Interview

PAELLAS いま最も注目すべきバンド、その洗練された都市的サウンドの進化の行方を訊く

PAELLAS いま最も注目すべきバンド、その洗練された都市的サウンドの進化の行方を訊く

昨年9月にリリースされた6曲入りミニアルバム『D.R.E.A.M.』の洗練されたサウンドスケープとグルーヴが感度の高い音楽ファンの注目を集めたPAELLAS。わずか半年のインターバルで届けられた新作は、サウンドの洗練度はそのままに、より広くリスナーへのアプローチを意識したと感じさせる仕上がり。CD発売日の3月7日からハイレゾ音源がmoraで独占配信がスタートする今作は、『Yours』というタイトルの通り、聴き手のそれぞれのイメージと音楽嗜好に合わせて楽しめる作品だ。その新作の聴きどころとバンドの現在を、メンバー4人にたっぷりと語ってもらった。

取材・文 / 兼田達矢 撮影 / 高木博史

「Echo」はそれまでのイメージから、もう少しいわゆるロック・ミュージック的なフィールドに踏み込んだ感じがあります。

前作『D.R.E.A.M.』でPAELLASの認知がかなり広まった印象がありますが、その前作についてメンバーのみなさんにはどんな反響が届いていますか。

Anan ずいぶん良くなったねと言われました(笑)。

(笑)。「いやいや、前から良かったよ」という感じではないですか。

Anan それはありますけど、でもいいと言ってくれることについては素直にうれしいです。その前の『PRESSURE』は特に反響というようなこともなかったので。反響があるだけありがたいというか、単純にうれしかったですね。

Takahashi 夜っぽい音楽だと元々言われてたんですけど、より言われるようになった感じはあります。僕らとしては、夜っぽさだけではなくしようとはしてたんですけど、でも根本にあるものが夜っぽい感じなのかなとは思うので。

MATTON 寝る前に聴くっていうのはよく言われますよね。クルマに乗ってるときに聴くとか。自分たちの音楽の幅は広がってると思うんですが、でも基本的な聴かれ方というのはあまり変わらないのかなということは感じました。

MATTON(Vo)

前作の反応をお聞きしたのは、その反応が今回の新作に影響したところもあるのかなという想像もあったんですが。

MATTON 1曲目の「Echo」に関しては、それまでのイメージ、例えば寝る前に聴くとか夜の高速を連想するとか、そういう感じからもう少しいわゆるロック・ミュージック的なフィールドに踏み込んだ感じがあります。「Darlin’ Song」は前からあった曲だし、「Miami Vice」や「Over The Night」はいちばんハマるシチュエーションということで言えばあまり変わってないと思うんですけど、「Echo」だけはラジオから流れるロック・ソング感というものがあるような気はします。

それは、PAELLASなりのポピュラリティを意識した結果でしょうか。

MATTON そうですね。僕は一人でお風呂に入るときに、ちょっと元気のいい曲をかけるんですよ。ポリスとか。そういう感じの曲ですね。自分にあてはめると。

このバンドは「こう作っていこう」みたいな話はなくて、それぞれが持ってるものをただ融合させてるだけなんですよ。

目に見える前作との違いということで言うと、例えば資料にある楽曲のクレジットが前作は特になかったんですが、今回は例えば「Echo」なら“作曲:PAELLAS 作詞:MATTON”というふうに、曲ごとに明記されています。クレジットが違うということは作り方が違っているということなのかなと思うんですが、そのあたりから解説してもらえますか。

bisshi それはクレジットに表れている通りで、前作はAnanが全部作り込んでたんですけど、今回は曲ごとに違ってます。自分はもっとステージっぽい感じの曲がほしいなと思って作りました。MATTONの歌い方も全然変わったなと思ってて、そこはなんか重なってるんですよね。

bisshi(Ba)

MATTON 曲作りについては、いろんな作り方を自分たちで持ってるほうがいいなと思っていて、Ananが作るのと、bisshiも以前はメインになって書いてる曲がたくさんあったのでそれをもう一度やろうというのと、全員でセッションしながら作るっていう。その3つがあれば曲のバリエーションも広がるなと思って、そういうふうにできたのはすごく良かったと思っています。ただ歌い方や歌詞に日本語が増えたことについては完全に僕個人のなかでの話ですね。

では、その3つの曲の作り方に関して、例えばbisshiさんが曲を作る際に、Ananさんが作った曲、あるいは作りそうな曲を意識して作るというようなことはありましたか。

bisshi 確かにAnanが作らなそうな曲を作ろうと意識はあったし、特に『D.R.E.A.M.』でAnanが作ってた曲調よりもう少し伸びやかな感じで、テンポももう少し速めのものを作ろうという気持ちはありました。それが、結果的にライブでやったらいい感じになりそうな曲になったっていう。

