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“ベストアニソン5選”で振り返る2017年のアニソン・シーン。音楽評論家/音楽プロデューサー・冨田明宏が選んだ珠玉の楽曲とは?

“ベストアニソン5選”で振り返る2017年のアニソン・シーン。音楽評論家/音楽プロデューサー・冨田明宏が選んだ珠玉の楽曲とは?

2018年に入ってから2カ月あまりが経つが、ふと振り返ってみると昨年もアニメソングには数えきれないほどの名曲があった。アニメが放送される1クールごとに作品も話題もあっという間に移り変わってしまう今、少しだけ立ち止まって、昨年一年を通して評価される優れた楽曲をあらためて聴いてみたい。そんな思いから、今回はアニメ音楽専門誌『リスアニ!』に携わる音楽評論家/音楽プロデューサーであり、エンタメステーションでも数多くのアーティストを取材している冨田明宏さんに2017年のアニソンを振り返ってもらった。「3曲だと少なすぎる。10曲だと逆に広すぎる」というバランスから厳選された、“2017年の5曲”にぜひ耳を傾けてみてほしい。

取材 / 柳 雄大


シンガーと声優ユニットが“互いを尊重し合う”新しいコラボレーション

Wake Up, May’n!「One In A Billion」
作詞:藤林聖子 作曲:渡辺未来 編曲:R・O・N
TVアニメ『異世界食堂』オープニングテーマ
リリース:2017年8月9日

「もともとワグナー(Wake Up, Girls!のファンのこと)を公言していたMay’n部長(※)が、ディレクター的な立場で楽曲の監修もしながら、自身もメンバーとして中に入って、まるでオーナーのように立ち回りWUGちゃんたちとコラボするという強力なシングルです。これがかなり新しいというか、今までにない形のコラボレーションだったんですよ。

Wake Up, Girls!はいわゆる声優ユニットで、May’n部長はアニソンを歌うシンガーの中でも超本格派の、業界屈指のライブアーティストですよね。その2組が混ざり合い、お互いを尊重し合って生まれたコラボレーションとして、すごく良質かつワクワクするようなポップ・ミュージックが生まれたなという印象があります。普段はソロで活動しているMay’n部長がかなり苦心したと語った、WUGちゃんたちとのフォーメーションダンスが楽しめるPVも必見です」(冨田)

※ライブのことを「ライ部」、ファンクラブ会員のことを「部員」と表現するなど、部活になぞらえたネーミングを好んで使っているMay’nはファンの間でこう呼ばれている。

ブラスロックに独特な声質がマッチした“とにかく隅々までカッコいい”一曲

伊藤美来「Shocking Blue」
作詞:森由里子 作曲・編曲:園田健太郎
TVアニメ『武装少女マキャヴェリズム』オープニングテーマ
リリース:2017年5月3日

「尖って聴こえるけどすごくキャッチーというメロディも、FIRE HORNSが参加した熱いブラスアレンジも、エッジが立ちまくっていて。とにかく隅々までカッコいい。その上で伊藤美来さんの声にオリジナルな魅力があって、その融合がとても新鮮だったんですよね。

伊藤さんの声はクールで尖ってるようで、しかしちょっと幼さや人懐っこいような感じもある。独特なバランスで楽曲が成立している印象です。このように個性的な歌声を持った声優さんが歌う本格的なブラスロックは、もしかしたら今後もっと増えるかもしれない。そう思うぐらい、絶妙なアーティスト・ディレクションが随所に垣間見えました」(冨田)

ミュージックビデオのYouTube視聴回数はなんと1,800万回オーバー!

fhána「青空のラプソディ」
作詞:林 英樹 作曲:佐藤純一 編曲:fhána
TVアニメ『小林さんちのメイドラゴン』オープニングテーマ
リリース:2017年1月25日

「この曲はYouTubeでもPVがフルで上がってるんですが、再生回数が1,700万回以上になっていて、今も伸び続けてるんですよ(2018年2月末時点で約1,800万回)。このPVがすごく凝ってるんですが、描かれているのがfhánaの誕生秘話でもあって。『CLANNAD』(クラナド)という作品が好きだった3人がメイドカフェに集まって、ああでもない、こうでもないと言いつつ、「だんご大家族」(TVアニメ『CLANNAD』のEDテーマ)のオルゴールを回しながらバンド名を決めたという物語そのままになってるんです。さらに途中でtowanaちゃん(ボーカリスト)との出会いがあってバンドが動き出して……というところが、すごくポップに、しかし感動的に描かれている。

そんな見ごたえのあるPVですが、言うまでもなく曲も抜群です。もともとfhánaにはウェルメードな作品づくりをするプロデューサー・チームという印象が僕にはあったのですが、この曲やPVはかつてないほどユーザーやファンに向き合った作りになっていて。fhánaがアニソン・シーンの中で、真の市民権を獲得した曲なのかもしれません」(冨田)

