山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 29

Column

I SAW THE LIGHT/ハンク・ウィリアムズ

I SAW THE LIGHT/ハンク・ウィリアムズ

「R&R」誕生以前、一本のギターと歌で路上からスーパースターへと一気に昇りつめ、絶頂期に去った男。
痛みを伴う持病のために出征を逃れ、同時にアルコールやドラッグに溺れた彼は、生涯人々の「闇」、深い悲しみを歌い続けた。
HEATWAVE 山口洋の好評連載、29回目は今なお後世のロック・ミュージシャンに大きな影響を与え続ける伝説のシンガーの、普遍の光に迫る。


小学生の時分から彼の歌が無性に好きだった。アメリカン・ルーツ・ミュージックである彼の歌を、なぜ田舎の小学生が耳にしていたのか、明確な記憶はないのだけれど。おそらく当時絶大な人気があり、ラジオからしょっちゅう流れていたカーペンターズの「Jambalaya」のオリジナルを歌う人物として紹介されていたのではないかと類推している。

ハンク・ウィリアムズは1923年にアラバマ州で生まれた。母子家庭に育ち、路上で黒人にギターを習い、29歳というあまりにも短い生涯を1953年に閉じるまでに、35枚のシングル盤をリリースし、生涯悲しみを歌い続けた。いわく、

誰もが闇を抱えて生きている。
やりきれない怒り、悲しみ、後悔、、、、、。
僕がすべて歌にするよ。
そうすれば、みんなが辛いことを忘れられるだろ?
辛さは全部引き受ける。

(彼を描いた映画『I SAW THE LIGHT』の予告編より)

彼は先天的に脊髄に病気を抱えていて、その痛みを緩和するためにモルヒネやアルコール、様々な鎮痛剤を服用していたため、私生活やステージで問題を引き起こすようになっていく。そして1953年の元旦、コンサート会場に向かう途中、薬物の過剰摂取によって、致命的な心臓発作に襲われ車の中で亡くなる。享年29歳。

彼の歌はウィリー・ネルソン、ベック、トム・ウェイツ、ルイ・アームストロング、ボブ・ディラン、レーナード・コーエン、ジョニー・キャッシュなどにカヴァーされ、没後カントリー音楽の歴史に於いてもっとも重要な人物の一人と言われるようになる。ロックンロールが生まれる前夜、彼は後のロッカーたちに多大な影響を与えた。

“音楽は作るものではない。身体から湧き起こるものだ”。有名な彼の言葉。遺された曲たちは感嘆するほど素晴らしい。小学生だった僕のこころを捉えて離さないメロディー、簡潔でわかりやすい言葉、すべての曲は2分台。その中に、誰にでも通底する人生の悲哀が深く描かれる。驚異的な才能。

大げさな話ではなく、僕は彼の歌なら24時間聴いていられる。実際、自分のコンサートの開演前によく流しているのだけれど、緊張を解きほぐしてくれて、いつもの自分でステージに上がることができる。僕にとっては精神安定剤のような音楽で、それが甚だ精神不安定だった彼によって書かれていることが音楽の不思議なところだ。

どうして彼があれほどの曲たちを短期間に書くことができたのか、僕には想像もできないけれど、大人になって、どうして彼の歌がこんなに好きだったのかはわかってくる。人間が抱える苦悩の本質は、時代が変わっても大して変わってはいないのだ。

彼の歌は世知辛い現代にこそ有効だと思う。日本のロック界で彼について語り合えたのは仲井戸麗市さんたった一人だけれど(彼は僕に伝記をプレゼントしてくれた)、今だからこそ多くの人のこころに届いてほしいと願っている。

愛してやまない1曲を僕の意訳でお届けしておきたい。この曲はハンク・ウィリアムズの曲ではなく、カヴァーなのだけれど、彼の口から発せられた時点でそんなことはどうでもよくなる。この曲もディランやトム・ペティーなどによって歌い継がれ、この名を冠した優良な音楽レーベルもアメリカには存在する。

高速道路のパーキングエリアでもハンク・ウィリアムズの廉価なベスト盤は売られている。興味をもった方はぜひ、そのエヴァーグリーンな歌に耳を傾けてみてほしい。

Lost Highway

I’m a rolling stone, I’m a rolling stone

すべて失くした 男たちが
償いの道をゆく
ああ 果てしなき このLost highway

I’m a rolling stone, I’m a rolling stone

ワインと夢 そして女の嘘
あの娘と出会ったその日から
歩き始めた このLost highway

I’m a rolling stone, I’m a rolling stone

善人でもなく 悪人でもない
何もかもが 半端なこのオレが
歩いてるのが このLost highway

I’m a rolling stone, I’m a rolling stone

誰かを恨む くらいなら
生きてる今が 夢なのさ
ああ 果てしなき このLost highway

(意訳 山口洋)