Takahashi ソングライターとしての色がもう完全に分かれてるからね。このバンドは「こう作っていこう」みたいな話はなくて、それぞれが持ってるものをただ融合させてるだけなんですよ。歌詞を日本語にするということについても、みんなで話し合ったりはしないですが、違和感なく音にしっかりハマってればいいという感じです。

bisshi そういう話し合いはまったく無しで曲から作っていって、曲ができてから歌詞を考えていくので。曲を作るときに“これは日本語の曲にしよう”なんてことも考えないし。ただ作りたい曲を作った上で、それをMATTONに投げて、それにMATTONがどういう歌詞をつけてくるのかは僕らも楽しみっていう。

なるほど。Ananさんは今回の曲作りに関して意識していたことは何かありますか。

Anan 僕が作る曲については、前作もそうだったんですが、自分がやりたいことは多少反映させますけど、それよりも“バンドで今はこういう曲が必要だろうな”というようなことを考えて作りました。

「バンドで今必要な曲」というのは、どういうイメージでしょうか。

Anan みんなが好きな音楽というのはずっと一緒にいて、だいたいわかるから、そこを掻い摘んでこのバンドで鳴らすということをいちばん意識するんです。ざっくり言えば、例えばThe WeekendのようなアメリカのシンガーがかっこよくやるR&Bをバンドでやる、みたいなことをイメージして、前作と今作は作ってます。

Satoshi Anan(Gt)

「Echo」についてはPAELLASなりのポピュラリティという意識したという話もありましたが、今の意識としてはより間口を広げていくようなイメージですか。それともコアな部分に掘り進んでいくような方向性でしょうか。

Anan 前作も今作も同様に、広げていこうという意識は強く持ってやっていましたし、僕自身も広げようと思って作るんですけど、バンドで作ったほうが…というか、bisshiやMATTONの意識が介入したほうがもっと広がる音楽が作れるなということを今回学んだ気がします。前作では、僕が広げる役割を担おうと思っていたんですけど、でも僕は意外とそこまで振り幅は広くないなということに気づいて、それでバンドでやったら結果的に“ラジオ・ソングを作る”ということもできた、という感じですね。

前作から今作への変化も作り方の変化というより、このバンドがアップデイトしてくための変化ということなのかなと思います。

「Echo」は、bisshiさんによると「ステージっぽい感じ」を意識しているなかで出来上がった曲という話でしたが、「Over The Night」も「Echo」と同じくバンドで作った曲ですよね。「Over The Night」については何かそういう共通意識はあったんでしょうか。

MATTON 「Echo」も最初にセッションで作ったときには誰もそういうことを意識していたわけではなくて、ポンと出てきた曲を構築していくなかで「この曲はライブで映える曲にしたいね」という話が出てきたんです。「Over The Night」も元々は全然違う雰囲気の曲で、作っていくなかで90’s R&Bみたいな感じになっていきました。

bisshi 「Over The Night」のプリプロをやってる時期、僕はブレイクビーツがすごくハマってて、MISIAの「つつみ込むように…」とかDJ HASEBEとか、ああいうのをやりたいなというアイデアがあったんです。「Over The Night」はもっと淡白な曲だったんで…。

MATTON ダフトパンクの歌モノみたいな曲だったんですよ。シンセもそういう音色で…。

bisshi そこにブレイクビーツを入れようとしたら、ディアンジェロっぽくしたいという話が出てきて…。

Takahashi bisshiのイメージだとすごく硬い感じのR&B、僕のイメージだとすごく緩いR&B、というのを合わせたらああなったっていう。面白いのは、僕らって最終的にどうなるのか見えないままレコーディングに入るんですよ。レコーディングに入る段階ではけっこう薄いものなんですけど、そこからいろいろ足していって出来上がるっていう。

Takahashiさんは、今回はどんなことを意識しながら制作を進めましたか。

Takahashi もちろん僕も広げたいとは思ってますが、でも広げるなかで自分たちがかっこいいと思うものを削るようなことにはしたくないので、そこの両立が今回は特に上手くできたかなと思うんです。で、その広げようと思う気持ちとかっこ悪いものにはしたくないという気持ちは多分みんな共通してるから、そのことが各々が出す音になってると思うし、今回はこの作り方が正解だったんだろうということだと思います。次も同じ作り方をするかどうかはわからないですけど。やっぱりその時に出てくるものをやっていくというのがいちばんいいから、だから前作から今作への変化も作り方の変化というより、このバンドがアップデイトしてくための変化ということなのかなと思います。

Ryosuke Takahashi(Ds)

