映画『ちはやふる -結び-』  vol. 3

Interview

映画公開記念対談ー原作者・末次由紀と小泉徳宏監督が語る『ちはやふる』。 漫画と映画、それぞれの魅力とは?

映画公開記念対談ー原作者・末次由紀と小泉徳宏監督が語る『ちはやふる』。 漫画と映画、それぞれの魅力とは?

主人公・綾瀬千早をはじめ、仲間やライバルたちが競技かるたに青春を燃やす姿を活写した『ちはやふる』。
原作は37巻まで刊行され、なおも大好評連載中。一方、広瀬すず主演の映画版は、2016年春に公開された『ちはやふる -上の句・下の句-』の続編『ちはやふる -結び-』で、一応の完結を見る。
特集の第3弾は、健筆をふるう原作者の末次由紀と、映画の三部作を手がけた小泉徳宏監督の対談をクローズアップ。それぞれの立場から、お互いの表現をはじめ、好きなキャラクターなどについて、ざっくばらんにクロストークを展開してもらった。

取材・文 / 平田真人


自分の想像をいい意味で裏切るものになった時、漫画も映画も面白くて楽しいものになる

基本的な質問になりますが、お二方が競技かるたの存在を知ったきっかけから、お聞かせください。

小泉 僕はそれこそ、『ちはやふる』の原作を読んだことです。自分が映画を撮ることが決まるずっと前…2008年ぐらいには出合って、読み始めていたので…。

末次 競技かるたはご存じなかったですか?

小泉 競技かるたは知らなかったですね。やっぱり、かるたというと、みんなが想像する「犬も歩けば、棒に当たる──」「はいッ!」という感じでしたから、競技かるたという世界があるのだなぁ、と。

末次 見たこともなかったですか?

小泉 はい。なので、映画を撮ることになって、本格的に競技かるたそのものも深く知ろうと思うようになった、という感じです。

「ちはやふる」以前と以後で、メディアによる競技かるたの取りあげ方も変わったような印象があるのですが…。

小泉 そうですね、『名人・クイーン戦』だけではなくて、たとえばバラエティ番組などに取りあげたり。外国人の方が日本に来て、クイーンの元で修行するといった番組があったり。

末次 かるた部強豪校の男の子に密着というのもありました。「あ、私が取材した子が密着取材されていて…しかも彼女まで出てる!」って、ビックリして。あぁ、リア充だ〜って…(笑)

小泉 リア充(笑)!

末次 輝きがすごすぎて、「きみは、かるたが上手なうえに、こんなに輝いてどうするんだ〜!」みたいな(笑)。でも、そうやっていろいろな方面から光が当てられることが増えて、かるたをやっている子たちはすごく張り合いがあるんじゃないかなと思います。

末次先生にお聞きするのも野暮ですが、競技かるたとの出会いというのは…?

末次 連載を始める時に、当時の担当編集者さんに「競技かるたの漫画って、どうですか?」というボールを投げていただきました。百人一首が好きだったので、かるたの勝負の世界があるというのは知ってはいたんです。それなら私にも描けそうだと、すごく明るい気持ちで前向きにとらえたところ、調べはじめてみると…“これはただごとじゃないぞ”ということが、わかってきて。
文化という側面からのアプローチをイメージしていたんですけど、これはスポーツだと。できるのかな…という気持ちだったんですけど、結果的には新しい扉が開きました。スポーツマンガは元々、好きだったんですよ。でも、好きであることと描けるかどうかは別モノじゃないですか。

小泉 確かに、そういうことありますよね。

末次 でも、意外といけるなと(笑)。スポーツマンガが好きで良かったと思いました。

©2018映画「ちはやふる」製作委員会 ©末次由紀/講談社

(笑)。そういったスポーツ的な要素や側面が強いことを考えると、小泉監督とは親和性が高かったのかな、と勝手ながら思ったりもしたのですが、いかがでしょう?

