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沢城千春と小原莉子らが“愛”と“復讐”の天秤に揺れながら悲劇を声と音で再現。『朗読劇×オーケストラ 第2弾 ハムレット』開幕!

沢城千春と小原莉子らが“愛”と“復讐”の天秤に揺れながら悲劇を声と音で再現。『朗読劇×オーケストラ 第2弾 ハムレット』開幕!

W・シェイクスピア(以下、シェイクスピア)の四大悲劇の『ハムレット』。国王の寵愛を受けた王子が国王の暗殺によって復讐に燃え上がり、最後はハムレットも命を落としてしまう救い難い悲劇の物語だ。国内外、数多く上演されているが、「読む」スペシャリストの声優とオーケストラによる本格的なクラシック演奏で『ハムレット』に挑むのは前代未聞だろう。これだけで一体どんなケミストリーが生まれる舞台になると想像できるだろうか? 前作『第1弾 星の王子さま』ではチケット倍率44倍を記録し、すぐに再演の運びとなった。もちろんそういった数字に惑わされることなく、オーケストラの美しい音色と豪華な声優陣とのコラボレーションは輝かしいケミストリーを生み、2月17日、たった1日の、たった1回の奇跡を見せてくれた。そして“悲劇”の先に見える“愛”の行方は……。

取材・文 / 竹下力


場内は暗転のまま、ゆっくりと真ん中のマイクスタンドに立つ男性。それが主役のデンマーク国王の王子ハムレットを声で演じる沢城千春だ。第一声から苦悶の声。どうやら彼は誰かに刀で斬られ出血多量で意識を失おうとしている。そこから切れ切れの声で回顧が始まっていく……と気づけば場内は再び暗転。

悲しげな喜劇が始まるかと思いきや、華やかなスポットライトとともにバーストするのが、辻博之(※辻は一点しんにょう)指揮によるショスタコーヴィチ作曲による劇付随音楽『ハムレット』作品 32aより、『Introduction and Night Watch』。オフィーリア・フィルハーモニーによる幽玄な調べが『ハムレット』の世界へ誘う悲しげで凛とした魅力のある幕開け。クラシックに慣れていない人でも、最近のネオ・クラシカルのブームを思わせる現代的な曲調でもある。

ショスタコーヴィチは様々な劇伴を担当しているが、シェイクスピアの『ハムレット』ほど似合う作曲家はいないだろう。古典であり現代的でもある。目を見張るようなオープナー。一瞬で『ハムレット』の悲劇の世界に引き込まれる。

舞台装置は、まさにアンサンブルのように統制のとれたオーケストラ、奥のスクリーン。そして中央と下手と上手に用意されたマイクスタンドの数本だけだ。そのマイクに向かって声優たちが歩き喋る。掛け合うのは最高でも3人という最小限のやりとり。そうしてハムレットの子供時代から話が始まっていく。まずは、オフィーリアの小原莉子との出会い。彼らは幼き国王の王子と、名もなき貴族ポローニアスの娘でありながら永遠の愛を誓い合う。彼らの声が可愛らしい。さすが若手実力派NO.1の声優と唸らせる声だけあって、性別がすぐにわかる張りのある声。

登場人物は5人のみだ。ハムレット、オフィーリア。ハムレットの良き理解者であるホレイショー(小野友樹)。オフィーリアの兄であるレアティーズ(置鮎龍太郎)。クローディアスの陰謀により亡き者にされて城に出没する国王の亡霊(遊佐浩二)だけだ。

左から、置鮎龍太郎、小原莉子、沢城千春、小野友樹、遊佐浩二

あの悪役のクローディアスも、ポローニアスも、コメディーリリーフのローゼンクランツとギルデンスターンもいない。それなのに、たった5人とオフィーリア・フィルハーモニーと辻の指揮により『ハムレット』の世界が完全に再現されている。

まさに登場人物はミニマムでありながら、“愛”と“復讐”の狭間で苦闘するハムレットの悲劇をマキシマムに体現している。何百人も出演する舞台も素晴らしいけれど、オーケストレーションと声優の声だけで十分に楽しめる。これだけで『ハムレット』の世界観を作り出し、セリフの間とテンポと音楽の入れ方だけで魅せる演出の山口翔太朗の手腕には溜飲が下がる。何より台本のcicoがシェイクスピアの壮大な悲劇の物語をわずか1時間半の中で再現する、物語の理解力、そして翻訳の言葉の強度に驚かされる。

クローディアスの陰謀により亡き者にされ、幽霊となってしまった国王の話を聞いたハムレットは、憎悪に燃え上がり、クローディアスを殺害しようと狂気に取り憑かれた人間を演じたりする。それを声ひとつで表現し、狂気と現実を自在に行ったり来たりする沢城千春の声は圧巻の一言。

そしてオリジナル曲である『ぼくのための贈り物~ハムレットのテーマ』(作詞:MOA、作曲:おぐらあすか、編曲:小川聡)の凄まじき狂おしさときたら! これは“愛”の歌だ。作曲のおぐらあすかは、ピアノの月野佳奈に身を委ね、美しい和音の調べを奏でてもらい、MOAは天使たちに愛の魔法をかけてと願わせる。ドラムも迫力がある。まるで雲ひとつない月夜の晩に大きな満月が浮かんでいるような綺麗さ。嘆息が漏れる。

