佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 35

Column

準大賞に選ばれた2枚のアルバム『初期の台風クラブ』と『MODREN TIMES』

準大賞に選ばれた2枚のアルバム『初期の台風クラブ』と『MODREN TIMES』

10年目を迎えたCDショップ大賞2018の授賞式で、とても印象に残るシーンを目にしたのでお伝えしたい。

準大賞に選ばれた台風クラブの石塚淳が登壇して、「京都の、そこらへんの兄(あん)ちゃんたちが、働きながら、バンドやって作ったアルバムなので、ここに立っているのが不思議な感じです」と、晴れがましい場に緊張しながらも、訥々といった感じで挨拶した。
その後で彼はポケットからCDを取り出して、笑顔になって「さっき楽屋でサインもらっちゃったんです」と、うれしそうに語ったのである。

その手にあったのは、同じく準大賞に選ばれたPUNPEEのアルバム『MODREN TIMES』だった。

CDショップ大賞とはインディーズやメジャーを問わず、音楽作品を扱っている現場で培われた体験から、目利き耳利きを自負する店員さんが新しい才能を発信出来ると思える作品を“大賞”として選出することで、音楽シーンを活性化することを目的に始まった。
いわば現場で働いているスタッフがプライドをかけて、一押しのアーティストや名盤となり得るアルバムをノミネートし、大賞を筆頭にさまざまな部門賞を記名投票で選んで、アーティストを顕彰するイベントなのだ。

2009年に始まった当初は、ネクストブレイク・アーティストが選ばれて、そのことをきっかけにブレイクするという方向性だった。

第1回2009年相対性理論『シフォン主義』
第2回2010年THE BAWDIES『THIS IS MY STORY』
第3回2011年andymori『ファンファーレと熱狂』

ところがCDショップをとりまく環境の変化から、近年は一昨年の星野源『YELLOW DANCER』、昨年の宇多田ヒカル『Fantôme』と、完成度が高いアルバムを発表したことで、さらなる高みを目ざすアーティストが受賞する傾向になってきた。

955名が投票に参加した今年もやはりすでにブレイクしているアーティスト、米津玄師のアルバム『BOOTLEG』が選ばれて、こんなコメントが語られていた。

毎回ノミネートして頂いていたので、今回の結果はとても光栄です。
自分自身をまた新たなところに連れて行ってくれるアルバムになったと思います。

24のノミネート作品のなかで、大賞に次ぐ得票数だった作品に与えられる準大賞には、本コラムの第20回で紹介したPUNPEEの『MODREN TIMES』が選ばれた。
これは少し誇らしい気持ちだったので、楽屋でPUNPEEさんにもお目にかかった。

ビートルズとストーンズを朝から晩まで聴いていた1967年にタイムスリップさせてくれたのは、PUNPEEの意欲的なコンセプト・アルバム『MODREN TIMES』だった

ビートルズとストーンズを朝から晩まで聴いていた1967年にタイムスリップさせてくれたのは、PUNPEEの意欲的なコンセプト・アルバム『MODREN TIMES』だった

2017.11.28

もう1枚、準大賞に選出されたのが『初期の台風クラブ』というアルバムである。
彼らもまたPUNPEEと同様にネクストブレイク・アーティストで、このアルバムが初の全国流通商品だった。
作詞・作曲およびギターとヴォーカルを担当する石塚淳のコメントからも、そのことが如実に伝わってくる。

投票してくれたCDショップの店員さん、おれらを見つけてくれた人、呼んでくれたライブハウスや場所や企画してくれた人、お客さん、ほんとありがとうございます! 普段、何百枚、何千枚ってCDを扱っている店員さんに台風クラブが届いたことが不思議であり、嬉しいです。

ぼくもバンド名は知っていて以前から気にはなっていたのだが、実はまだ聴いたことがなかった。
ただ、今は亡き相米慎二監督の映画で何度も観ている傑作、『台風クラブ』を思わせるバンド名で覚えていたす、『初期のRCサクセション』を連想させるタイトルから、音楽の方向性を想像していたらそのまま思っていた通りの内容だった。

京都を拠点に活動しているバンドらしい空気感が漂っていて、日々の生活にある泥臭さ、人の弱さや強さ、カッコよさやカッコわるさがにじみ出ている歌詞、そして思っていた以上にポップなところに好感を持った。

授賞式の場に登場したメンバーの石塚が、当日のツイッターにこんなことを載せていた。

ギターとヴォーカルが石塚淳、ベースの山本啓太、ドラムの伊奈昌宏によるバンドの台風クラブも、自分のペースで日本のヒップホップの世界を広げていくPUNPEEも、マイペースでの活躍を楽しみにしたい。

PUNPEEの楽曲はこちらから

著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。
「マイ・ラスト・ソング」では構成と演出を担当。
2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長に就任。
著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)。

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