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負けでも逃げでも、そんなことで人生は終わらない。中毒者続出の『完璧じゃない、あたしたち』が刺さる!

負けでも逃げでも、そんなことで人生は終わらない。中毒者続出の『完璧じゃない、あたしたち』が刺さる!

同じじゃない。ひとつになんて括れない。
絶賛の声続々の話題作『完璧じゃない、あたしたち』

自分の性別が女だということに、「息苦しい」と感じたことはないだろうか。

各種ハラスメントやマウンティング、ヒエラルキー問題云々という以前に、毎日がただもう、いろいろとメンドクサイ。つや髪、モテ顔、愛されコーデ。婚活妊活保活に友活。

女として、妻として、母として生きることを否定しているわけじゃないけれど、与えられた「役割」が、どうもしっくりこない。

だけど「普通」や「人並み」の枠からはみ出すのはやっぱり怖いし、あれこれ突き詰めていくと、自分自身が面倒臭いヤツだと公言することになりそうで、なんだかなー、と薄ぼんやりした徒労感を抱えて日々をやり過ごしているような。

©王谷 晶/イラスト: さかぐちまや/ポプラ社

本書『完璧じゃない、あたしたち』は、そんなままならぬ女心の鬱屈を晴らしてくれる23の物語が収められた短編集だ。

主人公として描かれているのは、すべてが女性である。
ごく一般的な、自分の一人称を「わたし」とすることに疑問を抱いてしまった女。一番人気ののり弁が280円という弁当屋で働く女。仕事も日常の行動も、最短時間&距離で行うことをまず考える女。自宅と同じ敷地内にある家業の事務員として働き、小さな町からほとんど出たことのない女。

ふたりして「タチ」であるが故、「抱きたいけど抱かれたくない問題」に直面しているレスビアンカップル。初体験で「こんなもんか」と思ったものの、田舎のママの「なんでもすぐに投げ出しちゃだめ」という教えを守り、とりあえず10本頑張ろうとセックスに努める二十歳女子。無駄と面倒が嫌いで恋愛やセックスを避けてきたのに、酔った勢いで年下の女の子と寝てしまったOL。

次々に登場してくる主人公たちの言動や生い立ちや置かれた状況は、読者にとってごく平凡な、言い換えれば「普通」だと感じるものも、そうとは思えないものもあるだろう。
けれど、読み進めていくうちに、そんな基準なんて、どうでもいいのだ、という気持ちになってくる。

主人公たちが関わり、踏み出したり、切り捨てたり、乗り越えたりするきっかけとなるのも女性で、そうした意味で本書はどこまでも女の物語だ。恋人、親友、母娘、同僚、顔見知り。そんな言葉では語りきれない女同士の関係性に、次々と新しい扉が開かれていくような興奮を抱く。

ともすれば、そんな女だらけの話が23篇も詰まっているなんて、鬱陶しそう、と思われるかもしれない。けれど、サスペンスフルに、ファンタジックに、静謐に、饒舌に、キュートに、恐ろしく、イヤらしく、愛おしく、色を変え型を変え(純文的なものもあれば戯曲まである!)、作者はそれぞれの主人公に相応しい舞台を用意し、その人生を魅せる。同じじゃない。ひとつになんて括れない。その「違い」を、楽しいと思えることに、楽しんでいいのだ、ということに気付かされる。

「あるべき」姿なんて誰が決めたんだろう。自分は何にとらわれていたんだろう。

狡くても、弱くても、負けでも逃げでも、そんなことで人生は終わらない。幸せは歩いて来ないけれど、私たちはどこへでも行けるのだ。

文 / 藤田香織(書評家)

書籍情報

『完璧じゃない、あたしたち』

王谷 晶・著
さかぐちまや・イラスト
ポプラ社

友達? 仲間? 憧れ? ……恋? この関係に名前はつけられない、でも、あなたじゃないとだめ。女同士の様々な関係を鮮やかに描きだす全23篇の短編小説集。

関連サイト

WEB astahttp://www.webasta.jp/

王谷 晶Twitter@tori7810

著者プロフィール:藤田香織(ふじた・かをり)

書評家、エッセイスト。著書に『だらしな日記』シリーズ、杉江松恋との共著『東海道でしょう!』(共に幻冬舎文庫)、『ホンのお楽しみ』(講談社文庫)など。
Twitter@daranekos