現代アニソンのあらゆるキャッチーさがひとつになった記念碑的楽曲

どうぶつビスケッツ×PPP「ようこそジャパリパークへ」
作詞・作曲・編曲:大石昌良
TVアニメ『けものフレンズ』オープニングテーマ
リリース:2017年2月8日

「問答無用で2017年一番話題になったアニソンでもありますし、地上波の音楽番組でも数多く取り上げられていましたね。評論家筋も含めて、さまざまなプロデューサーや音楽家の方々、平井堅さんや星野源さんまでもが絶賛した1曲でもある。話題性、そしてアニソン・リスナーたちへの浸透度から言っても外せないと思います。

しかし実はこれ、今まで多くのサウンド・クリエイターが“アニソン”というフィールドでやってきたキャッチーな要素を1曲に詰め込んだ曲なんだと、楽曲を提供した大石昌良さん自身も言っていて。例えば“うー!がぉー!”というような必殺のフレーズとかコール&レスポンス、Bメロに入る“PPPH”とか、サビ後の“ララララ~”という合唱パートとか。あとは聴いていると自然とクセになる転調もそう。キャッチーに聴こえるさまざまな要素は、実はアニソン業界が2000年代中期から十数年かけてみんなで作り上げてきたものでもありました。だからこの曲は、大石さんという非常に優れたソングライターでありアーティストがアニソン業界に対するリスペクトをギュウギュウに詰め込み美しくまとめ上げた、記念碑的な曲なのかもしれません。

この業界でずっとアニソンを追いかけていると、何年かに1回、みんなで思わず〈分析したくなる曲〉っていうのがあるんです。2005年だったら水樹奈々「Eternal Blaze」とか、2006年だったら「ハレ晴レユカイ」、2007年だったら「もってけ!セーラーふく」、2009年以降の『けいおん!』関連楽曲、2010年代前半だったらLiSA「Rising Hope」とかとか。「ようこそジャパリパークへ」もそんな1曲になったと思います。アニソンを作っているクリエイターや音楽関係者の皆さんが、誰もが“ヒットの理由”や“楽曲の構造”を分析、解析をして良さを語り合った曲でした。まさにあらゆる意味で去年を象徴する曲になりましたね」(冨田)

LiSAにしか歌えない、しかしみんなで歌えるという特別な曲

LiSA「Catch the Moment」
作詞:LiSA 作曲:田淵智也 編曲:江口亮
映画『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』主題歌
リリース:2017年2月15日

「LiSAはこれまで「Rising Hope」だったり「oath sign」だったり「crossing field」だったり……アスリートのような筋力と歌唱力、ロック・ヒロインな存在感が相まって存在価値が輝く、成立するというような歌をたくさん生み出してきました。でも、「Catch the Moment」はそういった今までのような歌の筋力が試されるジェットコースターのようなシングル・ナンバーとは少し趣きが違っている。サビのメロディに良い意味ですき間があって、オーディエンスみんなでしっかりと歌える余地が敢えて組み込まれているように感じます。つまり、カラオケでも歌いやすいですよね。本当の意味での一体感が生み出せる曲で、“LiSAにしか歌えないけど、みんなが一緒に歌えるヒット曲になった”感じがするんです。

アニソンの世界を飛び越えて活躍する本物のライブアーティストとして、LiSAは今あらゆる意味でもっともアニソン・シーンを象徴する存在です。2017年でいうと、『けものフレンズ』とはちょうど対極にあるとも言えますよね。これまでアニソン業界の皆さんが作り上げ、醸成してきた要素が詰め込まれたキャラクターソングが「ようこそジャパリパークへ」である一方、今のアニソンシンガーにおける最前線にいるLiSAの歌った、本当の意味で“みんなという存在”に向かい合った楽曲が「Catch the Moment」だったのかなと。しかもこれがしっかり大ヒットしたっていうのが、すごく大きかったなと思ってます。

ファンのみんなは、この「Catch the Moment」のような求心力を持ったアンセムを待っていたのかもしれない。でも、デビュー早々にこの曲を持ってくるのはやはり違う気がするし、やっぱり2017年まで待たなくてはならなかったのだろうと思いますね」(冨田)

冨田 明宏

音楽評論家/プロデューサー。2010年にアニメ音楽専門誌『リスアニ!』を企画・立案。日本武道館で毎年開催されるイベント『リスアニ!LIVE』では総合MCを担当する。現在は音楽プロデューサーとしてClariS、内田真礼、黒崎真音らのプロデュースも手がけている。2017年にはテレビ朝日『関ジャム完全燃SHOW』、TBS『マツコの知らない世界』のアニソン特集ゲストとしてもそれぞれ出演した。