小泉 あぁ……どうなんでしょうかね?

末次 私の中の小泉監督は、文化部的なイメージの方が強いんですけど。

『ガチ☆ボーイ』(’08)の印象があったので…。

小泉 あぁ、なるほど!そういう意味でいうと、プロデューサーをはじめとする制作サイドの方が、僕の特性を見抜いていたのかもしれないですね。「小泉はスポ根的なのもイケる」と。

末次 監督の中でも新しい扉が開いたんじゃないですか?

小泉 自分としては、言われてみればそうかもしれない、という感じだったりしますね。

では、話題を移しまして…末次先生は競技かるたを漫画にする上で、小泉監督には二次元からもう一度立体化していく上で、ご苦労されたり思案したことをお話いただければと思います。

末次 苦労された…と言われた瞬間、今まさに苦悶しているなって。私、毎月「ああ、もう苦しくて描けない…」って思うんです(笑)。

小泉 それはどういう状態なんですか? スランプというわけではないんですよね?

末次 いえ、毎回ライトな感じの「もう逃げ出したい」という気持ちの追い込みがあって…結果、”ここまでに終わらないと”というラインから1日プラスして描き上げている、みたいな感じですね。1日早ければ素晴らしいんですけど、その1日が何とかハミだしつつも仕上げているというか…息をしていないぐらいの感じでして。
実際、何が難しいかというと、競技でやっていいリアリティの中で、読んでいる人がまだ見ていないプレーと心理面の描き方を組み合わせないといけない部分です。これまで描いてきたものもちゃんと繋がって、これから先への期待もつながるような描き方を、「単行本の何話目になるんだ?」と確認しながら、「37巻まで来て、38巻まではこのエピソードで読ませて、39巻で“もういいや”と言われないようなヒキはどうしたらいいか」と、総合的なバランスを考えて、息ができなくなるのが私の苦しみです(笑)。

瑞沢高校かるた部

小泉 あの、締切をきっちりと守っていらっしゃるじゃないですか。どうして、それが可能なんですかって、当たり前のことを聞くんじゃないっていう感じですけど…(笑)。

末次 締切を破ると…すぐ側で編集さんが「早く!できたページから持っていきます!」と言ってる…なんて聞いたことがありますが、それでは落ち着いていい絵を描けるはずがない。そんな余裕のない状況には絶対にしたくない、顔をギリギリ描いたところで持っていかれる──そんなことを思っただけで、胃がキリキリするぐらい焦るだろうな、そんな状態で出した漫画に納得できるはずがない、そんなのは絶対に嫌だと思うと…1ヶ月前に仕上げよう、というふうになるわけです。

小泉 ネームを描く時って、何と言うか”正解”がないわけじゃないですか。締切はもう少し先なんだけど、ここでネームは切り上げて、次の作業に入ろうと決める瞬間というのは、先生の中で100%の域に到達しているのか、それともネームは8〜9割のところでいい、という感じなのか、何でしょうね、聞き方が難しいんですけど…つまり、ご自身の中で締切を設定していらっしゃる、ということですよね、言ってみれば。

末次 そうですね、自分の締切というより、アシスタントさんとの約束なんです。「みんなには、”この日に来てね”と言ったのだから、絶対に守る」という…。「ゴメン、ちょっと1週間後ろにズラしてくれる?」みたいなことを絶対に言いたくないと思って、そこは自分の中で確固たるものとして決めていて。なので、その期限までに上がったものが、その時点での100%だと。ただ、時には「80%くらいだったかな…」と思うこともあるんですよ。そういう場合は、「来月の私が頑張れ!」と(笑)。「もうちょっと描きたかった。そこまでちょっと行けなかったから、来月の私、よろしく!」って、翌月に120%で仕上げようと心がけています。

