Interview

Nulbarich 2017年の初体験の数々を進化へと昇華させてみせたアルバム『H.O.T』。JQの音づくりのこだわりに迫る

Nulbarich  2017年の初体験の数々を進化へと昇華させてみせたアルバム『H.O.T』。JQの音づくりのこだわりに迫る

昨年、『Who We Are』と『Long Long Time Ago』という2枚のEPをリリースし、大躍進を遂げたフリーフォームなバンド、Nulbarich。トラックメイクの手法とバンドアレンジの手法を駆使して、ヒップホップ、R&Bを軸に、ソウル、ジャズ、ファンクといった広範な音楽をまとめ上げる作風はさらに進化を遂げ、その成果を新作アルバム『H.O.T』へと見事に昇華している。その進化の原動力は果たしてどこから生まれるのか? フロントマンのJQに話を訊いた。

取材・文 / 小野田雄 撮影 / 関信行

インタールードこそがエモ。声が入っていないからこそ自分の感情が一番湧き上がってくる

昨年12月リリースのEP『Long Long Time Ago』から初ワンマンツアー最終日の恵比寿LIQUIDROOMでは、2017年を振り返って気持ちの込もったMCをしていらっしゃいましたよね。

そうですね。2017年は初めての試みが続いた1年で、年頭に初めてのワンマンライヴがあり、その後、フェスに初出演し、それが毎週のようにあったのも初めて。さらにジャミロクワイのサポートアクトとして武道館に立って、年末にはワンマンツアーも初体験し、そうした体験を通じてインプットしたものが自分でも整理がつかないまま終わった感じだったので。それで、その気持ちを忘れないうちに作り上げたのが今回のアルバム『H.O.T』なんです。

アルバムのレコーディングはいつからスタートしたんですか?

始まったのは、去年9月にジャミロクワイの武道館公演でサポートアクトを務めさせていただいたあとくらいかな。2017年に経験したことをすべて詰め込んだアルバムを作りたいと考えて、12月にリリースしたEP「Long Long Time Ago」と同時に制作を進めていました。

昨年12月に恵比寿LIQUIDROOMで拝見したワンマンライヴと同じく、このアルバムもイントロを含めた3曲のインタールードでセクションが区切られていて、音のニュアンスが変化する構成になっていますよね。

去年の活動はライヴが中心だったんですけど、5月にEP「Who We Are」をリリースした直後のライヴでは1曲目が「Follow Me」、2曲目が「It’s Who We Are」だったんですね。それがライヴを続けていくなかで、「It’s Who We Are」から始まり、「It’s Who We Are」で終わるセットに変化していったこともあって、今回のアルバムもそうしたライヴ経験に引っ張られたところがありました。それこそ、昨年末のワンマンの構成に似ているというのはまさにそのとおりですね。1曲目でどれだけインパクトを与えてワクワクさせるかということを考えた「H.O.T (Intro)」があり、途中の「See You Later (Interlude)」で空気を変えて、さらに「Construction (Interlude)」でアルバム最後のエモさを増すっていう。僕にとってはインタールードこそがエモだと思っていて、声が入っていないからこそ自分の感情が一番湧き上がってくる曲だったりするので、感情をコントロールするために、ライヴ同様、アルバムにおいてもインタールードは重要な要素になっています。

ライヴバンドでありつつ、その楽曲はトラックメイクの手法がもとになっているNulbarichにとって、今回のアルバムはそのバランスが絶妙ですよね。

もちろん、バンドに委ねる比重が高いライヴに対して、作品においてはバンドの奏でる音に制限を設けてしまうと、自由に編成が変えられるNulbarichの長所が損なわれてしまうので、例えば、打ち込みがふさわしい曲だったらドラムは入れないし、メンバーもそういうバンドの在り方を理解してくれているからこそのバランスにはなっているかと思います。

自分の視野はバンドシーンだけを捉えているわけではない

もっと言うと、こと日本においては、JQくんのように、手法としてバンドとトラックメイクを自在に行き来できるアーティストは稀だと思いますし、それがNulbarichの個性に繋がっているんだと思います。

そうですね。異色ではあるかと思います。そういう意味で、もともと自分がやっていたトラックメイクのスタイルにバンドメンバーが加わることによって、今まさに化学反応の真っ最中だと思います。僕が目指しているのは、自分たちの曲がより多くの場でかかることであって、自分の視野はバンドシーンだけを捉えているわけではなく、DJがクラブでかけやすいかどうかも考えているし、それが楽曲にもしっかりと反映されていて、今回に関しては、バンド内で生まれたアイデアを持ち帰って僕が再構築した「Spellbound」「Supernova」「Zero Gravity」の3曲を除き、まず僕が作ったラフスケッチをメンバーに投げて、意見を聞いたり、音を足したり引いたりしましたね。

つまり、この作品はJQくんのトラックにバンドメンバーのアイデアを加えていく手法が主軸になっている、と。

はい。でも、曲づくりを続けてきて、どういう曲をつくりたいかによって、手法は分かれてきていて。バンドのセッションありきでつくった曲にはいい感じのゆるさがあったり、「Supernova」なんかはその場のテンションで作った楽しさや勢いがあるし、「こういう曲が作りたい!」というイメージを目指してトラックを作るように構築的に音を重ねていくときは真面目な曲になったり(笑)。そのどちらにもそれぞれの良さがあるので、曲を作るときはどちらかに偏らないで自由に取り組むことを意識しています。

EP収録曲の「It’s Who We Are」をはじめとするアルバム前半は、ギターカッティングのファンク感と4つ打ちのビートが特徴的な曲が続きますよね。

そうですね。前半の曲は、N.E.R.D.だったり、アース・ウィンド&ファイアやクール&ザ・ギャングの影響もありますし、もう少し電子音楽寄りだと80年代のファンクやディスコをアップデートしたクローメオからもインスピレーションを受けました。

かたや「Almost There」はドラムが生々しく、ロック的な曲でもあります。

キックドラムの質感は倉庫で大太鼓を打ち叩いているような感じですよね(笑)。この曲に関しては、ブラックミュージックというよりロックテイストを意識しつつ、Nulbarichらしいスウィング感も加えて、バンドとしては新たなアプローチの曲になっていると思います。

5曲目の「Handcuffed」はメランコリックなギターを軸に、展開に次ぐ展開が盛り込まれた曲になっていますが、この曲はどうアレンジしていったんですか?

実は、この曲はもともとフォーク的なバラードだったんですよ。ポエトリーリーディングのように同じフレーズを繰り返すストーリー性のある曲だったんですけど、アルバムに収録するにあたっては、展開の多いアレンジになっていって。自分たちとしてもその発展の仕方は予想だにしていなかったし、どこがサビかもわからないごちゃ混ぜ感が面白くもあって、なんとかまとまりました。

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