Ananさんから、自分一人で作り上げるよりもいろんな意識が介入したほうが間口の広いものになると感じたという話がありましたが、そこについてはどう思いますか。

Takahashi それはAnanが基盤を書いてる曲でも、bisshiが基盤を書いてる曲でも、今回はそこにプレイヤーとしてみんなのエッセンスが入ってるから広くなったというか、良くなったんじゃないかなと思いますね。だから、演奏するところで、メンバーがお互いに、いい意味で裏切り合えてるということなんじゃないですか。

それは、前作よりも今回のほうが、楽曲を作り上げる上でのそれぞれの演奏が占める割合が前作よりも大きいということですか。

Takahashi そうですね。バンドによって、作曲の定義って違うと思うんです。このバンドではゼロから1を作るのが作曲だと思ってるんです。例えばコードを出すだけでも、そこでゼロから1になってたりするんで。その上で、その1を10にするというところを、今回はバンドのメンバーでしっかりやれたということですね。例えば「Pray For Nothing」はAnanが骨格を作ってきて、あるいは「Miami Vice」はbisshiが骨格を作ってきて、それを受けて1から10にしていく部分は全員でやれたっていう。そこで、それぞれの技術が上がっていけば、出来上がりのクオリティもどんどん上がっていくということだと思うんですよね。

もちろん個々の技術も重要だと思いますが、バンドだからメンバー相互のコミュニケーションの深まりということが音に表れているということもあるんじゃないでしょうか。

Takahashi 確かに、それもあると思います。『PRESSURE』のときは正直ベッドルーム的な作り方でしたから。

bisshi 『PRESSURE』のときは自分とAnanが家で全部作って、それをスタジオに持ち込んでこねくり回して、みたいな感じでほとんどバンドが介入しない状態まで行ってたんですけど、それが前作ではAnanが作った曲をバンドでやるという感じになって、今回はみんなで一緒にやったり、誰かが作った曲をバンドで組み立てるというふうに、徐々にバンドっぽくなってきたんですよね。

その作り方の変遷は、話し合ってそうしていったわけではなくて、自然な気持ちの流れの表れということなんですね。

Takahashi そうですね。話さなくても、お互いのことを敬うことができてるので、お互いが出すものに対する信頼感がどんどん厚くなっていってるんです。

bisshi みんなお互いに何をすればいいか、ちょっとずつわかってきて、そのなかで自分の考えを反映させていって、それにみんながOKを出す確率も上がっていって、ということだと思うんですよね。難しいことをやってるわけじゃなくて、ただそれの積み重ねっていう。

今は、(歌詞を)日本語で書くのが自然だし、やり甲斐もあるし、届くし、いいことしかないなと思います。

歌詞については、MATTONさんの個人的な話ということでしたが、今回の歌詞で日本語の比重が高まったのはMATTONさんのなかで何か意識の変化があったんでしょうか。

MATTON 前作で初めて日本語の歌詞を書いて、そのときは2曲だけで、しかも1曲の中の日本語と英語の割合が4:6くらいだったんですね。PAELLASはずっと英語でやってきたので、最初に日本語を入れるのはこれくらいの割合でいいのかなと思って。それは、聴く人にとっても、自分にとっても、という話なんですけど。全部日本語にしてしまうと、自分がちょっとついていけないところも多分あったと思うんです。でも、その後このバンド以外のプロジェクトで全部日本語の作品を作ったり、PAELLASでライブをやったりしていくうちに、自然と次は全部日本語で書くつもりになってました。別に変える必要はないとは思うんですけど、僕はけっこう変えたがりなんですよ。作品ごとに、何か前とは違うものを見せたいなっていう。それが僕の場合は、歌詞を変えることと、それに合わせて歌い方も変えるということだったという話で、本当に自然とこうなった感じです。

いちばん最初にPAELLASの曲に英語の詞をのせたときには、何か積極的な理由はあったんですか。

MATTON その当時はすごく英語で歌うことが好きで…。その前は日本語で歌ってて、“日本人なのに、英語で歌うって何?”と思ってた時期もあったんですけど、その後自分が聴く音楽の幅が変わったし、インターネットでロシアのバンドとかイタリアのバンドが英語で歌ってるのを聴いて、“自分も英語で歌ってもいいな”と思ったんです。そもそも自分が聴くものは圧倒的に英語が多かったから、がんばって英語で書いてましたけど、今は“そういう時期もあったなあ”という感じです。今は、日本語で書くのが自然だし、やり甲斐もあるし、届くし、いいことしかないなと思います。