ハンク・ウィリアムズ / Hank Williams:(本名:ハイラム・キング・ウィリアムズ) 1923年、アメリカ合衆国アラバマ洲ジョージアナ出身のシンガー・ソングライター。幼少の頃から二分脊椎症を患い、その痛みは生涯続いた。ルーファス・“ティー=トット”・ペイン(Rufus “Tee-Tot” Payne)という黒人の路上演奏者から、食事の提供と交換にギターを習ったことをきっかけに音楽を始める。ペインは彼の後の音楽のスタイルに大きな影響を与えた。地元のラジオ局の前で歌っていたところを、局のプロデューサーに才能を見出され、1937年にデビュー。持病のせいで第二次世界大戦の召集を免れ、1943年、オードリー・シェパードと結婚。1948年、「Move It On Over」をリリース。当時、カントリー・ミュージックのスターを輩出していたラジオ番組『Louisiana Hayride』に出演するようになり、1949年には「Lovesick Blues」をリリースし、同曲のヒットでメジャー・シーンに躍り出る。やがて、最初は断られた『グランド・オール・オプリ』(“カントリー音楽の聖地”と呼ばれるナッシュヴィルのラジオ局の公開ライヴ番組))への出演も実現。1948年から1953年までの間に、「ビルボード」のカントリー&ウェスタン・チャート1位に輝いた「Your Cheatin’ Heart」、「Hey Good Lookin’」、「I’m So Lonesome I Could Cry」など11曲をはじめ、35枚のトップ10ヒット・シングルを録音した(うち5枚は死後にリリースされた)。脊椎の痛みを和らげるためのアルコール、モルヒネ、様々な鎮痛剤の服用が原因で問題を起こし、1952年に離婚。『グランド・オール・オプリ』からも解雇された。1953年1月1日、コンサートへ赴く途中、薬の副作用による心臓発作で急逝。「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100人のシンガー」において第27位。「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100組のアーティスト」において第74位。「Q誌の選ぶ歴史上最も偉大な100人のシンガー」において第59位。エルヴィス・プレスリーが誕生する前のスーパースター、カントリー音楽の歴史において最も重要な人物のひとりと見なされている。


『COME SEPTEMBER:AN INTRODUCTION TO HANK WILLIAMS』

「I Can’t Help It」、「Move It On Over」「Lost Highway」「I’m So Lonesome I Could Cry / 泣きたいほどの淋しさだ」「I Saw The Light」など、全18曲を収録した入門編。

『GOLD』

上記の曲に加え、「Jambalaya(On The Bayou)」、「Honky Tonkin’(Single Version)」などシングル盤をほぼ網羅した2枚組。全42曲を収録。

『I SAW THE LIGHT / アイ・ソー・ザ・ライト』

ハンク・ウィリアムズの波乱に満ちた半生を描いた音楽伝記ドラマ。監督:マーク・エイブラハム、主演:トム・ヒドルストン、共演:エリザベス・オルセン、ブラッドリー・ウィットフォード、チェリー・ジョーンズ、マディー・ハッソン(2017年 / ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント)

著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年、福岡県生まれ。1979年に結成したHEATWAVEのフロントマン。1990年にアルバム『柱』でメジャーデビュー。1995年発表のアルバム『1995』には、阪神・淡路大震災後に作られた「満月の夕」が収録され、多くのミュージシャン、幅広い世代に歌い継がれている。アイルランドの重鎮、ドーナル・ラニー、元モット・ザ・フープルのモーガン・フィッシャーら海外のミュージシャンとの親交も厚い。2003年より渡辺圭一(bass)、細海魚(keyboard)、池畑潤二 (drums)と新生HEATWAVEの活動を開始。仲井戸“CHABO”麗市、矢井田瞳らと東日本大震災後に立ち上げた福島県相馬市を応援するプロジェクト“MY LIFE IS MY MESSAGE”の活動も続けている。昨年は14作目にあたるアルバム『CARPE DIEM』と初の2枚組セルフカヴァー・アルバム『Your Songs』を携えたHEATWAVE全国ツアーに加え、リスナーからのリクエストで構成されるソロ・アコースティック・ツアー“Your Song”で全国を廻った。4月7日(土)、8日(日)には本連載が3Dスピンアウト。山口洋「Seize the day / 今を生きる」番外編トーク&ライブとして、これまで連載で取り上げてきたアーティストについて語るとともに、最新作『Your Songs』からの楽曲、カヴァー曲や現在制作中の新曲を演奏予定。

オフィシャルサイト

山口洋 LIVE@国立「Seize the day / 今を生きる」番外編トーク&ライブ

再生の歌=何度でも人はやり直す
2018年4月7日(土)国立 地球屋 ※SOLD OUT

You are free=運命を創る力
2018年4月8日(日)国立 地球屋 ※SOLD OUT

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夢の続きの唄がきこえる

2018年4月15日(日)福島 clubSONICiwaki
出演:山口洋(HEATWAVE) / 大森洋平 / 中村マサトシ / Chano

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