Interview

狂気も痛みも描ききる─地上波アニメでは観られないクライム・サスペンス『B: The Beginning』の高い志 中澤一登監督インタビュー

狂気も痛みも描ききる─地上波アニメでは観られないクライム・サスペンス『B: The Beginning』の高い志 中澤一登監督インタビュー

2018年、アニメ業界の台風の目として話題を呼んでいるのが、日本発のNetflixオリジナルアニメだ。今年1月に配信スタートした『DEVILMAN crybaby』(湯浅政明監督)も、従来のTVアニメシリーズでは見られない斬新なテーマ性とアグレッシヴなアニメーション表現、高い作家性で大きな反響を呼んでいる。そして3月2日、全12話の全世界独占配信をスタートしたのが『B: The Beginning』だ。映画『キル・ビル』のアニメパート監督としても有名な中澤一登が原作・監督・キャラクターデザイン・総作画監督を務め、海外のアニメファンから圧倒的な支持を集めるProduction I.Gと強力なタッグを組んで制作されている。

舞台は群島国家「クレモナ」。王立警察特殊犯罪捜査課(RIS)の伝説の捜査官キース・フリックが、謎の連続殺人犯「Killer B」を追う、ダークテイストの壮大かつサスペンスフルな社会派の物語は、海外ドラマさながらのスピーディーなノンストップ・クライムアクションが展開。近年では『黒子のバスケ』のメインアニメーターとしても実力を高く評価されている中澤一登監督に、『B: The Beginning』のクリエイティブについて聞いた。

取材・文 / 阿部美香 構成 / 柳 雄大


“絵描き”出身ならではのアニメの作りかた

中澤一登監督による自画像

Netflixオリジナルアニメは、従来の日本のTVアニメと制作スタンスが異なりますよね。ネット配信なので、1話1話の尺なども自由度が高いそうですし、TVアニメシリーズとは違ったオーダーもあったかと思いますが、中澤監督はどのようなやりとりをされましたか?

何度か会議をして、全部のオーダーに「はい」と言った覚えはあります。どんなオーダーだったかはあんまり覚えてないんですけど(笑)。そもそも、僕は条件や制約があったとしても、それに合わせて作品にできるタイプなので、内容は気にならなかったです。ただ、一般的なTVアニメと違い、Netflixでは全話が一挙に配信になります。だから全話をまとめて納品しなくてはいけない……というのを、作り出してから気づいたんです。TVアニメシリーズを作るように「さて、来週はどうなる?」という感じで1話ずつ作っていたので、「いやぁ困ったね」と(笑)。あれはちょっと慌てましたね。

他に、地上波アニメとの違いはありましたか?

これまでTVアニメをやってきて困っていたのが、俗にいう“ポケモンチェック”……画面をパカパカ光らせてはいけないというアレですね。でも、Netflixではそこに厳しい制限がないと聞いて「ひゃっほう!」と(笑)。稲妻なども格段にカッコよく描けるので、大喜びしました。

たしかに『B: The Beginning』を拝見すると、重たい物語を映像面で演出する、闇と光の演出も印象的ですね。内容もかなりノワールなクライム・サスペンスと感じましたが、その構想はどこから?

この企画は当初、「ダークヒーローをやりたいですね」、「はい、そうですね」という軽い感じでスタートしました。僕としては、今もダークヒーローのつもりなんですけど(苦笑)、僕はもともと絵描きなので、根本的に演出論だとか、物語を作るセオリーというものには、確固たる志向がない。ですが、原画を描き、画面をレイアウトすることが、作品を作ることにはなるので、自分の中の記憶や経験、技術を組み合わせた映像イメージに付随するものを作り上げる形で進めていったら、そうなったと。なので、最終的にクライム・サスペンスになったのは……アクションを描くのが面倒だったからかも知れないです(笑)。

あ、なるほど!(笑)

さらに、主人公のキースというキャラクターが出来上がっていった時、彼は数学とプロファイリングの天才なので、スタッフ会議でも「こいつは絶対運動不足だ」、「運動神経がないに違いない」という意見が飛び交い、アクションをさせにくくなっていったという理由もあります。ただ、映像の緊張感としては、それが心理劇でもアクションでも、同じような感覚は得られると思い、今の内容になりました。実際、最初の企画書の段階からも、内容は壮絶に変わっています。

“伝説の捜査官” キース・風間・フリック(CV:平田広明)

アニメの“生理的な気持ちよさ”を徹底的に追求したかった

それは中澤監督が「こっちのほうが面白い」という方向に、フレキシブルに舵切りを行っていったから?

はい。だからよく怒られます、「また変えちゃった」って(笑)。たぶん普通の監督さんと違って、僕の場合は何か思いつくと、先に絵を作れてしまうからですね。こんなシーンを入れたいと。

アニメーター出身の中澤監督ならではですね。美しいシーン、カッコいいシーンと動きを楽しむことは、アニメーションの根本的な快楽ですから。

僕もそう思うんですよ。アフレコの時、ある関係者の方がこのアニメを、「何か、よく分からないけど、ドキドキします」と言ってくれたのがうれしかったんです。物語は謎解きで進んでいき、すべての謎めいたことは画面に散らしてあるので、見つけようと思えばいくらでも見つけられるよう作ってはある。でもそれより、生理的な気持ちよさだけを徹底的に追求したかった、というのはあります。感覚として僕は、作品を観る人には2種類いると思うんです。「理解したい人」と「感じたい人」。今回は「感じたい人」に向けて作りたかった。それが実現できれば、多少ストーリーが難解でも、謎の部分は観る側の解釈に委ねられる。『B: The Beginning』は、そのほうがいい作品だと思いました。

王立警察捜査官・星名リリィ(CV:瀬戸麻沙美)

たしかに、最終話まで観ていくうちに明らかになっていく人物関係、事件の真相は非常に複雑。観る側は相当翻弄されますが、それがとても面白く、気持ちいいです。

根っこ自体はシンプルな謎を解くだけの話ですが、そこに人間の感情が入り込むと、不条理なことがたくさん出てくるんですよ。昔、プログレッシブロックにハマった時期があったんです。ピンク・フロイド、キング・クリムゾン、イエスとか……正直、音楽が複雑なので「うーん、リズムに乗れない!」と、正直、よく理解できないまま聴いていたんですが、とても心地が良かった。シンプルで分かりやすいものは世の中にたくさんあるので、ちょっと違うものでもいいよね? と考えていったら、どんどん話が変わっていっちゃいましたね。

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