しかし、復讐の炎に燃えたハムレットは、誤ってポローニアスを亡き者にしてしまう。それを嘆き悲しむオフィーリア。それでも、『ゆずれない光~オフィーリアのテーマ』(作詞:MOA、作曲:おぐらあすか、編曲:小川聡)では、彼女は決意を持ってハムレットを愛することを誓う。彼女の愛はブレない。まさに天秤の“愛”の皿に乗っている天使そのものなのだ。

その天秤はハムレットの憎悪とともに揺れ動き続ける。それを再現するオーケストレーションが耳を引く。『Funeral March』『Flourish and Dance Music』『The Hunt』『Actors’ Pantomime』『Procession』『Musical Pantomime』など、ショスタコーヴィチの曲が冴え渡る。タクトを振るう辻は朗読者とともに苦悶や安堵の表情に変化させながら、『ハムレット』の悲劇の序章から破滅までの道のりを雄弁にタクトで語っていく。

ホレイショーの小野友樹は、どんなにハムレットが憎悪に燃えても、彼を支える覚悟の言葉の一言一言が熱き友情を感じさせてくれた。レアティーズの置鮎龍太郎は、やがて、オフィーリアが不慮の事故でなくなり、ハムレットに決闘を挑む。いたいけな妹への愛を十全に語り、妹を失った悲劇の悲しさを語り尽くす。

そして重要なのは、亡霊の遊佐浩二だろう。彼はハムレットの陰謀の果てに殺され、復讐をハムレットに誓わせるのだが、そのせいで、彼は、“憎しみの連鎖”、まさに現代に通じるテーマに気づき、それを打ち破るのは“愛”だと悟るのだ。

オフィーリア亡き後、ハムレットとのデュエット『ユートピア(あなたとふたり)』でみせる(作詞:MOA、作曲:おぐらあすか、編曲:小川聡)、大人になってから唯一の、いや、最期のハムレットとオフィーリアの愛の語らいは、まさに極限の状態での愛を歌った見事なラブ・デュエット。たとえ世界が壊れかけていても、愛だけあればすべてに負けない。オーケストレーションとピアノ、そして掛け合いの歌で会場を魅了する。思わず涙が溢れてしまう。そこにショスタコーヴィチの『Lullaby』も絡み合えば絵も言わぬ“愛”の世界を舞台上に描き出していく。

そしてついにレアティーズの決闘により傷つきながら、念願だったクローディアスを倒したのもつかの間、ハムレットも倒れてしまう。事切れるとき、彼は何を思ったのだろう。きっと“憎しみの連鎖”は何も生まないこと。愛だけがすべてだということ。言葉にすれば陳腐かもしれない。でも、声で、歌で、音楽で、そして舞台を生で観ることによって、“愛”は120%以上の力を持つことに、我々も、舞台を生きている声優たちもオーケストラさえも気づくのだ。

「最後に勝つのは愛」なのだ。

そして暗転し、再び袖にはけたハムレットととともに流れる曲は、あの有名な『Requiem』。深いエコーがかかった弦楽器の音から始まるダークな曲調だが、辻のタクトによって一気に明るみが増す。

これで終わりではない。「君と僕」がいる限り、憎しみは果てしなく続く。だが、たとえ世界が壊れたとしても愛も同じように続いていく。もしあなたにとって、もしあなたがいる世界にとって、“愛”と“憎しみ”の天秤が“憎しみ”に傾いてしまったとき、どうかこの舞台の歌や声のように“愛”に傾いてあげられるようにしてほしい。怒りに狂ったあなたのために祈り、絶望に沈んだあなたを励まし、泣き出したあなたを抱きしめてほしい。そう訴えかけてくれる舞台だ。

そんなメッセージを受け取った稀有な舞台。ぜひ再演を望もう。そして、帰り際の道玄坂から渋谷駅への道のりで泣き濡れた顔をコートの袖でふいて叫ぼう。「最後に愛は勝つ」のだ、と。

『朗読劇×オーケストラ 第2弾ハムレット』

2018年2月17日(土) Bunkamuraオーチャードホール

原作:W・シェイクスピア『ハムレット』
台本:cico
音楽:ショスタコーヴィチ作曲
   劇付随音楽『ハムレット』作品 32a
オリジナル音楽作詞:MOA、作曲:おぐらあすか、編曲:小川聡
指揮:辻博之(辻のしんにょうは一点)
オーケストラ:オフィーリア・フィルハーモニー
舞台演出:山口将太朗
出演
ハムレット 役:沢城千春
オフィーリア 役:小原莉子
亡霊 役:遊佐浩二
ホレイショー 役:小野友樹
レアティーズ 役:置鮎龍太郎
主催:キョードーファクトリー/マネジメント・オブ・アーツ

Twitter:@moaofficial2017