小泉 なるほど!そういうことなんですね。

末次 それは連載の良さでもあるんですよね。読み切りだと二度と描けないとなるから、そこで100点を目指すんですけど、連載では──たとえば、誰々にここで言わせたかった言葉が入らないな、という時は、翌月に繰り越そうと。ただ、当月の執筆が終わった瞬間から翌月のことを考えるので、「次は120点を取りますから!」と、自分に言い聞かせつつ、バランスをとっていくという感じです。

小泉 その点、映画は1回こっきりなので…。

演出中の小泉徳宏監督 ©2018映画「ちはやふる」製作委員会 ©末次由紀/講談社

末次 ひぇぇっ!監督、『ちはやふる -結び-』、何も繰り越してないですよねっ?

小泉 そうなんです、繰り越せないですからね。そのかわり、というと何ですけど、つくっている期間も長いので。

末次 長いですけど…完成してからも、「やっぱり、ここはこうすればよかったな」と思うことってありますか?あ、こんなこと聞かない方が良かったかな…。

小泉 いやぁ〜、正直なことを言うと、ありますよ。でも、それは脚本を書き上げて撮影に入ってから、撮影が終わって編集に入ってから、編集が終わって音楽をつける段階に入ってから…と、徐々に挽回していくという”繰り越し方”が映画の制作では可能なんです。

末次 リカバリーできる部分はありますか?

小泉 できるところはあります。あとは…自分がイメージしていたのとは、いい意味で違った感じに仕上がったりすることが多々あるので、リカバリーどころかうれしい誤算になることもあって。ただ、やっぱり最後の最後まで油断はならないですね。「ここはいいシーンになるはずだったんだけど、そうでもなかった」となったりもするので。

末次 狙うと逆に肩すかしを食らうといった──?

小泉 そうですね。ここは流すところだと思っていたシーンが、すごくいい仕上がりになっていることもあるので、そういう時は「まだまだだな、俺は」と落ち込みます(笑)。

末次 私も毎月懸命にストーリーを考えていますけど、思っていたのとは全然違うふうになりました、でも、そっちの方が面白い、ということがよくあります(笑)。ネームに取りかかる前に、プロットを書くんですけど、こういうふうにしようと思った5分の1しか満たしていないけど、全然違うところがふくらんできて、「きみは本当はこんなふうに思っていたのか、こう動きたかったのか!」と動き出すことが、よくあるんです。それを読み切れなくて、書いたプロットがまったく無駄になるという。
でも、そういうふうに自分の想像をいい意味で裏切られた時は、本当に創作って楽しいなと思います。

小泉 映画の場合は、スタッフやキャスト、いろいろな人が絡んでくるので、完成形をイメージする方が難しいんです。むしろ、変わっていくものだと思っていて。漫画の場合はどうですか? アシスタントさんが手を入れた段階で、「あ、思っていたのと違った」と思うことってあるんですか?

若宮詩暢

末次 そうですね、結構みんな着実に仕事をしてくれるので、私のイメージが明確な時は限りなくそれに近づけてくれるんです。でも、「どうしたらいいのかわからないから、何か背景描いて」って丸投げしても、すごくいい背景を描いてくれたりするんですよ(笑)。

小泉 任せちゃうパターンですね。

末次 この背景にどれだけの陰影をつけていいかわからない、といった時に、技術のあるアシスタントさんが見事なテクニックを発揮してくれたり。そういう時、私にはプラスアルファの武器があってよかったと思います。ある種、ミラクルを期待するというか。
(若宮)詩暢ちゃんの洋服とか特殊なのを描くんですけど、私が線画まで描いた後にどんなトーンを貼ろうかという時、「詩暢ちゃんっぽくしてください」とお願いしたら、私が選ばないようなすごくかわいいトーンを組み合わせていて。「わ、思っていた以上にかわいくなった!」とか「思った以上にとんちんかんになった(笑)」みたいに、予想外のことが起こるのが、チームで仕事をしていて楽しいところですね。

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