Interview

絶版になってはゾンビのようによみがえり…ついには映画化! 末井昭と「素敵なダイナマイトスキャンダル」の数奇な運命

絶版になってはゾンビのようによみがえり…ついには映画化! 末井昭と「素敵なダイナマイトスキャンダル」の数奇な運命

少年時代に母親がダイナマイトで若い男と心中するという、衝撃的なバックグラウンドを持つ男、末井昭。
無名時代の荒木経惟や森山大道らとともにエロ本に革命をもたらし、毎月のように警視庁に呼び出され、ついには廃刊の憂き目に遭うも、雑誌「パチンコ必勝ガイド」を創刊して旋風を巻き起こすなど、数々の〝武勇伝〟を残して出版界にその名を刻んだ異才の編集者だ。その劇的な半生を綴った自著「素敵なダイナマイトスキャンダル」が、「南瓜とマヨネーズ」(’17年)でも気を吐いた鬼才・冨永昌敬監督によって映画化された。3月17日の公開にあわせ、末井昭と主演の柄本佑をそれぞれフィーチャー。今回は末井に映画の感想や執筆時のエピソードなどを聞く。

取材・文 / 平田真人 撮影 / 荻原大志


映画になるようなドラマティックな人生を歩んでいるという意識は全然なかったんです

個人的な話で恐縮ですが、自分は『パチンコ必勝ガイド』で”脳汁”という表現を知って、言い得て妙だなぁと唸ったクチなんです。

はいはい、”脳汁”ね(笑)

リーチが掛かって、そろった時にドーパミンがジワ~ッと脳内で広がっていく感覚を、”脳汁が出る”と表現されたのは、絶妙でしたよね。

そうなんですよ、何か汁が広がっていく感じがあるんだよねぇ。

それが、初めての”末井昭体験”でしたので、こうしてお話をうかがえるのが、感慨深いです。

いやいや、どうも(笑)。

では、さっそく映画の話に移りまして…末井さんがご覧になって、再現度が高いなと思ったシーンを挙げるなら、どこでしょう?

そうですね、再現度…それはあまりなかった気がする(笑)。でも、冒頭の警視庁に呼び出し喰らうシーンは、実際もあんな雰囲気でしたね。ただ、椅子に座りながらまわったりはしなかったですけど。一応、”出頭”という心づもりで行ってましたから、あんなふうにおちゃらけたことはしなかったです。あと、編集部の感じというのは、わりとリアルだったかな。雑然としていて、何でも紙でやってましたからね。DTPなんてまだなかった時代だったので。

かつては、編集部のデスクでみんなタバコを吸っていましたよね。

あの辺の描写に嘘があると、実際に出版社で働いてきて当時を知っている人たちが、「こうじゃなかったよね」と興ざめしちゃうから、結構気をつかったんですよ。校正刷りなんかも、同じ『写真時代』の編集部にいた人に監修してもらって。ああいうところがリアルじゃなくて、一箇所でもウソが見つかると全部ウソに見える可能性があるので、そこは気をつけてもらいました。それから、キャバレー時代の看板なども僕がデザインして、それを元に描いてもらっています。普通のサイズの紙に描いて、それを拡大して大きな看板にしてもらっていて。あれも美術部に丸投げして、「こんなものか」と思われてつくられたらマズイんですよ。ちょっと普通じゃない表現が入っていて。普通ならカワイイ女の子でも描いて、「今宵、アナタをナントカカントカ…」といったような雰囲気なんだけど、僕の看板は全然アプローチが違っていたんです。

(笑)。しかし、柄本佑さんが、だんだんと若いころの末井さんに見えてくるのがすごいなと思いました。

佑くん本人もね、僕が若い時に女装した姿を見て、「あれっ、自分に似てる」って言っていましたね。

冨永昌敬監督も、映画化する時には柄本佑さんの主演と考えていたそうで。

あぁ、そうみたいですね。

その冨永監督からは、「『素敵なダイナマイトスキャンダル』を映画化したいんです」と突撃オファーをされたんですよね?

そう、2011年ぐらいだったかなぁ。戌井昭人さんの『松竹梅』という小説の出版記念トークイベントがあって、僕もゲストで呼ばれて。その時に喫煙コーナーへ行ってタバコを吸っていたら…ほかに誰もいなかったんですね。そこへ、すぅっとね、見たことない人がニコニコしながら近寄ってきて、「映画を撮ってます、冨永と言います」と言うから、「あ、そうですか」なんて素っ気なく返して。

素っ気なく(笑)。

僕には関係ない人だと思ってたからね(笑)。そしたら「あの~、”素敵なダイナマイトスキャンダル”を映画にしたいんですよ」って。「え?」って、ちょっとビックリしたんですけど、「あぁ、いいですよ」って言って。

©2018「素敵なダイナマイトスキャンダル」製作委員会

即答ですか(笑)。

だってね、そんなことを言われたのは初めてでしたから。それに、まさか本当に映画化できるとは思っていなかったから、”まぁ、やれるもんならやってみたらいいよ”という意識もあって、『いいですよ』と言ったんです。
で、やっぱりね、僕が思ったとおり、それから全然進展がなくて。その場だけの酔狂でお流れになったのかなと思ったら、3年、いや4年くらい前だったかな、結構具体化してきて、「実現しますよ」なんていう空気になったんですね。それでも僕はね、あんまり信用してなかったんですよ。で、菊地成孔さんとのトークショーがあって会った時に、「冨永くんは”ダイナマイトスキャンダル”の映画化、本気ですよ」って。その時に、荒木(経惟)さんの役を頼まれているんだって言っていて。「でも、俺、絶対にやらないから」なんて話していたんだけどね(笑)。

菊地さん、バッチリ演じていらっしゃいましたね(笑)。

そうそう(笑)。そのころから、だんだん「本当に映画化に向かっているんだなぁ」と信じるようになっていったんですよ。

冨永監督は、突撃オファーをした時に末井さんから「どういう映画にするの?」と返された、と回想していますね。

あぁ、そんなこと言ったかもしれない。だって、素直に「どういう映画にするんだろう?」と思ったもんだから(笑)。

確かに。その完成した映画を、どのような視点や感覚でご覧になりましたか?

今日(取材日)まで3回観たんですけど、体感的に上映時間2時間18分という長さには感じなかったんですよね。つまり、そう感じる映画は面白いんだろうと判断して、自分なりに納得していたわけです。
その後、試写を観た人たちだったり、Twitterだったりで感想を探ってみたところ、わりと評判がよくて。もっと批判が出るのかなぁと思っていたんだけど、そんなになかったので、まぁ、いいんじゃないかぁと。実際、それは3月17日に公開されてみないとわからないですけどね…。

僭越ながら、映画化されるような人生を歩んでいらっしゃると思います…。

自分ではそういう意識がまったくないんですけどね(笑)。原作の『素敵なダイナマイトスキャンダル』を書いた当時──1982~83年ぐらいに、人から…誰だったか忘れちゃいましたけど、「こういう体験をしているのなら、もっとちゃんと書けばもっとすごいものになるのに」みたいなことを言われたんですよ。
でも、僕はあんまりピンときていなくて。ちゃんと書くって、どういうことなんだろうって。たとえば、文学的なアプローチで、もうちょっと詳しく読んだ人の感動を誘うような表現を入れるといったことだったのかもしれないですけど、自分には全然そういう技術なんてないと思っていたし、そういうことをやりたいとも思っていなかったから、淡々と書いたという感じだったんですよね。

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