き方をしたと言ってました。なので、レコーディングをしていても、我々も全員“元・子供”だったわけで、どっちの視点からも聞こえてくるわけですよ、いろんなメロディが。だからミックスダウンしていても「あ、これってこういう意味だったんだあ」みたいなのが、自分たちの中でも見つかったりして、「ああ、ここの意味って、こっち側だけじゃなくって逆サイドの意味もあるよなあ」みたいなことがあると思うので、聴いてくださる方によって聴こえ方がたくさんあると思う。我々もたぶんこれを5年後に歌ったら、また違うふうに解釈して歌うような気もするし、聴く人にとってもそうだと思うので、長い時間を掛けて育っていくような曲になったなあと思ってます。

とりあえずアルバムでどれぐらいスウィートネスを突き詰めていけるか。その作業がホントに大事になる(村上)

これをカップリングにしたのは、バラード2曲のシングルで行きたかったのかな?

安岡 これは“タイミング”ですね。

村上 アルバムの制作が始まる前にこのお話はいただいていた。

安岡 映画の公開直前に「ヒカリ」が出るから、ドンピシャのタイミングだったという。

村上 ちょうど上手いこと合った。

安岡 僕らとしては苗場のライブの前に「ヒカリ」を出したかったわけで、それがちょうど公開の直前だったんで、ドンピシャ。

そしてこの2曲を出して、2018年のゴスペラーズは?

村上 何と言ってもアルバム作りが、2018年前半のいちばん大変な作業なんで、それが出来上がるまでは考えられないかな――まあ、ライブについてはいろいろありますけど、とりあえずアルバムでどれぐらいスウィートネスを突き詰めていけるか。その作業がホントに大事になる。

ニューアルバムが、「どれぐらいおカネが掛かってるように聞こえるのか」楽しみだねえ(笑)。

村上 ありがとうございます(笑)。

安岡 よろしくお願いいたします(笑)。

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ライブ情報

詳細はオフィシャルサイトへhttp://www.5studio.net/

ゴスペラーズ

1994年12月21日、キューンミュージックよりシングル「Promise」でメジャーデビュー。以降、「永遠(とわ)に」「ひとり」「星屑の街」「ミモザ」など多数のヒット曲を送り出す。
2014 年、デビュー20 周年を記念したベスト・アルバム『G20』をリリース。オリコン初登場2 位を獲得。全66公演ゴスペラーズ史上最多公演数の全都道府県ツアー「ゴスペラーズ坂ツアー2014~2015 “G20”」を大成功におさめた。
他アーティストへの楽曲提供、プロデュースをはじめ、ソロ活動など多才な活動を展開。日本のヴォーカル・グループのパイオニアとして、アジア各国でも作品がリリースされている。

オフィシャルサイト
Gostudio http://www.5studio.net/
GosTV http://www.gospellers.tv/