歌詞の内容に関して、英語/日本語に関わらず、何を書くかということで意識していることはありますか。

MATTON 書きたくないことというのはあって、それは政治的なことと、時代感をあまりに限定してしまうようなこと、それにメッセージを直接的に書くようなことはあまりしたくないです。僕の歌詞には一人称と二人称しか出てこなくて、しかも一人称は“僕”だけなんですね。英詞のときには女性が主人公の曲もあったんですけど、日本語詞ではいまのところ“僕”と“あなた”だけですよね。限られた、誰にでもある日常の、すごく狭い世界の中で、シネマティックな風景というか情景を書きたいなと思います。

例えば「daydream boat」という曲の歌詞は、主人公のある心象だけが描かれていて、詳しい説明はほとんどないし、その心象が解決されることもなくて、言わばそのまま放り出されたような感じの内容ですが、それはそういうことを書こうとしたんですか。あるいは、曲の構成に従ったことの結果だったりするんでしょうか。

MATTON まず僕の歌詞はどの曲も矛盾してるようなことをいっしょにしてしまってるところがあって、例えば死ぬとわかってるのに死にたくないと言ってたり、諦めてるけど諦めてない感じがあったり…。時間軸に関しても並行世界観みたいなものがあるなということを最近思ったんですけど、あの「daydream boat」という曲の歌詞は本当に情けない男の話ですよね。多分それなりにお金も稼いでいて、コンクリート打ちっ放しの部屋でジャズを流してるような生活をしてる人だと思うんです。村上春樹の世界に出てきそうなイメージですけど、そういう男が自分にとって相当大きな存在だった女性にフラれて、どこにも行けなくなってるという歌ですけど、曲の雰囲気に影響を受けてるところはあると思います。PAELLASの音楽は全体的に起承転結というような構成の曲はあまりないですし、映画でも僕は最後の結論をちゃんと教えてくれない、こちらに委ねられる流れのものが好きだったりするから、歌詞も必然的にそういうものになりますよね。

ライブでは、(お客さんが)自分の楽しみに浸れるようなパフォーマンスを見せられるといいなと思いますね。

『Yours』というタイトルは、どういうふうに決まったんですか。

MATTON タイトルは、いつも苦労するんですよね。というか、タイトルをつけるのって、音楽を作るのとはまったく別のセンスですよね。今回は、たまたまbisshiがいいのを言ってくれて、それで決まりました。タイトルにはあまり限定的な意味を持たせたくなくて、『Yours』というのもいろんな受け取り方ができるじゃないですか。

とは言え、この4人のなかで「Yoursがいいね」と思った、その感覚はどういうものだったんでしょうか。

MATTON それはやっぱり言葉の響きですね。それと、デザインしたときの5文字の字面。とりあえず、単語ひとつということは決めてたんです。遡ると、『Remember』『PRESSURE』『D.R.E.A.M.』と続いてるんで、次も単語ひとつがいいなと思って。で、『PRESSURE』と『D.R.E.A.M.』に関しては、バンドの中だけのシャレっ気というか茶目っ気みたいなものもあるんですけど、今回は本当に響きと字面、それにいろんな意味に受け取れるというのがいいなと思ったんですよね。

最後に、ツアーの話を聞かせてください。いまPAELLASとしてライブに臨む際、どんなことを意識していますか。

MATTON 僕個人の話で言えば、日本語の歌詞が増えて、より伝えやすくなっているので、なんとなくの感情ではなく、ひとつの物語のようにしっかり伝えられたらいいなと思います。PAELLASのライブには一人で来る人もたくさんいるし、その人が周りを気にせずに、僕らにも煽られずに、自分の楽しみに浸れるようなパフォーマンスを見せられるといいなと思いますね。それぞれが好きなように浸れる、ということが大事なような気がします。

楽しみですね。ありがとうございました。

PAELLASさん画像ギャラリー

「Yours」(ハイレゾ)

「Yours」(AAC)

ライブ情報

Yours Tour 2018

3月10日(土) 北海道・札幌COLONY  ゲスト:PARKGOLF
3月17日(土) 愛知・名古屋APOLLO BASE ゲスト:Tempalay
3月18日(日) 大阪・梅田Shangri-La ゲスト:Tempalay
3月20日(火) 福岡・福岡the VooDoo Lounge ゲスト:Seiho
3月22日(木) 宮城・仙台LIVE HOUSE enn 2 nd ゲスト:向井太一
3月24日(土) 東京・渋谷WWWX(ワンマン)

PAELLAS

MATTON(Vo)、Satoshi Anan(Gt)、bisshi(Ba)、Ryosuke Takahashi(Ds)から成る4人組。大阪で結成された前身バンドでの活動を経て、2014年に上京し現在の体制となり、本格始動。様々なジャンルの要素を独自のセンスで解釈し、都市の日常、心象風景にフィットするサウンドを生み出す。

オフィシャルサイトhttp://paellasband.com

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